第13話 牛頭

 目の前の巨躯はアイルとユイを睨みつけ滑らかに言葉を発していた。


「そこの女。貴様は我が主人に殺意を向けたな。主人は『調べろ』と言っていた。つまり、『殺してそのなかを調べろ』という事だ。なかにある魔力、記憶を調べて報告する」


 牛頭は体勢を低くした瞬間!

 地面を大きく抉り踏み切った!!


 10メートルほどあった間合いは一気に詰められ、空気を圧縮したような音と共に2人の前に移動すると、片手に持つ棍棒を振り下ろしていた! 


 それは轟音を立てながら地面に大きなクレーターを作るだけに止まり、2人は両サイドへと分かれ飛び退いていた。


 アイルは空中で〈創造錬金〉を使い、風の剣を創ると牛頭目掛け放った!


「【風剣ウィード】!!」


 即座に反応した牛頭は体を回転させ棍棒で叩き消していた!


 そしてアイルに向けて踏み切ると、角の炎を棍棒に纏わせ勢いと共に叩きつけようとした──だが、ユイの展開した【聖鐘ホーリィベル】によって弾かれていた。


「ユイ先輩ありがとうございます!!」

「哀流君気を付けて!! あの角の炎の熱量は異常よ! まともに受けたらただじゃ済まないわ!」


 その言葉に反応すると「先ずは最初の目的通りあの女から始末するか───」と言い、地面に降り立つと同時に棍棒を突き立て角を赤く燃えさせると、魔法を構築していた。


「【地獄方舟ヘルアーク】──」


 発せられたその言葉により、ユイの着地した足許の地面が紅蓮を帯び地を割り始めた───


「──!? 【ホーリィ……べ──】」


 と展開しようとしたが、それより先に牛頭の魔法の方が早かった!  

 地中から迫り上がるように、真っ赤に燃え盛る船は生き物の様な大きな口を開きユイ呑み込んでいた! 


「──ユイ先輩!!」


 アイルが叫び、駆けつけようとするがすぐ後ろへと回り込まれ棍棒を横っ腹に叩き込まれた!


「────ぐゥッ! がァァァッ!!───」


 鈍い音がしめり込むと、そのまま横へと吹っ飛ばされ地面を抉るように転がり巨岩へとぶつかると勢いを止めたいた。

 

 ユイを呑み込んだ船はそのまま地中へと潜り込んでいた。アイルは激痛に耐えながら、何とか立ち上がるとユイを地中から助けるべく魔法を構築しようとした次の瞬間! 

 

 地中を割り、水を纏ったユイが外へと飛び出してきた! 

 腰まであった長髪ロングヘアーはボブ程まで短くなり、体中は火傷を負っていた。

 羽織っていた外套を模したシーツは焼け落ち、上半身は何も着けておらず腕で隠し、辛うじて下は着いているという姿であった。


「………はぁ、はぁはぁ……はぁ───」

 

 震えるような声で息を上げ、体力の消耗は激しく、立っていることがやっとの状態であった。 

 ユイは【聖癒ヒール】をかけて体力の回復を促していた。


「しぶとい奴だな。地獄方舟あれを受けて立っているとは驚愕する……」

 そう言いながら牛頭はユイに向けて跳躍していた。


 角がまたしても赤を放ちそれが棍棒に流れ込み紅く変色し、ユイの真上に掲げられていた。

 ユイは何とか魔法を展開しようとするが、まだ回復しきれていなかった。


 それを確認したアイルは、構築しようとしていた魔法を別の魔法に再構築し、牛頭の手を目掛け放っていた。


「【光空槍ラスア】ーーー!!」


 それは咄嗟に創り上げた物であった。

 最初は光魔法を構築しようとしていた。

 だが、ユイに危険が及びそうになっていたのだ。

 それに対して、を含み再構築し直していた。

 自分では意識をしていなかったが〈〉を乗せていた。

 無意識に融合魔法を発動させ、しかも〈空間魔法〉をも使いた。


 アイルから放たれた【光空槍それ】は手を離れた瞬間─────!


