第15話 哀流とユイ

「「本当にすみませんでした!!」」


 着いて早々深々と頭を下げる事から始まった。

 

「ちゃんと弁償しますので……」


 そう言いながら俺はリスティラードこっちに戻った時に、買い取ってもらった服のお金を全て出そうとした。


 ユイ先輩も俺と再開する前に単独で依頼をこなして得たお金を出そうとしていた。

 だけど、それは店主によって止められた。


 ───因みに言うと、先輩を下着姿あの格好のまま街まで戻らせるわけにはいかず、とりあえず全身を覆う様な外套を俺が先に買いに行っていた。

 先輩は服を望んだが、女性の服には疎いため我慢してもらった。


「い〜よ! い〜よ!! うちの屋根が崩れて危うくお客さんを巻き込んじまうとこだったんだからなぁ。死んじまわなくてよかったよぉ〜……」


 どうやら店主は老朽化していた影響で壊れたと思ったらしい……。確かに、見た目はお世辞にもキレイとは言えない外観だったが、それはあまりにも都合がいい様な気もする……。


 なので、小声でユイ先輩に聞いてみた。


「あの先輩? ちょっと聞いていいですか?」

「なぁに?」

「牛頭のヤツがあんだけ激しく壊したのになんで店主はすぐに部屋にこなかったんですかね?」

「だって私、結界張ってたから……」

「え……? 結界!?」

 俺は驚きながら聞き返した。


「それはそうよ! エミラがこの街に来てた時点で、警戒をしないといけなかったしね」


 つくづく先輩は凄いと思う。

 気が付かないうちに結界を張っていたという事に。

 

 そう話している姿を見て、どうやら何かを疑っていると思ったのか、店主は頭を掻きながら言ってきた。


「あ〜その……なんだ。祭りの影響でどの宿屋もいっぱいだって言った事と、1部屋キャンセルが出たって事は……売り文句っつうかなぁ……」


 要するに他の宿屋も空いてるし、部屋もキャンセルが出たわけではないと言いたいらしい。


 詳しく聞いてみると、この〈祭り〉の期間中は訪れた旅行者が路頭に迷わない様に常設の宿以外にも、臨時の宿を用意しているみたいだった。

 それでも足りなければ、この〈ルディサ〉の様々な公共施設を宿として開放するらしかった。

 

 要するに宿も部屋もあったと言うことだ。

 ただ客に泊まってもらいたく言っただけらしい。


「だから騙した詫びとしてと納得してくれたら助かる」

 店主は本当に申し訳なさそうに言っていたので、俺もユイ先輩もそれ以上聞かなかった。


 だが店主はニヤニヤし、しなくてもいい事を音量を落としながら口にした。


「にしても、まさかベットを壊すまで激しいとは思わなかったよぉ〜」


 俺は瞬きしながら「はっ?」と言った。

 それに気付いてないのか、店主はユイ先輩にも言ってはならない声を掛けていた。


「姉ちゃんも、あれだけ激しかったら体の方は大丈夫か?」


 店主の意図している言葉は分かる。

 現代の日本で言えば100パーセントセクハラになるだろう。

 だが、ここはリスティラード異世界だ。咎められるものがないのだ。

 ユイ先輩はユイ先輩で気付いていないのか、牛頭との戦いのことだと思っているらしい。

 この店主が知るわけないのだが……。


「そうなんですよぉ〜。私目掛けて牛頭の持っている棍棒大きな棒を出してきて───」


「ほう……。兄ちゃんのは………そうなのかぁ──」

 店主は俺の下の方を見て言う。


 何か怪しげな方向へ向かってるような……。


「私は咄嗟に避けたんだけど、牛頭は棍棒大きな棒を振り回して───」


「そ、そりゃあすげーな………」

 店主の顔は驚愕を表している。

 

 この会話はやっぱりやばいぞ……。


「で、怒った牛頭炎を纏わせ興奮させ攻撃それで私を地中押さえつける様に深く引きずりうめ込ませたのよ───」


「おい……兄ちゃんよ、それは男としてダメだろう……?」


 これは全く違う方向へ向かってるよね!?


「せんッぱいツ!! ちょっと待ちましょうか!」

「どぉーしたの?」


「…………(ユイ先輩のこの反応……わざとやっているのか……?)」

「──わ、わざとじゃないよー……」


(なぜ棒読み──────!? ん!? んん!?)


「あの……ユイ……先輩? 俺、口に出してませんでしたよね………?」

 俺の反応に先輩は「───あっ……」と慌てて口を手で覆った。


「───やっぱり内側聞こえてますよね……?」

「えーと………。哀流君! ライテルーザに向けて出発しよう……! ね?」

 と、歩き出そうとしたので「──まだ話してる途中です!」


「───はぁ……。もう分かってしまったのね」

「じゃあやっぱり、聞こえてたんですね?」

 ユイ先輩は残念そうに口を開いた。


「──まぁ、いずれ分かることだからねぇ……。私と哀流君リンクしたでしょ? あれはね、相手の気持ちや感情、記憶も全て共有する事になるのよ……。あ、でも意識しないと感じられないけどね」


「そ、それじゃあリンクした後の内側ことは筒抜けと言うことですか……?」 

 恐る恐る聞いてみた。


「う〜ん……そういうことかなぁ……」


(これはまずい! これからユイ先輩を背負った時の『当たってる』とか『Dカップなのかな』とか少し妄想してしまったらバレるってこ────!?)


