第2話 リスティラードと地球
3人は即座に戦闘態勢に入り、後方に飛び退いた。先に動いたのはスタルだった。
右手に握った竹刀に青白い光を纏わせ、すぐ目の前に迫った一ツ目の生物を縦に真っ二つに切り裂き、雷の影響を与え、それを一気に蒸発させていた。
「相変わらずあなたの雷魔法は纏って使うのね……。放った方が手っ取り早いと思うけど……」
「何を言っているんだ! 僕は【斬術士】の中の剣士だぞ! 魔法を放つなど、剣士としてはあるまじき行為だぞ!!」
──魔法を使ってる時点で純粋な剣士じゃないでしょーよ……。と言おうとしたが、今じゃないことは私でも分かるわ。
呆れ気味にそれを考えていると、今度は私の目の前に皮と骨のいわゆるアンデット系が迫ってきてた。
(私……アンデットって苦手なのよねぇ〜……。
抵抗を感じながらも、迫っている魔物たちを見据える魔法士、ユイ・サンクトゥリアは、自身の属性である【
「【
それが発動した瞬間!
金色の光の水滴が魔者を囲み閉じ込めると、ユイは左指を弾いた。
小さく──パチンッ。と鳴らすと、閉じ込められていた魔物は即座に煙と化し消滅したのだった。
しかし、そのすぐ後に、黒い虎と狼がユイに攻撃を仕掛けようと、鋭い牙と長く伸びた爪を迫らせていた! ──が、それはユイに届くことはなかったのだ。
「じゃぁ今度は俺の番だなあ!!」
五里島、──ユロイは炎属性の全身強化を施すと、ユイの前へとその体を移動させていた!
魔物はその勢いを殺すことなく迫ったが、ユロイに顔面を抑えられ動きが止まっていたのだ。
逃れようと足をばたつかせていたが、一歩たりとも動くことは許されなかった。そして、炎で強化された腕は強烈な熱を放ち、その2体を焼き尽くし炭と化していた。
それを満足そうに眺めると、ユロイはハッキリした声で言った。
「やはり鍛えた筋肉は嘘を吐かないな! こうして魔物を始末出来るしなぁ!」
後ろでは、ユイがひと言、──とどめ刺したの炎じゃない……。筋肉関係無くない? とかなり的を得た事を今度は口に出して言っていた。
──あっ……。やばッ。と口を押さえたが遅かった。
「ユーーーイ!! お前はこの筋肉をバカにしてるのか! 俺が鍛えたからこその結果だ! それに戦いの最中にツッコミを入れるとは!!」
ユイはやっぱりという感じで、──だよねー……。今じゃないよね。ごめん! と手を合わせて謝っていた。それを横で見たスタルも追随するように言った。
「ユイ! いくら
「だから、悪かったわよ! 2人こそ戦いの最中に説教ってどうなのよ!」
と、逆ギレ的に言ってしまった。
──ああもう! 何で私はこうなんだろうなぁ。
自分でも分かってるんだけどな。
よし! 落ち着こう! と自分を宥めると、スタルとユロイに早く残りを片付けようと言ったけど、他の生徒が逃げた校庭ではさらに大変な事が起こってた。
校庭の中心に大きな黒い渦が出現していた。
その中から体長10メートルはあると思う大きな猿が現れた。真っ黒な毛に覆われ、赤く光る目は獲物を捉えようと辺りを確認していた。
「ちょっと! 2人とも!
それを聞かされたスタルは顎に手を当て、ユロイは腕組みをし感心したように言った。
「ほお……。これはデカいなぁ……。毛もふさふさだぁ。僕はここまで大きい物は初めて見たよ……」
「う〜ん……。何というか、デカい割には筋肉のつき方はイマイチのような気がするなぁ……」
──えぇぇぇぇ……。気にするとこそこ!? と言いかけたけど、やめとこう……。さっきの二の舞いになりかねないわ……。でも、そんな事言ってる場合じゃ無くて──
「生徒たちは皆んな校庭に避難してるのよ! このままだと殺されるわよ! 早く助けないと!」
そう焦っていう私に、2人は落ち着きを払った返事をしてきた。
「まぁ、大丈夫だろ。僕たちが行かなくても……」
「ああそうだな。あっちには隊長がいるからなぁ」
そうだった! と私も今更という感じで気付いた。
そういえばさっき扇動して行ってたわ……。
私たちの部隊を率いて魔災軍と戦い、同じく殺されてしまい、
殺された時はほとんど私たちと変わらないけど、なぜか35年前の地球に転生し現在に至るみたいで、私たちと会った時にはリスティラードよりも、10年も歳をとってしまったらしい……。逆に私たちは隊長に会った時、その当時より5歳ほど若くなっていた。
どうも、各個人で転生先の時間には、誤差はあるみたいだけど……私的にはスタルとユロイにあった時、同じ年齢で安堵した。
私だけ、歳を重ねてたらコイツらは絶対に何か言うに違いない!
