第63話 オレなにもしてないんですけどぉ!

 処置をし終えたエンツィオは口を開いた。


「──死は免れたが、失った血はなかなか戻らぬ……。生命維持に必要な血量は止めてある。ここからは十分な休養を取り、魔力の回復させることによって自己修復を待つのみだ……」


 エンツィオの言葉を聞き、アイルとリルアは張り詰めていた心の緊張が解け、互いに天井を見上げながら床に倒れ込むと安堵していた。

 

「あ〜……本当に良かったよ……。ユイ先輩とメシアが助かって……」 

「本当にぃ……そうですねぇ〜」 

 

 これに続き、母親の顔をし安堵していたミリーザは、二人を助けてくれたエンツィオに深々と頭を下げてお礼を言う。

 

「この度はありがとうございました……。あなたがいなければ我が娘とその仲間がいなくなるところだった……」

 

 エンツィオはミリーザに向き直ると続ける。


「一国の王が、皆の前でそこまで頭を下げるものではないぞミリーザ」

「一国の王というよりも母親だからこそ礼を言いたいのです。白竜王エンツィオ様」

 

 これにエンツィオはミリーザの頭の上に手を置き言った。

「なら我──、いや俺も久しぶりに会った愛弟子の頭を撫でてやろうか。フフフっ……」


 女帝ミリーザの頭を、──わしゃわしゃとすると、豪胆に笑っている。

 これにミリーザはエンツィオの手をどけようとするが、その力の強さに負ける。

 

「──エンツィーやめてくれ! 私の王としての威厳がーー……」 

「何言ってやがる! お前今さっき『母親だから』とか言ってただろうに! ハッハッハッ!」

 

 ミリーザは顔を赤くさせながら、子供のように言っている。

 そこに、完全に落ち着きを取り戻したリルアが冷たく言う。

 

「──お父様……それセクハラです……。お母様に伝えときます……」


「──ま、待ってくれリルア! これはセクハラではないのだ! 久しぶりに会った愛弟子をちょっと揶揄ったやろうと……!」


 リルアは目を細めながら、──ジーっと見ている。だが、ため息を吐くと続けた。


「……まぁ今回は、メシアお姉様とユイさんを助けてくれたので言わないでおいてあげます」

 安堵したエンツィオは「──ふ〜っ……」と落ち着いた。


 これと同じように場はようやく落ち着いたのだが賑やかな二人が飛び込んできた。

 

「「リルアお姉ちゃん! メシアおねぇちゃーーーーん!!」」

  

 エンツィオの娘であり、リルアの双子の妹リルとルルだ。

 二人は頑丈なはずの封印域の壁を破壊して入ってきたのだ。

 封印が解けたこともあり、その強度が落ちていたのだろうと予想がつく。

 

「「──お姉ちゃん達の魔力がすっごく減った感じがしたけど大丈夫なのですかぁぁ……!?」」


 その目には涙を浮かべているが、二人の無事を確認すると安堵した泣きながら声を上げていた。

 

「「……良かったよぉ〜無事でぇぇ〜……ひっくヒック……」」

 

 急に飛び込んできた双子の娘にエンツィオは「もう、終わったのだぞ。だから大丈夫だ」と声をかけるが──


「「──あ、お父様いたのですか……」」

 これを言われたエンツィオは王の威厳もあったものではなく、膝をつき落ち込んでいる。

 ミリーザはその師匠を見ながら笑っている。

 

「エンツィーも娘には弱いのだなぁ、ふふふっ……」

 

 和やかな雰囲気は続いているが、この双子が目の前の状態をあらためて口にする。


 ──主語のない言葉、接続詞を間違えた言葉を……。誤解されてしまう最悪なタイミングで……。


「やっと終わったんですね。戦いが……」

 リルが言う。

「よかったです! 決着がついて!」

 ルルが言う。


 ──そして同時に言う……。

 

「「──アイルさんメシアおねえちゃんユイさん──!!」」


 そして最悪なタイミング── 

 

 遅ればせながらこの封印域に到着したライテルーザの大臣ドルテオ・メールテルトとその部下、情報調査官のシャール・アイノルア。そして、スタルと、ミヤが到着していた。


 

 ちょうど双子が言っことを、アイルにとって最悪なタイミングで聞くことになった四人は、目の前の現状を確認する──。



 服が破れ、白肌の肢体が露わになっているユイ……。下半身は下着のみ。上半身はさっきまで裸であったであろう程に隠された胸……。

 

 服が乱れ、スカートの裾は捲れ上がっているメシア……。白いドレスが赤に染まり、その下から見える色白の肌……。

 

 そしてこの真ん中に倒れるようにアイルがいる。

 三人は全身に汗をかいたあとがある。

 これから間違った情報が、後から来た者に誤解を与える。双子の言葉を伴って……。

 

「──アイルぅ! お前はこんな時に何してるんだい!」

 ミヤが言う。そして続けてスタルも言う。

 

「──小鳥遊たかなし……いやアイルよ……。僕もミヤと同じ考えだ……」


「いくらユイが魅力的だからといって、こんなところで襲うなんて! しかもメシア皇女も手にかけるとは……! お前はケダモノかい!」

 

 明らかに誤解していることを言う二人。

 アイルは即座に否定をしようと口を開くが、図ったかのように、未だ気を失っておるであろうユイとメシアがさらにややこしくなる言葉を口にする。

 

「──アイルくん……。ダメぇぇぇ〜……もう……げんかい……」

「──アイルさ〜ん……。体が壊れちゃいますぅ……」



「え!? ユイ先輩!? メシア!? なんなの!? その言葉は!?」


 

「──ああ! だめぇぇぇぇ……」

「──アイルさ〜ん! おっきすぎますぅ〜」


 

「ちょっとまってぇ!? オレなにもしてないんですけどぉ! ──はっ!?」


 アイルは背筋に冷たい視線を感じ振り向いた。

 すると、スタルとミヤの目は死んでいる……。


 大臣の後ろに控える女性シャールは、以前も放った言葉を……ゴミを見るよような視線と氷のような言葉と共にアイルに言う。

 

「──最低さいってい……」


「違うんだよー! ちゃんと聞いてくれーーーー!!」


 こうしてこの場を誤解が支配した。



 ──── ◇ ─────🔹 ───── ◇ ────

  

 お読み頂きありがとうございます。

 下記は以前も貼らせて頂いた話しで、《白竜王エンツィオ》が出てきたので……。読んで頂いた方もいるとは思いますが再度貼らせて頂きます。



 異世界往還──《エピソード メシア》となり、ホワイトドラゴンとメシアの出会いを書いたものです。

     ↓

https://kakuyomu.jp/works/16818093079304706904/episodes/16818093079304800926


 

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