第60話 ユイvsエミラ

「──獲得したのは【零夜れいやの魔王】の力の一部に過ぎない……。だから私はあなたには負けないわ! じゃあエミラ! あなたとの決着を着けようかしら……」


 このユイの言葉を皮切りに、エミラとのユイの最終決戦が始まるのであった。



 ──── ◇ ─── 🔹 ─── ◇ ────



 ユイはアイルに後方に下がるように言う。

 メシアを回復させているリルア達を守るようにお願いすると、エミラと対峙した。

 

「なんかあなたも雰囲気が変わってるわねェ……ユイ」


 エミラはユイと同様に、ユイの纏う魔力に変化を感じ取っていた。

 互いに変化を感じ取ってはいるが、その会話は続くことはなかった。

 

 ──先に動いたのはエミラだ。

 

 低い体勢から踏み切ると、ユイとの間合いは一瞬にして詰められた!


 自らの血で創り上げた剣を斬り上げ、ユイの胴体を裂こうとした。だが、ユイは上体を逸らしギリギリのところでこれを躱した。

 

 上半身に残るわずかな衣服は切り裂かれ、ユイの上半身は何も着ていない状態になっていた。

 片手で胸を隠しながらユイはサイドに飛び退き間合い空ける。

 

「よく躱したわねェ。結構なスピードだったのだけどね……」

 

「おあいにくさま……。今の私はこの空間の魔力と空気の流れを把握できているの……」

 

「──ふ〜ん……。なるほどねェ。あなたはあのシシリスから空間魔法の何かを与えてもらったのね……」


 そう言うエミラは口元を緩ませ開いた。

 

「──知ってるかしらァ? 【零夜れいやの魔王】は空間魔法も操れるのよォォオオ!」


 言い終わると空間に手を翳し──、「空縛クウバク……」この言葉に従いユイの四肢を半透明な鎖が拘束していた。

 動きを封じられてしまったユイは必死に振り解こうとするが動けないでいた。

 

「──くっ!? (これはアイル君が使った宙剣ソラケンと似てるわ……! でもこの空間を使ったものではなくて、純粋に魔力だけで構築してる感じね……それなら!)」


 その考えに至るとユイは、対抗するべく自分の聖属性の魔法を上乗せし、この空間を使った剣、──アイルと同じく宙剣ソラケンを降らせるとエミラが出現させた鎖を切り砕き、素早く後方へと下がっていた。



「──エミラ、あなたの空間魔法は欠片は欠片のようね。最強と謳われた魔王のそれとは違うわ! 今のアイル君の空間魔法の方がよほど強いわ!」



「そうね……ユイ。確かにあなたの言う通りよ。でも、これは空間魔法を使うきっかけに過ぎないわ。この世界にはまだ【零夜の魔王】の力が至る所にあるのよ。これら全てを手に入れれば私はそれになり変わることができるの。そして私が敬愛する準魔王であるフィアーラ様に私の全てを渡すの! ああ! フィアーラ様〜……」


 

「よくしゃべるわね……。だったら、私達はあなたを倒し、その目的をここで終わりにしてあげるわ」


 

 このユイの言いに、フィアーラを語る恍惚こうこつの表情から、背筋が凍りそうな不気味な表情に変えた。

 そして、静かでありながら、強大な魔力を込めた言葉を放つ。

 

「──邪魔はさせないワ……。お前みたいな弱者デ……無駄な足掻きをするバカに……! いいワ……。あなたに懐かしい魔法を見せてあげル……前はお前が相殺したあの学園で使った魔法……ただし、昔のそれとは違うけどネェ」


 エミラはそう言い放つと、10歳のユイの【聖鐘ホーリィベル】で防がれた魔法を構築していた──



「──火塗かず血塗けつず刀塗とうず──火血刀かけつとう……」



 しかし、以前の魔力とは圧倒的に違うそれは無数に展開された。

 エミラの血を媒体とし、符魔法で複製された赤い炎を纏う〈血の剣ソード〉をユイを囲むように地面と空中から出現させていた。

 

「──サァ! 見せてあげるわ! 空間魔法との融合をネェェェ!」


 エミラの叫び声と同時に、ユイを串刺しにするべく一斉に動いた!


 ──ユイは瞬時に聖属性を纏わせた空間魔法の【宙剣ソラケン】を展開し、これに対応している。

 しかし全てを防げる訳ではなく、〈血の剣ソード〉の数本がユイの左腕、両脚を掠めていた。

 

「フフフッ……。よく防いだわネェェエエ! でもォ〜……」

 

 エミラは目を見開き、口を大きく開き吊り上げると、「──サァ! 激痛にどれだけ耐えられるかしラァァァアアア!」


 そう言うと指を、──パチンッと鳴らした。


 それに反応したユイのほんの僅かな擦り傷が大きく裂かれ大量の血を噴き出させていたのだ。

 

「──ぐッ! あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ…………」


 ユイは切り裂かれた両脚から崩れるように膝をつき、左腕は力無く垂れている。


 アイルはユイの姿に、「ユイ先輩ーーーー!」と大声で叫んでいた。

 リルアもユイの方向に目をやり心配してはいるが、メシアの生命維持に全力を注いでいるため、その顔には全く余裕はなく、かなりの疲労の蓄積を感じさせていた。

 

「──あらァ残念……。掠っただけだったわネェ……だけどネェェェ!! それじゃァ動けないわよネェェエエ!」


 そう言い次の瞬間にはユイの目の前に移動すると、一振りの【血の剣ソード】を握りそのまま抵抗することのできないユイの左肩目掛け振り下ろした!


 この振り下ろされた刃で、ユイの腕は左肩もろとも根本から斬り落とされた。


 

「──ゔゔゔぅッ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ……はぁ……はぁぁ……ゔぅ……」



 エミラは顔を押さえて笑い声を上げながら続けた。



「──あの〈魔災大戦〉の時と同様にあなたの四肢を切り落として殺してア・ゲ・ルゥゥウウウ! フフフフッ!! アハハハハハァァァアア!!」



 エミラはこれから甚振いたぶり、殺すユイの姿を思い浮かべ上機嫌に高笑いを響かせていた。

 



 だが──


 目の前のユイの口元には、左腕を失った激痛に耐えながらも微かに笑みを浮かべていた。

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