番外編 《お姉様大好きリーセア来る!?》⑭

 シャルの声色には静かな怒りが隠れている。

 だが、決して二股をしていない俺は堂々と返す。


「──そ、そんなことあるわけないだろ!」


 声が上擦った。

 これではまるで嘘をついている様に聞こえる。

 そう思ったが、時はすでに遅かった。

 

 シャルが持っているティーカップが割れた。

 持ち手だけなら分かるが、全部が割れた。

 明らかに何かしらの力が影響しているとしか思えない。


「い、いや! ほ、本当にしてないんだよ!!」

小鳥遊たかなしよ……それではまるで誤魔化している様にしか聞こえんぞ……」


 ──焦る俺。

 これは立場が悪くなりそうな予感がする。


「誤魔化しているのですね……。これはお仕置きが必要ですかねぇ……?」

 フェピちゃんは今にも飛びかかりそうな感じ。

 シャルは視認できるほどの魔力を沸々とたぎらせている。


「本当にそんなことはしてないんだよ! 信じてくれ! シャル!!」


 焦る俺の姿を見ながらも、真意を見抜こうとするシャルが見据えてくる。この時隣から、フェピちゃんが口を開いた。


「──シャル。この者は嘘を言ってはいない。少し、後ろめたさの感覚は伝わってくるが二股はなかろう」

「フェピちゃんがそう言うなら真実なのでしょう」


 シャルの怒りが収まっていく。

 だが、ジッと見る目は変わらない。


「二股ではないことは理解しました。ですが、フェピちゃんが感じていた後ろめたさとはなんですか? 隠しても無駄ですよ。フェピちゃんは精霊王なので、真意を見抜く力を有していますので」


 これにこれまでの経緯を説明した。


 揉んだと言うのは、《肩》をであって決して向こうのほうではないこと。初めてをもらったと言うのはユイ先輩に至ってはリンクであり疚しい考えはなく、メシアに至っては不意な事故で唇を奪ってしまったことなどなど……。


「……なるほど、理由は分かりました。つまり、必然とラッキーの融合と言うことですね」


 まぁそう言うことだが……何か言葉に角がある。

  

「わ、分かってくれたのならいいんだけど……」

「でも、もし二股をしようものなら──」


 シャルの目つきがキツく鋭くなっている。

 そして笑顔……怖すぎる。


「──再起不能にしますよ?」


(──え? 何を……!?)


 口には出さないが、きっとアレだと思うけど……。

 ──よし。触れずにいよう。


 シャルは立ち上がり、「それでは私は失礼致します」そう頭を下げて部屋を後にした。

 シャルを見送ると、剣崎先輩が再び口を開く。


「──小鳥遊よ。お前は何かとんでもない娘に目をつけられたのではないか?」

「──……ええ。そんな気がします」


 リーセアとは違う感じで疲れる……。

 真っ当なことを言い、思慮深い分シャルの方が色々大変そうな気がする。


 俺と剣崎先輩は、明日からリーセアに鍛えられる。

 恐らく地獄を見る事になるだろう……。


(──シャルはきっと俺の行動に目を光らせるんだろうな……。これから大変になりそうだ……)


 俺は地球に戻るまで、無事でいられるのだろうか……? 不安しかない……。


 きっとリーセアは手加減は一切しないだろう。

 まぁ、強くなる為にはそうしてもらった方がいいが、──単に強くする! と言う理由では絶対ない。


 ユイ先輩絡みで確実にキツくなる。

 リーセアが不適な笑みを浮かべる姿が目に浮かぶ。


「あ〜……。本当に気が重い……」


 心の底から口に出す。


 しかし、それも乗り切らないといけないだろう。

 地球に戻れば恐らく、このリスティラードより戦いは厳しくなるだろう。

 

 剣崎先輩が来てから時間が経っている。

 刻一刻と状況は変わっているはずだ……。


「小鳥遊。気が重いのは分かる。だが、地球の現状はお前が想像するよりも悪い。魔物の数も圧倒的に多い。だから、こちらで鍛えられるだけ能力の向上を目指した方がいい。変態だがリーセア王女は間違いなく最強の空間魔法の使い手であるには違いない」


「ええ、分かっています。……変態ですが」


 窓を開け、夜空を見上げる。

 星空はこの異世界──、リスティラードでも同じ様に輝く。配列は違うが、月と星々の輝きは地球と変わらない。


 緩やかに風が吹く。

 地球でいう春の風のよう。

 少し肌寒さも感じるが心地よさもある。

 城の周辺の木々から自然の匂いが香ってくる。

 

 そしてリスティラードの匂い……。


 地球に戻れば、地球の匂いがするだろう……。


 リスティラードに戻った時は懐かしさを感じた。

 ──だがすでに地球を懐かしく感じる。

 


 ──地球をこれ以上好きにはさせない──



「──さてと、やるだけやるかァ……!!」



 時間を考えず、大声で叫んでしまった。

 そして、少し離れた場所から──。


「──うっさいわよ! このバカァァァァ!!」


 リーセアが叫び返してきた。


 ──パァンッ!!

 叩かれる音が聞こえた。



「痛い! おかーさまあぁぁーー……」



 ──よし! 頑張ろう!!

 再び叫んだ──、心の中で……。



(──1、2ヶ月後には地球か……やってやる!)




 ──────🔹────◇────◆──────

 


 ここまで読んで頂きありがとうございます♪

 

 《番外編 お姉様大好きリーセア来る!?》はこれで終わりとなります。

 アイル達はここから壮絶な訓練を開始します。


 そしてその先には、強くなり、進化を遂げたアイル達は、様変わりした地球へと戻ります。

 【地球変革編】は来年から掲載しようと考えていますので、その際はよろしくお願いいたします。

m(_ _)m

 



 

 


 

 



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異世界往還〜地球に転生した俺は再び異世界に戻り今度こそ世界変える〜 ハクアイル @Hakuairu

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