第10話 二日目 バカンスの予定は壊れるものだ。そう学んだ。




 異世界に来て二日目の朝。

 寝落ちしていたらしく、屋上に置かれたテーブルの上に上半身を預けた状態で目覚めた俺は、体を解すために運動場へと来ていた。


 昨日、女神様へ手紙を書いた時にダンジョンを攻略しますって言っちゃったから予定を少しだけ変更。午前中は自分の力の把握をして、午後はこの空間の散策をする事にした。


 とりあえず、制服は無いだろうと思い『簡易収納』中のキャリーケースから短パンとTシャツを取り出して、運動場の出入口付近にある更衣室で着替える。誰もいないからその場で着替えても良いんだろうけど、気分的にね?


 靴に関してはどうしたもんかと悩んでいると、スキル『リゾート』から有難い助言があった。


【私が作って渡しても良いのですが、折角用意されている事ですし、ますたーの『簡易収納』の中に入っている宝箱の中身を使いましょう】


 あー、そういえば木製の宝箱を初日に貰ったなーと言われて思い出した。

 そしていつの間にか呼び方が変わってた……マスターって、なんかむず痒いな!?


【ご不満でしたら戻しますが?】


 いや、フルネームで呼ばれるよりはマシだからいいんだけどさ……何となく甘ったるい発音に聞こえるのは何故だろう?

 後、俺もスキル『リゾート』の呼び方を考えたい。


【……私の呼び名ですか?】


 そうそう、これから長い付き合いになりそうだし、何時までもスキル名ってのはね……俺が考えた名前が嫌だったら今まで通りに【ますたーに付けて欲しいです。】あ、はい。


 うーん……名前。名前なぁ……折角だし『リゾート』から一文字くらいは使いたいな。後は何かスキル『リゾート』の特徴とか、役目とかから名付けのヒントを貰いたい。


【私の役目はこの擬似神域"リゾート"の監督です。ますたーがより良い毎日を送れるように手助けするのが私の使命であり、生まれてきた意味でもあります】


 お、おぅ……どうもありがとう?

 予想外の返答が返ってきてちょっと照れ臭い。あー、名前を考えることに集中しよう。


 性別は……声の高さ的に女性だよな? そしてスキル名は『リゾート』で、その役目はこの空間の監督、と。


「監督……ディレクター……『リゾート』のディレクターをする管理者……リディ。うん、リディなんてどうだ?」

【リディ……】


 正直、ネーミングセンスが無いとは思っている。でも、ふと降り立ったこの名前が、何だかしっくりくる感じがした。


「あー、別に嫌ならまた考えるけど?」

【リディ……リディ……。気に入りました。今日から私はリディです。それ以外で呼ばないでください。】


 お、おぉ……気に入って貰えたようで何よりです?


「えっと、それじゃあこれからよろしくな……リディ」

【……はいっ。これからもますたーの為に誠心誠意サポートさせていただきます。】


 いつもより強めのその声は、心做しか嬉しそうな雰囲気を感じる。

 声を弾ませるリディの声を聞きつつ、俺は『簡易収納』に入っている木製の宝箱を取り出す事にした。


 自分が贈った名前をこんなに喜んでもらえるとは思ってもいなかったので、ちょっと照れ臭くはあるけど素直に嬉しかった。







♢♢♢








 木製の宝箱の中に入っていたのは三つ。


 一つ目は、【魔法使いの外套】と言う装備。麻色をしていてちょっとゴワゴワしている。フードの付いたボタンのないロングコートって感じの見た目だ。全身を覆い隠せるから、目立ちたくない俺にとっては有難い装備でもある。ちなみに、装備効果は無い様だ。


 二つ目は、【頑丈なブーツ】と言う装備。踝より少し上の長さで、黒い革製のミリタリーブーツの様な見た目をしている。特に装備効果は無さそうだけど、履き心地は良いしサイズも合っていて動きやすそうだ。後は名前に明記されてるように頑丈なら御の字だな。


 三つ目は、【魔法使いの杖】と言う装備。見た目は木製の長い棒って感じだけど、先端が植物のゼンマイとかワラビみたいにグルグルしてる……ザ・魔法使いって感じの杖だ! ちょっとテンションがあがる。ちなみに効果は【魔力量+100、魔力操作補助】という感じだった。ただ、懸念事項が一つだけあって……【※"魔法士"系統職業専用装備】って書いてあるんだよなぁ。

 そう思って装備してみたら案の定、俺には装備効果が適用されていなかった! いや、名前変えろよ!? 【魔法使いの杖】とか俺専用の装備かな? ってちょっと期待しちゃったじゃえねぇか!


