第9話 神域 広間 ありがとうって伝えたい。
side上位天使 マルティシア
同僚や配下の天使に指示を出し終えて、私はミムルルート様が居るであろう部屋へと向かいます。
予想外の展開があり、荒ぶっていらっしゃったミムルルート様を放置……いえ、そっとしておいてから随分時間が経過しましたが、果たしてどうなっているのでしょうか?
「ミムルルート様、マルティシアが参りました。入ってもよろしいでしょうか?」
荘厳な雰囲気のある扉の前で、私はそう声を掛ける。しかし、数分程待っても返事が返って来る様子は見られ無かった。
……中に居られるのは間違いないようですね。空間把握で部屋の中の様子が何となく分かり、ミムルルート様らしき反応も確認できました。反応が動いていると言うことは眠っている訳でも無さそうです。
「ミムルルート様? 入りますよ?」
再び待ってみても返事が返って来ることは無く、万が一の事を考えて私は扉を開けて中へとはいる事にしました。
扉の先は謁見の間の様な構造をしています。開いた扉から奥に目掛けて真っ直ぐに、赤に黄金の装飾が施された絨毯が敷かれています。
初めて来た方なら間違いなく背筋が伸びるであろう威圧感満載の部屋の奥には数段の階段が造られており、登り切ったその先の中央には背の長い豪華な玉座が置かれています。
そして、その玉座には我が母にして主でもある創造神――ミムルルート様が……魂が抜け落ちた状態で力なく座られておりました。
「……ナニアレ、ワタシヨリモ、ゼイタクナクラシヲシテタヨ」
どうやらまだ正気にはなられて居ないようです。仕方がありません。ここは以前、ミムルルート様への供物の中にあった激辛香辛料を口の中へ……。
「いやぁぁぁぁ!! あれはもういやぁぁぁぁぁぁぁ!! 赤くて甘いのかと思ったら死んじゃうかと思ったんだからぁ……もうあれはいやぁ……」
「冗談です。流石の私でもあれを再び食べて下さいとは言えません」
香辛料の素となる小さな赤い実。気候の暑い地域に生るこの木の実は、人間が一欠片食べただけで十日は寝込むと言われている木の実だそうです。
正直、あの時のミムルルート様は本当に憐れで見ていられませんでした。その後も数ヶ月程は赤い食べ物を見ると疑心暗鬼になる程に怯えられて……ぷっ……。
「ねぇ、どうして笑ってるの? 絶対私の事を見て笑ったよね?」
「いえ、少し思い出し笑いを……んんっ。それよりも、どうされたのですか?」
そんなジト目をしても私は自白しませんよ? さあ、私の事は置いといてミムルルート様に何があったのかをお教え下さい。
「むぅ……なんか、誤魔化されてる気がするんだけど〜まあ、いいや。実はね?」
そうして話を聞いてみると、どうやらあの不運な少年に関するお話の様でした。
少年……確か、大枝大樹様でしたか。本来であれば関わり合いにならない筈の人物。予定外のイレギュラー。遠い縁者に勇者召喚をされた痕跡のある人物がおり、その血筋が隔世遺伝として現れた影響で今回の転移に巻き込まれてしまった不運な人。
そして、ミムルルート様の手違いが原因で生まれてしまった規格外。
「なるほど。確かにそれは想定の範囲を超えておられますね。まさか原初のスキルが生まれるとは……正直、驚いています」
「そうなんだよぉ……しかも、宿主の職業が"叡智の魔法使い"でしょ? あれって『検索』を経由すれば世界の全てを知る事が出来るスキルだから……今までの原初たちよりも賢くなってるんだよねぇ」
原初。
それは、ミムルルート様が生み出した基礎スキルとは違い、世界の意思が込められた特別なスキル。時には厄災を払い、時には戦争を終わらせ、時には歴史を大きく変えるに至った強大なスキル。オリジナルスキルとは、宿主を失い意思が消失した原初のスキルをミムルルートが回収し管理しているスキルの事であり、来たる厄災の時まで封印していたスキルでもあります。
