第2話 メシア──ホワイトドラゴンと出会う《後編》

「──あの……、もう一度言ってもらっていいですか?」

 

 私は眉をひそめ再び言葉を求めた。

 

「──いや、だから我の娘に魔法の特訓を……」


「正気ですか? 私、人間ですよ? 人間がドラゴンに魔法を特訓するなんて聞いたことないんですけど……? ご自身で教えてあげれば良いのではないですか?」

 

 私の言っていることは至ってまともだと思う……思うよね?

 だけど、ドラゴンは煮え切らない言葉で言う。

 

「まぁ、それはそうなのだが、娘達が……その……我じゃィャって……言うもんだからさ……」

 

「──威厳とかってないんですか? 見た感じ、あなたは結構、位の高いドラゴンと思うのですが……?」


 私のその問いかけに、さっきとは打って変わって、胸をというより首伸ばし鼻息荒く堂々と言った。

 

「その通りだ!! 我はホワイトドラゴンの王なのだよ!」

 

「──……。なら尚更ご自分でなさってはいかがですか? むしろ、仮にも、王様が人に頭を下げてはいけないと思うのですが……」


 そう返すと、さっきまであれだけ首を伸ばしていたのがまたしても首が垂れていた。 

 その光景に私はため息を吐き、仕方なく承諾した。

 

「改めまして、私はメシア・ライテルーザと言います。一応皇女をさせてもらっています」

 

 そう名乗り、頭を下げた。

 それに慌ててホワイトドラゴンも頭を下げて自己紹介をしてくれた。

 

「我はホワイトドラゴンの王のエンツィオというものだ。本来こちらから自己紹介をするべきであった。すまなかった」

 

 頭を垂れたのではなく、下げたのがハッキリと分かった。

 するとエンツィオさんの後ろから3人が歩いて出てきた。

 

「お初にお目にかかります。わたくしは三姉妹の長女リルアと申します。年齢は11歳です。人間のそれと同等と考えていただければと思います。なので、メシア様は、わたくしからはお姉様ということになりますね♪ この度は申し入れを受けて頂きありがとうございます……」

 

 11歳とは思えないほど丁寧で気品があった。

 しかし──


「あ〜! おねえちゃんがよそ行きの顔してる〜! そう思うよね? ルル!」

「そんなこと言ったらおねぇちゃん怒るよリル……」

 

 その姉と呼ばれた本人は眉をピクっと動かすと前に出てきている2人の妹に──


「私が綺麗に自己紹介してるのに! 大人しくしてなさいよ! 大体! あなたたち自己紹介もしてないじゃない! それにリル! 人化じんかがまともに出来てないわよ! お尻から尻尾出てるじゃない! それにルルも尻尾!! 双子だからって、ここまで似るものなの……? ──あっ……」

 

 気付いたように私に視線を向けた。

 長女のリルアちゃんは両膝と両手を地面につけると言った。

 

「──台無しだわ……。私の紹介が……」


 もうこの子、口に出してる……。猫を被ってたんだね……。

 そう思っていると、1人残されたエンツィオさんが注意した。

 

「リルア! リル! ルル! メシア皇女の目の前で失礼であろう! 場をわきまえろ!」

 

 すると──


「──お父様に言われたくない……! 自己紹介もせずにメシアお姉様の前にでてったくせに……。その上、護衛の騎士さん達を気絶させて迷惑かけてるし!」


 そりにエンツィオさんは、慌てて娘に説明していた。

 

「こ、これは仕方なかろう……。我のようなドラゴンが現れたら普通の人間はこうなる方が多い……」

 

 ──ん? 普通の人間? 

