第64話 「──襲わないからねー!!?」
──ライテルーザ帝城 医療室──
アイルはあれから散々言われてしまったが、時間をかけて
そして、双子姉妹リルとルルはライテルーザの見回りへと向かった。スタルとミヤも「一緒に」と言い出て行った。
ミリーザとエンツィオは話したいことがあるらしく、大臣達の待つ会議室へと戻って行った。
それから二人を医療室のベットへと運び、アイルとリルアはその隣の椅子に腰掛けていた。
ユイとメシアは静かな寝息をたてている。
「──大変だった……」
「ですねぇ〜……ははは……」
乾いた笑い声を上げ言っている。
これを聞いたアイルは、隣のリルアに細めた目を向けると恨み言を口にした。
「あのさぁリルア……。お前も分かってたんだからさぁ、助けてくれてもよかったんじゃね?」
「でもそれを言いましたらミリーザ様も分かってたじゃないですかぁ? 私だけに言うのは理不尽です!」
「流石の俺でも女王様に『説明してくださいよ!』なんて言える訳ないだろ?」
リルアは、「──えぇぇ……」と口にするその目を見る限り、明らかに「うっそだぁ……」と続く言葉が容易に想像できてしまう。
「──お前さぁ……俺のことなんだと思ってるわけ?」
「──う〜ん」と少し考えると、口元に人差し指を当てる。
その口からは小さい声で、──あっ! と聞こえてくる。
「ユイさんと戦いの最ちゅーにチューして、メシアお姉様を押し倒してチューをする変態さん? ……な〜んだぁ言われた通りケダモノじゃないですかぁ」
「ちょっと待ておい! 『最中』の中のちゅーは何だ? 言い方違うんだが……。それにアレは魔法の共有だぞ! しかもユイ先輩からしてきたもので──」
アイルの言葉を遮るようにリルアはジーッと目を向けながら、被せ気味に言う。
「でも『よかった』んですよね? それに! 女性からしてきた事を強調するのではなくて、ここは男らしく『魔法共有をする為に俺から頼んだんだ!』とか言ってもらいたかったですよ!」
返す言葉がない。
「それに会議室でメシアお姉様を押し倒してチューしたことに関してはどう説明をしてくれるのですか?」
「確かにあれは、俺がもう少し周りに気を配ってたらメシアを裸にせずに済んだ事だけどっ……て違う! そうじゃない! 女王様からマントをかけるきっかけを作ったのは確かに俺だがそれにつまづいて転びそうになったところを助けようとしてだな……」
アイルの言い訳の言葉にリルアの目は死んでいる。
その表情を例えるなら、──何言ってんだよこのやろー。という感じだろう。
そしてため息混じりに──
「──はぁ……。アイルさん、もっと男らしくいきましょうよ……。『メシアがあまりにも可愛くて!』とか言えないのですか?」
「いや……それはそれで問題だと思うんだが……!? それじゃあ俺が本当に見境のない男じゃねーか……」
「え? 違うのですか?」
これにアイルは、組んでいる足の上に肘を置き、手のひらで顎を支えるとリルアに聞いた。
「リルアさぁ……。なんか俺に対して酷くない?」
「──だって私のぉねぇ様を……──)
そう言いながら声がどんどん小さくなっている。
このリルアの声が聞こえなくなるくらいに、メシアの眠るベットから「──う〜……ん……」と声がする。二人がメシアの方を見ると、薄目を開けながらアイルとリルアに視線を向けた。
「──メシアお姉様!」
「メシア! 気が付いたのか!」
二人が椅子を倒しながら同時に立ち上がる音と、アイル達の声に反応したのか、その隣のベッドからも同じような声が聞こえてきた。
アイルはすぐに視線を向けるとゆっくりと瞼を開けるユイの姿があった。
そしてユイらしい言葉を言う。
「──アイル、君……。寝てる私を、起こす為に……チューしてくれたのぉ……?」
「いえ。してないですよ……」
「──えぇぇ……何でぇ……?」
「普通しないと思いますが……」
「──じゃあ……私の体であそ──」
「──んでないですよ!!」
これに続くように同じく目覚めたメシアが言う。
「──じゃあ私をチューでおこ──」
「──してないよぉ!?」
即座に否定した。
リルアは程よい胸を張り腰に手を当て言う。
「大丈夫です! 私がお二人の貞操を守りました!」
リルアの言葉を聞いたユイとメシアからは何故か恨めしそうな視線を向けられる。
ハッと気付いたリルアは──
「ほ、ほら! 戦いで体が汚れてるのですから! キ、キレキな体で襲われた方がい、いいと思いました……ので……」
苦しい言葉を続けるが、何故かこの言葉が二人に刺さる。
「確かに、そンな感じがしますね……アイルさんにはキレイな体で……」
「間違って……はいないわね……。アイル君には完璧な状態で……襲われたいわ……」
「──体を清めたらアイルさんが襲ってくれるかも……ふふふ……」
「いっそのことアイル君に体を磨いてもらうことも……んふふふ……」
リルアは額の汗を拭きながら、「──ふーっ……」と言っている。
なにが『──ふー……』なのか全くわからない。
二人に恨まれないように保身に走ったことしか理解できない。
何だかわからない状態で話が進みつつあるが──
「──襲わないからねー!!?」
アイルの声が響いた。
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