第52話 動き出す因縁

 ユイの声はその場に響き、ドーラの背後からその姿を現した。


 背後のエミラの姿を捉えると、ドーラは恍惚な表情と陶酔したかのような声で名前を呼んだ。、

 

「──エ、エミラ様ァア!」


 ゆっくりとドーラの前まで出てくると、唇を舐めるように舌を出し、獲物となる対象を捉えていた。


 その視線の先は勿論ユイとアイルである。

 

「ユイもそうだけど、そこの男がまさかあのアイル・シシリスだったとはねェ……。でも、以前ほどの馬鹿げたような膨大な魔力は感じなかった……と言うことは、転生の影響かしら?」

 

 確かに先ほどのアイルの魔力は膨大には違いないのだが、転生前と比べるとやはり劣る。

 これに本人も分かっているのだろう、額に汗を滲ませながら答える。

 

「そうだな。あんたの言う通りだ……。確かに俺は転生前に比べれば6割程度でしかない。だけどな、こっちに戻って来て減っただけじゃねーんだよ!」

 

 この言葉と同時に、アイルの右手には光を凝縮したかのような〈光剣こうけん〉が創造され、これにより全身強化した身体能力でエミラに斬りかかっていた!

 

 ────が……!


 ドーラは魔符を素早く展開するとこれを防いだ。


 そして「──ゼろッ!」と言い放つと同時に魔符はアイルもろとも吹き飛ばしていた!


「させなナいヨッ! エミラ様の狩の邪魔はネェェェ!!」

 

「──くっそッ!」


 爆発によりエミラとの距離を取らされたアイルは、自分に向かってさらに魔符を行使し、再び〈死神〉を複数体喚び出され、これに対応せざるを得なくなった。


 それはさらに進化を遂げ集合体となり、アイルの目の前には、髑髏ドクロの顔に、腕の代わりに刃が10本連なっている異形のバケモノが現れていた。


 這うようなその姿勢に、赤黒く光る眼を持つ。

 ドーラはそれを〈死蛇神シダガミ〉と呼んでいる。

 

 口を開けたかと思うと、闇魔法のブレスを吐き出した。

 アイルは辛うじて躱すが、直撃した後方の壁の黒い炎はなかなか消えることなく燃え続けている。

 

(──あのブレスはヤバいな……。普通の炎と違って直ぐには消えないみたいだ……)

 

 目の前の〈死蛇神〉に意識を向けながらも、エミラとの対峙しているユイの方も気にかけている。

 その気配に気付いたドーラはアイルとユイが共闘しないように自身の符魔法で黒い壁を構築し、二人の間を完全に隔てた。

 

「エミラ様ノ邪魔は絶対にサせないヨ……。この【黒壁】は亡者ノ魂を含むものダ。符魔特有のネ。空間魔法でもそウ簡単にハ壊せなイ。サァ! この〈死蛇神〉と遊びなヨォォオオオ!!」

 

 そう言い放つドーラの構築した【黒壁】には所々顔のようなものが浮き上がっている。

 その目からは赤い血のような液体が流れていた。

 見るからにおぞましいと言う言葉が似合う。

 

 しかし、戦いは止まることはない。


 このドーラの声をきっかけにアイルと〈死蛇神〉の戦いが始まった。

 

 

 ※ ※ ※


 

 アイルと分断されたユイは気にしながらも、決してエミラから目を逸らしていなかった。


 ユイの目には絶対に自分が倒さなければいけないと言う強い意志がこもっている。

 

「──エミラ。私はあなたを絶対に許さない。リデア学園で起こしたお姉様達へのあの惨殺……。ここであなたを倒すわ!!」


「──可哀想で愚かなユイ……。転生してまでも解放されない馬鹿げた感情……フフッ。今ここで魂ごと解放してあげるわァァァアアアアア!!!!」


 そして────、ユイとエミラの因縁は着実に決着へと動き出す。

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