異世界往還〜地球に転生した俺は再び異世界に戻り今度こそ世界変える〜

ハクアイル

第一部 始まりのリスティラード

プロローグ

 「アイル!! 次が来るぞーーー!」

  そうクールアに言われた俺は瞬時に横に飛び退いていた。


 先程までアイルのいた場所には、漆黒の槍が貫き、地面が抉り取られ、土埃を上げていた。


 その少しのタイムラグを狙う様に、大斧を持つ大柄なヴェガが準魔王ゼディーに向けて振り下ろしていた。

 しかし、ゼディーはそれを難なくかわすと、攻撃魔法で距離を取ろうとした。が、それをさせまいとメシアは対抗する様に最大火力の爆撃魔法を撃ち相殺した。


 ここぞとばかりにクールアは魔力槍術を放つと、それに続きイスカも輝光剣術で目で追えないほどの剣戟を繰り出し、追撃を加えていた。この連続技に押されたゼディーは片膝をつき動きを止め、その隙を逃さずアイルは空間もろとも斬る魔剣戟を繰り出した。

 

「ゼディー!! ここで終わらせる!! 空剣スギード!!」

 

 そのアイルの刃は相手の防御を貫き、消滅させるはずであった。


 だが、魔王に匹敵する準魔王ゼディーはその攻撃を最小限のダメージで受け、自らの最高魔法である【瞑葬魔法メイフィル】を放っていた。漆黒の槍の形を取るその刃は残酷にもアイルの胸に大きな穴を開けていた。

 

「ぐっ……。さすがに、準魔王だけはあるな……。ただじゃあ終わらないってわけかよ……」

 

 大量の鮮血を流しその場に倒れ込みながらも魔力によって命を繋いで思考を巡らせていた。

 

(コイツをこのままにしたら、ルティア達は殺されるかもしれない……。どうにかしないといけねーな……)

 アイルの表情には何かを決めた強き意思を感じられた。

(覚悟……か……。コイツらと一緒に……色んな人を助けたかった……無責任な気もするけど託そうか……。この状況だったら許してくれるかな……ははっ)

 

 そんな覚悟とは知らず、ルティアは胸に抱える様にアイルに迫っていた。その顔には今にも溢れそうなほどの涙を溜めて……。


 周囲の仲間もアイルの事を心配しながらも次の攻撃に備えて警戒していたが、その攻撃は来ることは無かった。

 アイルの右手が青白く光り始めた。仲間はそれを察すると──

 

「アイルーーーー!! 何をしているーーー!!」

 

 そう叫ぶのはクールアだった。離れた場所からよく届く声で、察しのいい者は彼が何をしようとしているのかが分かったらしい。他の仲間達も次々と声を上げていた。


「ダメだそれは! 助からない!」

「その覚悟には後悔はないのか……!?」

「アイルさん……。どうして……? もっと一緒に居たかったのに……」

 

 その悲痛とも取れる声はアイルの元へと届き、これから自分が取る行動の結果に対して残されるであろう仲間に口を開いた。

 

「イスカ……ヴェガ……メシア……悪いな……。クールアもルティアも本当にごめん」

 

 そう言うと、アイルは自身の残りの力で準魔王ゼディーに最大魔力を込めた魔法を撃ち込んだ。

 

「──空間接続スペクション!!」


 そのひと言で、アイルの胸を貫いた魔法の残滓が、術者であるゼディーとの間に空間回路を生み出していた。お互い、青白い光に包まれたその回路によって、自身も瞑葬魔法メイフィルに巻き込まれ、2人は肉体と魂を崩壊へと向かわせていた。


 その魔法は、相手の攻撃力を利用し術者本人をも巻き込む最上級の空間魔法であり、そのリスクと引き換えの防御不能魔法であった。

 準魔王ゼディーは屈辱と言わんばかりに顔を歪ませ、断末魔と取れる言葉を放った。

 

「アイル・シシリス!! 貴様ぁぁぁぁぁーーーーー!!」

「……へっ……。仲良く逝こうぜ。お前は危険だ……。準魔王ながら魔王、魔神クラスの魔法を使うんだからな……。でも、これで終わりだよ。俺とお前はここで消える……。この先は無い」

 

 その言葉を聞いたゼディーは収縮する空間に潰されるように、段々と小さくなる空間ごと呑み込まれた。

 先にゼディーが消えると、それに続く様にアイルの意識も薄れていった。


 その薄れゆく意識の中で、彼を胸に抱きかかえ、泣き叫ぶ少女の姿があった。

 その周囲には残りの仲間も集まり、アイルは一人ひとりの顔を見送りなら最期の言葉を紡いだ。

 

「──イスカ……気の強いお前がそんなに泣くのかよ──ヴェガ……大きな体のお前に涙なんか似合わねーぞ──メシア……手で顔が見えねーよ……でも……泣かせて悪い──クールア……相変わらず表情が読みにくいな……でも体震えてんな……それでルティア……ごめん……最後まで一緒にいられなくて……。お前の……大泣きを見たのは……俺の……親が……死んだ時に……隣で……一緒に…………泣いて…………くれた…………以来だな──」


 その言葉を言い終わる頃には、アイルの身体の大半は崩れかけ、今にも全てが消え去ろうとしていた。

 ルティアは言葉にならない程の声を出して、無駄だと解りながらも必死に最大の回復魔法を掛けていた。だが、一切の回復は見れず、時間は残酷に過ぎるのだった。

 

「アイル……アイル! いやだ……いやだよ!! いやだよぉぉ……アイ…………ル──」


 その言葉は沈みゆく意識の中で、何度も幾度もこだまを繰り返し、真っ暗な水の底へ向かっていった。 


 ──アイツらを泣かせちまったな……まだ一緒にいたかったな……アイツら……──誰だ? 


 懐かしい感じはする……でも誰だ? 


 俺の名前呼んでた……誰だ──? 


 アイ……流……哀流アイル? 

 何なんだこれ? 夢? そう頭の中で自問自答を繰り返していると別の声が響いて来た。


 激しくドアを叩く音と共に──。

 

「お〜い! 早くしねーと高校遅れるぞーー!! 早く起きろよ──哀流ーーーー!!」

 その声は──懐かしい夢?? から現実への覚醒を促した。


「なんで懐かしいと思ったんだろ……。変な夢だな」


 哀流は1人暮らしのアパートのベット上で、頭上にあるスマホを確認した。

 瞬間に自分が爆睡をして寝坊している事に気がついたのだった。


「やっば!!」

 急いで起きると、ついさっき見ていた夢の事を忘れ、素早く準備を済ませて外で待ってくれているであろう友人の元へと急いだ。

 朝食は取れてない。だが目の涙あとは確実に消した。


「すぐ行くから待ってくれ!!」

「早くしろよ〜!」


 手早く準備を済ませると、急いで玄関に向かったのだった。

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