第8話 一日目 ぼっちでもBBQ!
「はぁ……つっかれた〜」
ホテルの屋上に作られたBBQ広場。設置された長テーブルの近くにあった椅子に腰掛けて、今はテーブル上に置かれている生の肉串や野菜が乗せられたトレイをじっと見ている。
サンサンと輝いていた太陽はあっという間に沈み、今は月が昇り始めている。時刻は夜の8時だ。集まれ〜……誰も居ないけど。
「さて、焼くか!」
この肉串、スキル『リゾート』の説明では地球の国産牛を参考に作られた牛肉らしい。と言うか馴染みある食材や調味料は全て地球の知識を参考にしてるのだとか。俺の記憶を基に『検索』スキルを使って調べたのだとか……もう、好きにしてくれ。
『検索』は知りたい事を強くイメージしながら使う事で、答えを提示してくれるスキルだ。ただ、質問が曖昧だったり適当だったりすると当然ながら求める回答を得られないので、その塩梅が難しいスキルでもある。よく使いこなせるよな。
用意してもらった食材をトングを使って炭火焼グリルの上へと乗せていく。
「おぉ……ジュージュー言ってる。なんか、作られたとか言われて心配してたけど、めちゃくちゃ美味しそうだな!」
【…………。】
無言の圧を感じる……羨ましいのか?
【……別に】
「いや、めっちゃ拗ねてるじゃん。とは言っても、食べさせられる方法がないからなぁ……お前に体があれば別だけど」
【っ!?】
「ま、申し訳ないけど我慢してもらうしか無いな」
【……そうですね。どうしようも無いので、我慢します。(今日のところは)】
……やけに素直だな? めっちゃ不安なんだが? 最後の方なんてなんて言ったか分からなかったし……まあ、諦めてくれた事だし良しとするか。
「それにしても、怒涛の一日だったなぁ……」
食材を焼きつつ、今日一日の出来事を振り返る。
予定していたバスに乗れなくて、違うバスに乗って居眠りしたら異世界に転移してた。そこから巻き込まれただけだと知ったり、やたら職業とスキルが規格外だったり、ただのオリジナルスキルかと思ったら特別なスキルだったり……。
そして――女神様と手紙のやり取りをする様になったり。
あの後、とりあえず放置することは出来なかったので束になった手紙を一通ずつ読む事にした。
幸いなことに中身はそこまで分厚いものではなく、殴り書きのように書いたものを一枚書いたら即送る! と言った感じの内容だったのでそこまで苦労する事は無かった。
『神像を置いてくれてありがと〜! 早速中を見させてもらうねぇ〜』
『…………ナニココ、ドウシテコウナッタノ?』
『ずるいずるいずるいずるい!! 良いなぁ良いなぁ!! いちごのケーキとか、チョコのケーキとか、チーズのケーキとか羨ましいよぉ!!』
『私なんて、世界を創造してから教会に納められた物しか味がしなくなってるのにぃ!! あー! マルティシアが好きなお酒も売ってる〜!!』
『…………よし、私そこに住む!! そっちに移住する!!』
『ぐぬぬぬぬ、神像がある範囲なら転移できると思ったのに出来ないよぉ〜!! その原初スキルどうなってるのぉ〜!!』
……まあ、その分手紙の内容が酷い事になってたけど。うん、もう姿を知っちゃったから駄々を捏ねてる子供にしか思えなくなってる。
後、急に知らない名前が出てきたけど誰ですかマルティシア様って!?
あぁ、勿論こう言う子供じみた内容だけじゃなくって、割かし真面目な手紙も中にはあったよ?
