第48話 メシアvs〈死神の君主〉

 広々とした廊下には漆黒の死神──〈死神の君主ロードオブグリムリーパー〉と銀髪の少女が対峙していた。

 

〈オマエを殺すことはデキナイガ四肢を切り落とすとシヨウカ……〉

 

「──あなたにはできないと思いますよ。これから私は結構本気を出しますからね──!」

 メシアはそう放つと──着ていた服は純白の光になり消滅し、再び純白に包まれていた。

 それが消えるとメシアの姿は変化していた。

 

 純白のドレスであったメシアのそれは、ショートパンツとノースリーブに変わっていた。


 背中には翼はなく、お尻の辺りからは白い尻尾が生え、全身と顔の3分の1は所々白鱗に覆われている。


 そして頭からは純白の珊瑚のような龍のツノが現れた。

 メシアの銀髪は同じく純白と変わり、腰までの髪は床に着きそうな程伸びていた。

 その身長にも変化が起こり、大人びている。

 

〈ナンダその姿ハ……?〉

 

「言いましたよ。龍人化って」

 

〈ソノ姿ガリュウだト?〉

 

「あなたは知らないかもしれませんが、これは翼を持たず天を泳ぐことのできる龍の姿です。太古の昔から崇拝の対象である【神龍シェンロン】と言います……。では、──参ります!」


 メシアは右手を掲げ光の円を描いた。

 これに同調するように死神グリムリーパーの頭上にも光の円が現れていた。

 死神グリムリーパーは即座にその場を離れようとしたが遅かった。すでに動きを封じられていたのだ。

 

〈ナニヲしたコレは!?〉

 

「そのままですよ。あなたの動きを封じただけ……でも」

 小さく続けた──


「──光鱗コウリン

 

 一つひとつが純白に輝き、死神グリムリーパーの周囲を取り囲み光の渦となり舞っている。


 それらが急速に収縮すると、光の棺の形を取り死神グリムリーパーを閉じ込めていた。

 そして──


「──開闢カイビャク


 メシアの言葉に光の棺は一気に分解し爆発を起こし消え去っていた。だが──……


 〈死神の君主ロードオブグリムリーパー〉は大ダメージを受け、体の半分を失いながらもその姿を保っていたのだ。

 

〈オ、ノレ……。小娘、ガ。必ズ四肢ヲ、切り落としサイゴに、ハ我がオマエを殺ス!!〉

 

 死神の全身からは黒い煙が溢れ出している。

 表情はないがその語尾からは怒りの気配がダダ漏れであった。


 しかし、メシアは落ち着きを払いながら最初に言った言葉を口にした。

 

「先ほども言いましたが、──。もうあなたの力は分かりましたから」


〈ドーいう、ことダ?〉

 この死神グリムリーパーの問いに淡々と答えていた。

 

「もうすでにあなたの力は計測し終えたと言っているのですよ」

〈計測、ダト……? 一体、ナニヲ──〉


「──私がさっきあなたを閉じ込めた光の棺は攻撃よりも能力を計るためのものです。私はあなたより強い様なので、もうあなたは私に攻撃与えることは叶いません」


 こう返された死神グリムリーパーの語尾はますます強くなり、怒りをさらに増し声を上げようとしていた。

 だが、それを阻む様にメシアが先に声を出していた。

 

「──【白の裁きホワイトジャッジメント】……」


 無数の純白の鎖は死神グリムリーパーを完全に拘束していた。

 これから逃れようとしているが、その動きを全く封じていた。

 

〈──!? ナン、ナノダ! 全く、動けぬダト!?〉


「言ったはずですよ。あなたの力は計測したと。あなたは〈死神の君主ロードオブグリムリーパー〉の中でもちゅうじょうといった感じの力ですね。なので、あなたの力に合わせて鎖を構築しました。決して逃れることはできませんよ」

 

 このかんも必死に動こうとするがその場から動けずにいた。

 メシアはそれを見ながら再び右手を掲げ、最期となる言葉を紡ぎ出していた。

 

「──白きイカヅチを纏う天の火よ……その力を解放せよ──【インドラの矢】」


 それは、白雷を纏う光の矢を構築し、メシアが振り下ろした手に合わせて、一直線に〈死神の君主ロードオブグリムリーパー〉を貫いていた!


 凄まじい光と廊下に響き渡る雷の音は標的の全てを呑み込んでいた。

 

〈ナ、ニ……。オ、マエは、一体……どこマデノ…………チ、カラ……ヲ゛ヲ──〉


 貫かれた死神は、その中心から光の罅が全身に広がり瞬く間に無に帰していた。

 その姿を見送ったメシアはその場に座り込むと、龍人化が解け元の姿に戻っていた。

 

「──やっぱり……龍人化は疲れるよぉ。でも、結構魔力を消費したから、もし封印域で捕えられても封印が解ける確率を少しでも下げれることになったのかなぁ……はは……。本当はまだ力を残しときたかったけど、あの黒い煙はやっぱり侵食してきたし……。少し手が痺れているわね。でも、早くアイルさんとユイさんに追いつかないと……!」

  

 そう独り言を呟くと痺れた手でスカートの汚れをはたきながら立ち上がると、2人に向けて進み始めたのであった。

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