第58話 天才聖女と最強魔法

 その扉がゆっくり開かれると、中から空色の巨大な腕が伸び、メヴィウスを鷲掴みにしていた。


「──なんだこの腕は!?」


 メヴィウスは、自分を掴むこの手から逃れようと全身から黒の刃を出した。

 しかしそれは全く意味をなしていなかった。

 手にメヴィウスを握ったまま、その腕は扉へと収まっていく……。


 そして────


 メヴィウスの全身が砕ける咀嚼音と断末魔の悲鳴を響き渡らせながら扉が閉じていった。

 ユイも目の前で起こったことに驚愕の表情を示し口に出していた。

 

「な、なんなのアイル君、アレ……!?」

「──アレは【空魔クウマ】という存在です。俺もハッキリとは分かっていないんですが、ありとあらゆるものを喰い尽くすバケモノです」


「そんな訳の分からないものを使って大丈夫なの!?」

「俺も最初は考えましたが、日本に転生する前、このリスティラードで空間魔法を教えてくれた師匠がいました。その師匠が言うには『こちらから何かを仕掛けなければ問題はない』と言っていました。訳の分からない魔法ですが、空間魔法の中でも最上位に位置する一つです。まぁその分魔力消費が半端ないんですけどね……」

 

 ──空間魔法は謎が多すぎる……


 最上位とされる魔法はどれも、生命いのちを犠牲にするだの、魂を無に還すなどどれもそれなりのリスクを負っている。


 その上この存在が分からないという魔法……。

 危険と隣り合わせと言っても過言ではないが、その分強力と言える。

 だが、空間魔法には何か別の目的があるのではないかと思える。


 

 ユイは口元に手を当てながらそんなことを思っていた。

 そこで一つ考えたのが、空間を共有するという【空間接続スペクション】。例えばこれを調整できたとして、もし自分も一時的にでも空間魔法を行使できることになれば、エミラを倒す最大の武器になる。そこでユイは細心の注意をはらい提案をしてみた。

 

「アイル君。これから私酷いこと言うと思うの……」

 これにアイルは疑問を浮かべた。

 だが、ユイは信じている目をしている。

 「──なんですか?」と返すとユイは口を開いた。


「私も空間魔法については色々調べたことがあるわ。その中で、2度目のの【空間接続スペクション】は魂と引き換えって聞いたことがあるの……合ってる?」

 

「そうですね。でもそれがどうしたんですか?」

 

「その【空間接続スペクション】を最小限に調整して、空間魔法自体を共有して、私が一時的にでも空間魔法を使える様にとかできるかなって……。ただ、やっぱり危険と隣り合わせなのは分かってる。だから無理には──」


「──やりましょう」


 途中のユイの言葉を遮り、アイルは即答した。この即答にユイは目を見開き驚いていた。

 そして、「──え? え!?」と声を出しつつ続けた。


「自分から言っておいてなんだけど、結構危険だと思うんだけど!? ……って大丈夫なの?」

 

「魔力を最小に抑え込んで行使は出来ます。ただ、かなり接続範囲を絞らないと成功する確率が減ってしまいます……。それに時間がかかるかもしれません……」

 

「その接続距離は短ければ短いほど成功する確率は高くなって、時間も短縮されるとか?」

 

「ええ……その通りです」

 

「──じゃあアイル君。自分の体の表面上にだけ行使しておいてくれればいいよ! 後は私に任せて!」


 そう話をしていると、扉の中から段々近づく足音が聞こえてきていた。これに、時間がないと判断したアイルは、ユイの答えを疑問に思ってはいたが、その言葉を信じ、最小限の【空間接続スペクション】を言われた通りに行使した。

 

「ユイ先輩! 使いましたけどこれからど──!?」


 アイルの言葉は突如として断たれていた。

 目の前にはユイの顔。アイルの口はユイの口で塞がれていた。

 そしてゆっくり離れると、イタズラっぽい表情を見せながらも言った。

 

「──ゼロ距離だったら失敗しようがないでしょ?」

「そ、それはそうですけど! こ、心の準備が……!」


「準備なんて必要かしら? 私はいつでも準備できてるけどね♡」

 

 ユイの言葉に黙るしかなかった。

 アイルは頭を掻きながら成功したのかどうかを聞いた。

 そして少しの間を置き────


「──えっと……共有できてると思う。それにしても、これが空間魔法の感覚なのね……。なんと言うか意識を集中すればこの空間が手に取るように把握できるわ……」


 この答えはと言われた聖女であるユイがと言われる《空間魔法》を行使できるようになったという言葉であった。

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