第31話 アイルとメシア再会

 アイルと剣崎スタル、ユイとミヤ。

 それぞれ厳しい状況に追いやられていた。


 結界と馬頭の大地魔法によりその魔力を吸収され続け、魔法の効果の激減に反撃の機を得られないでいた。

 それを嘲笑う様に馬頭は言った。

 

「お前達にはもはや勝ちの目はなイ。さて、我もあの女どもをいたぶるか……」


 そう言うと、恐怖を煽る様にユイとミヤに向けてゆっくりと、一歩──また一歩──と歩き始めた。

 だが、誰もが予想もしていなかったことが起こった。

 

 エミラの魔符で構築された〈黒煙の結界〉に大きな衝撃と罅が加わった。

 

 これに一番驚いているのは馬頭であった。


 自分を創り出し、自分に力を授けてくれたエミラの創った結界に対して、大きな衝撃を、ましてや罅など与えられるなど思ってもいなかったからだ。


 馬頭はエミラから聞かされた言葉を思い出していた。

 自分が創られ、それと同時に自分が有利になる様に、自分の戦うフィールドを用意してくれた事を。


 エミラは言っていた、『──結界の中は相手の魔力を常に吸収しオマエの大地魔法も相手の魔力を奪う。そして吸収し、奪った魔力は結界をより強固にするからね……』と──。

 だからこそ、今のこの衝撃による罅は信じ難いものであった。

 

 だが、──馬頭の目の前で、たった今────結界が破砕音と共に砕け散っていた。


「何だこれは! 何だこれはァ!! エミラ様の! エミラ様のォ!!」

 

 この馬頭の動揺により、アイル達を拘束していた大地魔法が弱り、これを逃さず2人は即座に場を離れ、距離を取った。


 2人が離れたにも関わらず、馬頭の視線は城壁の上に佇む、これをしでかした思われる少女に向けられていた。

 

 アイルとスタルはユイとミヤに視線を向けるが、結界から解放された2人の聖女は余裕の反撃をしていた。

 その光景に安堵すると、馬頭と同じく、城壁の上に視線を向けた。

 そこには、長く綺麗な銀髪を靡かせ、ピンクとホワイトで彩られたドレスに身を包んだ少女がいた。


 その少女の姿にアイルは見覚えがあった。


 魔災大戦の時、一緒に戦い、自分が死んだ時、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた少女──メシア・イリラーン。

 現在では、このライテルーザの第一皇女メシア・ライテルーザその少女であった。

 そして、アイルはメシアに届かないほどの声で、名前を口にしていた。

 

「──メシア……」



 ※ ※ ※

 

 

 メシアは城壁の上から状況を把握しようとしていた──。


 その中で、ある少年に視線を奪われていた。

 

 外見は違っていながらも、どことなく面影を残す──……。


 メシアは少年の魔力気配を覚えていた。外見に変化があったとしても、内在する魔力の気配は変わらない……。普通の魔法士ではまず気付く事はない。

 

 だが、──メシアは〈光極感知〉によってその気配を感じ取れていた。


 そして、目に涙を溜めながら口から名前が漏れた。

 

「──アイル……さん……」


 その後方でメシアと一緒に状況を把握しようとしていた騎士は、城壁の下に、こちらを見上げ、明らかに怒りの表情が確認できる、頭が馬の化け物が見えた。その化け物の前には城壁に背中を預け、頭を垂れているベルファが確認できた。


 これを見た騎士は皇女に攻撃の許可を取ろうとした、が──……

 なぜか涙を流している皇女の表情を見た。

 

「──!? メシア様! どうなされたのですか!? 何か──」

 

 そう続けようとした時、メシアは騎士を静止した。

 

「──大丈夫です。それよりも、あの馬の化け物をどうにかしましょう……。ベルファ様は一旦保護し、その後、陛下に謁見していただきましょう。見た所、あまり状況は良くない様です。まぁ結界を壊した今、状況が好転するかも知れないですが……下の方達は明らかに魔力が激減していますから……」


「はッ! 承知いたしました! 直ちにあの化け物の対処を致します!!」


 騎士は言うが、メシアはベルファと4人の保護を伝えた。

 その指示に、「──あの化け物はどうなされるのですか?」そう問うと────。


「──あれはどうやらこの結界を破った私に殺意を向けている様なので、私が相手します。なので、あなた達は急ぎ保護をお願いします」


 メシアの言葉に従い騎士達は城壁外へと急ぎ向かった。それを見送ったメシアは、自らに夢中にさせる為、馬頭を挑発する様に言った。

 

「──あのはあなたが構築したの?」


 メシアは違うことを分かっていながら言った。


 案の定、馬頭は激怒し、瞬時に跳躍すると、メシアの目の前まで移動をし、再び創り出した大斧を叩きつけていた!


 だが──! 