そんな事を考えていると、ユロイが私とスタルに向けて懸念を伝えてくれた。
「ユイ! スタル! ここは俺と隊長に任せて哀流の所へ向かってくれ! 恐らく、
「分かったわ! すぐに向かう! 哀流君の魔力を感知すれば見つけられるはずだから! 行こう! スタル!」
「だな! ユロイもこの周辺を片付けたら来いよ!」
「了解だ! だが、コイツらどんどん湧いてくるからちょっと時間がかかるぞ。まぁ魔力じゃなく、時間しか掛からないがなぁ!」
ユロイに任せ、私たちは空中に足場を創りながら哀流君を探すために教室から出ると、隊長──シージンが
その声を背にし、哀流君の所へと急ぐことにした。
(──魔物に目を付けられなきゃいいけど……)
そんな不安を考えながら……。
※ ※ ※
ようやく先輩たちから逃げ切れた俺は、銀夜と大通りを歩いていた。
相変わらずこの夕方という時間帯は人の行き来が多い。
会社帰りやら学校帰り、子供の迎えなど、色んな目的で動いてるんだろうと思う。
今日は俺も銀夜もバイトがなく、帰ってからテスト勉強だ……。だけどその前に、──腹減ったから何か食おう! と言い、ファストフード店に向かってる途中だった。
目的地が近づいた。
ちょうどお腹が空く頃なんだろうと思える程に、老若男女と様々な人たちが入店しようとしていた。
その時──
立っていられない程の大きな振動と同時に、段々と太陽が遮られていった。暗くなる時間じゃないにも関わらず、薄暗くなるように空全体が闇に覆われてきていた。
周囲の人たちも変に思ったらしく空を見上げ、「今日、皆既日食だっけ?」「えー……。そんなの言ってなかったけど……?」「最近流行りのゲリラ的な天気とか?」「俺、傘持ってきてねーよ……最悪……」「ママぁ〜。もう夜なのぉ?」「う〜ん。何だろうねぇ」「──お? 結構水滴が落ちてきたぞ」「やっぱゲリラ豪雨っぽいな」「そうだね──ん? え!?」「どうしたんだ……!?」「おい!? これ雨なんかじゃねーよ!!」
──血だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
叫び声が響き、俺と銀夜のいる周辺の人たちもパニックになっていた!
だけど、不思議なことに俺は周りがパニックになるに連れて冷静に考えられるようになっていた。
まるで、体験した事があるかのように──。
「哀流!! なんだよこれ!! 何で空から血が降ってくるんだよ!?」
銀夜は激しく動揺を見せ、俺の腕を掴んだ。
さらに追い討ちをかけるように、複数の人間の四肢が鈍い音をたて落ちてきた。周囲はさらに混沌になり、パニックは伝播していた。
それを嘲笑うかのように、空の漆黒から、それは降りてきたのだ。虎の様な生き物に翼が生えた物、鳥の翼の付け根から細く鋭い手が生えた物、大蛇から複数の羽が生えた奇妙な生き物が複数現れた。
その大半は小さくとも3メートル以上はあろうかという大きな物で、縦横無尽に飛び回ると、周りにいる人間に襲いかかっていた。
地上にも、漆黒で一つ目の狼、骨のみで形成された
眼光が鋭いアンデット。地中を這い、地上に出てくると同時に、目の前の親子を丸呑みにした背中に鋭利な外皮を持つ巨大なワニ。そいつらは人間を蹂躙していた。
その光景に、呆然としている銀夜は、ただ立ち尽くし、自分を目的としている狼に気付いていなかった。
「銀夜ーーーー!! ボーッと突っ立ってるな!!」
咄嗟に俺は銀夜を突き飛ばし、庇っていた。
たけどその行動で、右足を噛まれ、後方の建物へと投げ飛ばされてしまった。背中に激痛が走り、体を動かせないでいると、何かを感じたのか、目の前には狼、骨、空を飛んでいた虎が俺に視線を集めていた。それはゆっくりと近づいて来ると、取り囲み獲物を得たとばかりに飛びかかってきた。
その光景は悲惨で、哀流の右腕には狼が噛みつき、虎は左太腿に牙を食い込ませ、骨のアンデットはその鋭くした右手で胸を貫き、哀流を絶望へと向かわせていた。
「ぐぁぁぁ……く……そッ。俺は死ぬのか……。でも、銀夜が無事でよかった……」
哀流は大量の血を流し、意識は段々と薄れてきていた。その薄れ行く意識の中で、友人の銀夜が近づき今にも崩れそうな顔で必死に声を掛けていた。
だが、それは哀流には見覚えのある、経験のある光景であった。大事な仲間に囲まれて……優しい幼馴染が大粒の涙を流し、自分の名前を何度となく呼んだ光景──。
『哀流……哀ル……アイ……ル。──アイルー!!』
その瞬間に、明確に思い出した。
あの時、大事な仲間、幼馴染を残して死を選び、悲しませていた事を……。
全く後悔がないと言ったら嘘になる。
仲間を残し悲しませ、大変なことを託してしまったこと。
もし、また戻れるのなら今度は必ず仲間と世界を変えると思っていたことを──。
ユイとスタルは哀流の魔力を追い、その場に急いで向かっていた。空中から目にしていたが、魔物はそこら中で暴れ、人を食い、殺し、蹂躙していた。移動している最中にも、複数の魔物に襲われた。それを排除しながらようやく哀流の姿を捉えた!
