第27話 ベルファ・ライテルーザと馬頭

 アイル達は魔力の気配を消したまま、出た時と同じ東門へ着いていた。

 ここまでは何の問題なく来れたが、ここからが本番だった。

 

 夜の時間の終わりが近づき、ライテルーザの街は薄らと光を帯び始めていた。


 まだ人通りは多くはないが、到着した時間帯に比べると、ちらほらと人の姿が見えた。その多くは、行商人と思える者達で、多くの荷物を積んでいるのであろう荷馬車が街中を進んでいた。

 

 この東門を入った通りは、メインの南門のそれと比べ、道幅は然程広くない。


 荷馬車が漸くすれ違える程の幅で、二台が並ぶと人一人が、向きを横に変えれば通れるといった感じであった。

 

 アイル達はそういった中、帝城に向けて進んでいた。

 この間予想外にも、エミラの伏兵と思える敵とは遭遇せず、帝城の城壁が姿を現した。

 だが、その手前に複数の人影が見えてきた。


 全身を銀の鎧に身を包み、剣や槍といった武器を持っている騎士団が待ち構えていた。まるでこの場にアイル達が来ることを予測しているように立っていたのだ。

 

 その光景を目にしたアイル達は、剣崎スタルの指示に従い、その手前に身を潜めていた。

 最初に小声で言ったのはユイだった。

 

「どういうこと!? なんで、ピンポイントにここの場所にいるのよ……? エミラにバレた訳ではないのでしょうけど……どうして?」


「……東門を通った時、感知を警戒したが、魔法は掛かっていなかった……だがこれは明らかに僕たちが来ることを把握している」

 

 その会話に割り込むように、騎士達のいる場所から、言葉が発せられた。

 

「──隠れているのは分かっている。大人しく出て来い! ……4人いるな。私は欺けんぞ……」


 スタルはその声の主が姿を現すと、納得したように声を出した。

 

「ユイ、小鳥遊、それとミヤ……。彼に対しては魔法でも使わない限り、気配を消すのは無理だ……」


 そう言うと、隠れていた場所からゆっくりと出ると、残りのメンバーにも出るように言った。

 アイルとユイ、ミヤは状況が理解できていなかった。

 スタルはその疑問の表情を読み取ると口を開いた。

 

「お前達も目の前の人物に心当たりがあるだろ……?」


 そう問われ、周囲が少しずつ明るくなる中、確認するように視線を向けた。

 他の騎士とは明らかに違っていた。

 魔法耐性があるであろう、光沢のある漆黒の鎧に身を包み、背中にも同じく漆黒の外套を羽織っていた。


 その顔を見たアイルとユイ、ミヤはその名前を思い浮かべていた。

 そして、その名前を口にしたのはミヤだった。

 

「ベルファ・ライテルーザ公爵様……」

 

 目の前にいるのはメシアの殺しを指示した張本人だった。

 アイルは公爵を睨みつけると、それに気付いた騎士が怒鳴り声をあげていた。

 しかし、すぐに公爵が騎士を制すると、スタルに向けて聞いていた。

 

「その言いよう……。お前は私の能力を知っているようだな」

 

「知らないわけないだろう……剣術の達人であり、僕と同じく雷属性を使う〈剣鬼けんき〉と恐れられる者……。感知魔法ではなく、その雷の電気を使い気配を察知したのだな……?」

「その通りだ。では、なぜ私達がここに来ることができたかも分かっているのだろう?」

 スタルと公爵の会話に、アイル達はさらに説明を求める様な視線を向けた。

 

「──人体に流れている微弱な電気……〈準静電界〉だな? 雷魔法を広げ、感知したのだな?」


「その通りだ。だが、他の者達はあまり理解をしていない様だがな……」

 

 それを聞き、視線は公爵に向けつつもアイル達に説明した。

 

「人は体内に微弱な電気を纏っている、これを準静電界と言う。これは人が動けば変動する……その変動は気配となる。この人物は自分の雷魔法を展開することで、準静電界を感知し、僕達の動きを捉えていたんだよ」

 その説明にユイは聞いた。

 

「そうだとしても、このライテルーザ全域って相当な魔力量よ!?」

「普通に使えばそうなるかもしれないが、必ず門を通らなければならないのだ、だったら四カ所ある門に振り分ければいい。後は、そこを通ったことを確認し、予想をつけ追いかけるだけだ……。これなら魔力をそこまで使わない」

 

 その説明に感心した様に、ベルファ・ライテルーザは口を開きつつ目つきを鋭くした。

 

「素晴らしいよ──敵でなければ我が公爵家に仕えてもらいたいところだが、残念だ……。お前達はここで死んでもらわねばならん。この部下からもらった『封魔符』を試すいい機会だ……。これは獲物を狩るらしいぞ……」


 そう言い、懐から漆黒の魔符を取り出すと「──解放リリース」と言った。

 周囲は黒煙が渦巻き、アイル達を含む騎士、公爵をも呑み込むと、黒い結界を構築した。


 そして、魔符からは──


 頭が馬、首から下が人形ひとがた──

 以前戦った牛頭とは違い、自分達が知る地獄の獄卒と言われる『馬頭羅刹めずらせつ』のそれであった。

 

 目の前の馬頭は獲物を捉えると────


「主人の仰せのままに」

 

 ひとこと言うと、アイル達にその狂気を向けるのであった。

 

 

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