第34話 真面目な話は!?
こうしてとんでもない状態から始まったが、内容は至って真面目になるはずだ。
──きっとなるはず……。
漸くひとまず落ち着いて、再び自己紹介から始めようとした時、メシアが今更ながら気付いた様に両手を──ポンッ! と合わせた。
「──戦闘から終わってそのままの格好で来てましたね……そう言えば……」
本当に今更ながらだが、そう言われるまで何とも思っていなかった。
戦い慣れというのは怖いもので、アドレナリンが出ていたから、それに気を使うこともなかった。
俺と剣崎先輩はいうほどボロボロでは無かったが、ユイ先輩とミヤさんは露出が多くなっている。
だが、未だにアドレナリンが分泌されているのか、2人とも気にしていなかった。
──が、考えてみれば陛下の前にその状態で現れるのは不敬ではないかと思う。
メシアは言葉を続けた。
「ユイさん、ミヤさんお着替えしましょうか。私も着替えますので……」
笑顔で2人に促すと、陛下に許可をもらい着替えに向かおうとした。
「──あの、メシア……。俺と剣崎先輩はいいのか?」
そう尋ねると、──う〜ん……。と言い口元に指を当て言った。
「着替えてもいいですけど……、私の服着ますか?」
「……え?」
「だって、私の服を着てもらうんですよ? 私の服は今の体型と、成長に合わせてそれなりのサイズが用意されているので、お2人とも大丈夫ですけど……アイルさん達もスカート履きます?」
ニコニコして言っている。
「私は別に構いませんよ……ふふっ」
恐らく想像をしたんだろうなと思う含み笑いが混じっていた。
「──いや、遠慮しとくよ……」
剣崎先輩も激しく頷いている。
その後、3人は出て行き数分が経ち戻ってきた。
メシアは最初に着ていたドレスとは違い、ウエディングドレスを彷彿させる様な純白のドレスを着ている。
ユイ先輩は薄水色のワンピースを着用し、ミヤさんは照れながら、黒っぽいシャツに真っ赤なタイトなスカートを履いていた。
メシアは最初と同じく俺の隣に座ると、椅子を微妙に寄せてきた。
ユイ先輩も寄せてきた。
そして、同時に──
「──アイルさん! この純白のウェ……じゃなくてドレス似合いますか?」
「アイル君! 私のこのワンピース似合う?」
俺を挟みお互いに見合っている。
「「…………」」
2人は沈黙している。
その光景に、ミヤさんは大きなため息を吐き2人に言った。
「メシア様……ユイ……お願いだから話しを進めよう……」
2人は周りを見回し、皆んなが待っていたことを思い出すと、メシアは咳払いをし俺に自己紹介の続きを促してきた。
──漸く話が進みそうだ……。そう思い口を開いた。
「──俺はメシアの仲間の
その紹介を聞いて、その場にいた人達が騒めいていた。
それを感じた俺は、メシアに疑問の視線を向けた。
すると、「──はははは……」と渇いた声を出しながら複雑な表情を見せている。
そのメシアに続くように、ミリーザ陛下がため息を吐きながら言った。
「──君があのアイル・シシリスだったか……」
「あの……どう言う──」
と言おうとした時、メシアが耳元で言った。
「──(アイルさん、ほら! アレですよ! 以前言ってたじゃないですか、私と会った時に隣のグリート王国の首都〈グリック〉の3分の1を破壊したとか……、魔力の制御を間違えて町を半壊にさせたとか、水瓶を崩壊させて村が水浸しになったとか……ゼディーと戦ったことでさらに有名になったんですよ! そこばっかり)」
──なるほど……。以前ユイ先輩も言っていたような気がする。
俺は有名だと……。
しかもメシアの言うには、ゼディーと戦った事で、そればかりクロースアップされたらしい……。
「まぁ……そのアイル・シシリスです……」
そう返事を返すと……、──という事はという様に、陛下が言った。
「──それでは、君が空間魔法の使い手、という事だな?」
「おっしゃる通りです。ですが、今現在こっちでは、使い手が一人減ったということになっている為、あえてここまで、魔族、魔王側に空間魔法を悟られない程度に調整しています」
「それではどうやって戦ってきたのだ? 空間魔法を殆ど使わずここまでどうやって?」
これに答えるように俺はゆっくり口を開いた。
「──ユイ先輩にかなり助けられました。その中で、新たな魔法を使えると教えてもらいました」
「新たな魔法とは?」
「──先程も言ったように、俺はこっちで死んで、地球に転生しました……。そして、地球にも存在していた魔力を得たことにより、リスティラードでは使えなかった魔法を使える様になりました。それは、【
俺のその問いかけに、ミリーザ陛下は「──やってみよ」と言い、静かに眺めていた。
俺は「──その前に……」とひと告げ注意を促した。
「これから、このテーブルクロスを布の槍に変化させます。その際、このテーブルクロスに触れないでください。触れると、その触れたものまで一つの物質として創造錬金に含まれてしまいますので……」
そう言うと、各自それぞれ触れない程度の距離を取っていた。
ただこれは、テーブルクロスの様なひと目見て、ある程度の大きさが決まり、その範囲が視認できる物に対しては一つの物質とされてしまう。
例えば海の様な端が見えず、その大きさを理解できなければ、視認できる範囲を切り取らないと創造が出来ない。
つまり、形が決まっている物に関しては全てが一つの物質となってしまう。
今の段階では調整が出来ない。訓練を重ねれば、それも可能になるかもとは思うが……。
そんなことを考えながら俺は実践して見せることにした。
テーブルクロスに手を翳し、創造錬金で槍をイメージする──
出来うる限り硬度を高めながら柔軟性を持たせる──
このイメージを強固なものとし錬金する──
これに反応し、魔力がテーブルクロスを包み込む──
そして光を帯びるとその姿を変え始めた。
その時俺は、気付くのが遅れてしまった。
メシアのウエディングドレスの様なスカートがテーブルクロスと重なってしまっていたことに……。
これは一つの物として捉えられ、隣のメシアのドレスまで光っている……。
そして俺は間の抜けた声を出していた。
「──へ……?」
これに続きメシアも声を出した。
「──えっ……???」
次の瞬間──
メシアの体から槍に形を変えていく布を目撃した。
数秒後──メシアは一糸纏わぬ姿と成り果てていた。
「──!!!!!? きゃあああああああああああ!?」
大声で叫ぶメシア……
これを見たユイ先輩は「──私も脱ごうかしら……」と言っていたがミヤさんに叩かれている。
騎士は言う。
「──陛下、牢屋を用意いたしましょう」
後ろの女性は言う。
「──最っ低……」
老人は言う。
「これはやってくれたのう……」
恐る恐る陛下をみる。
もう顔全体が怒っている……
「──責任を取らなかったら無期懲役でよかろう」
静かに怒りを込めて言う。
(──ちょっと待って! これは不可抗力なんだよ!)
心の中で叫ぶ。
言葉に出す。
「──違うんです! こんな事しようと思ったわけじゃ!!」
陛下は再度口を開く。
「私の愛娘、メシアに興味がないと言うのか!?」
どうしろと!? 俺はどうしろと!?
どうしよう……真面目な話が進まない!!
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