番外編 《お姉様大好きリーセア来る!?》④
ようやく、浴場から上がることができた。
脱衣所で素早く着替えると、廊下の椅子に腰掛け待っていたユイ先輩とミヤさんと合流した。
ユイ先輩は薄ピンクのワンピース型ナイトウエアを着用し、ミヤさんは黒いスウェットを着ている。
俺はというと、動きやすさを重視して、地球で言う黒のジャージの様な物を準備してもらった。
「すみません。待たせてしまって……」
「アイル君、あんまり長く入るとのぼせるよぉ〜」
「アイルにも事情があるんだよ! まぁほぼ100パーセントあんたのせいだけどね……」
ミヤさんは、半眼でユイ先輩を見ながら言っている。これにユイ先輩は、イタズラっぽく俺に言う。
「アイルく〜ん。ふふふっ」
お風呂上がりのせいもあるのだろうが、ユイ先輩の頬は微かに紅潮して見える。
『ふふふっ』に引っ張られる様に、こちらも恥ずかしくなる。
さらに言えば上目遣いで言っている。
──周囲を漂う果物系の甘い石鹸の香り……。
これらはユイ先輩の魅力を倍増させるには十分であった。後方では金属が擦れる音が聞こえる。
ユイ先輩のこの姿は、騎士達の目を奪い見張りを放棄させてしまっている様であった。
俺はなんか、──モヤモヤする……。
そう思った時にはユイ先輩の手を引き歩き出していた。これを見たミヤさんが、どんな表情をしていたかは分からないが、優しく笑う声が耳に届く。
当然、ユイ先輩の顔は見られていないが、握った手から微かに体温が上がったことが伝わってきた。
(……とっさに手を握ったけど、ユイ先輩に目を向けられね〜……)
普段から接触は多いと思う。だけど、今のこのモヤモヤが、普段とは違う緊張を生み出している。
ユイ先輩も気付いたのか、手を握ったまま腕を絡ませてきた。
「ねぇ〜アイルくん。何かあるのかなぁ〜……? 顔が赤いよぉー……」
「──い、いや……そ、その……」
「ん〜〜ん? 何かなぁ〜?」
ユイ先輩は顔を近づけてくる。
そして、耳元で────、
「今夜、どうしよっかぁ?」
「──ど、どうしよぅ……」
「……もしないの?」
ユイ先輩の顔はすぐ近く。
いつ、唇が触れるか分からない距離──。
「──え〜っとぉ〜……」
俺の煮え切らない返事に頬を膨らませるユイ先輩。
絡ませた腕を離したユイ先輩は、俺の首にその腕を絡ませ、頬を擦り付ける。
そして──、口ではなく頬に唇を寄せた。
伝わってくる柔らかさ、温かさ。
この至近距離では、胸元から漂ってくる香りを強く感じる。
──理性が壊れそうだ……。
「──ねぇ? どうする?」
ユイ先輩の声。
──けど……。
「──はぁ〜……。あのさぁ、アンタら……。イチャつくのはぁ……あぁもういいけど、ワタシもいるんだから控えようとか思わないのかい……?」
ミヤさんの言葉に俺は理性を保つことができた。
「──お姉様……」
ユイ先輩はそう言うと、恨めしそうにミヤさんを見ている。だけど、その顔も可愛く見えてしまう。
「──ん〜〜ん……」
「はいはい……。悪かった悪かった。でも、二人だけの時にしておくれ!」
そう言いながらミヤさんは俺の首に絡ませ続けるユイ先輩の頭を撫でている。
こうしている内に、先ほど準備されていた部屋の前まで着いていた。
俺はユイ先輩との事で、ついさっきまで忘れてしまっていた、リーセアさんの様子を見に行くということを思い出した。
これを伝えると、「ミヤさんは頼むよ」と言い、ユイ先輩も「──お願いね」と返してきた。だけど、ユイ先輩の表情はなんだか残念そう。
これは俺の感情も反映しているのか、余計にそう見えてしまう。
「じゃあちょっと確認してきますね。すぐに戻ってきます」
二人に告げると早速会議室へと足を進めた。
数分歩くと、会議室の扉が見えてきた。
段々と近づくと、中からは声が聞こえてきた。
俺達がお風呂に入っている間もずっと話していたのだろうと思う。
だが、気になる点がある。
声には抑揚がなく、淡々と聞こえた。
疑問に思いつつも、開けて確認をする訳にもいかず、話しは続いていることは分かったので、部屋に戻ることにした。
──そして廊下を戻り数分、部屋に着くと、中に足を踏み入れた。
室内には紅茶の匂いが漂い、左を向くと、大きなソファーに、ユイ先輩とミヤさんが腰を掛けながらカップを口に運んでいた。
ユイ先輩は手招きをし俺を呼んだ。
これに応えようと向かおうとしたのだが、窓から何か気配を感じる。
その窓に目をやると、何か黒い影が横切った様な気がする……。
(──何ださっきの……影。リーセアさん……!? いやでも、会議室では話をしていたし……。いくらなんでも違うよな……?)
不安を覚えながらも、そう結論づけた。
ひとまずカーテンを閉めると、二人が待っているソファーへと向かった。
多々気になる点はあるが、現状──、何も起こっていない。ひとまずは大丈夫だろうということにした。
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