第29話 馬頭との戦闘
以前戦った牛頭に比べ、この
エミラの事を悪く言われた時にはベルファに怒りを露わにしたが、その後は冷静に判断をしていた。この事からも、牛頭に比べると知性は幾分か高い様に感じる。
これに
これに最初に動いたのは、馬頭だった。
地面に叩きつけてある漆黒の大斧を引き抜いた瞬間──!
途轍もない速さで横に薙いでいた!
その先からは、複数の漆黒の刃がアイルとスタルに襲いかかっていた!
その想像の上をいく素早さに、対応が遅れた2人は避ける事はできず、当る寸前にどうにか魔力の強化により、ダメージを軽減する事はできた。
だが、完全に防ぐことは出来ず、後方へと吹っ飛ばされ、大きな音と共に後方の結界に背中を強打していた。
「──がっ!!」
「──うぐッ!」
アイルとスタルは強打しつつも、体勢を崩すことなく踏み
「剣崎先輩……アイツの攻撃速度、尋常じゃないですよ……牛頭も動きは速かったですけど、ここまでではなかったです……」
「──そうか……。僕もなんとか防御できたが、まともにくらっていればタダでは済まない……。魔力消費は激しくなるが、間に合わなかった時のリスクを考えると、常に魔力の強化で全身を覆っていないとダメだ……」
スタルの言葉に頷くと、全身に魔力強化施した。
「やっぱりエミラが来る来ないに関わらず、早く決着させないと、その後の戦いにも影響しますね……」
「ああ、だがアイツが大地魔法の他に何を使用するか分からない以上、無闇に踏み込めない……その上あの速度だ……」
その会話を聞き取り、馬頭はニヤつきながら言ってきた。
「心配しなくてもよいゾ。我は大地魔法しか使わない」
馬頭の驚きの発言に、2人は耳を疑った。
まさか相手の方から手の内を明かすとは思わなかったからだ。
だが当然、素直にこれを信じるわけにはいかない。
「……どういうつもりだ? 敵である僕達に手の内を明かすとは……それを信じると思うのか?」
「信じる信じないは貴様達の自由だ。ただ言っておくゾ。我が手の内を明かしたところで貴様ら相手になんの問題もないのダ」
その自信に満ちた言い方に怒りを覚えながらアイルは言った。
「そうかよ……相当な自信家だな……。てめぇ、俺達を甘く見過ぎだぞ?」
「では試すとしようカ──」
馬頭は低い体勢を取り、大斧を担ぐと、アイルとスタルを見据えていた。
「──小鳥遊! 来るぞ!」
「はい!!」
2人は戦闘態勢を整えた────が……
すでに馬頭は目の前から姿を消していた───!!
「──!? い、ない……」
アイルの驚愕をカバーしようと、馬頭を捉えるため、スタルは周囲に反応を巡らせていた。
だが、捉えるより先に、音を立てず2人の真横に移動していた。
「──どうしタ? すでに見失っているではないカ? この程度にもついてこれないノカ?」
言い終わるか終わらないかくらいにすでに斧は薙がれていた!
「「────!!!?」」
───ドゥガァン!!!!
大きな音と共に2人は城壁方向へと弾き飛ばされていた!
全身をを強打しながらも、アイルとスタルは、なんとか立ったままの状態で耐えていた。
「……け、剣崎先輩、さっきの見えましたか?」
「──残念ながら……追えなかった……。強化のおかげでダメージの軽減は出来た、が、構える体勢まで見えていてあの速さ……どうにかしないとこの戦いの勝率は低くなる……」
この言葉を聞いてか、馬頭は面白がるように見下していた。
「所詮、エミラ様の力の前では無能である。我は崇高なるエミラ様により創られた存在。貴様達に負ける要因はなイ」
馬頭はこれを言い終わるや否や、大地魔法を2人に向けて放っていた。
それは2人の足を瞬時に地面に縛り付け、両手をも城壁に貼り付けていた。
「──!? 大地魔法は壁にも使えるのかよ!」
「……くッ! 壁は大地が原料と言えるからな……おかしい話ではない……か」
アイルとスタルはどうにかして抜け出そうとするが、それはあまりにも強固であった。
アイルは創造錬金で反撃をしようとするが、魔力をうまく練り上げることができなかった。スタルも同じく雷魔法が発動しなかった。
「無駄であル! 我の大地魔法に囚われた者は、その魔力を吸収されル。後は我に一方的に殺されるだけダ! ──だが、その前に、我の配下になったあの騎士達が、あの女達を始末するの見ようでわないカ!」
馬頭はそう言うが、アイルは聖属性を扱うユイとミヤが押されるとは思っていない。
それに関してはスタルもそうであると言える。
だが、2人の現状は目を疑うものであった。
スケルトン騎士による止むことない攻撃に、全身傷だらけになり、衣服もボロボロとなっていた。
相手がアンデットにも関わらず、聖属性の魔法も発動はするものの、大したダメージを与えられていなかった。
「一体どう言う事だよ……!? あの2人は聖女の力を持っているのに……」
アイルの驚きにスタルは周囲を見回していた。その後に、気付いたように口を開いた。
「──なるほどな……」
スタルのひと言にアイルは聞き返した。
「どう言う事ですか? 剣崎先輩?」
「この黒煙の結界は聖属性とは真反対の闇属性だ……。その上、聖属性に特化した闇魔法を施し、聖の力を弱体化させている……言うなれば、ユイの【
この解答を馬頭は肯定すると、続けて言った。
「──人間、素晴らしい観察力であるゾ! これこそエミラ様の力だ! その上この結界内に発動される魔法の魔力そのものを弱体化させる様に構築しておられる。さらにその魔力は我らに変換される。つまり、貴様らの纏っている魔力は徐々に弱体化し、我らは強化される。貴様達に取っては死地であるのダ」
だが、アイルは疑問に思っていた。
ユイから聞かされているエミラの使う魔法は《血魔法》と聖教会リサルから奪った《符魔法》のはずである。なのになぜ、《闇属性》を扱うことができるのか? という点であった。
「剣崎先輩、俺分ねーんだけど、ユイ先輩に聞く限り、エミラの使う魔法は《血魔法》と《符魔法》のはずなのに、何で《闇属性》の結界を創れるのか……」
「それは恐らく、符魔法で操る配下の中に闇魔法を使う者がいるのだろうな……。その辺りが、恐らく《符魔法》が禁忌とされる理由なのだろう」
「そんなの最強に近いじゃねーか……。殺して操れるなら全ての魔法を操れるって事ですよね?」
「──そんな単純な話ではないと思うぞ……。大きな力には代償が必要だからな。符魔法と自分の属性以外の魔法を使うのだ、かなり膨大な魔力が必要だろう。しかも、自分が殺した相手でなければならないはずだ……。だから全ての属性はほぼ無理だろう。だが今は、この状況をどうにかしなければ……ユイもミヤもあのままではまずい……。この黒煙の結界をどうにかしないと埒があかない……」
段々と、身動きが取り辛くなっていく体を、どうにか動かそうとするが力が入らなかった。
目の前では抵抗しつつも、スケルトン騎士に攻撃を受け、先ほどよりも全身の衣服がボロボロとなっている2人の姿があった。
アイルとスタルは焦りを感じながら、未だに状況を好転させる糸口が見えないでいたのだった。
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