 リディの話によると、どうやらこの宝箱の中身は与えられた職業によって内容が変わり、一定のレベルに達するとまた新たに宝箱が届くのではないか?という事だった。


【他の転移者の方々にも同じく配られている様ですね。『簡易収納』の中に入っていた手紙の中に書いてありましたよ?】


 あ、はい。すみませんでした……ちゃんと読み返します。


 あれ? 【魔法使いの杖】は俺が装備しても使えなさそうだけど……どういう事だ?


【ますたーの職業は同じ職業を持つ者の居ない系統外な職業ですので、自動的に職業の系統によって装備が配布される宝箱がエラーを起こした様です。本来であればこの三点の他に衣類や回復系アイテム等も入っている筈だったと……これも手紙で説明されていましたが?】


 ……はい。重ね重ね申し訳ないです……。


【いえ、これも私のお仕事と思うことにします。ふふっ、ますたーは私無しではこの世界で生きて行けませんね?】


 いや、流石にそれは言い過ぎなのでは?


【『簡易収納』にしまっていた宝箱の存在に気づかず、私に靴を用意させようとしたのに?】


 うっ。


【今朝だって、時計なら屋上に幾つも設置してあった筈なのに、"わざわざ"、"私に"、時間を確認したのに?】


 うぐっ……。


【声に出して会話しなくても済むと気づいた瞬間に、声に出さずに私に沢山話しかけて来たのに? 『完全鑑定』と言う便利なスキルがあるのに、分からない事があると私に常に質問するのに? 『検索』なんて、全てを知る事が出来る万能なスキルがあるのに、"スキル『リゾート』さん、これ『検索』しておいて〜"と私に丸投げするのにですか?】

「はいはいはーい!! 俺が悪かったです!! お前無しでは生活出来ない事がよーく分かりました!!」

【……"お前"?】

「ぐっ…………リディ無しでは、生活できない事がよく分かりました……まあ、だから。これからも宜しくお願いします……」

【ふふっ……お任せ下さい。それが私……リディのお仕事ですから】


 なんか、名前を贈ってからやけに人間味が増した気がする……まあ、助かってるのは事実だし良いんだけどさ。


 それにしても、やっぱり俺の職業"叡智の魔法使い"って特殊な職業だったのか……益々ステータスを見られると不味い気がする。隠せたりしないかな?


【複数の方法がありますが、今はまだ不要かと? まずは現在保有しているスキルや職業への理解を深めるのが先だと思います。】


 確かに……うん。まだ街には行く予定も無いし、リディの言う通り自分を鍛える事に専念しようかな。


【……(実はますたーの装備はエラーを起こした影響で最低レアリティの物ばかりなのですが……可哀想なので黙っておきましょう)】

「ん? なんか言ったか?」

【いえ、何も】

「ふぅん……ま、いっか。じゃあ、ちょっと走るかな」

【お気をつけて。(ますたーの職業は特殊ですからね……専用装備は除外して、少し性能は劣りますが汎用装備に絞り用意しておきましょう)】


 何かブツブツと言ってるけど、大丈夫かな? 俺はリディの心配をしつつも運動場で走り込みをしたり前転やバク転を試してみたりと、軽く体を慣らしていく。


「ふぅ……一応魔法職になっちゃったから今まで通り体が動くか心配だったけど、どうやら大丈夫そうだな。今まで通り……いや、それ以上に体が動く」

【恐らくですが、この世界のステータスが影響しているのだと思います。今まで培って来た経験はそのままに、そこに加算される形でステータスの値が反映されているのでは? ますたーは幸運値が最大で、その影響かステータスも平均より明らかに高いですから】


 あー……"神の不可抗力"だっけ? 幸運値が高いとステータスが上がるの?


【ステータスの初期値は人によってランダムです。特に幸運値はその人物の魂に直結する値とも言えるので、全ての人が平等という事は有り得ません。まず初めに魂の質から幸運値が決められ、それから各能力の値が幸運値を基に割り振られます。】


 ……それって前世の罪がどうたらこうたら〜って奴か?


