異世界往還──《エピソード メシア》 〜メシアドラゴンと出会う〜

ハクアイル

第1話 メシア──ホワイトドラゴンと出会う《前編》

 魔災大戦は1人の少年の犠牲により一時終結した。

 

 仲間を1人失い、残された私たちは、〈港街シーラ〉に戻っていた。

 

 街の皆んなは言っていた。

 

『──たったひとりの犠牲で、準魔王を1人倒せたんだ!』『──少年には悪いが一時終結して良かった!』『──少年の様なのが他に沢山いればもっと準魔王を倒せるだろうに……』


 好き勝手なことを言う。

 

 犠牲になったのは少年だけじゃない……。

 大勢の人が死んだんだ……。

 その中の1人がアイルさんだった。

 そして、──準魔王と相打って一時終結させたのもアイルさんだ──。


』何故そんなことを言えるのだろうか……?

 

 仮にそれが、大切な人であったなら、そう言えるのだろうか……。

 

 本当に好き勝手なことを言う……。


 私は嫌悪感を覚えた。


 他の仲間たちも嫌悪感があるのだろう……。

 あからさまに表情に出ていた。

 

 それから私と仲間たちは、〈光帝都ライテルーザ〉の女帝ミリーザ・ライテルーザ様に呼ばれた。

 そこで驚くべきことを言われた。

 

 仲間たちは爵位を与えられ、一生困らない程の大金を与えられていた。

 だが身寄りのない私は、褒章として女帝ミリーザ様の養子として引き取ると言われた。

 

 意味がわからない……。

 

 一介の冒険者であり、素性もしれない子供を引き取るなど、本当に意味がわからない。


 そんなこと上手くいくはずない。

 民衆からの信頼を失うかもしれない。

 貴族たちの反感をかうかも知れない。

 

 だが、ミリーザ様は私を引き取り、第一帝位継承権を与えた。

 それからは、皇族としての振る舞いや、礼儀作法、散々叩き込まれた。

 

 だけど、私の中には、大切な人を失った感情が抑えきれなかった。


 それは自らを高める材料となり、得意な光魔法を特訓し、二度と大切な人を失わない様に、死に物狂いで特訓していた──。


 私が皇女になって3ヶ月が過ぎようとしていた。

 

 私はいつもの如く、ライテルーザの北西にある巨大な湖に来ていた。


 当然、護衛の騎士さんたちが周囲を固めている。

 毎日着いてくるので、正直──面倒臭かった。

 

 ──まぁ仕方ないか……。と思いつつ、いつもの様に特訓をしていた。


「皇女様! あまり遠くへは行かれないで下さいね! 護衛の者が困ってしまいます!」

 

 騎士に声をかけられ、「──ごめんなさい。いつも通り湖の端で行いますので安心して下さい」と返して、ルーティーンの様になっている光魔法の訓練を開始する。



「──う〜ん……。魔法は得意だけど、接近戦とか、物理攻撃とかはあまり得意じゃないんだよねぇ……どうしよう……」


 そう考えていると、私を護衛してくれている騎士が目に入った。

 これにヒントを得るように思いついた。

 

「──光魔法で騎士を造って、戦ってもらえば接近戦とかどうにかなりそう!」

 

 思いつくと実行したくなるのが私である。

 

 ──騎士を目に焼き付ける──


 ──騎士に光の体を与える──


「来て! ──【白き騎士ホワイトナイト】!」

 

 すると目の前には、純白の鎧を纏う光の騎士が現れた。

 

「ほへぇ〜……うまく、いった……よね……?」

 

 その騎士は私に傅き命令を待っている様だった。

 ひとまずこの騎士がどのくらいの力を持っているか知りたかったので、目の前の湖に向けて攻撃をする様に指示することにした。

 

「──全力でなくていいので、少し多めに力を込めて、この湖に剣撃を与えてみてくれる?」


 私の指示に騎士は、「──仰せのままに」と言うと、腰の剣に手をかけた。


 そして次の一瞬──!


