第66話 魔法譲渡

「おい貴様ー! いい加減リルアの胸から手を離さぬかーー!!」


 

 エンツィオに殴り飛ばされていた。

 

「やっぱり最低さいっていですね……」

 最後にシャールの言葉が響いた。    



──── ◇ ─── 🔹 ─── ◇ ────



 少しの間を置き、漸く落ち着きを取り戻したリルアとエンツィオ、そしてミリーザ達が加わり話が進んでいた。


 メシアは口を開くと、【符魔法ふまほう】と【死魂魔法しこんまほう】について聞いていた。

 

「ユイさん? エミラが自分の物にした【符魔法】と【死魂魔法】はどうなりましたか?」

 

 この問に疑問を浮かべながら言った。

 

「──私の【神々の黄昏ラグナレク】で全て消し去ったはずだけど……どうして?」


 これに右手を顎に当てて考え込むと驚く事を口にした。

 


「──おかしいんですよ……。いくらエミラが所有者で、エミラごと消えたとしてもあれだけの魔法です……消えた痕跡すら残っていないのは……」


「それは完全に消えたから残っていないとかじゃないの?」

 

 これにかぶりを振ると続ける。

 

「──普通の魔力感知ならともかく、私の【光極感知こうきょくかんち】に全く引っかからないというのはおかしいんです……。何かが消滅すれば、微かでも残滓は残るんです。現に、エミラを倒した部屋の周辺には残ってるんですよそこに膨大な何かがあったって言う感覚が……」


 娘の言葉にミリーザが口を開く。

 

「──メシア。それならそれが符魔法と死魂魔法の残滓ではないのか?」

 このミリーザの返しに隣に座るエンツィオは目を閉じるとその部屋の周辺の魔力を探した。

 

「──いや……違うだろ。これは明らかに禁忌魔法の感覚とは違う。これはエミラ自身の魔力の残滓に間違いないだろうな……」


 エンツィオの言葉に頷くメシアは続ける。

 

「そうなんです。これはエミラの残滓です……。部屋の周辺にはもうこれ以上の残滓が残ってないのです。当然、アイルさんとユイさんが戦った残滓も残っていますが、死者と生者の残滓は違います。そして魔法が消滅した時の残滓とも……。これではまるで魔法がという感じです……」


 メシアの言葉に気づくようにユイが口元を覆った。

 そして、エミラの言った言葉を思い出す。

 

 『私が敬愛する準魔王であるフィアーラ様に私の全てを渡すの!』

 そしてユイは目を見開きながら言った。 

 

「まさか!? エミラは自身の消滅とともに準魔王フィアーラ譲渡したの!?」

 

 メシアはその可能性が高いと首肯した。

 アイルも驚きを隠せないでいるが、「──そんなことが可能なのか?」と声を出す。

 すると、エンツィオが言う。

 

「魔法の譲渡は可能だ……。それが元々準魔王を敬愛している者だとしたら……。自分の魂に魔法を刻み込んで、消滅とともに主人あるじの場所へと還る。魂の繋がりは人であれ魔族であれ、その重要性は同じだ。アイル、お前も空間魔法を使うものなら分かるだろ? 魂をも代償とする魔法があるのだからな……」 

 

 確かにそうなのだ。

 強い空間魔法は魂を代償にする。

 ならば、その魂に魔法を刻み、主人の元へと転送することくらいは出来るはずなのである。

 こうなると可能性の高い事態を考えてしまう。

 

「──ということは、今度はフィアーラが相手になるのかよ……。ゼディーと同じく準魔王の……。これは放っておくと大変なことになっちまう……。さっさと探し出さなきゃな……」


 これに水を刺すようにエンツィオが言う。

 

「たとえ居場所が分かったところで、エミラに苦戦を強いた今のお前達には、到底倒せるとは思えない。準魔王とはそれほどなのだぞ?」

 

 エンツィオの言う通りである。 

 現状、居場所が分かり、戦ったとして勝ちの目はないのだ。


 せめて、アイル自身が、このリスティラードに居た時ほどに魔力を取り戻さなければ、ただ死ぬだけとなってしまう。

 分かっていながらもアイルは口を開く。

 

「確かにそうだけど、居場所くらいは分かっておかねーと……。強くなったのはいいが場所が分からないじゃ話にならない……だからせめて場所くらいは……」

 

 このアイルの言葉を聞き、メシアはもう一つ疑問を呈した。

 

「──その居場所のことなんですが……。もっとおかしいことがありまして……」


「おかしいこと?」

 アイルが尋ねる。

「──そうです……。あれだけの力を持っている魔法を取り入れたにも関わらず、微塵も世界の魔力に影響を与えていないんです。譲渡にしろ何にしろ、取り入れた者の周囲には魔力の変化がみられるんです……」


「でも魔力制御をしていたら漏れ出さないんじゃねーのかよ……」

 

「確かに受け取った時点では魂に刻まれているので分からないと思いますが、それが融合を始めるとその力は膨大になります。一部を制御出来ますが、準魔王といえそれなりの力が必要なんです」

 

「──じゃあフィアーラはどこに……」


「だから全く検討がつかないのです」

 

「ひとまずフィアーラがどこにいるのかを知る必要があるわね……」

 

 

 そう話しをまとめている時、医療室の扉が開いた。


 そこには細長い男と、その男とは対象的な筋肉がよくついている事が分かる女性が入ってきた。


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