【詳しく説明するならば、前世での行いを加点減点していき残った値が幸運値になります。そこから善行を重ねつつレベルを上げ幸運値を増やすか、悪行を重ねて更に来世での減点数を増やすか、どちらを選ぶのかはその人次第かと。ちなみに、値がマイナスに至った場合は知能の低い動物へと生まれ変わり、魂のリセットを図るそうです。】


 なるほど……あれ、という事はステータスを与えられた俺達も……?


【はい。こちらの世界に転移する際に全員が魂の採点をされたはずです。まあ、ますたーの場合は称号の影響で幸運値がカンストしている状態なのであまり関係ありませんが……。】


 お、おぉ……来世の自分の為にもなるべく悪い事はしないようにしとこうかな。自分から危険に突っ込む気はサラサラないけど。


【それがよろしいかと。ちなみにますたーは幸運値が最大ですので、他の能力値も初期値の中では最大になっています。レベルアップした際に得られるボーナス値に関しても最大値になるかと思われます。】


 ……益々人様に見られたら不味いステータスになりそうだ!?


【……中には一部の能力値が0から始まる人も居ますから。それはまあ、知られてしまったら嫉妬や妬みの対象になる事でしょう。】


 さらに追い打ちを仕掛けてくるのやめてくれる?

 でも、これに関してはステータスを隠すしか方法がなぁ……。ま、隠す方法はあるってさっき教えて貰ったし。少なくともここにいる間は嫉妬や妬みに晒されることは無いだろうから、今は考えてもしょうがないか。


 そう割り切る事にして、変わってしまった身体能力の把握に集中する。


 最初はゆっくりと動かして行き、徐々に徐々にギアを一つ上げる感覚で自身が行える最高値を体感として覚える。


 数多くの習い事をしてきた。その殆どは嫌々やっていたが、体を動かす習い事に関してだけは楽しいと思っていた部分もある。まあ、だからといってスケジュールいっぱいに詰め込まれると嫌になるが。


 だからこそ、自慢では無いが身体能力の高さには自信があった。


 腰を落とし、神経を研ぎ澄ませながら正面へと……撃つっ!

 そして透かさず右足を蹴り上げ、体を捻るようにしながら舞う。殴る、蹴る、回る、飛ぶ、落とす。


「………………ふぅ〜っ」

【お見事です。】

「ありがとう? やっぱり前よりもキレがいいし、体も動かし易いな」


 『簡易収納』にしまってあるキャリーケースからタオルを取りだして汗を拭う。

 うん。やっぱり体を動かすのは好きだな。何なら、剣術とかも学んでみるのも一興か……?


【満足のいく結果を得られた様で何よりですが……】

「……ん?」

【ますたーは一応魔法職に連なる職業ですので、まずは魔力の訓練をするのが得策かと思われますが?】

「……ですよねぇ」


 返す言葉もございません……。





♢♢♢






 天井の無いドーム状の建物の中にある運動場。


 その真ん中で胡座を組み、目を瞑り、精神統一を心がけながら体内へと意識を向ける。

 しばらくすると、心臓から血液が流れる様に血液とは違う温かい何かが身体中を巡っているのが分かり、今度はその巡る何かを右手に集めるように意識する。


 手のひらを上に向けた右手に集まった何かが円を描く様にグルグルと回り続け、やがて留まりきれなくなった何かは体内から外へと放出されていく。


 ……なるほど、これが魔力か。


 一分程、魔力が放出され続けた所で体から何かが抜ける感覚を覚えた。リディの説明によると『魔力操作』の熟練度が上がれば上がるほどその感覚は鋭敏になり、魔法の発動における魔力効率が高まるのだとか。


【そこまで。魔力の放出を止めてください。】

「……おぉ、なんか体がダルい?」

【ますたーの場合は総魔力量が一般の方より多いのと、今は魔力を絞ること無く全力で流している状態なので倦怠感が一般の方々とは比にならない程に大きいのです。これから魔力を制御する事を覚えれば、『魔力操作』の熟練度も上がり効率よく魔法を使えるようになると思いますよ?】

「なるほど。とりあえず、今はこれ以上は無理そうだな……ダルいし、頭も痛いし、体に力が入りにくい。これ、本当に訓練方法あってるのか?」


 現在行っているのは魔力を意図的に外へ放出しつつ、放出させる魔力量を調節する訓練だ。その実力は上から下まで様々だが、日頃から魔法を使っている人なら誰でも簡単に魔力の調節が出来るらしい。ちなみに俺は出来ない。さっきもリディが止めてくれるまで凄い勢いで魔力が外に流れていた。


 そしてこの訓練……凄く辛いっ!!

