番外編 《お姉様大好きリーセア来る!?》③
白い湯気のなか、楕円形の広い湯船が広がる。
貴族階級の浴場では、ライオンの口からお湯が出るなどという物を目にする事がある。
しかし、地球と違うのだろう、このライテルーザの皇族専用の浴場には、ライオンではなく、なぜが牛の口からお湯が出ている。
──何か嫌だな。なんか牛頭を思い出す。
確かに、エミラが従えていた牛頭は牛とは言えなかったが、やはり牛の頭ということから思い浮かべてしまう。
だが、そんな事はどうでもいい……。
「──リーセア絶対狙って来ますよね……? ミヤお姉様……」
「まぁそれは間違い無いと思うよ……。あの子のあの目を見ただろ? アレは明らかに獲物を狙う目をしていたよ」
「私守れるかなぁ〜……」
その会話は──、絶賛、俺の隣から聞こえてきていている。
そうなのである。
今俺は、ユイ先輩とミヤさんと一緒にお風呂に入っている。
それはなぜか……? 少し時間を遡る。
──
────
※ ※ ※
会議室に戻ると、顔合わせという感じで話が終わった。
ユイ先輩から『今夜、私の部屋に来てくれない?』と言われた俺は、先輩のことは当然気になり、一緒に部屋まで行くことに決めた。
「お母様。アイルさん達を部屋に案内してきます」
「ああ、そうだな。任せるよ。──と、その前にメシアちょっとこっちに来い」
そう言われミリーザさんに近づくと、何かを耳打ちされている。メシアは少し驚きを見せるが、すぐにこちらに向かってきた。
「何かあったのか?」
「いえ、お気になさらず。ことのついでに騎士団長と大臣を呼んでくる様に言われただけです」
俺の問いにそう笑顔で返してくる。
なのでこれ以上はあまり深く聞かないことにした。
部屋の中にはリーセアさんとミリーザさんが残されている。その会議室から離れ、剣崎先輩は一人部屋。
で、俺とユイ先輩、ミヤさんはメシアに別部屋を案内された。
目の前には、豪華な装飾がされた白い扉がある。
客室にしては豪華すぎる様な気がする。
「メシア、ここは客室か? なんか貴賓室の様な感じなのだが……?」
「そうですよ。ここは重要なお客さんが来た時に案内する部屋です。なので、扉には二重ロックの魔法がかけられています。それに──」
そういうと部屋の扉を開けて続ける。
「奥の見える窓にも同じ様に施しています」
メシアの言葉に部屋の中を見回す。
室内はかなり広く、一面に赤い絨毯が敷かれ、右の壁側には天幕の付いた大きなベッドが二つ。ベッドの向かいには、大きなソファーと、白を基調とした装飾されたテーブルが確認できる。
また、奥の窓の横には、白い二台の机。
窓は一つだけで、最低限の光を取り込める様にしてある。
この大きな部屋に窓が一つだけな理由は、防衛の観点からだという。ここは貴賓室であるため、警備は厳重にしなければいけないらしい。
なので、一番侵入されやすいであろう窓をあえて一つにし、護衛し易くしているという。
これを補う様に、壁には魔力により反応するランプが設えてえあるみたいであった。
ただ一つ気になるのは、豪華に装飾された白テーブルに不釣り合いな、ただの白いティーカップとポットが用意されていた。だが、リーセアさんが来たことで、急遽、会食をする事になったため、急いで準備された物だろうと勝手に思った。
メシアの一通りの説明が終わったのを見計らい、ユイ先輩が口を開いた。
「アイル君? お願いがあるんだけど、リーセアがまだ会議室にいるか確認してもらえないかな? 私が近づいたら気づかれそうで……」
ユイ先輩はそう言うと、申し訳なさそうに手を合わせている。俺は頷き早速向かおうとした──。
「ああ、アイルさん。いいですよぉ。私、騎士団長ディグさんと、大臣ドルテオさんを呼んで一旦戻らないといけないので、その時に確認してお知らせに来ます」
そう言葉を残し、早速、部屋を出ていった。
──
────
──そして数分が経ち戻って来たメシアが、まだ終わる気配がない事を伝えてくれた。
「まだ終わりそうにないので、今の内にお風呂に入って来たらどうですか? 念の為に、皇族専用の浴場の場所を教えますので」
皇族専用の浴場には、強力な結界を施しているとメシアが教えてくれた。
裸という無防備な状態になる為になおさら強固にしてあると言っていた。