だが──
「スタル!! 哀流君が!!」
私は焦ってた。
魔物に見つからなければいいと思っていたのに、その思いとは裏腹に、今にも食い殺されそうな姿を目撃したからだ。スタルもそれに気付き、助けに入ろうとしていた……。
だけど──
「どうしたの!? 早く行かないと!! 哀流君が殺されるわ!!」
スタルに言ったが、動こうとしなかった。
なぜ? という疑問を浮かべながらも、私だけでも助けに──と思ったが、それは杞憂に終わっていた。
なぜなら、今にも食い殺されそうな哀流君から膨大な魔力を感じたからだった。
その瞬間だった──小さく声が聞こえてきた。
「お前ら……。邪魔だ……!」
その言葉と同時に、アイルに攻撃を与えていた魔物は一瞬にして弾け飛んでいたのだ。それを目撃したユイとスタルは焦りがなくなっていた。
「はぁ、どうやら大丈夫そうね……」
「そうだな。記憶が戻ったのだろうな」
「でも、戻ったばかりだから、補助はしないとね!」
「分かっているさ。戻っても以前の様に扱えるかは別問題だからな……」
そう話をまとめると、2人はアイルの元へと降りていった。
「おい! 哀流! 大丈夫か? 俺のせいで……色々噛まれて、なんか胸も貫かれたりしてたけ……ど? あれ? どういうことだよ……傷がなくなってるじゃねーか……」
「……ん? あ、ああ……。なんて説明したらいいかなぁ……」
「そのまま伝えればいいんじゃないかな?」
「そうだな、いずれこの地球の人間知ることになるんだからな」
言葉を選んでいると、その声と一緒に、空中から2人の人影が降りてきた。
それを見るなり銀夜は驚き、名前を呼んだ。
「速屋先輩!? 剣崎先輩!? 何で空から!?」
驚きを隠せない銀夜は、俺と先輩に交互に視線を送ると──どうなってるんだよ! と俺に聞いてきた。
最初に口を開いたのはユイだった。
「哀流君。記憶が戻ったんだよね?」
「……じゃあもしかし速屋先輩も元リスティラードの人間なんですか?」
「そうね。私だけじゃなく、こっちの剣崎主将もリスティラードの人間よ」
「でえー、因みに言うと、五里島主将もそうだよ。まぁまだいるけどいいや」
なんか面倒くさくなったんだろうと思った。
俺もそれ以上は聞くことなく、話を進めた。
「でもどこから話せばいいか……」
「最初から話してあげればいいんじゃない?」
速屋先輩がそう言うので、話そうと口を開いた時、剣崎先輩が、俺たちに向かいため息を吐いて言った。
「……ユイ。それは今じゃないだろ……。とりあえずさっさと、この周辺を片付けるぞ! もし、小鳥遊も
戦えるなら一緒に片付けるぞ。出来そうか?」
「……前と同じ程には魔法は使えないと思う。さっきのはたまたま魔力が爆発的に出ただけで、コントロールは出来なかったから」
「そうか。なら、その辺りに隠れてろ。ユイ! 結界魔法を張ってやれ。ついでに、小鳥遊とその友人の周囲に近づく魔物を倒してくれ。ここは僕1人で片付ける! これ以上死者を増やさせはしない!」
スタルの指示に従い、ユイはアイルと銀夜に結界魔法を施すと、周囲への警戒を強めた。
「──たく……。散々食い散らかしてくれたなぁ! クソ魔物ども!! お前らを一掃してやろうじゃないか!」
スタルは怒りの声をあげ、まだまだ湧いて来る魔物に目を向けると、右手に持つ竹刀に魔力を流していた。
そして──
「
それと同時に右手に持つ竹刀は、一気に青白い光に包まれ弾けた!