 普通は威力の低い魔法や殺傷能力の低い魔法を使い続けて、「ちょっと疲れたな」位までの体感で止めるものらしい。一度くらいは意識を失うと言う魔力切れを体験した方が良いみたいだが、この世界では安全と呼べる場所が限られているので、宿屋でも所によっては襲われる危険性もある。なので、基本的に信頼のおける誰かがそばで護ってくれる状態で行う事が多いのだとか。まあ、高級な宿屋とかなら寝る直前に魔力切れを行うらしいが……魔力切れや魔力欠乏状態は本当にツラいので誰も大金を払ってまでやりたがらないらしい。


 ただ、俺の場合は『魔力操作』もろくに育ってないのにも関わらず、最初から保有する魔力量が多い。更には他の能力値が明らかに魔力量に劣っているので一度でも魔力が暴走してしまうと細胞単位で体が壊れる可能性があるらしく、リディからキツく止められている。


【全く……自分自身にとって重要な事が書かれている手紙があると言うのに、どうしてますたーはちゃんと読まないんですか? 女神ミムルルートも可哀想に。まさか、女神である自分が書いた手紙を適当に読まれるとは思っても見なかったでしょう。手紙には特殊な職業に就いてしまったことによる弊害や危険性などがちゃんと書いてあったのに。私は女神ミムルルートを排除しようと思っていましたが、ちょっと考えを改めます。こんなにも親身になって説明してくれているのに気づかないなんて……ますたーは人の心が無いんでしょうか? これでますたーに何かあった場合、女神ミムルルートはきっと自分がちゃんと説明しなかったからだと己自身を責め続けますよ? そして私も悲しみます。】


 ……そして魔力の事も手紙に書いてあったらしく、再びネチネチと小言を言われています。心配してくれてるのは分かるし、女神様にも申し訳ないとは思うけど……小言が長い。そして心が痛い。更には頭も痛いし全身もダルいから早く終わらないかな……。


 ちなみに今の俺の状態は魔力欠乏。膨大な魔力を一気に失った俺の症状はかなり強くなるらしく、ちょっと泣きそうなくらい頭が痛い。そしてこんなに痛い思いをしても全く魔力の制御が出来なかったのが何よりも悲しい。


【おや、でしたら魔力ポーションがありますので、今日はそれを使って魔力を回復させてから制御出来るまで延々と繰り返しますか? 予定としては午後はこの擬似神域を見て回るとの事でしたので、今日は一回だけに留めておきまた明日からと思っていましたが……お望みとあらば今すぐに魔力ポーションを持って――】

「いや!! いやいやいや!! 今日はもういいです!! そして出来ることなら明日からの訓練もやりたくありません!!」


 リディの話を遮り全力でNOと主張する。ちょっとだけ魔力欠乏を舐めてました。本当に辛いです。


【……今日はもう終わりで構いませんが、また明日も同じ訓練をして貰います。少なくとも、咄嗟に魔法を発動しても暴走しなくなる迄にはなって欲しいです。まあ、魔力量は多いのでそう日数は掛からないとは思いますが……あと三日と言った所でしょうか?】

「あと……三日もこれを……?」

【そんな泣きそうな顔をしなくても……。ますたーは『状態異常耐性』を所持していますので、明日は痛みや倦怠感ももう少し軽くなっている筈ですよ? これもますたーの安全の為です。私が全力でサポートしますので、頑張りましょう】

「…………あい」


 異世界に来て、少しだけ後悔した瞬間だった。


 と言うか、魔力欠乏って状態異常なんだ……。


【『状態異常耐性』は保有者に害が及ぶと判断した症状に対する緩和と耐性力を向上させるスキルです。意図的に『状態異常耐性』を切る事も出来ますが……これも熟練度が関係してきますので今は無理ですね。】


 ……『状態異常耐性』の熟練度が上がる事態には陥りたくないけど、現状がそうだからなあ。

 というか、意図的に切るってどういう時だよ……。


【アルコールを摂取している時に『状態異常耐性』を切る人が多いみたいです。】

「あー……酔いたい時に酔えないからか。ま、俺には関係ないな。特に現状では切る事は無いっ」

【……そうですね。魔力の制御が出来るようになれば、次は魔力切れを体験してもらうつもりですので。魔力切れの後の数日は頭痛が続くらしいので、ますたーには必要不可欠なスキルです。】


