第55話 黒壁の向こう側

【黒壁】が壊れる少し前──


死蛇神シダガミ〉に苦戦を強いられているアイルの姿があった。

 応酬の繰り返しで一向に決着がつかないでいた。

 だがエミラとの戦いを考えると、空間魔法を使う訳にはいかない。 

 

「──空間魔法を……たとえ使用したとして、エミラを倒せる手段が削られる……。アイツの力がどのくらいか分からない以上は温存したい……。でもこのままだとユイ先輩が気になる……。くそっ!」


 この膠着状態に気が焦るアイルは目の前の〈死蛇神〉を見据えていた。

死蛇神シダガミ〉もアイルの動きをジックリと見ている。

 アイルから先に動けば致命傷を負う可能性がある。あれだけの素早さに、尋常ではない強度の刃。

 緊張が全く解けないでいた。

 

「先に動けばアレはそれに対応する……。だからと言って動かないわけにも……」

 

 アイルのその呟きを壊す様に、緊張とは裏腹の声が響いた──



「──うっわっ!? なんですか、コレ……!? なんか気持ち悪い顔もついてるし黒いし……この壁嫌だなぁ〜……」


 アイルはこれに気付き、声のした方。

 入って来た入口へと目を向けた。

 

 そこには純白のドレスがほぼ汚れていない状態のメシアの姿があった。

 口を大きく開けて黒い壁を眺めていた。


死蛇神シダガミ〉も新たな相手の出現に警戒を強めていた。

 アイルはメシアのその姿に驚きつつ声を出した。

 

「──メシア!? あっちは終わったってことか?」 

「終わりました!」

「でも、全然汚れてねーよな……?」

 これにハッとしながらも「──まぁそう言うこともありまよぉ〜」と返している。


(……龍の姿はあまり見られたくないし。でも──)


 そう考えつつ、アイルと対峙している変な化け物と表現できる〈死蛇神〉に視線を向け、さらにもう一度黒い壁に視線を戻した。

 

(う〜ん……。この壁気持ち悪いけど、かなり丈夫そうだし……。それに……あの変な化け物にアイルさん苦戦してるし。これって龍人化しないといけない感じなの……?)

 

 メシアは目を細めながら「──う〜」と小さく声を出しながら、こめかみに人差し指を押し当て考えていた。

 そして、詳しく状況を理解しようとアイルに尋ねた。

 

「あのぉ、アイルさん? もしかしなくても今の状況はよくないですか? ユイさんの姿も見えませんし……て。あー……壁の向こうですか……」

 メシアは壁の向こう側へと感知を巡らせ言っている。


「エミラは相当ユイさんに執着してますね……。なかなかヤバめの魔力を感じますよ」

 

 そう言われ、ずっと〈死蛇神〉に取られていた意識を壁向こうに向ける。


 だが、アイルの感知にはかからなかった。これに「──俺の感知には引っ掛からねーよ……」と返している。メシアは至って冷静にアイルに答えた。


「きっとこの黒い壁は魔力を妨害する機能があります。私の〈光極感知こうきょくかんち〉なら分かります。かなり密度の高い魔法が使われていますね」

 

「──これが……。このドーラが施した符魔法の壁はそんなに強力なのかよ……? じゃあなおさら、空間魔法を使って目の前のアイツを倒して、さらにこの壁を壊さないといけないってことかよ……。それで残り2回を使っちまう……でもやらねーとユイ先輩が……」

 これにメシアが尋ねていた。

 

「今のアイルさんにはあと2回しか空間魔法を使えないってことですか?」

 アイルは首肯している。 

 メシアは少し考えると、「──やりますか……」と言っている。

 

「──一体何をするんだよ?」

「ちょっとお着替えします……」

 

 そう言い、──ふぅ〜と息を吐き再度吸い込むと────


「──神龍シェンロン衣服ヴェスティート……」


 メシアは言葉を放ち一瞬にして光を生み出し包まれた。

 アイルもそうだが、〈死蛇神〉もその光に驚いている様だった。

 そして本能的に危険を感じたのか、〈死蛇神〉はメシア目掛け一気に間合いを詰めていた!

 

 だが! それは極短時間で終わることになる。

 

「──【龍雷リュウライ】──」

 

 メシアの言葉は光の龍を生み出し無数の落光となり〈死蛇神〉もろとも黒壁を破壊し尽くしていた。

 

 アイルが目撃した姿は────


 純白長髪ロングに純白の龍のツノ──

 白い尻尾──部分を白鱗に覆われた体のメシアだった。

 

「な、なんだよ……!? その姿は?」

 

「──龍人化という神龍形態です……ただ……先程も使ったので布の面積がものすっごく小さいです……」

 

 ──う〜……。そう言いながら顔を押さえ蹲ってしまった。

 それもそのはず……アイルの目の前にいるメシアは、胸部と下半身をかろじて布が覆っている状態であるからだ……。

 

 分かり易く表現するのなら、《ほぼ全裸》である。

 

「もう〜やだぁ〜……ここまで布がないなんてぇ……うぅぅ……」

 

 アイルは目のやり場に困りつつも、その力に驚いていた。

 

「──す、すげーな……メシア……」

「──あまり見ないで下さい……。すぐに元に戻りますから!」


 メシアの言う通り、その姿は段々元の姿に戻りつつある。

 その向こう側。壁が壊されたことに驚いているエミラと、メシアの姿に呆気に取られているユイの姿が確認できていた。

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