第51話 エミラ

 最上階の封印域──。


 覚悟を決めたアイルは〈空間崩壊スペラルス〉を使っていた。


 現段階ではそこまで広範囲の指定はできない。

 そう判断したアイルは、ユイにターゲットを定めている牛頭馬頭に空間の指定を入れた。


 確かに死神は厄介だが、それよりもユイを守ることが優先だと判断した。優先順位だ。

 

 アイルから放たれたそれは、二体を半透明の球体に封じ込めた。

 牛頭と馬頭はその中から出ようと暴れるがびくともしない。

 この光景と魔力量を感じとったドーラは唖然としている。


 そして──



「──消去イレイズ──」 



 アイルは拳を握る動作を見せながら言っていた。

 次の瞬間には空間に押し潰されるように弾け跡形なく消し去っていた。


 目の前で見せられたユイも驚いている。

 

 これに思考を停止していたドーラは大声を上げてアイルに叫んだ!


 

「──何でお前が空間魔法を使えるーーーー! この世界には使える者はすでに4人しかいないとエミラ様から聞いている! 一人は魔災大戦の時にし──……そうか。お前がそうか! お前が魔災大戦の時に準魔王ゼディーと相打ったアイル・シシリスか! 転生していたのだな……!」



 やはりと言うべきか気付かれた。

 魔災大戦のアイルは誰もが知るほど有名なのだ。あの魔神、魔王に匹敵するかも知れない程のゼディーを倒したのだ知らない方がおかしい。そして、魔災大戦を一時終結させた張本人でもある。

 

「──これは世界が動き始めるぞ……! だがここでお前を殺せばエミラ様の名声が世界中に響く!」


 そう決めると、ドーラは死神、鎧騎士を増殖させると全てをアイルに仕向けた。

 しかし、牛頭馬頭は出すことはできてはいない。

 

(──俺にターゲットを変更したな……。牛頭馬頭は出せなかったんだな。劣化体とは言え強力な存在は限度があると言うことか。にしても数が多すぎる……。もう、空間崩壊を使えるほど魔力が残ってない。さてとどうするかな……)

 

 アイル目掛けて集団で向かってくる黒魔達はそれぞれに大鎌や剣、槍を振り下ろそうとしていた。

 だが────。


「──聖 槍ロンギヌス──」


 その一言でアイルに迫っていた黒魔達は一瞬にして消し去られていた。

 これはアイルに気を取られすぎたドーラの失態である。

 ユイに【聖 槍ロンギヌス】を構築する時間を与えてしまったのだ。

 


「──! クッ……! スグにまた死神達を──」



 だが、これはすでに遅かった。この隙を逃すユイではない。

 

「──させない!!」


 ユイは回復させた体で、全力でドーラに向かい踏み切っていた!

 一瞬で間合いを詰めると──


「──十字架クロス聖 鐘ホーリィベル──」


 十字架を象った聖鐘はドーラの一切を封じていた。

 そして続けて──


「──ホール聖 槍ロンギヌス──」


 無数に出現した聖 槍ロンギヌスはドーラに聖槍の雨を降らした──だが─────!

 その全ては真紅の壁に阻まれ霧散した。

 

「──!!!?」

 ユイは自分の魔法を全て無にした真紅にある女を思い浮かべていた。

 

 その声は響いた──。

 そして、その姿を段々と現し始めた。

 

 

「──ダメねぇ〜ドーラ……。もう少し戦いを学ばないとねえーー……」


 その余裕と絶対的と思える声、姿にユイは因縁の相手の名前を発した。


 

「──エミラっ!!!!」



 ユイの言葉に応えるようにエミラは言った。


 さて、ここからは私が相手をしてあげるわァー!

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