第62話 白竜王
「──ユイ先輩ーーーー!!」
アイルは急ぎうつ伏せで倒れ込んだユイの元へと駆け寄った。
そこはすでに血溜まりになっており、その中で血の気のない顔を横たえていた。
全く意識はなく
その元凶は──、エミラに斬り落とされた左肩から下であった。
斬られた時点ではこれ程の血は出ていなかった。
ユイは自身の魔力で止血していたのだ。
──たが、全魔力をエミラを倒す魔法に注いだ。
これにより止血されていた肩から、本来流れていなければならない量の血液が、堰を切ったかのように流れ出していたのだ。
アイルは残りの魔力を使い空間魔法を構築し、ユイから流れる血の止血を行った。
止血はできるが、回復はできない。
空間魔法では、これを治すことは出来ないのだ……。
現在、この部屋で唯一回復魔法を使えるリルアはメシアにかかりきりであり、リルアもその表情から、自身も相当な疲労を蓄積していることがありありと分かる。それでもメシアの回復には至っていない。
符魔法の──、魔符により出現したヴァンパイアの攻撃により受けた傷が、その回復の邪魔をしているのだ。
アイルもこれには気が付いている。
──だから、リルアに頼むことは出来ない。
考えを巡らせるが結果に辿り着けない。
(──くそっ! どうすればいいんだよ……。このままじゃあ先輩が……!)
焦りが優先し、考えが全くまとめられない。
だがそこに「──メシア!!」と声が聞こえてきた。
娘の魔力の急激な減少を感じ取ったメシアの実母、女帝ミリーザはすぐにこの封印域に向かっていた。
声のする方を向くと、ミリーザとこれを護衛する騎士団長ティグ・レイバーンがそこにいたのだ。
そしてこの状況を確認したミリーザは、アイルとリルアに聞いた。
「これは一体どうなっている!? メシアとユイに何があった!」
「──メシアは符魔法のヴァンパイアにやられて……ユイ先輩はエミラとの戦いで……」
これを聞き状況を確認したエミラの行動は早かった。
ミリーザはアイルに、ユイをメシアの近くまで運ぶように言い、これに従った。
「──私の全力でこの二人に回復を施す……!
ミリーザの魔法はこの空間一体を支配し、息の切れそうなユイ、メシアに自身の最大の回復を施した。
「──頼む! どうか二人を……!」
そうミリーザは言うが、やはり符魔法とエミラの魔力の残滓により阻害される。
ミリーザは全力を尽くすが回復までは至らない。
何度も、なんども、ナンドモ繰り返し魔力を込めるが追いつかない。
これに絶望を感じながら、目尻に涙を浮かべながらミリーザは言う。
「──っ! 全く追いつかない……! わ、私はまた、娘を失うのか……! 最愛のメシアを……! これに手を貸してくれたユイも救えないのか……!!!!」
絶望が支配しそうな中、これを破るように男の声が響く────
「──ここまでの黒い魔力は並大抵の魔法ではどうにもできまい……。それとリルアよ。お前は感情の変化に脆すぎる……。もう少し鍛えろ……」
その男はゆっくり近づくと、回復魔法を行使するリルアとミリーザに言う。
そして一歩踏み出すと。
「──後は我に任せろ……。この二人は必ず助ける……」
リルアは目に大粒の涙を浮かべながら口にした。
「──お父様……。メシアお姉様が……うっ……ひっく……」
このリルアの言葉に反応し、ホワイトドラゴンの王であり、リルアと双子姉妹の父である〈白竜王エンツィオ〉は頷いた。
そして──
「──
白竜王エンツィオの声と同時にユイ、メシアの体を純白の光が包み込んでいた。
ユイとメシアの体は純白に包まれ、これまでが嘘のように回復をし始めている。
メシアの腹部の穴はどんどんと元に戻り、息は整う。
そして、ユイの失われた肩から下の部位は、時間を巻き戻すかのように復元され、数分後には何もなかったかのように元通りになっていた。
これに伴い顔色も戻りつつある。
これで
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