第12話 五日目 一方その頃、隣のクラスは……。①



side 大司教オーエン




「――はい、はい、承知致しました。全てはあなた様の望むままに……」


 まだ誰も居らぬ夜明けの礼拝堂で、儂は創造神様の姿を模した石像の前で跪く。創造神様からは跪く必要は無いとお言葉を頂いているが、それでも儂は跪く。


 儂は創造神様を敬愛する信者。

 貧しく小さな村を守りたいと剣を振るい続けた若かりし頃。お与え下さったスキルに幾度この体を救われた事か。

 村が発展したのを見守り、剣を置いた儂は教会の総本山とも言える教国へ赴き、信者となり祈りを捧げ続けていたら……大層な地位にまで昇り詰めてしまった。


 出世には差程興味のない儂が大司教にまで昇り詰めてしまったのには訳があり、それが『神託』というスキルだった。

 『神託』はその名の通り、神の意を伺い、神の言葉を賜われる特殊なスキル。その獲得条件は不明であり、子供から老人まで獲得出来る年齢層も幅広い。ただ、純粋な信仰が鍵であるとは噂されているが……。果てさて、その真意は如何に……。


 このスキルを所持していると、自然と信者の者たちから敬意を抱かれ支持されてしまう。神の代弁者。などと大それた二つ名を付けられる事もあった……。

 そして何より『神託』を持つ物は自動的に次期教皇候補、つまりは教国を統べる王になれるチャンスを得る。これが厄介だった。


 儂は早々に次期教皇候補を辞退させて頂き、教国からも出たので問題ないが、もし今も教国に身を置いていたら……ドロドロの後継者争いに巻き込まれていたかもしれぬ。


 儂はただ創造神様に日々の感謝を捧げているだけ。地位も名誉も何も望まないのだ。


「ふっ……。礼拝堂を貸し切れる特権のみが利点だと思っていた地位が、まさか役立つ日が来るとわ……。それにこんなに短い期間に何度も神託を賜われるとは思わなかった。長生きはしてみるものだのぅ」


 それも儂個人に二度も。

 最初は異界の方々が転移して来た次の日に。

 そして二度目は先程……儂は果報者だな。


 立ち上がり一度深々と石像へと頭を下げ、儂は礼拝堂を後にする。


「果てさて、確か創造神様の仰られていた来訪者の方々は前回の神託の後にあの子らにお願いして指導して貰っているはず……問題は儂の提案に乗って頂けるかどうか……」


 創造神様は案ずる必要はなしと仰られていたが……いや、儂は創造神様の信者。ただ、あなた様の望みを叶える為に行動するのみ。


 略式の祈りをその場で捧げ、そのまま教会の廊下を進み続け見習いシスターの一人に声をかける。


「すまぬが、遣いを頼まれてはくれぬか?」

「オ、オーエン大司教様!? な、なんでごさいましょうか!」

「ほっほっほっ。そう畏まる必要はない。昼過ぎに一部の来訪者の方々を教会に呼んで欲しいだけだ。あぁ、冒険者ギルドにも訪ねて欲しい。手紙は後でしたため渡すので、頼まれてはくれぬか?」

「か、畏まりました!」


 見事な敬礼ではあるが、ここは教会で軍務では無いのだが……これこれ、修道服で廊下を走ったら転ぶ――「きゃーっ」――……遣いを頼む相手を間違えたかもしれぬ。





♢♢♢





side 桜崎まこ



 異世界へとやって来て、今日で五日目。


 あの後、大枝くんの事が気になって皆にも聞いてみたけど……誰も大枝くんの姿を見ていなかった。

 何かのトラブルで彼だけ別の場所に転移させられたのか、それとも…………最悪な想像が私の頭の中を過ぎる。

 いや、死ぬ筈だった私たちが転移した事であのバスの事故自体無くなるはず。そうすればきっとあのバスに乗っていた大枝くんも無事に……。でも、もし……もしもあのバスの事故自体がそのままだったら? そしたら大枝くんは……そんなの……そんなのって……っ!


「――こ、まこってば!!」

「っ!?」

「あ〜やっとこっちに気づいたねぇ〜」

「桜崎さん、大丈夫ですか?」


 美夜子ちゃん、愛衣ちゃん、笹川先生……?

