第70話 運命の巡り合わせ

「お前はなぜ地球に来た? 何が目的だ?」

 

「私はこの地球の魔力であ、新たな力を得る為に来た……。アイル・シシリスとユイ・サンクトゥリアの転生体と同じ様な力を得る為に……」

 

 アイル……哀流か。ユイは速屋先輩だな。

 俺は三年前に異世界──リスティラードへ行った二人を思い出していた。


「ところでお前はその二人に何かしたのか?」

「私は何もしていない……。私の部下のエミラが仕掛けたが、やられた……。だが、そこのドーラは二人と戦っている……。詳しい話はそれに聞いてくれ……」


「──そうか、ならお前には用がないな……」

「ま、待て! アイツらは私の獲物だ! 魔王であろうがこれは譲れん!!」

 

 俺はフィアーラを見据え冷たく返す。

 

「──アイルは俺の相手だ。それに速屋先輩がアイルに加担するのなら、それも俺の相手だ……。死にたくなければ退け……」


 どうやら俺の言い方が気に入らなかったフィアーラは、これまでの怯えた声とは違い、声高に口を開いた。

 

「もういいわ……。いくら最強の魔王の一角とはいえ──、その人間の姿では全力は出せないだろうォ……! ドーラ! 私の一部となれ!!」

 

 フィアーラの言葉で、禁忌魔法ドーラの力がどんどんと流れ込もうとしている。

 俺はそれを眺めながら、その愚かしい行動にため息を吐く。

 何度か言った言葉を再び口にする。

 

「──それは『俺の力』だ……」


 俺の魔力を乗せた言葉により、フィアーラの行動をキャンセルさせた。

 

「フィアーラ。教えておいてやる。禁忌魔法とされている多くのそれは、元々俺の力を分散させて創ったものだ。そんな自分の力に俺がどうこうできる訳がないだろ……」

 

 目の前で起こった事にフィアーラは完全にその動きを止め、こうべを垂れ顔を伏せている。

 だが、今度は天を仰ぎ甲高い声で笑い始めた。

 

「ハハハハッ! アーハッハッハッ!! これがイースベルテの力の一片か……。人間の姿のままで……ここまでの魔力を保有してるとはね! だが! オマエは目醒めたばかりだろう……? 私はオマエが死んだ後からずっと準魔王の一人として君臨していた……その私の力を舐めるなよ! イースベルテーー!!!!」

 

 目の前のフィアーラは、周囲の空間が歪むほどの魔力を凝縮させている。

 その右手にはどんどん凝縮された魔力が形となっていき、一振りの漆黒の細剣を創り出していた。


 ──つくづく愚かしい。


 俺は確かに目醒めたばかりだ。

 だが、目の前の女は自分の魔法をキャンセルされたこと、効かなかったことを忘れているのか? と言うほど愚かだ。

 

「──だから準魔王から進歩がないんだよ」


「古き者! 零夜の魔王アルジェント・イースベルテ! これまでリスティラードに君臨していた私の力を見せてやろう!! 呑み込め! 暗黒物質ダークマター!!」

 

 フィアーラの言葉に、周囲は一瞬にして闇に囚われた。

 俺の視界にも暗黒しかない。

 その上、魔力の感知も阻害するこの闇。

 当然、フィアーラには俺の居場所は分かるだろう。

 その闇の中から無数の何かが飛んでくる。

 恐らく、さき程の黒い細剣から放たれているものだと理解できる。

 無数に飛んでくるそれを躱すことなく、俺にダメージを与えることなく、キャンセルされる。

 

 並の者なら抵抗するにも苦戦を強いられる。

 まぁ並みの者なら、だが……。

 

 

「──ちょうどいい。久々に使ってみようか、──来い。【空魔獣クウマジュウハデス】」

 

 俺の言葉に従い、扉が開く音がする。

 この闇のせいで姿を確認できないが、すぐ近くから声も聞こえる。


(( お呼びでしょうか……アルジェント様……))

 

「久しぶりだな。久しぶりで悪いがこの魔法の術者を潰せ……ただ殺すな。回収するものがある」

 

(( ──御心のままに))

 

 ハデスは暗闇の中、俺の横から気配を消すと、フィアーラの叫び声が響いた。

 

「なんだ!? 何が起きてる!? ぐアアアアァァ……ガアアアアァァァァ──」

 

 声のする方から、バキバキと砕ける音が聞こえている。

 その音が止むと、周囲を覆っていた闇が晴れ、少し離れた場所には、一〇メートル程の、黒く揺らめく獣がいる。

 その獣──、ハデスに握られたフィアーラの姿が確認できた。

 久しぶりに、改めて見る姿は、相変わらずという物で、ゴリラと恐竜を掛け合わせたような異様な姿。

 

(相変わらずな姿だな……。人間になって初めて見るが、こんなに異様だったか……?)

 俺はそんな事を考えながら、ゆっくりとフィアーラ目の前まで歩み寄る。

 

 目の前のフィアーラは、ハデスにより全身の骨を砕かれ、魔法も封じられている。

 空魔獣ハデスは元々空間魔法の一種になる。その為、対象の魔力を空間ごと閉じ込めることができる。

 ハデスは俺が近づくと、フィアーラの両腕を持ち十字架の様に広げた。

 

「じ、慈悲を……」

「何を言っている? お前はその『禁忌魔法』に慈悲は与えてないだろ? なんで俺がお前如きに慈悲をやらなければならない」

 

 この言葉を言い終わる前に俺は、フィアーラの胸のど真ん中に右手を突き入れた。

 血を吐きながら苦悶の表情を浮かべている。

 そんなことはどうでもいいか……。

 そのフィアーラの体内をかき混ぜる様に魔力を流す。

 そして──。


「これで全部か……。【死魂しこん魔水ますい】は……やはり少ないな……まぁいい。返してもらうぞ」

 

 俺は腕を引き抜き自分の胸に押し当てる。

 そして体内へと吸い込ませた。

 それを見終わった、ハデスは──。


(( コレはどういたしますか?))