今回の転移者達にオリジナルスキルをお与えになった事にも驚きましたが、まさか原初のスキルが生まれるとは……それも、今までで一番特殊で一番強い意思を宿した状態で。
「……驚いたよ。まさか私が許可なく監視すら出来ないなんてさぁ〜。しかも、いつの間にか支配領域の一部を奪われちゃってたし! ま、悪用している訳でも、敵対してくる訳でも無いみたいだから別に良いんだけどねぇ。ただ……」
「ただ?」
「………………しい」
「はい?」
「羨ましぃ〜!! 狡いんだよ!! 卑怯なんだよ!? ほら、コレ見てよ!?」
そう言うと、ミムルルート様は頬を膨らませながら記録のオーブを手渡して来ました。
戸惑いながらも受け取った記録のオーブを再生すると……ミムルルート様が『羨ましい』と仰っていた意味が分かりました。
「……そう言えば、よく地球の女神様とスイーツについてお話されていましたね」
「うぅ……良いよねぇ……私は一度も食べた事ないのに、そこに居れば何時でも食べ放題なんだよ? 私はそこに住みたいです」
とても真剣な様子で移住を企て始めたミムルルート様を放置して、私は映像の細部まで確認し続けます。
大陸はミムルルート様の世界と同じ広さですね? ただし地形は異なり、色々と手を入れられているようです。
そして北側にあるミムルルート様の世界を参考にしたであろう街並みと売り物。ここに薬草類だけでも、大量に持ち出されたら価値の変動や常識の崩壊が起こりそうですね。希少な魔物の素材が売り物として置かれていないのが幸いでした。
それと何よりも目を引くのが、地球を参考にしたであろう建造物や売り物の数々です。正直、地球産の物と言うだけでも危険です。出来れば外へはあまり出して欲しくないですね……。
おや、見たことの無いお酒が……。ミムルルート様があまり好きじゃないからと奉納された物を頂いていますがあれは良い物です。むむむ……私も移住を考えるべきでしょうか? おっと、私とした事がつい変な思考に…………お酒の所為と言う事にしましょう。
「……ミムルルート様。やはりこのスキルは危険かと。早急に制限を設けるか、いっその事回収してしまわれた方が――「しないよ」」
世界に大きな影響を与える可能性を秘めたスキルは、厳重に管理するべきです。それは、ミムルルート様自身も理解しておられる筈。
しかし、それでもミムルルート様は何もしないと仰られました。
「もしも世界に悪影響を及ぼす事態になったり、私と敵対関係になる様な事があったら……その時は、ちゃんと私の手で全てを終わらせるから。だから、今はまだ見守るだけに留めて欲しいな?」
「しかし……外へ大量に持ち出されでもしたら、それだけで大騒動になりますよ?」
「ちゃんと本人には注意しておいたし、他の転移者の子達とも違っていたから大丈夫だと思うよ? ……うん。まあ、私が信じたいってだけなんだけどさ」
そう言った後、悲しげに微笑むミムルルート様に私は言葉を返す事が出来ませんでした。
「きっと、私は恨まれてるだろうから。もうその本心を知るのが怖くて、心の奥底まで覗いて無いけど……それでも、今までの転移者達がそうであったように……きっとあの子にも恨まれてると思うから。だって、巻き込まれたんだよ? 死ぬ運命でも無かった。知らない世界に訪れる事も、魔物や人と戦う必要も無かった。ただ、遠い遠い親戚が異世界へと行ったことがあるってだけで……あの子は今までの日常を私に奪われてしまった。だから、これは私からの罪滅ぼし。あの空間で少しでも気が紛れるのなら、私が被る手間なんて些細なものだよ」
どうして、貴女様はそこまで想いやれるのですか?