 あぁ、そっか。今は冒険者ギルドに行く前に朝食を食べてたんだっけ。


「……ごめん、大丈夫だから」

「いや、無理だから」

「そうだよ〜絶対なにかあるでしょ?」

「私でも分かりましたよ? 体調が優れないようでしたら、今日の訓練はお休みに――」

「ダメですっ!! 私は、一刻も早くダンジョンを攻略しないと……っ」


 そうだ。考えても仕方がない。

 女神様だって言っていた。試練をクリアしたら元の世界に帰れるって。

 それにもし、もしも大枝くんがあの事故で亡くなっていたとしても……試練をクリアした報酬でお願いすれば……。その為にも、強くならなくちゃ。


「……兎に角、私は大丈夫だから。先に準備してくるね」

「あっ、まこ――」


 強くなる。絶対に強くなって、三年以内に未踏破のダンジョンを攻略するんだ。

 その為の力が……私にはあるんだから。


 私の職業は"聖騎士"。ゲームと同じ職業なのは偶然だろうけど、それでも知識として知っている"聖騎士"と似ていたのは助かった。


 そして何よりも助かっているのはスキル『属性魔法(光)』。この『属性魔法(光)』の最初から使える魔法の中に"浄化"という魔法があった。

 この魔法は使うと汚れが綺麗に無くなる。私達の救世主だ。穢れも落ちるらしいけど……アンデッドに有効かどうかはまだ試せていない。

 異世界に来てからと言うもの、洗濯は勿論の事お風呂にすら入れていない日々が続いている。男子は川で水浴びしている人が殆どで中には気にしていない人も居るらしいけど……匂いがちょっと……。


 ただ、女子は水浴びなんて出来ない。外で薄着になっただけでも男の人の厭らしい視線を感じる子も居たらしいから。

 もしも水浴びなんてしようものなら……考えたくもない。だから、基本的に女子は各部屋の中で濡れタオルで体を拭くだけに留めている。

 せめて頭だけでも洗えれば良いんだろうけど、『簡易収納』の中にしまわれていた荷物の中にシャンプーとかを入れていた子の話によると、荷物からシャンプーや化粧品類なんかの一部商品が無くなっていたらしい。


 なので、現在女子の中で不満が溜まっている人は結構多い。私達も正直に言うとシャンプー類は欲しいなと思っている。

 幸いだったのは、"魔法士"と名のついた職業に就いている子の中に数人、『属性魔法(無)』を持っている子が居たことだ。


 大司教様の説明によると、『属性魔法(無)』のスキルは割と簡単に手に入る部類のスキルだと言う。

 ダンジョンでは魔物や宝箱から"スキルの書"と呼ばれるアイテムが稀にドロップするらしい。『属性魔法(無)』はその中でハズレに入る部類で、"スキルの書"を取り扱っているお店では大量に在庫を抱えている様だ。

 理由は、威力の高い攻撃魔法を発動出来ないから。使える魔法は"洗浄"、"灯火"、"着火"、"微風"、"飲水"などと言った所謂"生活魔法"のみ。しかも、魔力の消費が普通の魔法よりも多いので、ダンジョン攻略などでは使いにくい。


 ただ、それはあくまでダンジョン内やクエストで外にでているときだけで、私達にとってはありがたいスキル。なので、大司教様に『属性魔法(無)』の"スキルの書"を求める子達も居たけど……流石に安いと言ってもそれなりには値段がするらしく、申し訳なさそうに断られていた。


 なので、『属性魔法(無)』のスキルを持っている子は他の子から詰められて忙しそうだ。


 私には"浄化"があるから平気だ。勿論、同じ部屋で寝泊まりしている三人にも説明して使っている。他の子達には内緒だ。美夜子ちゃんの提案で私達だけの秘密となった。

 他にも私と似たような事が出来る子達が居るのと、私達に対する他の女子達の反応が理由だ。


 全員って訳じゃないけど、ここが異世界だからか笹川先生への当たりが強くなっている子達が居る。そして、笹川先生を仲間に入れている私達を良く思っていない子達も……。最近では、一部の女子達が一部の男子達と何やら話し込んでいて良からぬ計画を企てているらしい。


 私はダンジョン攻略に集中したいのに……仲間である筈のクラスメイトにまで気を使わないといけないのは正直堪えていた。


 まだ三日目くらいまでは我慢していたが、流石に朝食を隠されたり捨てられたりとあからさまな事をされれば嫌になる。笹川先生は泣きそうな顔で私達の傍を離れると言ったけど、そんなの認められる訳が無い。何も悪くない笹川先生を見捨てるなんて、私達には出来ないから。