 それは届く事はなかった。

 

 メシアの目の前には光で構築されたカーテンが馬頭の全力を完全に防いでいたのだ。


 馬頭自身は当然驚いたのだが、それを目にしていたアイル、スタルも言葉を失っていた。

 自分達は防ごうと防御したが、その衝撃は防御を超え、壁際へと吹っ飛ばされていた。


 だが、メシアは吹っ飛ばされるどころか一歩も動かず、寧ろ馬頭の方が防がれた反動で斧を飛ばしていたからである。

 

「──小娘!! 貴様何をしたァァァ!!」


「何もしていないわ。ただあなたが弱いだけ……」

 

 さらに激怒した馬頭は、壁をつたい拘束しようとしたが一切通用しない。続けて複数の大斧を出現させると連続で攻撃を加えたいた──。 


 だが──、ダメージは与えられず、メシアの防御に対して全くの無意味と化していた。


「──本当に強くないのですね……。この程度ならいくら攻撃されても何ともないですね……」


 さすがの馬頭も、この圧倒的不利に気付き、殺すことが可能であるアイルとスタルに標的を変更し反転すると──、一瞬で2人の前に移動した!

 この急激な変更を予測していなかったアイルとスタルは魔力強化を解いてしまっていた。

 

「──!? 先輩!」

「──くッ! 間に合わない!!」 


 この時点で、2人の殺害を確信していた馬頭は、最低限の仕事ができたと考えようとした──だが……。

 殺す為に確実に狙った斬撃は、光のカーテンによって防がれていた。

 

「ダメですよ……お馬さん。達には当てさせませんよ」

 

 アイルはメシアのその言葉に、自分のことをすでに分かっていると気付いた。

 だがなぜメシアが自分に気付いたのか、メシアの光極感知を知らないアイルは驚きを隠せていなかった。

 

「おい……小鳥遊よ……。あの皇女はお前の事を分かっているみたいだが……」

「──俺も分からないです……。こっちに来て、今初めてメシアに会ったばかりで、面影はあるにせよ、外見は変わっているので……なぜ分かった──……」


 と、続けようとした時、ドレスを脱ぎ捨て、黒のレギンスに白いブラウス姿と身軽になったメシアは、2人の前に降り立っていた。


 馬頭はそれごと崩そうとこれまでにない攻撃を繰り出していた。


 そんな事はお構いなく、メシアはアイルに向けて口を開いていた。

 

「──アイルさん……。あなたが今何でその姿で、ここにいるのが分かりませんが……私怒ってますからね……。あの時、自分を犠牲にした事……何も相談してくれなかった事とか……」


 咄嗟の言いに驚きはしたが、その言葉が何を意味するのか分かり、なんとか言葉を出していた。


「──だけど、あの時は、そうするしか……」


「なら! せめて戦う前にでもその可能性を教えておいて……下さい……。仲間じゃないですか……」


「──そう、だったよな……ごめん……悪かった……」


「でも、今度は話してもらいますよ。何でその姿でここにいるのか……? いいですね?」


「──ああ、分かっ────」


 返事を返そうとしだが、馬頭の激しい攻撃と叫び声により聞こえにくくなっていた。


 これにキレたメシアは──


「──お馬さん……うるさいですよ。今、アイルさんとお話ししてるんですけど……!」

「くそ餓鬼がァァァァアアアア!!」


「──アイルさん、お話は後で聞きますから……」 


 アイルは思い出していた──。

 メシアを怒らせたら怖い事を──。

 そして怒ったメシアは馬頭を始末するべく魔法を口にした。

 

「──来なさい……【白き騎士ホワイトナイト】」


 そのひと言に、全身純白の鎧を纏っている光の騎士が現れた。そして、メシアにかしずくと命を待っていた。

 

「あのお馬さんうるさいから静かにさせて……」

 

「仰せのままに」

 

 そう返事を返した白き騎士ホワイトナイトは、未だ攻撃を続けている馬頭に向け、一歩足を踏み出し、腰に下げた剣に手を掛けていた──。


 そして──


 次の瞬間には馬頭を通り越し、振り抜いたであろう剣を鞘に収めている姿があった。

 

「貴様な──に……」


 と、馬頭は発しようとしたが、視界が段々と離れ、意識はそのまま闇へと落ちていった。

 

 アイルとスタルはその光景に驚愕していた。

 自分達があれだけ苦労させられていた馬頭を、一瞬で真っ二つにし消し去っていたからである。

 

「小鳥遊……。メシア皇女は以前からあそこまで強かったのか……?」

「──いいえ。確かに強かったのは覚えています……だけどここまででは……」

 この会話に入り込む様にメシアは言った。

 

「──今ならアイルさんもぶっ倒せますよ」

 笑顔で言ってきた。


「あの、メシアさん?」

「はい、なんでしょう?」

 また笑顔で返してきた。

 

「──その……さっき謝ったよね……?」 


「これからゆっくりとお話ししましょうね」

 

「──はい……」


 メシアの笑顔の裏に秘められている怒りに気圧され、大人しく返事をしたのだった。

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