第69話 地球と零夜の魔王

 ──現在、地球──。


 太平洋のど真ん中に突如として現れた空中島。

 大きさ的には北海道ほど。

 人工衛星で確認する限り、森林、山、湖、そして中央部には西欧風の城がある。

 さながら、ドイツの白亜の古城。【ノイシュヴァンシュタイン城】に似ている。シンデレラ城のモデルとなった城だ。

 

 だが、その風景は過去に見た事がある。

 リスティラードで俺とアルテ・メシリスが戦い、その影響を受けてできた大陸、〈魔神領域ましんりょういきデルゴラル〉。それに似ているのだ……いや、違うな。向こうから持ってきたのだろう。

 

「──あそこに俺の欠片があるみたいだな……。この感じは準魔王程度か……。ひとまず行ってみるか」


 俺はネットからの映像を見ながら呟いていた。

 地球に魔物が現れて三年ほど経つ。


 こっちでは『珍しく』と言ってもいい。

 あれだけ争っていた世界の国々が、団結して魔物討伐に乗り出した。

 それ程の危機を感じたのだろう……。

 

 だが、科学力だけではどうにもならない魔物が出てきた。

 見計らったわけではないのだろうが、これに対応するように、地球の魔力を操り、対抗する者達も現れた。

 これをきっかけに、魔法を使える者達を集め訓練をし、魔法師団なるものを作った。

 また、素養のある者を集め専用の訓練施設も作っている。

 その為、現段階では力は拮抗している。 

 しかし、準魔王が魔力を吸収しているが為に、人間側が劣勢になることは予想ができる。

 

 

「──さてと……。どの程度の準魔王なのか……少しは遊べるか……」



 ※ ※ ※

 

  

 森林に囲まれた古城の中。

 月光が窓から降っている。


 そこには、月明かりを反射させる紅の長髪ロングヘアを腰まで伸ばした女性が立っていた。

 

 その足元には頭を床に擦り付ける、大凡、人間とは思えない銀髪の少女らしき者が、頭を踏まれていた。

 

「──ゆ、ユるしテ下さい……。エ、エミラ様をた、タスケられなかっタことはウチ……ワタシの力不足デ──ッ!? グゥアァァア!」

 女は少女の姿をした者の頭を床に沈めるほど踏み込むと、凍てつきそうな声を発した。

 

「オマエなに? ただの禁忌魔法の人形でしょ! それを! 私の可愛いエミラを殺されて!! オマエだけ逃がされたのか!!!!」

 

 その怒りは直接足に伝わり、床がひび割れるほど力が込められていた。

 

「ズ、ズみません……ブィ、フィアーラ様……」

「このゴミが! せめて私の役に立てるようにしろ!!」

「こ、このウチ……、ワタシの全テはフィ、フィアーラ様のために……」

「当然だろ! まぁエミラが残したこの【零夜れいやの魔王】の欠片は役に立つだろうけどね……!」

 

 準魔王フィアーラは不気味に笑みを浮かべていた。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

  

 目の前には予想より大きな扉がある。

 一枚岩から切り出されたと思う彫刻されたそれは、重厚と表現できる。 

 その扉をゆっくり開くと、レッドカーペットの向こう側。サイドに分かれた二階へと続く階段がある。

 

 階段を上り、上層へと、俺は歩みを進めた。

 上った先には、さっきの半分ほどの扉が現れた。

 岩とは違い、漆黒の木造。

 それに手を掛け、きしむ音と共にゆっくりと開いた。


 中には玉座があり、その左端には大きな窓がある。


 窓から入り込む月明かりに照らさたその場には、紅の長髪ロングヘアと真紅のドレスを身にまとい、足元には大凡人間ではない者を踏みつけ、こちらを見る絶世の美女と表現できる女がいた。


 女は俺を見るなり怒りの声を放つ。

「オマエは何だ? なぜこんなところに人間がいる!」


「──人間。確かにそうか今は……」

 俺は自分を見るなり他人事ひとごとのように呟く。


 最近、漸く転生したことを思い出した。


 それまでは、普通に学生として友人を迎えにいき、バイトの話、テストの話などの会話をすることもあった。


 一年生だが、副生徒会長を務め、他の生徒からも信頼は厚かった。

 平和といえばそのものだ。


 だが、それは、この地球が次元を上げようとしていることによって、魔物の流入によって、──一変した。

 その魔力に影響を受けたのだろう、俺は前世の記憶を取り戻していた。

 

「お前が準魔王か……?」


「なんだ? オマエは? ここは人間風情が来ていい場所ではないぞ?」

 

 目の前の女は俺を見るなり見下しているように言っている。

 しかし俺は淡々と──。

 

「その足元の禁忌魔法……、それは俺の所有物なんだよな……。それに、お前の取り込んでる俺の力……返してもらうぞ」

 

 女は明らかに疑問の表情をしている。

 足元の禁忌魔法は俺を見るや否や目を見開いていたのが分かっていた。

 

「フィ、フィアーラ様……。その方は……!」

 

 足元の禁忌魔法の言葉からこの女が、フィアーラという名だと分かった。

「お前はフィアーラというのか……。だが俺の力は俺のものだ……」

 

「『俺の力』だと! はァンッ? なに言ってるの? 人間!」

 

 女はそう言うと、俺に標的を定め、魔法を放つ。

「──クソ人間が! 消えろ!」


 恐らく自身の得意属性なのだろう。凝縮した闇魔法の連弾。

 だが、たかだか準魔王の魔法に過ぎない。

 俺は避ける事はせず、そのまま受けた。

 正確には、オートキャンセル──、自分より明らかに劣る相手の魔法に対して、その一切を無効化する力。


 当然と言えば当然だが、女──フィアーラは何が起こったのか理解できていない。

 

「──なんだ……。一体何をした……!」

「何もしてないさ、一切──。する必要もない……お前は風に吹かれる程度で何かするのか?」


 俺は淡々と返す。

 フィアーラの顔はみるみる怒りの形相へと変わる。

 先ほどよりも強大で、遥かに高威力の魔法を組み上げていた。

 

「ハハハッ! これは最強と謳われた【零夜の魔王アルジェント・イースベルテ】の力を使用した魔法だ! 今度こそ死ね!!」

 

 フィアーラから無数に放たれた漆黒の大蛇の形をした炎は、うねりを繰り返し、俺を四方から攻撃しようと迫って来る。

 

「──だから俺の力だと言っている。お前は馬鹿か?」


 埃でも払う様に手を軽く振った。

 当然消える。──いや、霧散する。


「──はァッ?」

 

 唖然とするフィアーラは、漸く気付いたのか、俺を見るその目から、明らかに恐怖が滲み出ている。

 

「──そ、そんなはずはない……。あの魔王が人間に転生など……」


「そうだな……。俺もまさかとは思ったさ……。だが、──事実は事実」


 俺の返事にますますフィアーラは驚愕している。

 俺は一つ気になることを聞くことにした。

 

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