第61話 エミラの最期

 エミラは自分の絶対的優位に、ユイの口元に浮かぶ笑みを見逃していた。

 

 そしてその『絶対優位』の感情は今のこの状況が、ユイから受けた【聖槍ロンギヌス】により片目を抉られた過去の出来事と重なってしまうことに気づけなかったのだ。

 

 

「──よかった……気づいてくれなくて……」


 ユイのこの言葉に眉を顰めるが、時はすでに遅かった。そして──続けて口にする。


「──【聖槍ロンギヌスソラ】……【聖鐘ホーリィベル四重クアットロ────【ソラ牢獄プリズン】!!」


 ユイのこの放った言葉により、白く光を放つ複数の聖槍ロンギヌス四角キューブ状の格子を創り、エミラを囲んでいた。


 聖槍ロンギヌスにより創られた空間の牢獄プリズンには、その内側と外側を覆うように聖鐘ホーリィベル四重クアットロに展開され、その内にある対象の力を完全に押さえ込んでいたのだ。

 

 エミラの顔からはその余裕が消えていた。


 怒りを露わにすると空間魔法と融合させた〈血の剣ソード〉を片手に創り上げ、自分を囲む〈聖槍の牢獄バーラ〉へと全力で振り抜いた。

 

 ──だが、それは切り裂くことも、傷を付けることすらできず、〈血の剣ソード〉を霧散させた。


「──!? なんダこレはッ!」


 そう大声で叫び、一度ユイに放った魔法を再び構築し、空間魔法と融合させ放った。


「──死の聖槍デスロンギヌスーーーーー!!」


 ──しかし、ユイの創り上げた〈聖槍の牢獄バーラ〉に触れた瞬間には、〈血の剣ソード〉同様に霧散した……。


 エミラは幾度も繰り返し破壊しようとするが一切結果を伴うことはなかった。

 これを確認したユイはエミラを見ながら言う。 

 

「──エミラ。あなたは……はぁ、以前もそうだったわよね? 〈リデア学園〉で……お姉様達を……ハァ……、殺した後、あなたはぁ……、魔法を使った、私の余力がないと判断する、と……全力でない魔法で……はぁ、私にトドメを刺そうとしたわよ、ね……?」


 エミラは自分の優位性を完全に失ったことを察すると、ユイを睨みつけながら言った。

「──ぐゥッ。オマエが私の目を抉った時カッ……!」


「だから言った、の……『──よかった気づいてくれなくて』て……。転生して、このリスティラードに……戻って来て初めて会った時は……はぁ、油断しなかったわね……あなた……。でも……私を牢に閉じ込めて……精神を不安定に……させると、自分優位だと思い始……めた。そして、私の力を、解析して……完全に自分が優位に立った……これで、あなたは油断を忘れた……」

 

「──オマエ!! ユゥイィィィ!!!!」


 エミラは完全に怒りを露わにし続ける。

「だが分かるゾ……! もうオマエは本当に限界を迎えているのだろウ……? この強大な魔法は長くは続かなイ! フフフッ!! これがいつまで続くかみものダワーーーー!!! 消えたら即座に殺ス! 四肢をバラバラにし! 生きたまま内臓を引きずり出してあげるワーーーーー!!!!」

 

 ユイは顔色を一切変えず言う。

 

「──もう……はぁはぁ……起こらないわぁ……そんなこと……。だって……私の……ハァ……残りの全魔力を使って……今の、はぁ……私にできる最大の……魔法で……! あなたを倒すから……!」


「フザケルなナ! オマエの全魔力を使った魔法だと! たかだか【聖槍ロンギヌス】に全魔力を注いだところデ解析済みダーー!」

 

 ユイは口元を緩ませる。

「──聖槍ロンギヌスなんて言って……ないわ、よ……。確かに……はぁ、聖槍ロンギヌスは強いわよ……でもね……はぁハァ……その上があるとは考えないの……? それが……はぁ……あなたの、油断の……一つでもある……わ……。とっておきは……はぁ……取っておくものよ……!」


 そう言うとユイは、胸を隠していた右手を離し掲げると、自身の最大最後の魔法を構築する。

 

「──降れ……【神々の黄昏ラグナレク──】」


 ユイの放った言葉はエミラの頭上に大きな空間の歪みを生じさせていた。

 

 そして──ゆっくりと──白い光を放つ──巨大な一振りのツルギが姿を現した──


 それはエミラを捉えジワジワと降りてくる。


 その規格外とも言える魔力の大きさに目を見開き、唖然と見上げているエミラの姿があった。

 これにエミラは本能的に恐怖を感じてしまった。

 今まで感じたことのないプレッシャーと恐怖……。

 

(──あり得なイ! ありえない!! アリエナイ!!! なんだこれは!? これが人間に許されるのカ!?)


 ツルギ聖槍ロンギヌスで築かれた牢を吸収し喰いながらその力を増していく。

 エミラは恐怖しながらも自身の血魔法、符魔法、そして空間魔法を融合させた防御膜を構築し、これを防ごうとする……。

 

 ──だが、その防御すら喰らい尽くす【神々の黄昏ラグナレク】は止まることはない。


 そして──

 

 ユイはエミラに最期の言葉を言う。

 

「──それじゃあ、ね……エミラ……。あなたは最悪な先生で……あり、災悪な女……だったわ──」



 ──消し尽くして……神々の黄昏ラグナレク──



 この言葉と同時にユイは手を振り下ろした──


 膨大な魔力を喰らった白を放つ剣は──勢いを増しエミラの体を一気に貫いた──




「──フィ、アーラ様……フィアーラさまアアアアァァァァァァァァ……………ア゛ア゛ア゛………」




 貫かれたエミラは敬愛する準魔王フィアーラの名前を呼びながら──


 ──その姿は断末魔と共に消滅し尽くした……。

 

 これを見送ったユイは、その目に涙を浮かべながら、過去にエミラに殺された〈リデア学園〉の姉達に向けて呟いていた──




「──終わった……よ……。お姉……様達──」  




 ──そしてユイは力無く床に倒れ込み、その意識は暗闇へと落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る