その上、入り口には騎士が立ち警備もしているという。なので、この帝城の中でも安全度は抜群らしい。
「それじゃあメシアちゃんも一緒に入らない?」
「ああ、ごめんなさい。私、これからやらないといけないことがありますので遠慮しときます」
申し訳なさそうに謝っている。
これには当然無理強いすることなく、ユイ先輩は、「──じゃあまた今度入ろーね!」と返していた。
そして俺の手を引っ張り──。
「じゃ! 行こっか! アイル君!!」
「え!? な、なんで!?」
「それはぁ、いくら結界を張ってるとはいえあのリーセアだから、どうなるか分からないじゃない? アイル君には私の貞操を守ってもらわないといけないから!」
ウインクしながら言っている。
ミヤさんは早速何か言おうとしているが、それより先にメシアが俺の手を引っ張り、半眼になり少し怒り気味に声を出している。
「──ユイさん……。だいじょーぶですよ。あの結界は私が施した物なので、そう簡単には越えられませんから……。リーセアさんが侵入したら分かります。だから、アイルさんいりませんよね?」
「離してくれる? メシアちゃん? 私の貞操がかかってるの」
ユイ先輩とメシアは睨み合ってる。
「で、でも男女で違うだろーし……」
「一緒です。家族が入るのに分かれているわけないじゃないですか……アイルさん」
「じゃあ俺は外で見張ってるから……な?」
「ユイさんがそれで終わるわけないでしょう?」
確かにその通りだ。
一緒に行ったら確実に、引っ張り込まれる気しかしない。だが、ユイ先輩が折れるとは思えない。何かと理由をつけそうだ。
このままで話が進まない、と思ったのか、ミヤさんが口を開く。
「メシア皇女。アタシがちゃんと見張ってるから大丈夫だよ。アイルはどうにかなるけど、リーセアはとてもじゃないがアタシ一人では手に負えないからね。こっちとしても、アイルがいてくれた方が何かと助かるんだよ」
少し不服そうにしているが、メシアは渋々承知したようだった。
「分かりました。今回は私が折れましょう。やることもありますし……。ですが! くれぐれも暴走しないように! ミヤさんもお願いしますね!」
※ ※ ※
──
───
と言う形で今に至っている。
「アイル君、悪いけど、ここから出たら会議室に行ってリーセアの状況を教えてもらえないかしら?」
「ええ、構いませんよ。上がったら早速確認に行きますよ」
「ありがとねぇ〜アイル君……」
「すまないねぇ……。アイル」
ユイ先輩もミヤさんもしみじみ言っている。
……そして。──バシャンッ。と音が聞こえると、ユイ先輩があろうことか伸ばした俺の足の上に対面に座っていた。
「ちょちょちょっ!!? ユイ先輩!?」
急いでどうにかしようとするが、身動きが取れない。これはまずいと思いミヤさんに助けを求めようと視線を向ける。
──が、目を瞑りお湯の気持ちよさに浸っている。
ユイ先輩は段々と近づいてくる。
まずい。これ以上は本当にまずい……!
ユイ先輩の柔らかさが伝わってくる。
「ま、待ってください! ユイ先輩!」
そう叫びながら手を伸ばす。
ユイ先輩の両胸に当たった。
──やばいぞ! これ以上近づかれたら!?
腰を浮かしつつ、もうすぐそこに迫っていることが分かる。
──これはもうダメだ……。
と諦めかけた時────。
「!? あんたいつの間にそこに移動したんだい!」
ミヤさんが引き離してくれた。
(危なかった……寸前だった……)
ユイ先輩は頬を膨らませミヤさんに「──ん〜」と言っている。ユイ先輩の貞操を守るどころか奪うところだった。
もしこれをリーセアさんに知られたら……。
「──100パーセント殺される……」
「ん? どうしたのアイルく〜ん??」
「なんでもないです……」
「──ほら、上がるよ」
ミヤさんの言葉にユイ先輩達は湯船から出た。
「アイル君は上がらないの?」
「す、すぐあがりますから! それで会議室に確認しに行きますから、先に待ってて下さい!」
「は〜い」
「……すまなかったね気づくのが遅れて」
ミヤさんは察したようだ。今は上がれないと。
落ち着かせる為、天井を見ながらぼやく。
「お風呂では襲ってこなかったけど、部屋では確実に狙ってくるよな……リーセアさん……なんとかなるのかよ……ほんと」
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