第23話 ライテルーザ〈予想外の再会〉

「本当に何を企んでるのかしら? それにその姿、転生かしら?」


 そう発した人物は、足を止め、鉄格子の向こう側に、俺たちを見下す様に立っていた。

 

「──エミラ……!」


 ユイ先輩の言葉に、エミラは冷たく反応した。


「久しぶりねェェエ。ユイィィ……。どうだった? 懐かしかったでしょ? あの血飛沫ィィ?」


「──そうね……、あなたのその右眼も聖槍ロンギヌスが恋しくなったんじゃないかしら?」


 ユイ先輩の返しに、明確に、怒りを現していた。

 目を鋭くし、右眼を押さえながら、不気味に口を吊り上げ言った。


「口の減らない小娘が!! まぁいい……貴様たちはこの場で殺すのだから!」

 

 そう言い放ったエミラは、血魔法で創り上げだ無数の刃を、地を這うように牢内に侵入させると、俺たち3人を囲む様に展開した。

 

「じゃあ、これで終わりね……。もう、2度と目の前に現れないでねェェエエ!」


 囲んだ血の刃は、俺たちを串刺しにしようとした寸前────


「エミラ様ーーーー!! 緊急です!!」


 その言葉と共に、エミラの刃は、俺たちの目の前で停止した。エミラは小さく舌打ちをすると、忙しく駆け寄ってきた騎士に作り笑顔で言った。


「どうしたのですか? 私は今殺し仕事をしようとしたのだけれど……」

 

 怒りを感じさせる言葉に、騎士は大きく頭を下げて謝罪すると続けた。


「申し訳ございません!! しかし、公爵様からの指示でして……。西の森の調査に向かえと……」


 その騎士の言いようにエミラは眉を顰め聞いた。


「『──向え』とはどういうことかしら? 調査程度ならあなたたち騎士がすればいいのではなくて?」


「……そうなのですが、その……」

 

 騎士は牢内の俺たちに目を向けて気にする様子を見せた。それに気付いたらエミラは「──この罪人を気にすることはないわ」とひと言告げると、話を続ける様に騎士に言っていた。


「はっ! 西の森より《空間の歪み》と思われる魔力の波動が計測されまして……その魔力が魔災大戦の時に消滅したと思われるのものと酷似しているそうなのです」


 騎士の報告に俺たち3人は当然驚いた。

 ユイ先輩がリスティラードこっちに来る前に、地球で『封印に成功した』と聞いていたからだ。ミヤさんにもこの事は、俺たちが再びこっちに戻って来た事を話した時に、説明してある。


 慌ててユイ先輩に目を向けると、頭を振りながら「──そんなはずないわ……確かに成功したもの……」と動揺した様子だった。


 だが、俺たち以上に驚愕のしていたのは、目の前のエミラだった……いや違う。驚愕と言うよりも途轍もない怒りの表情だった。

 今まで、騎士には見せていなかった、怒りの表情を隠すことなく見せていた。その初めて見る表情に、騎士は緊張した様子を見せたが、エミラはすぐに平静に戻すと「──すぐに向かうわ」と言い俺たちに目を向け、この場を後にしていた。


「一旦は助かった様だね……。でも、ゼディーはユイ達が封印したんじゃあ……」

 ミヤさんは不安を纏いつつ疑問を口にしていた。


「──はい……。確かに封印してこっちに戻りました。だから、どういうことか分からなくて……」

「空間の歪みっていう事は、もしかしてまた、地球と繋がった……とか……? 地球は今、現在進行形で次元を上げてるのなら、それもあり得るんじゃないですか?」

 

