第56話 メシア──《命の灯火》
「メ、メシアちゃん!? どうして……って、なんで全裸なの!?」
最初に声を出したのはユイだった。
メシアは体を抱きつつそれを全否定する。
「違います! 布ありますよ! 少しだけど!」
そう声を上げている間もメシアの体には着実に布面積が増え、漸く元の純白のドレス姿に戻っていた。
そして、「──よしっ!」と小さく言うと、両手を腰に当て続ける。
「──あなたがエミラですね? もう壁は無くなりましたし、ドーラが出した〈
メシアの言葉にエミラは一切の動揺は見せていない。
ただ、三人と距離を取るように後方へと下がっていた。
あのメシアの力に、アイルの空間魔法。警戒せざるを得ないのだ。
「まったく……。せっかくユイで遊ぼうと思ったのに。余計なものが来たわねェ。不愉快だワ……」
エミラはそう言い放ち右手を掲げ──
「出番ヨ……。来なサい……」
これに反応し翼の様に形成されていた魔符は渦を巻くように収束し、漆黒の一つの
「
漆黒の球はみるみる人の形を形成し、小柄な女の姿に変わっていた。
全身黒のタイトなドレスで左側に大きなスリットが入っている。
歯と爪は鋭く、その佇む雰囲気はどこか神秘さを秘めている。
「お呼びでしょうかエミラ様……」
メヴィウスと呼ばれた女は深々と頭を下げるとエミラの命令を待っていた。
──それに答える様に命令を下す。
「あの三人と遊んであげてくれル? ただし、ユイ……あの半裸の女と銀髪の少女は殺シてはダメよ。半裸の女は私がトドメを刺すの。銀髪の少女は封印の鍵だかラ」
「仰せのままに……」
メヴィウスは顔を上げ、エミラの命令に従い三人に標的を定めた。
「アイルさん! ユイさん! 構えてください! あのヴァンパイアとんでもないです魔力を持っています!! すぐに対応を──」
メシアがそう言いかけた時にはメヴィウスはアイルの目の前に移動していた。
そして次の瞬間にはアイルの心臓目掛けて手刀を突き立てた!
だが、ギリギリのところで体表面上に防御膜を創りそれを凌いだアイルだが、その衝撃で後方へ吹っ飛ばされ背中から壁にぶつかり、大きな罅と共にその勢いを止めていた。
体の骨のいくつかは罅が入り、折れているのも伝わってくる。
あの勢いで飛ばされ、これだけで済んでいるのはマシな方だと思わざるを得ない。
メヴィウスは少し不愉快な表情を作るが、即座に標的をユイに変えると、再び一瞬で間合いを詰める。
その右手にはいつの間にか形成された黒い剣が握られユイに振り下ろされていた。
これを両手の
メヴィウスは防がれたにも関わらず、その口元に、 ──ニヤぁっと笑みが浮かんでいたのだ。
「あなた何を笑っているの?」
ユイのこの問いかけに、答える間もなく──
────グゥゥザァァッ……
と鈍い音が聞こえた。
それはユイの右側。
つまりアイルとユイの真ん中にいるメシアの位置からであった。
ユイはメヴィウスを剣ごと後方に押し飛ばすとメシアの方に目を向けた。
すると、そこには背後から腹部を黒い影で貫かれたメシアの姿があった。
口と腹部からは大量の血を流した今にも気を失いそうな姿である。
壁に打ち付けられていたアイルは大声でメシアを呼んでいた。
ユイも呆気に取られていたが、遅れながらも叫んでいた。
「──メシアちゃん!?」
メヴィウスはユイとアイルに視線を交わしたあと自分の後ろに控えるエミラに声をかけた。
「エミラ様の後方にあるのが封印の扉ですか?」
「ええッ……そうヨ」
「フフッ……承知いたしました──」
そう答えたメヴィウスは影で突き刺したメシアを扉の封印に投げつけた。
飛ばされたメシアは大量の血と共に、扉に叩きつけられその意識はすでに失われている。
エミラはメヴィウスを褒めると扉に向かい歩き始めた。
「よ〜クやったわねェ。メヴィウス。これで皇族の生き血と、大量の魔力を得ることができタ。これで【死魂魔法】の封印が解けるわァァ」
エミラはそう言うと、アイルとユイに狂気の表情を見せたのだった。
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