 空間の中へと消えると、牛頭の腕内に出現していたのだ! 牛頭の右腕は肩口からゴッソリと、棍棒と一緒に完全消滅させていたのだ!


 受肉をしている式神牛頭は大量の血を噴き上げその激痛に悶え苦しんでいた。


 その隙にアイルは歯を食いしばり、〈創造錬金〉で創り上げた岩の波に乗り、できうる限り素早くユイを抱え上げ牛頭と距離をとった。


「ありが、とう……。哀流君……はぁはぁ……。でもあれ……」 

「……意識してなかったんですけど、空間魔法を乗せてしまいました……。本当は光だけで創造しようとしてたんですけど……すみません」

 そう言うアイルに軽く頭を振ると───


「ん〜ん……。私が油断したせいで……。でも多分、融合魔法になってたから、もしかしたら確信を持てるまでの影響は与えてないと思うけど……まぁそうだったらいいなって言う感情もあるけどね……」

「……ええ、そうだといいです……。で、せ、先輩。俺の上着ですがどうぞ……」

 

 アイルは照れながらユイにふわりと被せていた。それを見たユイは悪戯っぽく「──み〜るぅぅ〜?」と言いチラッと捲っていた。

 その間もユイはどんどんと回復させていた。


「……そんなこと言う元気があるんなら大丈夫そうですね……」


 ユイは目を細めると言った。


「ねえ、哀流君……。君、変に真面目だと言われない?」


「ほっといて下さい……。にしても前から思ってたんですけど、ユイ先輩……痴女ですよね……」


「……ねぇ、哀流君……。君、失礼って言われたことない?」


「記憶にないですね……」


「政治家みたいなこと言うのね……」


「一緒にしないで下さい……。あの人たちはことごとく都合が悪いと記憶喪失になるんですから……」


「そうねぇ……悪かったわ。彼らと一緒にしたこと反省するわ……。で、牛頭アイツ復活しつつあるけど、いいの?」

 そう言われて目をやると、片腕を失った牛頭は怒りの形相で睨んでいた。


「なんだ! さっきの力はーーー!! エミラ様からもらったこの体をーーーー!!!」

 そして、戦闘体勢へと変え、アイルとユイをターゲットを定めていた。


「腕と武器は消しましたけど、あの角の炎は脅威ですね……。長引かせるとこちらが不利になります……」


 アイルの言葉にユイは提案をした。


「哀流君、私の聖白魔法と君の創造錬金の魔法を融合させてみない?」 

 ユイのその提案に驚きながらも可能性があるのならとやり方を聞くことにした。


「哀流君の創造錬金で生み出した光魔法は、純粋な光魔法と同じはず……。それに牛頭アイツの炎に対して逆属性の私の水魔法を融合させれば、勝機が見えると思うわ」


「でもどうやってやるんですか?」


「いい哀流君。2人の魔法を融合させるには、お互いの回路の波長を合わせてリンクさせる必要があるの。私言ったわよね? 『スキンシップは大切よ』て。ここまで色々したわよね? 完全ではないにしろある程度のリンクは出来てるはず……。だからそのある程度を埋めるために、私があなたの魔法に上書きするわ」


 その説明に、今まで色々と、本当に色々とあったことはここに繋げるためだったと気付いた。

 アイルは感心しつつユイに言っていた。


「じゃあこれまでのスキンシップは回路を生み出すための前段階だったってことですか?」


「─────そ、そうよ! そ、その通りよ!!」 


「『─────』……のなんですか……!?」


「──さぁ! やるわよ!! 光魔法放って!」


「────ハイ………」

(とりあえずこの話は後にしよう……)



 と考えると、怒り狂う牛頭に向けてアイルとユイの初体験のリンク融合魔法の構築を始めた。

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