『というか……地球産の物は当然だけど、北側にある私の世界の物とかも出来ればあまり大量に捌いたりしないでね!? 希少な薬草とかもチラホラあったから!! 多少なら良いけど、価値の暴落を起こしたりとかしないようにしてくれると助かるなあ〜なんて……本当に、お願いします……』
『あと、原初スキルの事とか職業の事を取り上げたり制限したりはしないから。安心してね? 元々あなたは血筋のせいで巻き込まれただけの被害者だから。せめてもの償いに、その破格のスキルと職業には制限を加えません。まあ、監視はさせて貰うし、私の世界に害が及ぶようなら流石に介入させて貰うけど……そこは、あなたの事を信じます。それで……ね? 代わりという訳じゃ無いんだけど……出来たらでいいから、未踏破の高難易度ダンジョンをクリアして欲しいなぁって思ってたりしちゃってたり……します……いや、あのね!? ちゃんとご褒美とかもあるんだよ!? ホントだよ!?』
とまあ、こんな感じに真面目な……うん、多分真面目な内容の手紙もあった。
そもそも俺はまだ北エリアを見た事が無いから、下手すると価格の暴落が起きる可能性のある素材があるなんて知らなかったんだけど!? 北エリアには何があるんだよ!? いや、待て。言わなくていい! 今度自分で調べてみるから!
いい加減、心臓が落ち着く時間が欲しい……。
まあ、とりあえず俺自身に何かしらペナルティが付く事は無いらしい。封印するなり取り上げる方が楽だろうに……。うん。想像よりも子供っぽい性格ではあるけど、俺にとっては慈愛に満ちた優しい女神様だ。
だからこそ、感謝の言葉と些細なプレゼントを贈りたいと思って準備してたらこんなに遅くまで時間が掛かってしまった。
いや、やっぱり"リゾート"の中は広過ぎる! まだホテルの中しか移動してないけど、めっちゃ広くてホテル内にあるお店を回るだけでも相当体力を奪われた。
その甲斐あって色々とプレゼントを用意できたし、レターセットも置いてあったからそれを使って手紙を書く事も出来た。
そうして、ホテルから再び教会へと移動した俺は神像の前にプレゼントと手紙を置いて祈りを捧げてみる。
なんか、漫画とかで祈りを捧げると神様が応えてくれるっていうシーンを見た気がして真似てみたんだが……結果は大成功。置いてあった物が光ったと思ったら、次の瞬間にはその場からなくなっていた。
その後は、しばらくその場で手紙が来るかもしれないと思って待ってみたが来る様子はなく、日が暮れていた事もあって今日はもうゆっくりする事に決めた俺は屋上へと転移した。
そして現在、俺はライトアップされた屋上で焼けた肉串と椎茸のバター醤油焼きを食べている。
「〜〜〜〜っ!! うまぁっ!!」
簡単に噛み切れる程に柔らかい上質な赤身肉は、噛めば噛むほどに肉汁が溢れ出て塩コショウと言うシンプルな味付けでも十分美味い。寧ろこれこそが至高! よし、肉串は追加だな。
「そして椎茸……あつっ! でもうまぁ!!」
キノコの殆どは水分で出来ている。だからこそ口に入れた瞬間に熱々の水分が弾けるが、その水分は旨み成分の塊。キノコの旨みとバターと醤油の暴力的な味付けが口の中を蹂躙して行く……あぁ、ダメだ。美味すぎる……今までの人生で一番美味しいっ!!
「最初は一人でBBQとか楽しいのかな? って不安だったけど……これはヤミツキになるなぁ! そもそも友達なんてネッ友くらいしか居なかったし、気兼ねなく食べられるから楽しい!」
あぁ……BBQ……最っ高だぜ!!
明日の予定を広すぎるホテルのルーム・フロアツアーに変えなくちゃとか、忘れていた目先の目標である自分のスキルや魔法を鍛えるってやつはどうしようかとか、色々と決めたい事はあったけど……今はBBQに専念しよう! 肉串が俺を呼んでいる!!
「うはー! 焼けたピーマン苦うまぁ!!」
よし、今日はとことんBBQだぁー!!
………………
…………
……
【その後、大枝大樹は満腹状態で座ったままテーブルに上半身を預けて眠ってしまいました。このまま転移させても良いですが……まあ、寝落ちした反省の意味も込めてこのままで良いでしょう。毛布を生成。大枝大樹の背中へ転移。…………おやすみなさい、ますたぁ。】
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