第14話 気づかれた──ユイ・サンクトゥリア

「哀流君いい? タイミングは大事だからね」


「君が光魔法を構築したら私が水魔法を合わせる。今までのスキンシップはあるけど、安定はしてないから調整は必要だわ。───で、確率を上げる為なんだけど、哀流君の幼馴染ってルティアさんだったかな?」


 急なユイの言葉に「そ、そうですけど……」と言うと「先に謝っとくわ! ごめんなさい!」と言いアイルに抱きつくと、ユイの潤いに満ちた唇はアイルの口に重なっていた。


「───んんんんんっ!!!!?」

 

 そして口が解放されると、顔を真っ赤にしながらアイルは声を上げていた。


「────な! ななななななななななにしてるんですかぁ!!」

 

 ユイには珍しく、少し頬を赤くしながら言った。


「知ってるぅ? 哀流君ぅ? 動物で意味もなく口と口を絡ませるのは人間しかいないんだよぉ〜。色々説はあるんだけどぉ、相手が自分にとってベストパートナーか確認するらしいよぉ〜……。でも今回のリンクにはうってつけだけどねぇ……」


 それを聞かされたアイルは咄嗟に言ってしまった。


「さっきのかなり情熱的な口付けフレンチ・キスでしたよね!?」


「……嫌だった?」


「────じゃないですけど……」

 

「……でもなんでルティアに謝ったんですか?」


「え? なんでって……ルティアちゃんて哀流君とお付き合いしてるそういうじゃないのぉ?」

「───!? ル、ルティアとはそんなんじゃないですけど……」


 ユイは笑みを浮かべると「そっかぁ〜。そんなんじゃないのかぁ……良かったぁ〜」と言い真剣モードに移行した。


「──じゃ! 哀流君……。準備はいい?」

「は、はい大丈夫です……!」

 

 その間に牛頭は一角の炎を全身に纏わせ、ユイとアイルに狙いを定めていた。


人間ゴミども! 死を持って償え!!!!」


 その牛頭へと、アイルとユイは構築を終えたリンク融合魔法を口にした!


「「〈ラ〉メ〈イ〉ルス〈ト〉ローム!!!!」」


 そのリンク融合魔法は牛頭を巨大な渦へと巻き込んでいた! 

 足元は光水コウスイに呑まれ身動きが一切取れずにいた。

 それを無視し、足元だけでなく牛頭を呑み込むように球体状に変えると、ユイは静かに言った────



   ────分解ディサセンブリィ─────



 その瞬間には、光を纏った水は無数に散らばりその中の牛頭それを切り刻み呑み込むと一気に消滅した。

 

 まともにくらった牛頭は意識を消滅させながら最期にエミラに───報告キケンと送り消滅した。



 牛頭を漸く倒すことができたアイルとユイは全身が悲鳴を上げていた。


「ねぇ哀流君……。牛頭あんなのに苦戦してたらいけないと思うんだけど…………」 


「確かにそうですよね……。アイツはまだ式神に過ぎませんし……」


「もっとリンクを強化しないといけないわね……」


「どういう展開ですか? それ?」


 アイルは全身の気怠さを感じながら言った。


「う〜ん………。それじゃぁお互いもっとふかぁ〜く知っちゃう?」


「………保留でお願いします………」


「じゃあ可能性はあるのねぇ♡」


「保留は保留で………………」


「ねぇ、哀流君……。君我慢してない……?」


「───してないです!!」


 2人の会話は定番と言った様に繰り返されていた。



  ※ ※ ※



 俺とユイ先輩は牛頭との戦闘を終え、荒野に大の字になっていた。 


 互いに重傷を負い回復を待っていた。

 ユイ先輩は俺を含めた範囲に〈聖癒ヒール〉を掛けていた。


「もう少し時間掛かるから、もうちょっと我慢してね……」


 ユイ先輩の言葉には大部分を〈申し訳ない〉という感情が見てとれた。

 

「あの相手には仕方ないです……。アイツはバケモノです……」

 そう言うが────


「そうかも知れないけど、これじゃあいけないし、メシアちゃんも助けるにはまだ力不足だわ……。哀流君の空間魔法はリンク融合で誤魔化せたかもしれないけど、私の方はちょと厳しいかもしれないわね……。結構本気だったし……」


「エミラが気付くかも知れないって事ですね……」

「そうね……。大分可能性があると思うわ」

「じゃあライテルーザに着いたら出来るだけ早く行動した方がいいですね……?」


「そうしましょうか……(恐らく、エミラアイツにはバレてるでしょうね……)」


 この会話の間に俺とユイ先輩の体力は全快した。

 だけど、〈聖癒ヒール〉を継続して使っていた先輩の魔力の方の回復には、まだ時間がかかりそうだった。


「ユイ先輩、あそこにオアシスの様な所が見えるので今日はそこで野営にしましょうか……。魔力回復にはまだ時間掛かるでしょ? 明け方くらいに宿に戻りましょう……ベットも壊れちゃいましたし……まぁ俺たちがやったわけではないですけど……」


「でも、狙われたのは確かだし、弁償はしないとね」


 話し終えると、明け方まで身体を休めた。

 そして空が白む頃には宿屋に着いていたのだった。



  ※ ※ ※



〈ルディサ〉の街にあるベルファ・ライテルーザ別邸の一室では、月冴ゆる中、妖光を纏い右眼に眼帯をした女は、床に血が落ちるほど拳を握りしめていた。


 その眼光には深淵を帯び、右眼を抑えながら、自らが放った式神を葬った者への、明確な怒りを隠しきれずにいた。


「───目が疼く……! 牛頭の報告は伝わった……牛頭アレが消える直前の魔力……!! あの馬鹿げた聖属性。あの小娘だ!! 殺したはずだ……四肢をバラバラにし最後は首を刎ねた……! なのになぜ存在している!!!!」


 怒りに任せ、その魔力は周囲にある高級そうな鏡を砕き、机も消し去っていた。それにとどまらず、屋敷をも潰す勢いであったが、どうにか抑え込んだ。


「まだだ……。まだ計画の途中だ……フィアーラ様の為にここでダメにするわけにはいかない………。ライテルーザで決着を着けようか───ユイ・サンクトゥリア!!」


 エミラは明確な殺意を浮かべると、その戦場は光帝都ライテルーザへと移すのであった。


 

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