 両手に広げたままのフィアーラに視線を落として聞いてくる。

 

「──そうだな……」

 俺は少し考えると……。

 

「フィアーラ。お前は『新たな力を得る為』と言ったな? 確かにこの地球の魔力を体内に取り込めば新しい魔法を使えるようになる。まぁ準魔王のお前が新たな魔法を得るにはもっと吸収しないと自身の力に消されてしまうけどな。俺はこっちで生まれた肉体のおかげで、すでに吸収は終わっているが……。最期に見せてやろう。俺が得た力を……この地球の神の力を冠した魔力剣──【布都御魂剣フツノミタマノツルギ】」


 俺の言葉で右手に現れた、光を放つ片手の直剣をフィアーラに向けた。

 そしてゆっくりと腹部へ突き刺した。

 フィアーラの短い苦悶の声が耳に届く。

 

 そして最期の言葉を言った──。


「──魂ごと消えろ……」


 この一言で、フィアーラは一瞬にして光を纏うと、霧散する様に消滅した。

 

「──こんなものか……。やはりまだ全然力が足りないな。まぁ当然か……。俺の力のほとんどはリスティラードにあるからな」


 ハデスに目をやり、戻る様に命令する。

 再び扉が現れるとその中へと戻っていった。

 そして、残された禁忌魔法──、ドーラへと視線を向ける。


「『ドーラ』と呼ばれていたか? お前は俺と来い。聞きたい話もある。それにお前は俺のものだろ?」

 

 禁忌魔法ドーラは怯えきった表情をしている。

 頭を掻きながら、「──あ〜……。とりあえず来い」と言うと静かに頷いた。


 俺は窓際まで行くと、明かりを降らせる天満月あまみつつきを見上げながら独り言を呟いていた。

 

「哀流……当然、戻ってくるだろ? お前と俺の運命はどうやら交わらないといけないらしい……。お前は魂を代償にしたからな……思い出すかは分からねーがな……〈アルテ・メシリス〉としての記憶を……。だが、思い出さなくてもいいさ。今度お前は、小鳥遊哀流として──、俺はアルジェント・イースベルテではなく冬夏銀夜ふゆかぎんやとしてお前と相対するよ……」

 


 俺はいずれ戻ってくるであろう友人、古き好敵手ライバルに向けて投げかけた。



 ────◇────◇────◇────◇────



 お読み頂きありがとうございます🎶

 ひとまず、

 第一部 【始まりのリスティラード編】はこれで終わりです。

 この後は、

 第二部 【地球変革編】になります。


 第二部開始まで、お時間を頂くことになると思いますが、よろしくお願いします。

 第二部開始までに、【番外編】なども書きたいと思っています。

 番外編の内容は、アイル達の日常に関するものにします。

 姉好きである、聖王騎士団総隊長〈リーセア・ヴァルサディア〉が現れる話なども書こうと思います。



 この一部分をちょっとだけ端的に書きました。

      ↓

      ↓

────────────────────────



 ──ライテルーザ帝城にて──


 ライテルーザ帝城の一室。

 アイルを含め、ユイ、メシア、ミーヤセルカ、スタルが長テーブルを囲みながら座っていた。


 最初に声をあげたのはミヤだ。

「──リーセアに頼んだというのは本当なのか……メシア皇女……?」

「はい。お母様が遠隔魔法で要請したそうですが何かあるのですか?」


 ミヤは頭を押さえながら項垂れている。

 これを見ていたユイもため息が止まらない。

 アイルは二人の様子を確認すると、口を開いた。


「あ、あの……二人ともどうしたんですか?」


「いやなに……リーセアのことを考えると頭が痛くてな……」

「う〜……リーセアかぁ……。どうしよう……」


 ミヤもユイも頭を抱えてやまない。

 気になったアイルは聞いてみた。


「そ、そのリーセアさん? てどんな人なのですか?」


「とんでもない妹だ……」

「──《リデア学園》の中での話だけどね……。先輩は皆んなだから……」

「あの子は大変なんだよ……。キスをせがむは、裸で抱きついてくるわ……」

「そうですね……、私は寝ている間に素っ裸にされました……なんとか守り抜きましたけど……」


「え゛!? な、なんの目的で……?」

「それ以上は聞かないで……アイル君……」


 これにアイルは「──でも……」と続ける。


「ユイ先輩は転生してるし、姿も似てるとはいえ違うしわ、分からないんじゃぁ……」 


 ミヤはかぶりを振りながら否定する。


「アイル……お前は分かってない…。あの子の嗅覚を……」

「そうですねあの子なら……」


 この会話に割り込む様に、──バタンッ。と突然音が響く。その音の方向──。

 部屋に一つだけ設られた窓辺に仁王立ちする少女は、藤色の髪を靡かせながら言った。



「おっ姉様〜〜♡ み・つ・け・ま・し・た♡ うふふっ♡」


 少女は恍惚の表情を浮かべ、その目にはハートが浮かんでいる。


「「あ゛あ゛あ……リーセア!!!!?」」


 

 ユイとミヤは口を開けたまま硬直していた。




────────────────────────




────◇────◇────◇────◇────



 この様な話になると思います。

 後日、これを踏まえて書かせていただきます。

 【番外編】を公開する時にはまた連絡をさせて頂きます。

 m(_ _)m

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