第37話 漆黒のライテルーザ

 ベルファは首を垂れたまま口を開いた。

 

 昔姉に話したことを最初から……。

 

 ──ミリーザには本当は娘がいたこと。

 さらに、その娘の命が狙われていると、当時側近をしていた〈アエラル・アミフヴ〉と言うと者から聞いたこと。


 姉にバレない様に、産まれたての娘を当時のメイド長をしていた〈ユユリ・イリラーン〉に託したこと。


 また、逃げた先の森で魔物のスタンピードが起こり2人が死亡したと報告が来たこと。


 そして、その報告をして来たのもアエラル・アミフヴであり、その後、行方がわからなくなったことを……。

 

 ベルファはさらに口を開き続けた。

 

「──エミラは姉君の本当の娘だと言う子を連れてきました……。その子供は姉君と同じ髪色で魔力の感覚が似ていました。私はで、本物の娘だと思っていました」


 その奇妙な言い方にミリーザはベルファに疑問を呈した。

 

「ベルファよ、お前ともあろう者が、少しの疑いを持たなかったのか?」

 

 その答えに頭振りながら項垂れている。


「──……。私はその娘と言われる子を守ろうとしか思えなかったんだ……。そこにエミラは言ったのだ、『このままでは、誰とも分からない冒険者の娘が帝位を継承してしまいます。そうなってしまえば、ここに居る本当の娘の存在が危うくなります。──ですので、殺して帝位を返して頂きましょう』とな……」 

  

 またしてもおかしい──

 

 本来、ベルファとは頭の回転も速く、公爵という立場からそうそう人を信じる者ではない。


 それは姉であるミリーザはよく分かっていた。

 たったそれだけの進言で、仮にも女帝である自分が定めた正式な継承者となったメシアを狙うのは──

 

 明らかに……

 

 

 そのことはベルファ本人も分かっていたらしく、頭を抱えながら続けていた。

 

「──今考えれば、何故その他の考えにいきつかなかったのか──解らない……」


 その姿を見たユイは確信と言える言葉を言った。

 

 

「それは、エミラが奪った〈符魔法ふまほう〉に手を加えたのだと思います」

 

 

 ユイの、エミラが奪ったという言葉に、ミリーザはもちろん、対面に座る者達も驚いていた。


 何者かが盗んだとは聞いていたが、ここにきてまたしてもエミラが関わっていたからだ。

 そしてミリーザが聞いた。

 

「ユイ、それでは聖教会リサルより禁忌の符魔法を奪ったのはエミラなのだな……?」

 

 ユイが頷くと大臣のドルテオが腕組みをしながら言った。

 

「──そうなるとやはり、エミラの目的は陛下が仰っていたとおりこのライテルーザにもある禁忌魔法なのだろうな……」


 メシアは声が収まるのを待ち、「それももちろん重要ですが、今は話を先に進めましょう」と言った。

 そしてユイの言葉──『符魔法に手を加えた』という言葉に反応して続けた。

 

「──さっきユイさんが言ったのは魔法の上書きですね……。魔法をある程度極めれば自分が望む結果を得られます。ただこれは、上書きする魔法と関係がある能力となりますね……」


「メシアちゃんの言う通り、上書きです。基本的に符魔法は死者を操ったり、傀儡を造ることが出来ます。ですが今回は、馬頭めずというバケモノを出現させることができる様に書き換えられていました。その上、本人以外が使っても発動できる様に……。基本的に操ることが可能な符魔法で、思考が限定されていたのだろうと思います。ただ、生きた人間が相手でその全てを操ることは出来なかったのでしょうが……」

 

 このユイの説明にミリーザは、「──準魔王の配下であるエミラは、ベルファの思考を制御していたという事なのだな?」と問いかけていた。

 ユイは頷いた。

 

 この様子を見ていたベルファは自分自身に疑問をぶつける様に呟いていた。

 

「──準、魔王の配下……だったのか……。では……エミラが連れてきた、私が保護しているあの娘は…本物ではないのか……?」


 その呟きに即座に反応したのはやはり女帝ミリーザだった。

 

「本物な訳は絶対に有り得ない。我が娘は──」


 そう言うと、メシアに視線を向けていた。

 この光景は、ライテルーザ側の人間は何度と見ている。

 

 しかし、アイルとユイ、ミヤと剣崎スタルは、初めて見る視線であった。

 その視線は紛れもなく母親の目線であった。

 

 この中でアイルはある事に気付いた。

 

 ベルファの言ったメイド長の名はイリラーン……。

 そして、メシアの以前の名もメシア・イリラーン。

 

 当時メシアに聞いたことがあった。

 イリラーンは孤児院の院長の名だと……。

 

 ただこれだけでは同じ名前はある──

 だが、重なり過ぎている。

 

 自分がメシアと出会ったのは、海を挟んだ隣の〈緑大都グリック〉

 そして、メイド長が向かったのも同じ場所の付近……。

 やはり偶然にしては重なり過ぎている、と……。

 

 

 そして、ベルファに進言した側近の名前……引っ掛かる。

 アイルはもう一度思い浮かべた──アエラル・アミフヴ……。


 ────ァ エ ラ ル ァ ミ フ ヴ

 

「──!? ベルファ公爵……そのアエラル・アミフヴ、並べ替えたらエミラ・ヴァルファになります……」


 このアイルの言葉にベルファも周囲も驚愕していた。

 しかし、すぐにそれを否定するように、容姿が違うことを挙げた。

 だがそれを否定したのはユイだった。

 

「──外見なんてどうにでもなります……」


 これにベルファも言った。

 

「だが! それなら何故あえて自分の名前を変えただけの名を名乗ったのだ! 全く違うものにすれば勘付かれる恐れなどないのに!」

 

「ベルファ公爵……エミラは自分の仕える準魔王を崇拝し、敬愛していたと記憶しています。恐らく彼女の名前はその準魔王から授かったのでしょう……。だから変えなかったのだと思います」

 

 この事にベルファはさらに項垂れていた。そしてもう一度呟いていた──



「──エミラが連れて……来たの……は本当に何者なのだ……」



 これにミリーザは騎士団長ティグ・レイバーンに言った。

 

「レイバーンよ、連れて来ているな?」

 

 団長は直ぐに立ち上がると、「──ハッ! ご命令通りベルファ公爵邸よりその娘を連れて参りました!! ──ここへ!」


 そう言うと、2人の騎士団員がベルファの近くまで少女を連れ入った。


 確かにその少女はミリーザと同じく銀髪だった。

 その場にいた者達もミリーザと比べて、同じ様な魔力の感覚だと感じていた。

 

 ただ1人を除いて……


 ──その1人は声を上げた!

 

「──あなたから符魔法の魔力を感じる! あなたは何者!?」


 その声を発したのは、〈光極感知〉を持っているメシアだった。

 すると少女は奇妙に口を吊り上げ言葉を発した。

 

「──クフフフッ! ヒィヒィヒィヒッ! やっぱり皇女にはバレてしまいましたよォ! エミラさまぁぁぁ! キッハッハッハッア!!」


 その声と、不気味な魔力を放つ少女に、その場にいた者達は背筋を凍らせていた。

 

「──じゃあ自己紹介するネェェェエエエ! ウチはエミラ様に目覚めさせてもらったであるドーラと言うよォォォォオオ!」


 そう声を上げると、静かに言った。

 

「──さぁ始めようか、お前達の絶望を……」



 そして──


 ──ライテルーザは漆黒に覆われた──

 

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