第25話 地球の異変
剣崎先輩の言葉に俺はもちろん、ユイ先輩も驚いていた。ミヤさんに至っては理解ができていなかった。
それはそうなのだろう。
ミヤさんには地球の内情の事は詳しくは話していない。
準魔王のゼディーを封じた以降のことは、俺とユイ先輩が知る事はないのだ。
「──向こうで、2年後の
「私と哀流君は魔災軍との戦いから凡そ1年後、スタルは魔災軍との戦いから半年後? て事かしら? なんか死んで戻るまでの時間が縮んでるわね……。これは決まりがあるのかしら?」
「それはどうだろうなぁ……。通常は遅く入れば、お前達より後に着くはずだが、お前達が着く半年前に僕は戻っている。これは推測だが、地球の
そう言っているが、その話にミヤさんはやはり、全くついて来れていないようだった。だが、話を中断しない様に大人しく聞いていた。
ただし、ユイ先輩の服を掴んで……。
なぜなら、ユイ先輩は少しずつ俺の方に寄って来ていたからだった。
「──ミーヤセルカお姉様……服、離してもらえませんか……?」
「あんた離したらアイルの
「でも、『話はここまでにしよう』って言ってましたわ!」
「そうじゃなくて! 『時間軸の』だよ! それに、上手くついていけていないワタシでも分かる! まだ重要な事を話してないだろ! この細長いのがなんでこっちに戻ったか? とか!」
またしても細長いと言われ、少し引っ掛かりを覚えたみたいだったが、剣崎先輩は続けた。
「その通りだ……本題はここからだ。単刀直入に言う、もう一度地球に戻ってきてもらいたいんだ……」
その言葉にまたしても驚いた。
地球に戻るとはどういうことかさっぱり分からない。それに、故意に
それにすぐに反応したのはユイ先輩だった。
「ちょっと待って! スタル! 『戻る』ってどういうことよ!? そもそも戻れるものなの!?」
剣崎先輩は、ユイ先輩の問いに「──まぁ説明するから落ち着け……!」と言い、続けた。
「まずは、今の地球の軍事力では準魔王には勝てない。次元上昇に伴い、地球でも魔法を使う者達が現れ始めてはいるが、対応できるものには全然なっていない。この両者とも、中級の魔物くらいなら、死人を最低限のみに抑えられるが、上級以上ともなると大量の死人が出るかもしれん……いや、実際に死んでいる……。だから、お前達の力を借りたい」
剣崎先輩は言うが、それは困る。
俺にはメシアを助けなければならない。
地球も当然大事だが、今はメシアだ。
「剣崎先輩それは────……」
そう口を開こうとした時、ユイ先輩が先に口を開いていた。
「それは無理よ! 私達は哀流君の仲間だったメシアさんを助けないといけないんだから! エミラに命を狙われているのよ!」
ユイ先輩の返しに、剣崎先輩は「待て待て……」と言った。
「『今すぐに』と言うわけではない……。というよりもすぐには無理なのだ。魔力要因が足りない……」
「──魔力要因?」
ユイ先輩の疑問に俺も続けた。
「なんですかそれは?」
「魔力要因とはな、僕達の様に、一度通った者の魔力は次元安定の基盤となる。だが、新たに
「だったらどうやって……?」
「そこでだ、お前の元仲間のメシア皇女の魔力を借りようと思う。戻って半年、色々なことが分かった。メシア皇女の魔力は、小鳥遊を除いた4名の空間魔法を行使する者達に匹敵するようなんだ……」
剣崎先輩の報告に、ユイ先輩とミヤさんは驚いていた様だが、俺は納得していた。メシアは俺達とパーティーを組んでた時からその片鱗を見せていた。
俺達のパーティーの中では、ルティアに次ぐ魔力の持ち主だった。
だから、空間魔法士と匹敵すると言われても納得がいった。だが────
「ユイ先輩が言うように、今メシアは命を狙われてそれどころじゃないんです!」
「だから、僕も、メシア皇女を助けるのに協力する。そして、それが終わってから地球に一旦戻ろうと思っている。その時は、メシア皇女にも地球に来てもらい助力をお願いするつもりだ」