 なので、私達は大司教様に相談して教会の客室の一部屋を貸してもらっていた。


 そして現在、私達四人は冒険者ギルドでパーティ申請を済ましてFランク冒険者パーティとして活動してる。


 二日目に冒険者ギルドの職員さんが数名訪れて、宿屋の一室でそれぞれが冒険者登録をする事になりその際に冒険者についての話も聞けた。


 ・冒険者はF~Sランクまで存在していて、Dランクで一人前と認められる。

 ・基本的に冒険者という職業は自己責任であり、あくまでも冒険者ギルドは依頼主と冒険者の仲介をする役目である。

 ・冒険者ギルドの品位を下げる行為をすると、冒険者ギルドから追放処分を受ける。

 ・Eランク以上の冒険者は一つ上のランクの依頼を受けることが出来る。但し、依頼失敗時のペナルティが重くなり、失敗時は冒険者ギルドからの信用も失う。

 ・冒険者ギルドでお金を預かってもらう事も出来る。

 ・ダンジョンの入場には冒険者登録が必要であり、Fランクの冒険者はダンジョンには入れない。

 ・ダンジョンはE級から存在していて、冒険者ギルドでは自分の冒険者ランクよりも一つ下のダンジョンを推奨している。

 ・ダンジョンで入手した魔石や素材、アイテムは冒険者ギルドで売却出来る。高価な魔道具やスキルの書等のアイテムはオークションへ出品される。


 他にも細かいルールが沢山あるけど、私達にとって重要なのはダンジョンについてだ。

 今の私達のランクはFランク。ダンジョンに入るには最低でもEランクにならなければいけない。


 だから、今日も訓練を受ける。訓練中は王都の外へ出るからついでに薬草採取の依頼を受ける事が出来るから。私達は簡易ではあるが鑑定が出来るので、薬草採取なら回数をこなせるし余剰分も持っていけば貢献度に加算されるので、受けるようにしていた。


 下着の上から一枚シャツを着て、宝箱に入っていた防具を付けていく。職業に騎士と付くからか、私の防具は西洋の軽甲冑。インナーの上からズボンを履いて軽甲冑をパーツ毎に付けるのは正直大変だ。一瞬で防具を付けられる魔道具とか無いかな?


 ようやく防具を付け終わったら、武器であるショートソードを腰に装備して背中に鉄製の盾を背負う。きっと地球に居た頃だったらこんなに軽々と盾を背負ったり出来なかっただろう。

 薄々感じてはいたが、ステータスを与えられてから明らかに体が丈夫になったし力もついた。

 レベルを上げ続けたら、そのうちリンゴを握り潰すことも…………あれ、出来ても嬉しくない?

 少なくとも大枝くんには絶対に見られたくない。


 なんて、くだらない事を考えながら防具の感触を確かめて、問題は無さそうなのでみんなと合流する為に下へ降りる。


 今日も訓練頑張ろう。






♢♢♢





 王都郊外の草原。

 薬草採取はとっくに終わらせて、後は訓練の時間。お昼迄の数時間だけど、それでも十分為になる時間だ。

 何故なら――先輩冒険者が指導してくれるから。


「右側への注意がお留守ですよ」

「はいっ!」

「剣は何時でも振れるように。盾は受け止めるのではなく受け流す事」

「はいっ!」


 "炎天(えんてん)の剣(つるぎ)"。


 Bランクの冒険者を中心に構成された八人パーティーで、大司教様が紹介してくれた。どうやら"炎天の剣"は大司教様に恩義を感じているらしく、今回の私達への指導についても快く引き受けてくれた良い人達だ。


 ちなみにパーティーに人数制限は無い。けど、ダンジョンで十六人を超えた状態でボス部屋へと入ると、ボスの数が増えたり通常時のボスに加えて上位種が現れたりと難易度が変更される様だ。なので、ダンジョンへ挑む場合は最大で十六人。少なくとも八人は居ないと中々に大変のようだ。


 "炎天の剣"のリーダーはレオニスさんと言う大剣を武器にした男の人。レオニスさんが装備してる大剣は魔剣でもあり、チーム名の由来でもある大切な剣なんだとか。


 そしてサブリーダーを務めるのはアリシアさん。西洋の軽甲冑を致命傷部分のみ守る様に付けて細剣(レイピア)を携えた綺麗な赤髪の美少女。その高速の剣筋は、残念ながら今の私では目視出来ない速さ。

 あと、多分お貴族様だと思う。口調とか佇まいからそうだと分かり、気づいてからは丁寧な口調を心掛けていたが「同じ冒険者なのですから、お気になさらず」と言ってくれた。ちなみに家名は"リーブリース"と言い、伯爵家の三女なのだとか。は、伯爵……本当に口調とか変えなくてもいいのかな?


