番外編 ライテルーザにて

番外編 《お姉様大好きリーセア来る!?》①

 ──ライテルーザ帝城の一室。


 その部屋では沈黙が続いていた。

 エミラとの戦いに備え、会議をしたあの会議室だ。


 俺の左隣のユイ先輩は頭を抱え項垂れている。

 その向かい、ミーヤセルカ──、ミヤさんも青ざめた顔をして右手で顔を覆っていた。


 俺と剣崎先輩、そして第一皇女にして俺──、アイル・シシリスの元仲間で、現在に至っては、転生した小鳥遊哀流たかなしあいるの現在進行形の仲間である少女メシアは、二人の姿を見せられているが、状況が全く理解できない。


 ことの発端は──、メシアの母親である、ミリーザ・ライテルーザさんの要請から始まった。


 俺と剣崎先輩を鍛えるためだと言う理由で、《遠隔魔法》を使い、ある女性にその要請をしたのだ。


 俺が使う空間魔法は特殊なため、それを訓練できるのは、同じ空間魔法を使うことのできる者ということで、ユイ先輩、ミヤさんと同じ《聖王都ホリシディア》の出身であり、現、最強の空間魔法と使い手である〈リーセア・ヴァルサディア〉を呼んだのだ。


 俺は理由を知りたく、未だ項垂れているユイ先輩に聞いていた。


「あの……ユイ先輩? そのリーセア・ヴァルサディアって人はそんなに変わり者なんですか?」

「ふふ……そんな言葉で収まれば可愛いものよ……」


 ユイ先輩は、厨二病さながら顔を押さえて言った。

 ミヤさんは続けて言う。


「アイル。アイツはそんな可愛いもんじゃない……。とんでもない妹なんだ……。メシア皇女、正真正銘、間違い無いんだな……?」


 ミヤさんからは間違っていて欲しいという感情が伝わってくる。これにメシアは首肯する。


 すると再び青ざめ、今度は両手で顔を覆っている。

 ユイ先輩は顔を押さえていた手を外し、背もたれに体を預け、天井を見上げ呟いた。


「ふぅ……。う〜……リーセアかぁ……。本当にどうしようかしら……」


 二人の《妹》ということ、同じ出身ということから、おそらくユイ先輩とミヤさんが在籍していたあの惨劇が起きた《リデア学園》の関係者だと分かる。


 だが、人となりは分からない。

 なので、もう少し詳しく聞く事にした。


「そ、そのリーセアさん? てどんな人なのですか?」

 俺の問いに、ユイ先輩は右のこめかみに指を当て、半眼になり答えてくれた。


「──え〜っとね、あの子は極度のシスコンなのよ……。《リデア学園》の中での話だけどね……。先輩は皆んなだから……その愛情表現がね……」


 ユイ先輩の説明を聞いていたミヤさんも続ける。


「あの子は大変なんだよ……。キスをせがむは、裸で抱きついてくるわ……仕舞いには、飲み物の中に睡眠効果のある薬草を放り込むとか……色々やってくれたよ……」


「そうですね……、私は寝ている間に素っ裸にされました……。警戒していても、それを掻い潜って幾度となく……なんとか守り抜いたけど……。(危ない時もあったけど……。気づいたらリーセアの手が下の方に向かってたことがあったけど……これは言えないわ)」


「え゛!? な、なんの目的で……?」

「アイル君。それ以上は聞かないで……」


 そう言うと頭をもたげる。

 メシアはどうやら意味が分かったらしく、顔を真っ赤にし両手で口元を押さえている。

 剣崎先輩はというと、さして興味なさそうに聞いている。

 そして俺は、「──でも……」と言い続けた。


「──ユイ先輩は転生してるし、姿も似てるとはいえ違うしわ、分からないんじゃぁ……」 


 するとミヤさんはかぶりを振りながら否定する。


「アイル……お前は分かってない…。あの子の嗅覚を……」

「そうですねあの子なら……」

 これを聞いていたメシアが口を開く。


「あ、あの……ミヤさんは守り抜いたんですか? ユ、ユイさんはな、何かに目覚めたとか……?」


 なんか興味の方向性が違うような……。

 何を守り抜いて、何に目覚めたのか……? 

 さっぱり分からん。この俺の様子に気づいたのか、メシアは俺に耳打ちする。


「えっとですね……アイルさん……ごにょごょ──」

「──!? ユイ先輩の貞操が危なかった!?」

「──アイルくんっ! 声にしない!!」


 ユイ先輩にはたかれた。

 俺は頭を摩りながら「──す、すみません……」と謝り続ける。


「でも、実力は本物なんですよね……?」

「それは間違いないわ。あの子は昔から凄かったから……」

 ユイ先輩の言葉に答えるようにミヤさんが口を開く。

「そうだね……。あの子はあんたと肩を並べるくらい才能があったからねぇ……。それに本来ならユイ達と一緒に準魔王と戦うはずだったんだよ」

「でもなんで一緒に行けなかったんですか?」

 

 ミヤさんは続けて答えてくれた。


「リーセアは【聖王都ホリシディア】の《女王オルア・クレイディア》様に別働隊を任されて、魔族と魔物の討伐に向かってたんだよ。準魔王との戦いを有利に進めるためにね。それであいつは、たった一人で拠点を数ヶ所落として帰ってきたんだよ」

 

 たった一人で数ヶ所とは……。

 とんでもないとしか言いようがない。いくら準魔王クラスがいなかったとはいえ……だ。


「本当に滅茶苦茶強いんですね」


「──ああ強いさ。だから、リーセアが帰ってきた時ユイが死んだことを伝えたら暴れ出す暴れ出す……。『ユイお姉様を殺した奴をぶっ殺す!!!!』とか言って一人で向かおうとするしね……。まぁひょっとしたらあの子一人でエミラを倒してたかもしれないね」