剣崎先輩は簡単に言うが、仮にもライテルーザの皇女となったメシアを連れ出せるのかも疑問に思う。
まぁ、それを言ってしまえば、また俺達と旅ができるのかも疑問になってくる。
それを読み取ったのか、剣崎先輩は続けて言った。
「メシア皇女側にももちろんメリットはある。僕たちが地球に転生し、こっちに戻ったことにより、新たな魔法属性を得ている。これは、これからの準魔王達との戦いに必ず役に立つはずだからな」
確かに新たな属性は様々な可能性がある。
そう考えるとこのメリットは大きい。
「まぁ、だからとりあえずメシア皇女を助けるという方針でいく。この助力をお願いする話は、現女帝ミリーザ様と皇配のテアル様、そして、メシア皇女に直接打診するつもりだ」
ようやく話が分かる方向へと入り、ミヤさんが参加して来た。
「じゃあひとまず、メシア皇女様を助ける! てことでいいんだね? だったら、早く行動した方がよくないかい? エミラは西の森に行ってる。今なら、ライテルーザに入りやすいんじゃなかい?」
それを聞いて思い出した様にユイ先輩が剣崎先輩に慌てて言った。
「スタル! エミラは西の森の空間の歪みに行ってるって聞いてたでしょ? ゼディーの魔力が馴染んでるってことは、もしかして
「それは大丈夫だろう……。それに、さっきも言った様に、一度通った者の魔力では開かないんだ。その上、エミラには明確な目的が存在する。それを途中で投げ出すことはすまい。アイツは自分より上の存在のために動いている様に感じる。まぁ、ユイを殺そうとしたのは個人的な恨みが強いだろうがな……。それにだ、あの空間の歪みは、確かに次元の穴だった痕跡だが、今は閉じている」
「なんでそんなこと分かるのよ?」
「そこは、半年前に僕が通った場所だからだ」
その答えは疑問を増幅させた。
言う通りなら、半年間ずっと歪みが生じているという事になるが、騎士の話し方では計測されたのは、ほんの少し前な言い方だったからだ。
それにはユイ先輩もミヤさんも気付いたらしく、先にミヤさんが口を開いた。
「ちょっとそれはおかしくないかい? もし、半年も歪みが生じているのなら、なんで今更慌てて調査に行く? それになんでこれまで報告が上がってこなかったんだい?」
「お姉様の言う通りよ! なんで今更なの?」
「半年間生じ続けている訳ではない。さっきも言ったように、
剣崎先輩に言われ、思い出していた。
ユイ先輩も思い出した様に目を開いていた。
「──確かに、ライテルーザに向かってる途中に魔法の多重詠唱に
「俺も創造錬金で大地の壁に光を纏わせました……」
「そういうことだ……。お前達の……特にユイの魔法が大きな影響を与えたいるのだろう……。まぁ、結果的に自分達を牢から出る切っ掛けを作る事になっている訳だがな」
確かにユイ先輩の
それに気付き、ミヤさんは機を逃したかという表情で口を開いた…
「それじゃあ……」
「もう、戻って来ているかもしれんな………だが、これはこれで面白いぞ。せっかく殺す寸前だったらお前達が牢屋から抜け出しているのだからな……。恐らく怒り狂っているだろうなぁ……。そういう時こそ、簡単な罠にすら引っかかる」
剣崎先輩は何かを思いついた様に口元を緩ませていた。ただ、それを見たミヤさんは───
「──あんた、小さい子供の前ではその顔は絶対するんじゃないよ……。聖女育成リデア学園の幼女部では完全にアウトだね……ねぇ、ユ、イぃぃぃ?! あんた何やってんだい!」
「
「そこに座ってんじゃないよ!? それに! あんた向きが逆だろ!!
「いつからこんなになってしまったんだ……ユイは」
「ワタシが知りたいよ!!!!」
──ユイ先輩の胸に顔が埋まって……息が……
──あ……ダメかも……
──遠のく意識の中、計画の内容を聞かないと……
──そんなことが頭に浮かんでいた……
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