 その言いに引っ掛かりを覚えた。


「ほら! また失礼なこと言った! その言い方だったらメシアお姉様は普通ではなくなるわ! それに! お父様も人化じんかして現れればよかったじゃない! 本当に失礼と迷惑の融合ね!」

 

 これに同意したように双子の妹達が同時に言った。

 

「「パパってダメダメだね! ママも言ってたし!」」

 

 娘達の言い方に完全にノックアウト状態のエンツィオさん……。

 

 あれだけ大きかった体が、やけに小さく見えるほど丸めていた。

 地面に水が溜まっていっている……。

 ドラゴンの涙も規格外みたい……。

 

 その父を横目に、長女のリルアは、妹2人に自己紹介をするように促していたけど……

 それより先に私が口を開いた。

  

「──双子のリルちゃんとルルちゃんだよね? さっきの会話で分かったから大丈夫だよ」


 それに慌ててリルちゃんとルルちゃんがお辞儀をしてくれた。

 年齢は8歳と言っていた。

 

「それで、リルアちゃん達は何を学びたいの?」

 私のその言い方に、リルアちゃんは頭を振りながら言った。

 

「──メシアお姉様。私達は教えを乞う立場なので、『ちゃん』は不要です。なので、呼び捨てでお願いします」


「分かったわ! リルアにリルにルル!」

 

 リルア達は笑顔で「「「はい!!!」」」と答えてくれた。

 それに続けてリルアが言った。

 

「私達が教えを乞いたいのは光魔法ですね。基本的に、私達ホワイトドラゴンは光魔法を極める種族です。お姉様はすでにその境地に至っていると思います」


「──でも私はそんな大層な訓練はしてないんだけど……」


 そう言うと、ルリア私の内側を覗いたかのように言ってきた。

 

「メシアお姉様は誰か大切な方を亡くされていますよね? その想いがきっと、魔力の向上と、魔法を極致に至らしめたのだと考えられます」

 

「──確かに大切な人を亡くしたね……。それで、もう二度と大切な人を亡くさないために強くなろうって思ってたよ」

 

 自分でも驚いてしまう。

 この想いが私自身の力をそこまで押し上げていた事に……。

 これはアイルさんが残してくれたものだね……。

 

「──それでお姉様、先程遠くから拝見させせて頂いた、光魔法で配下を創られたあの魔法を教えて頂けませんか? それに諸々の光魔法もお願いします」


 私はリルア達の要望に応えるべく手を叩き言った。


「──じゃあ早速始めようか? とその前に、リルア、リル、ルル……いい? 大切な人がいなくなってからでは遅いの! だから、あなた達もお父さんを大事にしないといけないわよ? あるところでは〈お父さんの日〉というのがあるみたいだからね。ちゃんと感謝を伝えようね♪」


 そう伝えると、素直に頷いてくれた。

 

(まぁ、これで、エンツィオさんへ少しでも優しくしてくれたらいいのだけどね……)

 

「──よし! じゃあ最初は自分が創り上げたい対象を浮かべてね────」


 こうして私はホワイトドラゴンの先生になった。

 みんなすごく頑張り屋さんで、毎日毎日訓練をした──


 3人ともどんどん成長してくれた。

 そして訓練から3ヶ月──。

 

 私と同様の魔法を使えるようになっていた。

 もうそろそろ教えるのも終わりかな? と思っていたけど──。


「──メシアお姉様! 私達ずっとお姉様のそばに居ます! 母からも承諾を得ました。なので、いかなる時も、お呼びがかかれば参上いたします!」


「そうなの? いいの?」

 

「私達のお姉様ですから! あと、以前言われていたので、父にプレゼントなる物を贈りました」

 

「どうだった?」

 

「引くくらい泣いて喜んでいました……」

 

 3人は疲れた表情をしている。

 

(まぁでも、よかったねぇ〜エンツィオさん!)

 

 そう思っていると心配そうにリルアが言ってきた。

 

「──ところでメシアお姉様……。今、お姉様の周囲に怪しい動きがあります。お姉様に暗殺者を向けている者がいるようです……。大丈夫ですか?」


 その心配を受けて、私はこの子達を安心させるように言った。

 

「大丈夫だよ。私強いから!」

 笑顔で返事を返した。

 

 そして、魔災大戦から半年が経っていた。

 私は思い出すように呟いていた。

  

  

「──もうアイルさんが亡くなって半年か……」

 

 この言葉を聞いたリルアは言った。

 

「──アイルさん? という方がお姉様の大切な人なのですか?」


 少しの間を置き言った。

 

 

「──うん! すっごく大切な人なの!──」

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異世界往還──《エピソード メシア》 〜メシアドラゴンと出会う〜 ハクアイル @Hakuairu

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