番外編 《お姉様大好きリーセア来る!?》②
俺の目の前のリーセアさんは目が血走っている。
ゆっくりとユイ先輩の直胸から手を離し、立ち上がると、レイピアに手を伸ばし抜いていた。
「──少年、私は君を……コロッスッ!!!!」
巻き舌の様に口にする。
その瞬間振り抜かれたレイピアは、一瞬で俺の胸部へと放たれていた。防衛本能だろう、俺は無意識の内に空間魔法で防御の壁を創り防いだ。
──が、ビキッビキッと音を立て、それがひび割れ屋外へと吹っ飛ばされた!
そこは城壁の側。
メシアと再開したあの広場だった。
「──うッ! マジかよ!? 空間の盾にひびがは入りやがったぞ!?」
なんとか広場へと着地し、体勢を整え追撃に備え光剣を構える。そして吹っ飛ばされた方向へ目を向ける。
だが、一向に追撃がない──、と思った時。
後方から声がした。
「──どこを見てる? 君は鈍いな?」
「──!? うしろ!? いつ……!」
──この反応も遅かった。
そう口にした時には、リーセアさんの左手の掌底は俺の腹部へと大きく沈められていた。
その衝撃は大きく、瞬間に魔力による防御膜を張っているとはいえ、背骨まで振動が響き、それに応じて、胃の内容物が全て出るのではないかと言うほどだ。
俺はまたしても吹っ飛ばされ、城壁へと体を強打する。リーセアさんはその姿を見ると歯噛みしながら呟いている。
「……こんな男のどこに惚れて──……。私というものがありながら──! うんんっ!!!!」
睨まれた。
(なんだこの人!? マジでヤベぇ!! 速さも、攻撃力も桁違いだぞ!?)
「あァーなァーたァー……。どこでお姉様とヤッたの?」
「──ちょっ!? ま、待ってくれ! ヤッてない! ヤッてない!! まだヤッてな……」
「まァーだァーー????」
──俺は答えを間違えた様な気がする。
リーセアさんの目はギラギラと鋭くなり言い放つ。
「その毒牙がお姉さまに届く前に始末しなければ……」
ヤバい……。殺されるかもしれない。心底思った。
リーセアさんからは目に見えるほどの殺意を感じる。
「──纏え……【
言葉に反応する様に、レイピアを構えるリーセアさんに半透明の羽が舞い始めた。
そして一歩踏み出す──。
その一瞬だった。俺のすぐ目の前に移動していた。
──俺を見上げる体勢。半透明な羽はレイピアに収束し、光を纏う。
そして──。
「──【突き抜けろ】!!」
──この人本当に殺す気!?
俺の感じ取った感覚はそうだった。このままこれをくらったら間違いなくヤバい!
その感情に支配されていた。死を直観的に感じた俺は本当に無意識だった。ある言葉を口にする。
「──
この空間魔法により、リーセアさんを中心とした空間を切り掌握した。
「
当然リーセアさんも知っているのだろう。
これは一度死ななければ得ることが出来ない空間魔法だということを。
そしてその効果も知っていると思われる。
リーセアさんは【空羽】を解き、攻撃を止めた。
流石というべきだ。
このまま自分が攻撃を加えれば、自分自身がただではいられない事を理解していた。
リーセアさんは俺に興味が湧いたのか、レイピアを鞘に納めた。これに応じて俺も
それを確認するとリーセアさんは、ゆっくりと俺に近づき、胸ぐらを掴んだ。
「──ユイお姉さまがそうなのだとしたら、君も……転生者ね? それに、私には及ばないもののその空間魔法……あなたひょっとして、準魔王ゼディーと相打ったアイル・シシリスだったりする?」
その言葉に頷くと、鼻を鳴らし俺を突き放す。
これに尻もちをついた俺は、リーセアさんを見た。
攻撃は止めてくれたものの、その目は冷たいもので、心底嫌そうな顔を見せながら口を開いた。
「──私が呼ばれた理由は君を鍛えるためだな。ユイお姉さまのことは追々聞くとして、ひとまず来い」
「ど、どこに?」
「ひとまず会議室に戻る……。怒りに任せて出てきてしまったからな……。そこで詳しく聞こう」
そう言われながら俺は引き摺られて行った。
※ ※ ※
引き摺られたまま会議室に着いた時には、メシアの母であるミリーザさんも席に着いていた。
ミヤさんは俺の顔を見るなり、再び手を合わせて謝ってくる。剣崎先輩はなんか食べてる。ひどくない?
ユイ先輩はリーセアさんを警戒しているのか、体を抱く様に身構えている。
流石にリーセアさんも陛下の前では本能赴くままに行動しない──と思った。
──けど、ユイ先輩の膝の上に対面に座ると見つめている。
「──ちょっとリーセア……。どいてくれない? 話ができないわ……」
「私はユイお姉さまとお話ができればいいのです」
これに痺れを切らしたのか、ミヤさんが立ち上がり無理やり引き剥がそうとする。リーセアさんはイヤイヤと頭を振りながら、離れようとしない。
──埒が開かない。
さっきの、『──詳しく話を聞こう』はどこいった!? そう思っていると、ついにミリーザさんが口を開いた。
「あぁ……こちらから呼んでおいてなんだが、リーセアよ、席についてもらえないか? 全然話ができん」
これに流石に従わないわけにはいかず、渋々ユイ先輩から離れ左隣に席を取る。俺は最初と同じように右側にいる。
全員が席に着いた事を確認すると、ミリーザさんが説明を始めてくれた。
「リーセアには伝えている様に鍛えてもらいたい。空間魔法の使い手のアイル、──そして、会話中ずっと菓子を食べているスタルの両者をだ」
俺は剣崎先輩に視線を向けるが相変わらず食べている。──どういう神経してんだよ……と思う。
リーセアさんの視線はさらに冷たく、剣崎先輩を見据えている。
「──ミリーザ様の依頼であれば、断る理由などありません。──ただ、鍛える方法は私に全てお任せいただきたいのですが……特に! アイルに関しては!! ──良いですか?」
ミリーザさんは──、
「良いぞ」
──即答した。
ミリーザさんに目を向けると、何か思う所があるのか、口元が笑っている。
「──アイルはメシアの将来の夫だ。存分に鍛えてくれ」
ミリーザさんの言葉は、リーセアさんの逆鱗に触れてしまった。
「お前ーー!! ユイお姉さまのみならず! メシア皇女までその毒牙にかけようと言うのかーーーー!」
ミリーザさんは口元を覆い笑いをこらえている様に見える。
──ちょっと待って!? どんどん俺の立場が悪くなるんだが!?
「そうと決まれば、明朝から鍛えてやる!! 今晩はちょっと、用事があるからな……」
リーセアさんはユイ先輩を見ながら頬を赤らめている。この態度に寒気を感じたのか、ユイ先輩は真っ青な顔をしている。
そして──、ユイ先輩は俺に耳打ちした。
「──ア、アイル君。今夜、お願いだから私の部屋に来てくれない? 何もしないから……多分……」
最後の言葉は気になるが、頷いた。
リーセアさんは目をキラキラさせている。
これは何か起こりそうな気がする……。
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