あの少年にも、そして……他の転移者達にも。
罵詈雑言の嵐でした。
正直、あそこまで怒りという感情が溢れ出したのは初めてです。本来であれば、ミムルルート様が救う必要の無い人間達。地球の女神様からの要請があり受け入れましたが、ダンジョン攻略というメリットに比べて明らかにデメリットの方が大きい今回の契約。
それでも、ミムルルート様はその表情に笑みを作りながら説明を続けていました。
見下され、貶され、罵倒され、厭らしい視線を受け、恨みを抱かれながらも笑うミムルルート様。
この方は優し過ぎるのです。
それは人にだけでは無く、私たちや神々にまで優しい……慈愛の女神様。
喧嘩も吹っ掛けられたから戦っただけだと聞いています。それも、詳しく聞いてみればまだ生まれて間もないミムルルート様をその秘めたる力の強さに嫉妬した中位の神が襲ったと言うではありませんか。
そうして中位の神を退けてから、神々の中でも異質だと、凶神だと恐れられて孤立してしまったミムルルート様。その噂を流したのも負けた中位の神だったそうです。許せません。
けれど、ミムルルート様はその非道な行いに怒ることはありませんでした。ただ一人で下を向き、歯を食いしばり、涙をこらえて我慢し続けたそうです。
今は地球の女神様がいらっしゃいますので、一人ではなくなりましたが……それでもその性格は変わること無く。今もあの転移者達の非道をただただ悲しげに思い返すだけ。
優し過ぎるのです。
怒ってもいいんですよ? それがもし行き過ぎた行為に至ったとしたら私たちがお止めします。今まで誰にも甘える事無く我慢し続けできたのですから、少しくらい我儘に……なすがままにその感情をぶつけても良いのです。
それでも……きっと貴女様は変わらないのでしょうね。困った顔をされて『怒り方なんて分からないよ』と苦笑を浮かべるのでしょう。
ですから、もしもまた転移者達が貴女様に悪意を向ける事があれば、代わりに私が怒ります。
貴女様の子供として。
貴女様の配下として。
貴女様の信者として。
私は私の全てをかけて、貴女様をお守りします。
「どったの? マルティシア?」
おや、どうやら思考が感情的になっていたようです。行けませんね。落ち着かなければ……。
「……いえ、何でもありません。それと、原初のスキルに対する措置については分かりました。今後も監視対象である事には変わりありませんが、今は様子見という事でよろしいのですね?」
「うん、監視も私の方でするからみんなの仕事が増えることは無いよぉ〜。うぅ、ケーキを見守る事しか出来ないのは悲しいけど、どうしようない……か……ら……っ」
「ミムルルート様?」
微笑みを浮かべて話していたミムルルート様が、突然に言葉を途切れさせその表情を変えていく。それは驚愕、困惑、戸惑いと言った表情。一体、何があったのでしょうか?
「うそ……なんで……? どうして、あなたが私を信仰してくれるの……?」
その瞳には何が映っているのでしょうか。私には分かりません。
ですが、ミムルルート様の言葉から察するに誰かが教会でお祈りを捧げているのでしょう。そして、その人物が予想外の相手だった。
暫くすると、ミムルルート様の玉座の前。階段の手前の地面に光り輝く魔法陣が出現し、光が止んだその場所には幾つかの白い箱と数本のガラス瓶、そして大きな袋に入れられた何かと一通の手紙が置かれていました。
「お祈りの際に何かをお供えした様ですね。それにしても数が多い……それにこの白い箱は確か先程の……ミムルルート様!?」
私が届いたばかりの品物を検品するつもりで近づき調べていると、玉座から転げ落ちる様な勢いでミムルルート様が降りてきました。
今まで多くの信者から贈り物をされても笑顔を浮かべるのみで、ミムルルート様がここまでの反応を見せたのは今回が初めてでした。
絨毯に膝をつき座り込んだミムルルート様が、呆然とした様子で目の前の品物を眺めます。
そして壊れ物を扱うかのように白い箱の一つを震える手で持ち上げると、箱を膝元へと置きゆっくりと包装を解きました。
「っ……全部、私が食べたいって言ったやつだ……」
困った様に、苦しそうに笑を零しながら、ミムルルート様はそう呟きました。そして、膝元に乗せていた箱を大事そうに床へ下ろすと、今度は手紙へと手を伸ばします。