 ミヤさんはしみじみ言う。 

 ユイ先輩も──、「可能性があるかも……」と言っている。


「だからね、アイル君。もし私が見つかろうものなら多分大変な事になるわ……。それも、私だけじゃなく、違う意味で、アイル君の命が……」


「──え?」


「そうだよねぇ……。あの子、もしユイがアイルに体を許したことを知ったら……」

「──いやいやミヤさん……。俺はまだそこまで深い関係には……」

「キスしただけでもリーセアにとっては一大事だよ」

「じゃあアイル君、いっそのことものすっごい深い関係になっちゃう? 私はいつでもオーケーよ♡」


「それって俺、確実に殺されますよね……」


 そうなのだ、これらのことを踏まえても、もし今リーセアさんが現れでもして、ミヤさんはおろか、ユイ先輩の無事を確認し、俺とユイ先輩のことを知ってしまったら大惨事が起きそうな予感しかしない……。


 これを心配してか、メシアが口を開く。


「あの〜……では、お母様に言って違う方を呼んでもらいましょうか……?」


 俺が考えていると、ユイ先輩とミヤさんが「──その方が良い」とメシアに言った。

 返事を聞いたメシアは──、

「……それではお母様に言って──」

 

 と口を開いた時、閉まっていたはずの窓の方から風が入り込んできた。

 そして声が聞こえる。


「おっ姉さま〜〜♡ み・つ・け・ま・し・た♡ うふふっ♡」


 声のする窓際へ視線を向ける。

 そこには、腰に手を当て仁王立ちする少女の姿があった。


 藤色の長髪ロングを靡かせ、全身白を基調とした服装。下はミニスカートを履いている。

 その左腰の辺りには、レイピアのような物を携帯し、その佇まいには一切の隙が窺えない。


 この姿を見た、ユイ先輩とミヤさんが驚愕の声を上げる。


「「──リーセアぁ!!!!??」」

「はぁ〜い♡ お姉さま〜♡」


 この返事に最初に返したのはミヤさんだ。


「──リ、リーセア!? な、なんでもうここにいんだい!?」

「それは呼ばれたらすぐ来ますよぉ〜」

「す、すぐってあんたいつ聞いたんだい?」


 これにリーセアさんは唇に指を当て、「──さっき?」と首を傾げながら返している。

 俺はメシアにどのくらい前に連絡をしていたのか聞いた。すると、どうやら一時間程前らしいことが分かった。


 隣のユイ先輩にこのことを伝えると、目を丸くして驚いている。そしてユイ先輩は小声で俺に伝えてくれた。

「──いくらなんでも一時間で来れないわよ……。ここからだと最低でも馬車でニ、三週間はかかるわよ!」


 俺がユイ先輩と話している隙に、リーセアさんはミヤさんの背後に移動していた様で、背後からミヤさんの胸を揉みしだいている。


「──ちょっ!? あんたいつの間に……!?」

「あ〜らお姉さま〜。このお胸鍛えすぎですよぉ〜。まぁちゃんと弾力はあるのでい・い・で・す・が♡」


 これにミヤさんが振り払おうとすると、素早く躱し、俺のすぐ横。──つまり、ユイ先輩のすぐ後ろに目を潤ませ立っていた。


「──もう二度と会えないかと思っていました。ユイお姉さま……」

「た、多分人違いだとお、思うわよ……。ほら? よく見て? あなたが思っている人と違うでしょ?」

 

 ユイ先輩は、さっきミヤさんと話していた、彼女の嗅覚のことを否定する様に人違いを主張し始めている。

 よほどバレたくないと見えるけど、始めに二人が言ったことは恐らく事実……であるなら──。


「まったくぅ〜私がユイお姉さまの魔力を間違えるわけないじゃないですかぁ〜♡ 遠くからでも分かりましたよぉ〜。あの聖槍ロンギヌスのま・りょ・く♡」


 ──スッ……。

(──ん!? 背後から消えた?)


 そう思った時にはすでにユイ先輩の前に回り込み、いつの間にかその手をユイ先輩の服の下へと潜り込ませている。


(──んんんっ!? 直に触ってるのか!?)


 俺の想像を肯定する様に、ユイ先輩は色っぽい声を出している。


「──んっ! ……う、んんッ! ちょ、ちょっとリー……セアっんッ」


「これは当時以上に良い成長をしていますねぇ〜♡ うふふふ♡♡ 今晩は楽しみですぅ♡」


「──今晩も明夜みょうやもないわよ! ちょっと離してよ……んんっ」


 俺はどうにかしようと試み動こうとした。

 だけど──。


「リ、リーセア! ユイはもう体を許した相手がいるんだよ!」


 ミヤさんは口走った。

 ──何言ってんの!? この人!? そんなこと言ったら……。


「──はぁっ¿ 今なんて言いました? ミヤお姉さま……?」


「だから! そこの少年──、アイルがそれなんだよ!!」

「──ああっ!?」


 目の前のリーセアさんの目はマジで怖い。

 ジッと見ている。

 俺はミヤさんに、──なんて事を言ってくれたんだ!? と言う表情を向ける。

 

 だが、ミヤさんは両手を合わせて謝っている。

 その表情から窺えるのは、──そうするしかユイを解放することが出来なかったんだ。とか言う感じの顔だ。


(ちょっと待ってくれ! 俺はどうなるの!?)


「──良い度胸だな少年……! ユイお姉さまに手を出して、ただで済むとおおもいにならないよう……殺す!!!!」



(──やっぱこうなったーーーー!!!!)


 心の叫びは響いた。


 




 




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