 "炎天の剣"はこの二人が前に立ち他の六人が3人ずつに分かれてどちらかの援護に回る形……つまり、四人で一つのチームを二つ作り、お互いのチームが背中をもう一つのチームに預けた状態で戦うらしい。


 チーム"レオニスさん"の所は回避盾のジールさん、火と風の二属性を操る魔法士のアルムニアさん、回復役である女神官のレイミーさんの三人。

 レオニスさんを含めたこの四人は幼馴染みの関係らしく、同じ村から王都を目指しつつ冒険者をしていたのだとか。

 王都を目指していた理由は人に会う為。

 その人物こそが大司教様で、私達は知らなかったがレオニスさんの村では大司教様は物語になっている程の有名人で、今の村が豊かなのは大司教様の活躍のお陰なのだそうだ。


「俺たちは一目でいいから会いたかったんだ。村を救ってくれた英雄に。そしてありがとうって伝えたかった」


 そんなレオニスさん達四人は無事に王都に辿り着き、教会に居た大司教様にも出会えた。自分達が大司教様が救ってくれた村の出身である事を話し、その感謝を伝えたそうだ。


「そしたらあの爺さん、『若者が簡単に命を散らす様なことはあってはならぬぞ』とか言って俺をボコボコにしてきてよぉ……当時は四人で王都に行けるくらいには強い自信があったんだが、一撃すら当てられなかったよ」


 悔しそうな声音で語るレオニスさんだったが、その顔には満面の笑みが浮かんでいて、大司教様と戦えた事が嬉しかったんだなと思った。


「その後に四人でダンジョンへ行くのは危険過ぎるって注意されてアリシア達を紹介して貰ったんだ。それが二年くらい前の話だったか?」

「そうですわね。私が成人して直ぐの頃でしたからそのくらいでしょうか?」


 この世界での成人は15歳と早い。地球とは違って学校も少ないし、就職先が多くある訳でもない。自分の食い扶持を稼ぐ為に、大体10歳を迎えるとみんな働き始めるそうだ。中々にハードモードだ。


 そんな"アリシアさん"のチームはメイドのノアさん、獣人のニナさん、エルフのシェリルノートさんの四人で構成されている。


 四人の関係性は謎だが、中々に個性的な面々ではあると思う。種族的にも、性格的にも。


 エルフのシェリルノートさんは兎に角喋らない。そして小さい。幼女……とは言わないけど、身長が148cmしかない愛衣ちゃんより明らかに小さい体格。エルフという種族は寿命が長い分、成長や老化なども遅いらしいのだが、アリシアさん達ですらシェリルノートさんが何歳なのか知らないのだという。ただ、その魔法は大司教様ですら認める程の才能らしく、パーティーからは一目置かれている存在なのだとか。


 獣人のニナさんは兎に角元気。虎人族の獣人さんらしく、しっぽや耳は白いもふもふだ。年齢は15歳で成人したばかり。草原を楽しそうに走り回っている。……もふもふしたい。その戦闘スタイルも機動力を活かした超近接戦闘タイプ。

 ククリナイフだったかな? そんな名前のナイフに近い形状をした武器を二本使い、その両手にはゴツゴツとした黒い籠手を付けている。あれで殴られたら痛そう……。


 ノアさんは自称アリシアさんの専属メイド。何故自称なのかと言うと……ノアさんは別にアリシアさんに雇われている訳ではなく、自ら頼み込んでメイドとして傍に置いてもらってるらしい。


「幼少期に男爵家の四女だという理由で虐められていた時期がありまして、その際にアリシアお嬢様にお救い頂きました。それからは不相応である事は重々承知しておりますが、リーブリース伯爵家を出ると仰られたアリシアお嬢様様にお願い申し上げて、行動を共にさせて頂いております」

「私としましては、普通に友人として接して欲しかったのですが……どうしてこうなってしまったのでしょうか?」


 ……私に聞かれても答えかねます。


 宣言通りに常日頃からメイド服を着ているノアさんは、実はオールラウンダーの素質を持っている努力家さんだった。盾役が必要な場合は盾を構えて敵の攻撃を流し、遊撃が必要な場合は短剣を二本構えて素早い動きで敵を撹乱する。物理攻撃が効かない相手には属性魔法で攻撃を……本当になんでも出来る。


