第26話 エミラ誘導

 薄暗い地下牢の中、金髪隻眼の女……エミラはなにも考えることなく、周囲の騎士達を殺していた。


 逃したこともそうなのだが、逃げるという事を全く考えていなかった自らにも腹を立てた。


 そのとばっちりを受けた形で周囲の騎士たちは殺された。だが、エミラの符魔法により、生ける屍となつたそれらは従順に指示に従い、その死を偽装された。


「くそガキども!! どこに逃げた! まだ遠くには行っていないはずだ! ────!? この気配はユイの聖属性……ここから東の森林地帯の付近からね。魔力を隠さないたいうことは、私を誘っているのかしら……! いいわ、誘いに乗ってやろうじゃないふふふふフ!」


 エミラはその気配に向かい始めた。


 ※ ※ ※


 ────30分前、東の森林地帯


 ユイ先輩の胸に押しつぶされながらも、息は出来るほど緩めてもらった。

 ユイ先輩は俺に抱きついたままで、ミヤさんと剣崎先輩はもうすでに諦めていた。


「──その状態でいいから聞いてくれ……。ひとまずエミラをライテルーザから誘き出す。その隙をつき、ライテルーザ内に侵入し、一気に帝城へ向かう。エミラの伏兵がいるかもしれないが、エミラでなければ問題ない。だからより遠くへと誘い込み、エミラが囮を補足した瞬間に結界が発動するように細工しようと思う。これには、小鳥遊とユイの力が必要だがな」


 剣崎先輩はそう言うと、計画の内容を話し始めた。


「さっきも言ったが、エミラは捕らえていたお前達がいなくなっている事が分かると怒り狂うはずだ。だがもし、逃したと思っていた獲物が、まだ手の届く所に居ればどうだ? たとえ、自分を誘き出していると分かっていても来るのではないか? アイツはお前たちがダミーを創れるとは思わないだろうからな」


「仮にそうだとして、私たちがどうやってダミーを創るのよ? そんな魔法ないわよ?」


 ユイ先輩のいう通りだ。

 ユイ先輩はもちろん、俺もミヤさんもそんな魔法はない……と考えたが、ふと頭によぎっていた。

 俺は創造錬金で大地の壁を創った──!?


「小鳥遊は気付いたようだな?」


「俺の創造錬金で大地人形アースドールを創るってことですか?」


「その通りだ、その人形にユイの聖属性を纏わせる。その魔法を創り上げ、行動を起こすまで僕の静寂サイレンスで魔力感知を逃れる。僕たちがある程度のライテルーザに近づいたところで静寂サイレンスを解除する。まぁ動くことができればもっとそれらしくなるのだがな……」


 その言葉にユイ先輩は思いついたように口を開くと、自分の青属性を使えばできるかもと言って続けた。


「スタル、多分、私の青属性の水に、光を纏わせる移動魔法【白流ハクル】を使えば動かせるわ」


 剣崎先輩はユイ先輩の言葉に「それはいいな」と返すと早速表へと出ようとしたが、俺はすぐに動けなかった。

 と言うよりも動いたらまずい……


 色々と、ほんと色々と……。


「小鳥遊なにをしている! 表へ出るぞ!」


「あの……先に行っててもらえませんか? すぐに向かいますので……」


「先に待ってるね〜」

 

 その光景を見て、何かを察したミヤさんは、俺の肩に手を当て、俺の体を眺めて言った。

 

「なんか色々すまないね……」 


「──いえ……。お気になさらず……」


 程なくして俺は表へと出た。

 表へ出ると3人がこちらに顔を向けて、剣崎先輩が「早速始めるか!」と言った。


「まず最初に僕が【静寂サイレンス】を展開する。その後に小鳥遊は【創造錬金】で大地人形アースドールを創れ! その後は分かるな? ユイ?」


「ええ! 私が出来るだけ多くの聖属性を纏わせて、【白流ハクル】で動かす準備をすればいいんでしょ?」


 その言葉に、俺とユイ先輩は言われた通りの魔法を使い創り上げた。

 完成を見た剣崎先輩は頷きながら「上出来だな」と言っていた。そう言うと、最後の仕上げに剣崎先輩が雷を使い結界を施した。


「じゃあすぐにライテルーザに向けて進むぞ! この【静寂サイレンス】域から出ると、魔力の気配を完全に消せ! じゃないと意味がないからな」


 剣崎先輩の指示に従い、俺たちは再びライテルーザに向かった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る