「──え……?」


 振り抜いた剣は轟音をたて湖を真っ二つにしていた。


 水は跳ね上がり、地面に深く刻まれた剣撃は、その跳ね上がった水を呑み込んだ。

 

 そして、さっきまで湖だったそれは、姿を失い、単なる大地へと変わり果てていた。


 

「──えぇぇぇぇぇぇぇぇ…………」



 その光景を目の当たりにした私はひとり呟いた。


 ──うん! これは制御しないといけないわ!


「──次は、そうだなぁ……。強力な防御とか結界とかを壊せて、相手にダメージを与えられる様なものがいいなぁ……」

 

 そう考えて、騎士が罪人の動きを封じる様な鎖とかいいかも、と考えて想像した。

 

 ──対象を縛り上げる鎖──


 ──光で構築された純白の鎖──


 ──罪を消し去る白き光──


「──【白い裁きホワイトジャッジメント】」


 純白の鎖が空中から出現した。

 

 対象を決めていなかったのでただ出ているだけ……。

 それならと思い、渦をイメージすると【純白の鎖】はドリルの様に勢いよく回転した。


 私はそれを地面に叩きつけてみた──


 凄まじい音を立てて直径100メートル程の穴を開けていた。

 すると、さっき呑み込まれた水が、逆流する様に戻り、再び湖に姿を戻していた。



「──────まぁ、いいかな……」

 


 現状の力がよくわかった、……様な気がする。

 騎士に目を向けると、完全に呆気に取られている……。 


 

「──制御しないといけないわ……」



 2度目のひとり呟くと、騎士たちはさらに驚愕の表情を見せていた。

 それに疑問を抱く私……。

 

 だけど、騎士たちがみているのは私ではなく、空を見上げていた。

 何をみているのだろう? と考えていると、私が立っている地面に大きな影が覆っていた。

 

 気になった私は騎士達と同じ様に空を見た。

 するとそれが話しかけて来た。

 

「──お主がこれをやったのか?」


 そう言う空飛ぶ者……。

 

「──う〜ん。確かにやりましたけど、湖は元に戻っていますよ?」


 私の言葉に、呆れたみたいな表情を見せると言った。

 

「──確かに水は戻っておるが、地形が変わっておるぞ……」


 その者に言われて再確認すると…… 

「なんか湖が大きくなっているような……気がする」

 

「『気がする』ではないわ! 変わっておるではないか! 元の倍以上の大きさになっておるわ!」

 

「……まぁ、大きくなったのだから、いいよね?」

 

「良いわけあるかー!! 生態系が変わってしまうわ!」 

 そう叫びながら目の前に降りて来た。

 降りて来たそれは、私に聞いてきた。

 

「──我が何か分かるか? まぁ、分かるだろうな……」

 

 そう聞かれたので答えてみた。

 

「──大きいトカゲ?」


 目の前のそれは顔を地面にぶつけて即座に起き上がると激しく言った。

 

「──ドラゴンだ! ド・ラ・ゴ・ン!!」


 その返しに、私は冷静に言った。

 

「──まぁそうだよね……知ってた」


 またこけた。

 

「──お主、遊んでおるのか……?」


「違うよ! だって、あなたが現れたせいで、護衛の騎士さんたちが皆んな気を失っちゃったから、少しは責任を感じてもらおうと思ったんだよ」

  

 私の言いに黙ると──


「──そ、それは悪かったな……。だが、もとはと言えばお主が──」

 

「──それは悪かったよ……。でも、あえて、突然現れなくても良かったと思うし、なんなら私がひとりの時に来てくれればこんなことにはならなかったし……」


「まぁ、そうだな……我にも非がある……」

 

「それで、なんの用ですか?」

 そう本題を聞くと、信じられないことを言ってきた。

 

「──我の娘に魔法の特訓をしてもらいたいのだが?」


「──へ……⁈」


 私とドラゴンの間を無音が支配した。

 

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