震える手で手紙を開封すると、中に入っていた数枚の便箋を取りだしてミムルルート様は手紙の内容を読み始めました。
♢♢♢
side 創造神ミムルルート
寝坊助な巻き込まれくん。
死ぬ運命であった26人の子達に巻き込まれてしまった、哀れな人間。
その出会いは突然で、戸惑いとちょっとばかりの恐怖を抱いたのを覚えてる。
今回、転移させた26人は……元々バスが事故に遭い死ぬ運命だった。
だけど、それを地球の女神は望まなかった。
バスの事故で亡くなる子達の中に一人、技術的進化を起こす可能性を秘めた研究員の息子が居るらしい。
息子が死ぬ事でその研究員の未来が大きく変化する可能性があり、それを阻止する為に地球の女神は今回の契約を私に持ちかけてきた。
ほんの些細なお手伝いのつもりだった。私としてもダンジョンを攻略して貰えれば良いし、正直、もしも仮にダンジョン攻略が三年では無理そうなら何か別のクエストを発行しようとも思っていた。要は体裁が必要なだけだから。"運命を変えるんだ"と言う強い意志を見せて欲しい。"生きたい"と言う感情は、時には運命を変える力を持っているから。
…………でも、ほんのちょっとだけ。生きるチャンスが出来たことで感謝してくれるかな? って期待していたのも事実。
そんな訳、ないのにね。
引き受けた当時は、馬鹿みたいに感謝されると思い込んでた。
死ぬ運命だったと言う事実は、人には少しだけ重すぎたみたいだ。
受け止めきれなくて、想像しただけで嫌になって、そして事実を捻じ曲げようと画策する。
それじゃ駄目なんだ。
死ぬ運命にあると言う事を受け入れて、それでも"生きたい"と抗うことが大切なんだ。
死ぬ筈だったと言う事実は……絶対に消えないんだよ?
罵声を浴びた。泣きながら怒鳴られた。責任を押し付けられた。犯人扱いされた。ただただ恨み言を言われ続けた。
中にはどうせ死ぬならって……気持ち悪い視線を向けてくる人も居た。
動揺しつつもちゃんと話を聞いてくれたり、びっくりしすぎて黙り込んじゃったりする子もいた。
全員が私を非難した訳じゃないけど……それでも、いっぱいいっぱい責め立てられた。
ありがとうと言われる事を諦めた。
楽しみだった転移者との邂逅も……いつの間にか"早く終わらないかな"って思うようになってた。怖かった。泣きそうだった。だけど我慢して、必死に笑顔を作り続けた。
弱さを見せたら、そこに付け込まれると思ったから。
そんな時に出会ったのが、あの眠り続けていた男の子だった。
目が覚めたら、なんて言われるんだろうなぁって怖かった。
でも、君は全然起きずにそのまま転移して行った。ちょっと焦って色々と失敗しちゃったよ〜……本当にごめんなさい。
目覚めてからの様子もちょっと心配で見ていたりした。手紙を読まれた時、私に対する愚痴を零すかなってちょっとだけ不安になった。
でも、君は怒ることなく困った顔で笑ってた。そしてその後に『異世界バンザイ!』って両手を上にあげたりしてた。変な子だなぁってちょっとだけ笑っちゃった。
ねぇ、どうして怒らないの?
怒っても良いんだよ?
本当は恨んでるんでしょ?
疑心暗鬼。見たものが信じられない。ただただ、その人の気持ちを知るのが怖い……。
だから、いま目の前にある贈り物の数々が信じられないの。
いちごのケーキ、チョコのケーキ、チーズのケーキがいっぱい入った大きな白い箱。これと同じ大きさの箱があと二つもある。贈り過ぎだよぉ……バカ。
そして、私の手元にある手紙……。
開けるのは怖かった。
今までの君との出来事が全部嘘で、この中には君からの恨み言が沢山書かれてるんじゃないかな?って。本当に怖かった。
でもね、期待しちゃうよ……。
これまでの君の態度を見てて、もしかしたらって期待しちゃってる私がいる。だから、怖くてももしも恨み言が書かれていても受け入れる覚悟で、私は折り畳まれた便箋を開いた。
『 女神様へ
手紙なんて書いたことないので、拝啓の使い方とか流れとか、色々と間違っていたらごめんなさい。
先ずは贈り物に関しての説明を。
頂いたお手紙にケーキが食べたいと書いてあったので、ホテル内にあったケーキを幾つか贈ります。後、マルティシア様? と言う方にもお酒を用意したので宜しければ。最後に大きな包みがあると思うんですけど……それに関しては本当に何となく、こういうの持ってないんじゃ無いかなぁくらいの気持ちで決めたので、あまり期待はしないで下さい。要らなかったら捨てちゃっても良いのです。
