第59話 《死魂魔法》

 「──えっと……共有できてると思う。それにしても、これが空間魔法の感覚なのね……。なんと言うか意識を集中すればこの空間が手に取るように把握できるわ……」


 この答えは天才と言われた聖女であるユイが最強と言われる《空間魔法》を行使できるようになったという言葉であった。



 ──── ◇ ─── 🔹 ─── ◇ ────



 この返しにアイルは目を見開き驚いていた。

 確かに意識を集中させれば空間をある程度捉えることができる。


 しかし、ユイの言う事が、自分の考えているレベルならとんでもないことだと思っていた。

 いくら自分でも『手に取るように』とは表現できないのだ。


 しかもユイは共有したことにより、一時的に使える様になったばかりなのである。

 

「──あの、ユイ先輩? その『手に取るように』てどんな風に……?」


「手に取るようには手に取るようによ。これくらいの空間なら目を瞑っていても戦えると思うわ……」

「ものすごいこと言いますね……」


 アイルは改めてユイの才能に驚かされる。


 しかしユイは、足音が近づく扉に目を向けると、姿を現したエミラを見ながら言った。


 

「──アイツが相手でなければね……」



「あら〜……メヴィウスを倒したのねェ。この魔法の残滓ざんしは空間魔法のよーね……ということはそこのアイル・シシリスがやったのかしら? まぁいいわァ〜。さて、どちらから殺そうかしラァ」

 

 そう言っているエミラには特段と変化は見られなかった。

 だが、ユイは妙な感覚に気付いていた。

 何か違和感がある。

 今までのエミラとは何か感覚が違う。


 

「──あなたの変な感覚は何? 死魂魔法とは何なの?」


 

 ユイの質問に不気味な表情を浮かべると、「──じゃあ教えてあげるわァァアア……フフフッ」というと続けた。


「これはねェ、【零夜れいやの魔王 アルジェント・イースベルテ】の魂と魔力の欠片を融合させた【死魂しこん魔水ますい】という物質よォ。あなた達がこれをどんな魔法だと思ったかは知らないけど、これは【零夜の魔王】の魔力の欠片……魔法じゃないわ。アルジェント・イースベルテの魔法を使う為の力よォォオオ。フフフフフフッ」

 

 【零夜の魔王】という言葉にアイルはなぜが胸を掴まれるような感覚になっていた。

 ユイはあまりにも強大な力の持ち主の名前に言葉を失った。

 零夜の魔王は魔神に匹敵する最強の魔王の名。

 この世界に知らない者がいない絶対的な存在。

 

 そして、この【零夜の魔王 アルジェント・イースベルテ】の文献を書いた【ルーデ・ゼット・ディシャール】という魔族の少年の名前には覚えがある。

 魔族に関する文献を読み解くのは聖女の特訓でも合ったからだ。

 

〈魔災大戦〉の際、絶大な魔力を持ち、アイルと相打った。

 結果、姿を消したルーデ・《 》ット・《 》シャ《 》ル【準魔王ゼディー】その男なのだ。

 最強といわれる魔王を崇め、自らもそれに近づこうとした。


 しかし、【零夜の魔王】とは違う道を選んだ災悪の準魔王──ゼディー。


 そのゼディーが崇めた魔王の力を一部でも持ったということであった。

 

「──あの【零夜の魔王】の……」


「──アルジェント・イースベルテ……」


 ユイの言葉に続き、アイルは頭を抑えながら何かを感じていた。

 アイルを心配をしながらも、ユイは一歩踏み出すと、エミラとの最終決戦に集中するように言葉を放った。

 

「──獲得したのは【零夜の魔王】の力の一部に過ぎない……。だから私はあなたには負けないわ! じゃあエミラ! あなたとの決着を着けようかしら……」


 このユイの言葉を皮切りに、エミラとのユイの最終決戦が始まるのであった。

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