第24話 スタル・ディサルーク〈往還〉

 俺たちは牢から出ると、エミラとは反対の東門へと向かった。門番はいたが剣崎先輩の【静寂サイレンス】と雷で気絶をしてもらい外へと出た。 


 その先には広い草原が広がり、それに囲まれる様に一本の馬車道が続いていた。

 そこから少し逸れ、緩やかな丘を上り、下った先には小規模な森林地帯があり、その中にあるという湖に向かった。


 湖の近くには、小さなログハウスの様なものがあり、周辺には剣崎先輩が、雷属性と静寂サイレンスを応用した結界を張り巡らせ、何者かが許可なく近づけば反応する仕掛けを施していた。


 ログハウスの中は、生活感があり、最低限の生活用品が揃えてあった。

 俺達は、火の入れられていない暖炉の近くのテーブルへと腰を下ろすと、剣崎先輩が飲み物を用意してくれた。


 周辺を確認したユイ先輩は、口を開いた。


「ねぇ、スタル……。あなたここにどのくらい住んでいるのよ? 生活感が出てるってことは、それなりに長く住んでる風だけど……」


 ユイ先輩のその言いに反応する様に、剣崎先輩は「──まずはその辺りから話そうか……」と話し始めようとした────だが……


 剣崎先輩は俺とユイ先輩に視線を向け、横にいるミヤさんにもチラッと視線を送っていた。

 それに気付いたミヤさんは頭を振りながら両手を広げて困ったジェスチャーをしていた。


 ───まぁ、言いたいことは分かる。


 ユイ先輩は俺の視界を遮る様に……。

 正確に言うと、

 

 眉間を押さえながら剣崎先輩は、言ってきた。


「──ユイ。僕は真剣なんだ……」

「そうね。真剣な話ね!」

「ならなぜ! 小鳥遊の膝そこの上に座っている! 椅子は隣にもあるだろう!」

「ここが落ち着くの!」

 

 ユイ先輩は動きながら言っている……


 ───お願いだからあまり動かないで欲しい……

 色々と困る……。


 それを感じ取ってはいないのだろうけど、ミヤさんは、ユイ先輩を俺の上から引き離し、椅子に座らせた。


「話が進まないだろ! ユイ! あんたはここに座りな!」


 ユイ先輩は不服そうだったが、俺としては助かった……まだ感覚は残っているけど……。

 それを確認した剣崎先輩は、ため息を吐きながら話をしてくれた。


「まずは、僕は半年前にこっちに戻った。お前達がいつ戻ったから知らないが、散々探してようやく見つけることができた……という事は、お前達が戻ったのは最近なのではないか?」

 そう聞かれ、俺とユイ先輩は顔を見合わせ答えた。


「アイル君は4、5日前で、私は今日を含めたら2週間くらいだと思うわ……」

「そうか……。結構差が出たのだな……まぁ、そうか……」

 含みのある言葉尻だった。


 以前、言っていた様に『時間軸の誤差』というやつなのだと思うが、結構差が開いている。だが、それには理由があったようだ……。


「小鳥遊とユイがリスティラードに戻っだ後だが、次元の穴ディメンショールは全く閉じず、その異様な光景から日本が管理することになったのだ。さらに、そこに関わっていた僕達は、事情聴取を受けた。最初は信じてもらえなかったが、事実は事実、結果的に信用され次元の穴ディメンショールの管理を任された」


 何か流れがとんとん拍子に進んでいたことに、疑問を浮かべ、俺は質問しようとしたが、先にユイ先輩が口を開いた。


「そんなに早く話が進んだの? が!?」

 

 ユイ先輩の言う事はもっともだった。


 日本という国は、何をするにも後手に回ることが好きな様で、科学技術にしろ、国際経済にしろ、アメリカの後を追うように進む。


 ただ、技術力はあるし、漫画、アニメ、小説など、その才能の持ち主は多い。その点においては素晴らしいが、地球の変化に即座に対応する様な柔軟性はない。

 

「確かにユイの言う通りだ。日本はすぐに対応していない。世界各地で次元の穴ディメンショールが発生し、騒がれ始めてから行動していたよ……」


「でも、剣崎先輩の言いようだと、即座に対応した様な……」


 俺の疑問を解決する様に、『時間軸の誤差』の大きさに着いて、剣崎先輩がゆっくりと口を開いた。


「──僕は、お前達がリスティラードに向かって、次元の穴ディメンショールを通ってこっちに来た……」

 その言葉に驚いた。


「世界各地でって……!?」

 俺のその驚きに、落ち着きを払い、ユイ先輩は続けた。

「──やっぱり地球が次元を上げているから、歪みが生まれたのね……?」

「その通りだ。世界各地で発生したそれは、こっちの魔物に地球への道を作ってしまったのだ……。結果的に、地球では魔物に対する組織を作り上げて、世界で団結しようという事になった……。だが、この問題は魔物だけに止まらなかった……!」


 剣崎先輩は、歯を噛噛み締め、両手を強く握り、神妙な面持ちで口を開いた。


「──ゼディー以外の準魔王が、地球に現れたのだ……!」

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