 あ、一応メイド服の上から胸当てや致命傷部分を守る為の防具は付けている。本人はとても不満らしいけど……アリシアさんから頼まれているので渋々付けていた。


「あの、聞いちゃいけない事かもしれませんがノアさんの職業って……」

「メイドです」

「え?」

「誰がなんと言おうとメイドです。それ以外有り得ません」

「あ、はい……」


 ……メイドへの執着が凄い。


 ただ、アリシアさんとメイドへの拘りを除けば至って普通の人なので、正直助かっている。

 盾を使った戦い方は、私が今一番学びたい戦闘スタイルだから。



「――さて、今日はここまでにしましょう」

「はぁ……はぁ……ありがとう、ございました……」


 訓練をしてくれたノアさんにお礼を言い終えた私は、その場に膝をつき剣と盾を地面に置く。魔物のいる可能性もある外で武器を置くのは危険な行為ではあるが、訓練の後は毎回こうなってしまう。ノアさんから許可を貰っているからというのもあるけど、流石に連続で剣を振るったり盾を振り回したりするのはまだ慣れない。


 流れ落ちる汗もそのままに、私は仰向けに倒れて空を見上げた。


「お疲れーまこーっ」

「美夜子ちゃんもお疲れ様」


 忍びの様な黒装束を纏い、その上から黒い皮鎧を動きを封じない程度に付けた美夜子ちゃんが、私の隣に寝転ん出来た。


「まこー、今日も"浄化"頼んでいーかな? 流石に汗だくでさー」

「もちろん。私も汗かいたし、後でみんなまとめてやるつもり」

「助かるー。ニナちゃんすっごい元気でさー、動きについて行くので精一杯だったよ〜」

「あはは……。獣人さんって凄いよね……」


 現在私はノアさんに、美夜子ちゃんはニナさんに訓練して貰っている。

 元々大司教様が一部の転移者を呼び出して、先輩冒険者から手解きを受けられる様にしてくれたようだ。"炎天の剣"の皆さんは私・美夜子ちゃん・愛衣ちゃん・笹川先生の四人の他にあと六人の転移者の育成を頼まれたらしい。


 私達四人にはアリシアさんチームの四人が付いてくれて、他の六人をレオニスさんチームの四人が担当している。


 とは言っても、愛衣ちゃんは戦闘職では無かったので今はシェリルノートさんの傍で申し訳なさそうに見学している。別に気にしなくても良いのに……愛衣ちゃんの職業である上級料理人も、料理を作れる環境さえ揃えば色々なプラス効果を料理に付与できるらしいから。愛衣ちゃんは料理上手だし、いつか手料理を食べさせてもらおう。


 回復職の笹川先生はアリシアさんと共にレオニスさん達の所に行き、同じ回復職であるレイミーさんに手解きを受けている。実は、笹川先生はお医者さんの家系に生まれたらしく、両親から医学知識を嫌という程学ばさせられたのだとか。本当は医大に行けと両親に言われていたそうだが、自分のなりたかった教師と言う職業を諦められず、奨学金で田舎から都内の大学へ受験し、受かって直ぐに家出同然の状態で上京すると言う……中々に壮絶な人生を送ってきたらしい。


「あれだけ嫌だった知識が役に立つ日が来るなんて……少し、複雑ですね。未だに両親の事は許せませんし、嫌いですから。でも、この知識が皆さんの助けになるのなら――私の些細な感情なんてゴミ箱にでも捨てて置きます」


 そう言って、笹川先生は訓練に向かって行った。そんな先生の言葉に私達が頭を下げたのは言うまでもない。


 レオニスさん達の所には私達以外の女子生徒も居る。正直言って心配だったけど、訓練初日の夜に笹川先生が「会ったら突然謝られてビックリしました」と笑顔で言っていたので今は大丈夫だろうと思っている。どうやら、女子生徒の中でも派閥の様なものがあり、私達を庇ったら今度は自分達が虐められるのでは……?と言い出せなかったらしい。

 そして、私達が教会に寝泊まりする事になってしまった事実を知り、いつか謝りたいと思っていた様だった。


 私達も、別に女子生徒の全員が敵だとは思っていない。実行犯である男子と怪しい企てをしている女子生徒は完全に敵だと思ってるけど、それ以外の人には特に思うところは無い。寧ろ、私達が居なくなった後でその子達に火の粉が降りかからないか心配しているくらいだ。


 あぁ、本当に……なんで異世界に来てまで虐めたりするんだろう?


 そうこうしている間に、私達の所に笹川先生とアリシアさんが戻ってきた。そしてレオニスさん達も合流し、全員に"浄化"の魔法を使ってから冒険者ギルドへと戻る。


 何時もなら薬草採取の依頼の完了報告をしてお金を預ける手続きをしてから解散なんだけど……今日は珍しく受付嬢さんに呼び止められた。

 しかもレオニスさん達"炎天の剣"を含めた全員。なんでも、大司教様から戻り次第教会へ向かう様にと言伝を貰っていたらしい。


 他ならぬ大司教様からの呼び出しと言う事で、私達は早足で教会へと向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る