 ユイ先輩の言葉に続けて、思いついたことを言ってみた。するとユイ先輩は────


「確かに、向こうで、なかなか次元の穴ディメンショールが閉じなかったから、それもあり得るのかもしれないけど……」

 そう言いながらも、まだ疑問は残っていた。

 また地球と繋がったとして、何故そこからゼディーと酷似した魔力が計測されたのか……。

 俺はそれを口に出していた。


「──でもなんでゼディーの魔力が……」


 それに答えるように、エミラと騎士が入ってきた階段から、近づく足音と共に言葉が聞こえた。


「それは、ゼディーを封印した際にその魔力の余波が空間に一定期間馴染んだせいだ」


 ユイ先輩と俺は、その聞き覚えのある声に驚き、声の主と思える者に視線を向けてその名前を呼んでいた。


「──スタル!?」

「──剣崎先輩!?」


 その声の主は同じくリスティラード出身で、地球に転生したユイ先輩と同学年の剣崎傑先輩……リスティラードこっちでの名前は確かスタル・ディサルークだった。


「探したぞ……ユイに小鳥遊……。しかも、ようやく見つけたと思ったら牢に入っているし……エミラは居るし……どうなっている?」


「──どうなってるって……、あなたこそなんでこっちに戻ってきてんのよ!?」


 ユイ先輩は驚きを隠せていない。

 もちろん俺も……。


「そ、そうですよ! なんで剣崎先輩が……」

 俺たちの驚愕に眉を顰めているのはミヤさんだ。


「誰だい? その細長いやつは?」

「……細長いとはなんと失礼な女性だ! 僕は背が高く痩せているだけだ」

「それを細長いっていうんだよ……」


 ミヤさんのその言いに、剣崎先輩は機嫌悪く返したが、ミヤさんもまた言い返していた。

 とりあえず、このままでは話が進まなそうなので仲裁しようとした時、俺より早くユイ先輩が割って入った。


「そんなのどうでもいいわよ! 痩せてようが、細長かろうがね! とりあえず時間はないんだから、早く説明してよ!」

 と言っていたが、明らかに剣崎先輩は落ち込んでいる。ミヤさんは「ま、いっか」という感じで流していた。気を取り直し、剣崎先輩は「──まずはここから出そう」と言い結界を破ることを提案していた。


「ここから出すってどうやるのよ?」


「はぁ……。ユイ、お前も気付いているだろう? この結界は内側からは様々な魔法に強い様だが、外からは然程強くない。しかも、物だ……。それ以外の魔法には弱かろう……。まさか、お前達を助けに来る者がいるとは思わず即席で作っている。まぁ、即席の割には内側の強度はかなりももだとは思うが……」


「それにしてもよ。いくら弱いって言っても、並の魔法じゃ破れないわよ……。それに、大きな魔法を使えばいくら調査に向かったとはいえ、エミラは戻ってくるわよ?」


 ユイ先輩のその返しに、剣崎先輩は少し胸を張り自慢げに言った。


「──ふっふっふッ! 聞いて驚け!! 僕はこっちに戻り新たな属性の魔法を得たのだ! その属性とは無属性の【静寂サイレンス】だ! 僕の雷魔法と同時に静寂サイレンスを使えば音はもちろん、魔力を一定時間感知されない!」


 その答えにミヤさんが口を開いた。


「しょっぱいねー……。その魔法……」

「おいなんだそれは! つくづく失礼な女性だな!」

 

 そう言い合っているが、ユイ先輩と俺は、剣崎先輩に追い打ちをかける様に言った。


「私も青属性を得たわよ」

「俺も創造錬金を得ました……」

「──!? これは僕だけのものではなかったのか……」


 明確に落ち込んでいる……

 それを全く気にせずミヤさんは───


「いいから早く破りなよ! 時間ないんだろ!!」

 その言葉に剣崎先輩は、気持ちを切り替えて結界を壊すための魔法を構築し始めた。


 ───静寂サイレンス無の領域ムリョウを構築


 ───最大出力の雷を纏う───


「───【雷薙ライナギ】!!」


 一瞬! 光を放つ──

 無音のまま横に薙がれた青白い光は───


 ───── 一閃 ────


 一瞬にして結界もろとも破壊した!

 無音のままに……


「スッゲー……」

「なかなかね!」

「まぁ、『しょっぱい』と言ったことは謝るよ」


 剣崎先輩は「──ふー……」と息を吐き言った。


「さぁ、ここから離れる! 一旦ライテルーザを出るぞ!! 話さないといけないことがある……」


 俺たちはそのまま街を出ることになった。



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