第47話 ドーラ

 メシアと分かれたアイルとユイは、一直線に最上階に向かい走っていた。

 所々でアンデットと出会したが、その程度は難なく越えられていた。


 そして最上階の扉が目の前に現れた。

 ゆっくりと扉を開けるとそこは大きく開けた場所であった。

 天井はドーム型、壁にはランタンが設えてある。


 そしてその奥に1人の少女が佇んでいた。

 

 会議室で会った時の銀髪ではなく、床まで着く長い金髪を纏い、両手の爪は鋭く尖り、呑み込まれるような漆黒の目を持っている。

 それは不敵な笑みを浮かべアイルとユイに視線を送っていた。

 

「やぁァア……。メシア皇女がアレと戦ってるんだねェ〜」

 

「やっぱりここだったんだな……ドーラ!」

「それがあなたの本当の姿なのね……」


 アイルとユイはそれぞれ口にした。

 しかし返ってくる答えは淡々としたものだった。

 

「本当の姿などウチには無いんだよォ。どんな姿にでも変わるからネェ〜。まぁそれはいいヨ。だが、メシア皇女にも困ったものだよ。自分が殺されないと分かりあえて死神グリムリーパーと戦うなんてネ。殺せなくても四肢を切り落とすことくらいできるのにネェ〜。生きてさえいればいいんだからサァ。ちょっと調子に乗ってるのかなァァ。死神グリムリーパーに四肢を切り落とした状態で持って来させようかなァア」

 

 ドーラの饒舌じょうぜつにユイは呆れながら言った。

 

「あなたよく喋るって言われない? ちょっと喋りすぎの様な気がするのだけど……」


「……それはウチも女の子でず〜〜〜〜っと封印されてたからねェ〜。喋りたいんだよォ」


「姿がないのに女の子だなんてよく言うわね……。それに、女の子が誰しもよく喋るだなんて思わないでよね! 私みたいにだっているのよ!」

 

 これを側から聞いていたアイルはユイに薄い目を向けている。

 アイルの視線に気づいたユイは目を向けると──


「ねぇ、アイル君。何なのかな? その目は……?」

 

「──いや……だって、ユイ先輩が控えめって言ったら、世の女性達は無口ってことになると思うんですけど……」


「ねえ、アイル君。後からゆっくりお話ししよーね♡」

 言葉は♡がついているが目が笑っていない。

(──え゛〜……)

 アイルは肩を落としユイの方を向いたままでいる。

 蚊帳の外にされているドーラは2人に向けて言った。

 

「お前達……ウチを馬鹿にしているのカァァア!!」

 

 ユイは、──あ! 忘れてたと言わんばかりに手を叩くとドーラに向けて言った。


「ごめんねー……。優先順位が遅くて……!」

 

 ユイがそう言った瞬間!

 全身を白い衣を纏った様な姿になりドーラの懐に入っていたのだ!

 

「私がただ話しているだけな訳ないじゃないっッと! ──はッ!!」

 

 ユイはそう言うとそのまま聖属性を纏った掌底をドーラの下顎目掛けて突き上げていた。

 不意を突かれたドーラはその直撃を受け鈍い音とともに天井へと飛ばされていた!

 

 

「──!? グっ!! 何なんだよお前は! オマエは魔法士のくせに──!」

 ドーラはフロアーにいるユイに視線を向けて言っていた──が……

 

 さっきまで下に……、確かに居たユイの姿は──アイルを残し──もうその場には居なかった。


 ドーラは空中にとどまりユイを探したがどこにも見当たらない。

 

「どこだ! どこに行った!」

 その周囲を探すドーラの頭にいつの間にか手が添えられていた。

 瞬間に振り向こうとし、──だか遅かった。

 次には──!


「──聖波ホーリィウェーブ──」


「──!?」


 ユイから発せられた静かな言葉は純白の光の波を生み出していた。

 それに呑まれたドーラはフロアーに叩きつけられると、純白が全身を覆いそのまま縫い付けられ動きを封じられていたのだ。

 

 ユイは静かにアイルの横に降りたった。

 横に降り立ったユイに向け、アイルは驚きの声を上げている。

 

「……すげーよ。ユイ先輩……」

「まぁ、アイツが本気出してないからね……。でしょ?」


 ユイの問いに、縫い付けられたままのドーラは少し怒りを交えながら返してきた。

 

「そうダネェー! ウチは術者だからネェ! オマエみたいに魔法士でありながら接近戦をしてくる頭のおかしいヤツとは違うんだよネェ!!」

 

 そう放つとドーラの周囲を囲む様に空中に複数の魔符が展開される。

 その一つひとつから黒の何かが漏れ出していた。

 煙ではなく所謂いわゆるスライムの様な物。

 ぬるっと。ぼたぼたと音を立てている。


 そして全てが漆黒の魔物の姿に変わっていったのだ。

 牛頭馬頭の姿をした物、死神グリムリーパーの物、鎧を纏っている物などが合わせて十数体現れていた。

 

「──コイツらは劣化体だけどネェ……。オマエ達に倒せるかなァァアアア!」


 不気味に言うドーラは拘束から逃れ、喚び出した魔物達の一番後方へと下がると命令を下した。

 

「サァ! 蹂躙しろォォオオオ!!」

 

 これに瞬時に反応した『黒魔』と言えるそれは──


 ──一斉に目の前の者を始末するべく行動を開始する。

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