第68話 準備

「なるほど……。このリスティラードに戻ったばかりの頃は、【次元の穴ディメンショール】はここまで活発に出現していなかった……それを開く為にメシアの魔力を借りようと思ったと……。そして空間魔法の使い手にも匹敵するメシアにも、地球の準魔王の討伐を手伝ってもらおうと考えていた訳なのだな?」

 

 スタルはミリーザの答えに──、「おっしゃる通りです」と言いその返事を待っていた。

 メシアを連れて行くことに対してどう返事をしてくれるのか。

 ミリーザは目を瞑り、息を吐き、一拍おくと──。


「──確かにお前達の考えている通り、死んだと思われていた愛娘が戻ってきて一緒に暮らせている……。私にとって失われた時間を取り戻す大切な時間だ……私としては行かせたくはない。だが──」


 ミリーザの視線はメシアに向けられていた。

 メシアはこの意味に気付き口を開いた。

 

「お母様の察している通り、私はチキュウに行きたいです。アイルさん達が私の力を必要としているのなら手伝いたい……」

「──まぁお前ならそういうと思ったよ……。止めても無駄なのだろうな……?」


 メシアは頷いた。

 これを見たミリーザはもう一度ため息を吐くと少し困りながらも言う。


「メシア、必ず帰って来るのだぞ」

「はい! もちろんです!」

 

 話はまとまり、これからのことについてスタルが説明をし始めた。

 

「これから2、3ヶ月はどう足掻あがこうと地球には戻れない。ならその間、このリスティラードで各々の実力をあげることを提案する。このまま、ただ戻るだけではフィアーラには歯が立たないだろう……。能力の底上げは必須だ」

 

 スタルの提案を聞いた白竜王エンツィオは──。

「──ならば我らが力を貸そう。我が竜の都より竜騎士どもを派遣させて鍛えてやろう! ハハハッ!」


 このエンツィオの言葉にミリーザは頭に手を当て言った。

 

「──はぁ……。そうなるとその竜騎士の宿舎には、この城の北側にある訓練邸を使うといい。今は使ってはいないが、すぐに使えるように準備を命じておこう」


 エンツィオとミリーザの話は淡々と進み決定した。

 これに、アイルは恐る恐る聞いた。

 

「これって決定……?」

「まぁそうだな。そういうことだ!」

 スタルは答える。

 そして、この結果を聞いた、初めてを奪われたリルアは──。


「ふふふ……。ならば私がアイルさんをしごき! ……鍛えましょう……。信じられないくらいに!」

 リルアの瞳は燃えている。

 エンツィオは、「よし! 鍛え尽くせ!」などと全力同意の言葉を言い放っている。

 

 ユイは、メシアとミヤと一緒に訓練をすることを決め、スタルはアイルと一緒に、メシアと竜騎士との訓練をする事になった。

 

 また、ミリーザの考えで、現リスティラード最強の【空間魔法】の使い手で、ユイと出身地である〈聖王都〉ホリシディアの女騎士──。

 聖王騎士団総隊長〈リーセア・ヴァルサディア〉に訓練要請をすることを決めた。

 

 リーセアは18歳という若さでその実力と資質を認められ総隊長となった。

 平民生まれながら、膨大な魔力を有しおり、貴族と平民のしがらみをなくすことを目標としており、人に対しての一切の偏見へんけんがない。

 ただ一つ、だと言うことを省けば、理想とすべき人間の一人ではある。


 各々は、【次元の穴ディメンショール】が再び開けるようになるまで、猛特訓をするのであった。

 

「──次は地球か……。銀夜は大丈夫だろーな……」


 アイルは天井を眺めながら地球にいる親友、《冬夏銀夜ふゆかぎんや》の名前を呟いていた。

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