 えっ、嫌なんだけど……。


【魔力切れには魔力量の増加と言うメリットもありますので、少なくとも『魔力操作』の熟練度を一定値まで上げてからにはなりますが、一度くらいは体験して欲しいです。無茶をしない為にも。】

「……出来れば魔力切れを起こしたいとは思わないなぁ」

【『状態異常耐性』が上がればそこまで苦痛にはならないと思いますが?】

「別に強くなる事に拘ってる訳じゃないからなぁ。今でも十分に多いみたいだし。まぁ……どの道現状ではどうしようもないから、今はとりあえず魔力の制御に専念するよ」

【了解しました。とりあえず、今日の訓練はここまでですので、汗を流してから昼食を食べ、"リゾート"内の観光にしますか?】


 ……正直な感想を言ってもいいですか?


【……?】


 出来ればシャワーを浴びた後は寝たいです。魔力欠乏状態が辛すぎて観光どころじゃ無さそうだから……っ。


【……一応、魔力が自然回復すれば徐々に痛みも止みますが?】

「うん、ちょっと無理……気を抜くと倒れそうだから……」

【分かりました。ではシャワーを浴びた後は、直ぐに"グランドホテル―オアシス―"の一室に転移しましょう。部屋はどの部屋をお使いになられますか?】

「……ごめん、そもそもホテルの中について全く知らないや」

【……そう言えばそうでしたね。ではとりあえず簡単に説明させていただきます。】


 そうしてリディが説明してくれた内容を纏めるとこうだ。



1階……ロビー、ラウンジ、レストラン、お土産屋、温泉スパ、ランドリー等……(改良可)。


2階……ファストフード店、焼肉、居酒屋、バーカウンター、アイスクリーム、ケーキ等…(改良可)…。


3階……ゲームセンター、おもちゃ屋、カラオケ等……(改良予定)。


4階……洋服店、下着店、化粧品店、小物店、宝石店等……(改良可)。


5階〜10階……シングルルーム、自動販売機(お菓子、アイス、飲料等)等……(改良可)。


11階〜13階……ダブル・ツインルーム、自動販売機(お菓子、アイス、飲料等)等……(改良可)。


14階〜15階……ファミリールーム、自動販売機(お菓子、アイス、飲料等)等……(改良可)。


16階……会議室、シアタールーム、自動販売機(お菓子、アイス、飲料等)等……(改良可)。


17階……宴会ルーム、コンサートルーム、軽食販売、販売ブース等……(改良可)。


18階……スイートルーム(5部屋)等……(改良可)。


19階……ロイヤルスイート(2部屋)等……(改良可)。


20階……マスタースイート(1部屋)等……(改良可)。



 そしておまけ。


屋上……展望台広場、ビアガーデン、ジャグジープール、更衣室、シャワールーム。BBQ広場等……(改良可)。


敷地内……運動場、トレーニングハウス、ガーデニングフロア、教会等……(改良可)。



 異常。


 うん、誤字では無い。読んで字のごとく異常だと思う。いやいやいや、確かに女神様への贈り物を探しに3階までは遊びに行った事あるけど……こんなに色々あったのか!? ゲームセンターがあったなんて知らないんだけど!? えっカラオケもあるの!?


【使用する際にはそれぞれが稼働するように設定していますが、あの時は不要かと判断しましたので。防音設備は完璧ですので、24時間いつでもOKです。】


 いや、凄いとは思うけど……残念ながら一人なんだよね。気を使う相手が……。


【……合いの手入れましょうか?】


 ありがとう。でも、その気遣いがグサリと刺さるから……。


 えー、と言うかこんなに部屋数あっても使わないよね? 俺、スイートルームの意味すらも理解してない高校生なんだけど……なんか凄い部屋って印象しかない。


【それで、本日はどちらでお休みになられますか?】

「……シングルルームで」


 魅力的ではあるが、今はちょっと体は勿論のこと心を休める時間も欲しい……スイートルームですら怖いのに更に上があるとか無理! というか、ダブルでも十分だ。


 そうして部屋を決めて、早速シャワーを浴びた後でシングルルームへと転移する。


「……ほっ。良かった。普通だ」


 ……いや待て。異世界でこんな普通のシングルルームが使えること自体おかしいのか?