えっと。これまで貰った手紙を改めて読み返して見て、書きたいことが出来たので下手くそな文章ですけど書かせて頂きます。
まず、同郷の奴らの不敬な態度を代わりに謝罪させて下さい。本当に申し訳ありませんでした。
謝って許される事じゃないと思います。同じ人間である俺が同じ事をされたとしたら絶対に許せないし、そもそもアイツらのした事はただの八つ当たりであって、許されない行いですから。
ただ、中には今になって反省している奴も居ると思うんです。俺の知っている桜崎さんって人は、少なくとも誰かに八つ当たりするような人には思えないから。
ですので、どうか反省していたり真面目にダンジョン攻略を目指している奴がいたら、認めてあげてくれませんか? 全員を認めろとは言いません。
ぶっちゃけると、こっちに来る前に俺に良くしてくれた桜崎さんが困らないようにと思っている位で、他の奴らに関しては多分知り合いでもないので……まあ、もし桜崎さんと知り合いの人が居るのなら、その人達も助かればいいなぁくらいの浅い考えです。
伝えたかったのは、同郷の奴らの行いに対する謝罪の気持ちと、真面目に取り組んでる奴が居たら今回だけは目を瞑ってやって欲しいと言うお願いの二つです。勿論、二つ目に関しては無理なら無理で大丈夫です。謝罪だけはしておきたかったので、この話題出しただけなので。
それじゃあ、最後に俺の気持ちを書いて終わろうと思います。
先ずは、ありがとうって言わせて下さい。
もしかしたら、女神様は転移者の全員に恨まれているんじゃないかと思っているかもしれませんが、それは違います。
少なくとも俺は、大枝大樹はこの世界に転移出来て良かったと思っています。まあ、巻き込まれの分際で何言ってんだって思われたらそれまでですが……この世界に来れて良かったなって、声を大にして言う事が出来ます。
女神様に対して怒りとか、憎しみとか、恨みとかは全く抱いてないです。
もしも転移者達から感謝されなかったのなら、俺が何度でもありがとうって言います。
理不尽な言葉で責め立てられたなら、俺がどれだけ女神様に感謝してるかをまた手紙に綴ります。
転移させてくれてありがとう。
監視と言いつつ見守ってくれてありがとう。
俺はこの世界で幸せを見つけました。
楽しいを見つけました。
ワクワクを見つけました。
大枝大樹は、この世界に来れた事を誇りに思います。
それじゃあ、今回の所はここら辺で。
あ、ダンジョンに関してはもう少し待ってください。まずは自分自身を鍛えて、自信が持ててから行こうと思います。絶対に一つは攻略してみせますので、待っていてください。
あと、ケーキの食べ過ぎには注意して下さいね?
大枝大樹』
途中で涙が溢れて、何度も何度も中断しながら、ようやく読み終えた。
「……完全な自由をあげられないのに。私は、あなたを監視する嫌な奴なのに。みんなから恨まれる悪い女神なのに。返事なんて、期待してなかったのに……っ。こんな私に、君はありがとうって言ってくれるんだね……」
便箋を大事に大事に折り畳み、封筒の中にしまって閉じる。
読み終わった手紙を手放したくなくて、大事に大事に胸元に持って行って抱き締めるように抱えちゃう。
大枝大樹くん。
ある日、私の世界に来てくれた。
大切で、愛おしくて、私の心を救ってくれた男の子。
贈ってくれたケーキは、涙が出るほど美味しかったよ。
贈ってくれたお酒は、本当は渡したくなかったけど……ちゃんとマルティシアに渡したよ。
贈ってくれた手紙は、何時でも見れるようにスキルで保管してる。
悲しかった気持ちも、あっという間に消え去った。今は甘くて、酸っぱくて、蕩けるような幸せに浸りつつ……贈って貰った特大サイズの熊さんぬいぐるみに抱き着いて寝転んでる。
「えへへっ……ありがとうってお礼を言いたいのはこっちの方だよぉ……私の世界に来てくれてありがとう。大好きだよ……大樹くん」
あ、この後、私の様子を見て「チョロいですね」とか言ったマルティシアのお酒を強奪しました。
奪ったワインはとっても美味しかったです!
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