 その内心にあせりユイ先輩に目を向けると───遅かったぁ……。

 ユイ先輩は少し面白そうな表情を見せると言った。


「──そっかぁそっかぁ〜。密着してたもんねえぇぇぇ〜……。ち・な・み・にDカップだよぉ〜♡」 

「す、すみません!」


「てっきり私にキョーミ無いのかと思ったよぉ」

「いや、そんな事は……」

「ないのぉ〜? じゃあ、キョーミあるんだぁ〜」

 にわかに先輩の頬が赤っぽく見える。

 

「……………そ、それはともかく、リンクこれは切れないんですか?」


「切れるよぉ〜。1週間以内ならキスなくても再接続できるから……」

 1週間てことは……。と思い聞いてみた。


「じゃあ1週間になると……」

「またしよーね♡」 

  やはりそう言うことだった……。


(想像してしまうーー!)


「な・に・をぉ〜?」


「───すぐリンク切りましょう!」


 少し不服そうだったが、リンクを切ることを了承していた。


「あっ! でもその前に……私はね、リンクした時に哀流君の地球に転生する事に至った光景も見えたんだよ。私だけ見えたのは不公平だからさ、哀流君にも私のことも分かってて欲しいから覗いてみて……」


 言われるまま、意識を集中すると脳中に直接映像が流れてきた。当然、先輩目線となる訳だけど……。

 

 ───酷かった。

『酷い』と言う言葉が軽く聞こえてしまうくらいに……。


 先輩の目の前では〈エミラ〉に切り刻まれる可愛がってくれていたお姉さんたち───〈心に辛い……悲しいが溢れている〉これは先輩の心だ……。


 ユイ先輩自分を逃すように壁になるお姉さんたちの首が刎ねられる光景───


 血が降り注ぎ──赤が目の前を染めていく───

 そういった中でも先輩のなんとかしようとする強い想いが見えた……。


 ───これは……魔災軍とあの時の記憶……。

 ユイ先輩の腕、足と切り落とされていく……目の前には剣を持っている……恐らく剣崎先輩が下半身を切り落とされた姿で転がっている───体を半分以上失って血溜まりに転がっているのは多分、五里島先輩だろう……それで、たった今目の前で肉塊になった『隊長!』と呼ばれたのは鬼頭神刃先生だ……。


 これは……吐きそうだ…………。

 これは妄想や作られた記憶ではなく、本当にユイ先輩の目の前で繰り広げられた光景─────


「ユイ先……輩……。これが先輩の経験したことなんですね……」

 先輩は声のトーンを落として暗い顔を見せた。

 いつも明るく、悪戯っぽい所のあるユイ先輩に、ここまでの事が起こっていた。


 以前、言葉では聞いた──……

 でも、こう映像で見せられ、その時の感情も含まれると想像を絶する体験だった。


「これは辛すぎますね……」

「──うん、凄く辛かったよ……。心がね、抉られてね……。地球あっちで記憶が戻った時にはね顔全体で泣いてて、嘔吐もして……。お母さんと、お父さんがすごく心配してたよ……。当分立ち直れなかったんだよね……でもね、そこに─────!!」


 ユイ先輩の吐露する姿を目にしていると、さらに映像が流れ込んできた───


「───? これは地球ですか……ん? これ……」

 言葉を全て言う前にリンクが切れた。

 先輩はなぜか焦りながら「──ご、ごめんねぇ〜切っちゃったぁ〜」と言っていた。


「……あの、先輩……」

「な、なあにぃ……」

「最後に映ったのって、小さい時の俺に見えたんですけど……?」

「き、気のせいよ……。あ! あっそうそう! 哀流君気にならない? 牛頭に最後に使った魔法が水属性なのになんでエミラにバレたとか思ったとかぁ……ねっ?」

「いや……それもそうですけど、さっきの映ぞ──」

 と言いかけていたが、ユイ先輩は触れようとせずに話を続けていた。


「わ、、私は聖属性だから、めいいっぱい出したら聖属性が含まれてしまうのね。そ、それで青属性の水は〈聖水〉になったり樹木は〈聖樹〉になったりもするの! だから〈樹〉なんだよぉー……」


 こんなに焦っている先輩は初めて見る。

 しかもさっきより顔を赤くしている様にも見える。


「……そうなんですね……。で、さっきの事何ですけど……」

「───ねえ、哀流君……。女性はね、秘密が多いものなの!」

「はぁ……? まぁ、またリンクした時に確認しますね……」

 俺は少し面白がって言ってみた。


「──その部分だけブロックしよ……」


 とボソッと言っていた。

 それを耳にした俺は───


「ブロック出来るんですか!? 教えてください!」

「私、聖女だから……!」

「なんかズルくないですか……?」

 先輩は目を泳がせている。


「……あるんですね……? 教えてください……」


「───ねぇ、哀流君……。女性はね、秘密が多いものなの……」


「さっき聞きました……」


「じゃあ、哀流君ライテルーザに向かおうか!!」

「……………はぁ。分かりましたよ……」

 これ以上は無理だと判断し、諦めた。

 ───でもいつか教えてもらおうか……。


「じゃあ馬車に向かいましょうか……」

 その言葉に続く様にいつもの調子で「そだねぇ〜」と言っていた。

 だけどそこで、今まで存在を忘れていた宿屋の店主が思わぬことを言ってきた。


「馬車は夜まで出ねーぞ……」


「「───え……?」」


 俺とユイ先輩は同時に声を出していた。





 ──── ◇ ──── ◇ ──── ◇────


 読んで頂きありがとうございます!

 応援♡ レビュー☆など頂けたら感動します✨✨

 

 次回の話は、戦い続きで疲れているであろう哀流とユイ先輩の〈ルディサ〉での休息の話になります。

 本人たちとしては早く〈ライテルーザ〉に行きたいのだと思いますが、馬車が出ないので休息をとることになります。 

 

 引き続き読んで頂けたら嬉しいです!!

 

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