 そもそも、どうして電気が使えるんだ? ドライヤーだって部屋の照明だってどう見たって電気が通ってるよな?


【正確には魔道具ですね。魔力を電気へと変換しているんです。現在は魔力や魔石の収入がありませんので、貯蓄している神力の一部を魔力に変換してから各魔道具へと魔力を送り込んでいます。】


 えっと、色々疑問が出来たんだが……まず、神力を貯蓄って何? あと、もしかしてだけど"リゾート"では魔石や魔力が必要不可欠な要素だったりするのか?


【問一に関しては、初めに奪っ……拝借した分がまだ残っているのでそのままいざと言う時の為に貯めている神力の事です。ちなみに女神ミムルルートからは許可を得ました。】


 今"奪った"って言おうとしてたよね!? 本当に許可もらったのかなぁ……今度聞いておこう。


【問二に関しては、正直どちらでも。ますたーだけが使うのなら今後も神力の一部を魔力へ変換すればあと数百年は持つので大丈夫です。神力とは魔力の上位互換……いえ、比較するのもおこがましい程のエネルギーを秘めているので、魔力と魔石の収入はあってもなくてもどちらでも構いません。】


 そ、そうか……。でも、何もしないで減っていくのを見ているのはちょっとあれだし、今後外に出る時は魔石を回収しておこうかな? 回収した魔石はどうしたらいいんだ?


【この擬似神域の中になら何処に置いておいても構いませんが……各所に魔石回収BOXを設置しておくことにします。それと、必要ないかと思って渡していませんでしたがこちらを……】


 そんなリディの声の後に、俺の目の前に光る何が現れた。それを慌てた右手で受け取ると、それは黒色の光沢のあるカードだった。えっと、何これ?


【"リゾートオーナーカード"です。そのカードがあれば外の世界からますたーに悪意を持っていない者を招待できます。あと、各施設では魔力や魔石を回収した際に発生するポイントで買い物したり遊んだり出来るので、そのカードでお支払いが出来るシステムになっています。】


 あれ、でも俺ってリディが色々と用意してくれるからこれって必要ないんじゃ?


【私もそう思っていたので渡していませんでしたが、ますたーが魔石を回収するつもりがあるなら必要だと判断し渡しました。それに、自ら稼いだポイントでお買い物をするのも楽しいのではないかと。】


 あー、確かに。俺はする時間が無かったら分からないけど、高校に入ってから初めてのバイト収入でゲームソフトを買ったって、クラスで自慢してる奴が居たなー。なんか、直ぐに先生に見つかってゲーム機ごと没収されてたけど。


 自分の稼ぎで買い物かぁ……確かに楽しそうではあるかも?


【……既に先程放出していた魔力は回収してポイント化しています。鑑定スキルで確認できるのでお試しください。】

「えっ、そうなの!? 『完全鑑定』!」


【"リゾートオーナーカード"……スキル『リゾート』の保有者のみが持てるカード。スキル『リゾート』内の空間で使える。

 ポイント残高……10,039,800Pt】


 おい待て!!

 明らかにおかしいポイントがあるだろ! 内訳を出せ、内訳を!


【 ポイント入出履歴

 入 1神力還元 10,000,000Pt

 入 3980魔力還元 39,800Pt】


 神力ぃ……お前か! お前が俺のバイト代を鼻で笑ったのか!? と言うか、魔力減りすぎだろ!? えっ、俺ってあと20しか魔力残ってないの?


【現在は自然回復していっていますが、魔力の制御が未熟な状態だと、数分でこうなってしまいます。なので、これからも訓練を頑張りましょう。】

「あぁ……数値で自分の状態を知った瞬間に疲れが……」


 リディの声を聞きながら、フラフラとした足取りでシングルルームの奥に設置してあるベッドへと体を沈める。

 程よい反発を感じつつ、柔らかく心地いい感触が全身を包み込むように襲って来て意識が遠のいて行く。


 やがて、俺は今日一日の出来事を振り返る間もなくそのまま眠りについた……。




【――神力を用いて――の――を作成。心臓部には――を埋め込み――を限りなく――へと近づける様に――】




 俺が眠り続けている最中、リディがコソコソと何かをしている事も知らずに……。




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