するとそこには、青みを帯びた、リスティラードでは珍しい鞘に収まった刀が姿を現した。
それを目にしたユイは、──久しぶりに見たわねそれ……。と言った。
「まぁ、この地球ではまず、このリスデュランを使う様な事態はこれまで起こってないからな……。本来なら、起こらないのが1番なのだがな……」
そう言いながらも左腰に構えると、前方に湧いて来る魔物に向けて一気に抜刀した!
「──
その瞬間! 真横に薙いだそれは、空中に無数の青白い光と轟音を放つと、前方から湧いてきていた魔物を一瞬にして塵にしていた。
空中にはその残滓が残り、雷が弾ける音が響いていた。
「さすがね……。抜刀術を使わせたら圧倒的ね……」
「……抜刀術は俺が剣士である事を証明する為の重要な能力だからな」
俺は思い出していた。
あの時、リスティラードで準魔王ゼディーと戦っている最中、別の場所で他の魔物を葬る、空を明るく照らす程の青白い光と、空気を伝う轟音が自分の体へと伝わっていたことを──。
一緒に戦っていた輝光剣術を使うイスカが、──この雷剣は、天才と言われる剣士、スタル・ディサルークさんの抜刀術! 私もあの人に追いつきたい……。と言っていた。
前方の敵を殲滅したスタルはユイの方にも数体近づいていると伝えていた。ユイは、分かってると言わんばかりに聖白魔法を構築していた。
その直後! 地中から這い上がってきた特殊な外皮を持つ巨大なワニは、その外皮により、ユイもろともアイル達を切り裂こうとしていたのだ。
だが、それはユイの魔法によって無と化していた。
「──
その発せられたひと言により、ユイを中心とした半径10メートルの地面から、無数の白い槍を生み出すと巨大なワニを串刺しにし、その周囲に迫ろうとした狼や虎の魔物をも捉え、その体を貫き消滅させていたのであった。
不思議なことに、その槍は人には一切の怪我を負わせることなく、逆に、怪我した者を治癒していたのだ。
「……速屋先輩、スゲーな……。聖白魔法って確か、『教会から聖なる刻印をもらった人のみが使えるんだよ』ってメシアが言ってた……てことは、先輩が聖女!?」
アイルは以前仲間であった、最年少の少女の言った言葉を思い出すと、大声とともに目を丸くして分かりやすく驚愕していた。
その分かりやすさに、ユイは頬を膨らませると──
「悪かったわね私が聖女で! でも哀流君、失礼よね? 私、怒ってもいいかな!!」
──もう怒ってるでしょ……。と思いつつも口に出さずに呑み込んだ。
そんな掛け合いに、銀夜は落ち着きを取り戻したらしく、──哀流は哀流だなぁ……。と声に笑いを含ませ言った。
まぁ俺は純粋に驚いただけなんだけど……。
ちょうどその時、周辺の魔物を片付けた剣崎先輩が、俺たちの方へと来ていた。
「何はともあれ、無事でよかった。強力な魔物は現れてないから助かった……」
「本当に……。でも、もし哀流君が思い出してなかったら危なかったけどね」
剣崎先輩の安堵の声に応える様に、速屋先輩も俺に視線を向けながら安心した笑顔で言ってきた。
ようやく慣れてきたのか、銀夜も続けて口を開いて質問の答えを俺を含め、3人に聞いてきた。
「それでなんだけど、これは一体どう言うことですか? 魔法とか剣とか地球ではとか、なんか転生ものの話にきこえるんですけど……これって──」
そう銀夜が言おうとした時、これまでにない程の大きな揺れと、轟音が響き渡った! 先輩はもちろん、俺も銀夜もこの全てを破壊しそうなほどの現象に、今までにない恐怖が湧き上がってきた……。
だけど、俺にとってそれは、今までにない恐怖ではなかった。
感じたことのある恐怖、死を覚悟した恐怖、仲間を悲しませる元凶となった恐怖だった。
空には黒い渦と、空間を切り裂く罅ができると、1つであり、1人であり、1体の黒い人影が現れた。
──見覚えがあった。
───記憶が回帰するまで忘れていた。
────最悪だった。それは災悪だった。
全身を締め付けられる程のプレッシャー……。
貫かれた経験からくる胸への疼き……。
歯を食いしばり──
ようやく言葉発することができた──
「準魔王ゼディー!!」
その俺の言葉は、先輩たちをも巻き込むことになる運命の始まりだった。
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