第67話 十五日目(夜) おいでませ……『やみつきyummy!』へ!




 恋人となったシェリルが女性陣に囲まれ、男子禁制の女子会が始まってしまった。

 なので、残った男達は楽しそうにはしゃぐ女性陣を少し離れた場所から眺めるしかなかった。


 まあ、とは言え不満な感じは全くなくて「仕方がないかぁ」と言った雰囲気をひしひしと感じる。うん、やっぱり女性が集まると賑やかになるのは何処も一緒なんだなと実感した。


 しかしながら、ただ待っているだけというのも何なので俺は遠目に女性陣達を見守るレオニス達に近づいて「そこら辺のお店に入って女性陣が落ち着くまで時間を潰しましょう」と声を掛けた。


 結果、特に反対意見も出なかったので俺は早速女性陣……主にリディに対して、近くのお店に入ってるから終わったら来て欲しいと告げてその場を後にする。リディがチラリとこちらを見て頷いていたので、とりあえずは問題なさそうだ。


 俺は冴木を隣に呼び寄せて何処が良いかと聞いてみる。だが、冴木はどうやらあまり外食をしない人間だった様だ。


「僕の母親が料理が好きな人でね? 毎食キチンと手作りの物を用意してくれるから、特に外食に行こうと思えなくて……それに、僕はその、友達とかもいなかったし……」

「ふーん、良い母親じゃないか」


 本当にそう思った。

 ウチとは真逆だなって。


 我が家の両親は良い会社で仕事をしている事が自慢のエリート志向の強い人達だ。

 志が高く、理想の為ならば息子を傀儡として操ろうとする程の屑。


 だから俺は母親の手料理を知らない。

 夜は依頼している派遣会社から家政婦の人が作りに来て、朝と昼はお金が置いてあるだけだ。

 俺が離乳食を食べれるようになってからそうらしいので、俺は本当におふくろの味と言うのを知らない。


 嬉しそうに語る冴木の表情を見れば、家族仲が良好なのは直ぐにわかる。俺の様な家庭環境の方が珍しいのも分かっているので今はそこまで嫉妬や妬みを抱く事はないが、中学生くらいの頃とかだったら理不尽にイラついてたかもなぁ。


 そんな事を考えながら俺の言葉に嬉しそうに笑う冴木に目をやった後、割と近くにあったお店に目がいった。


「……なあ、冴木」

「うん? ……あっ! 『やみつきyummyヤミー!』だぁ! 僕、一度入って見たかったんだよねぇ……!」


 俺が指をさした店を見てキラキラと瞳を輝かせ始めた冴木。

 そんな冴木の視線の先には、確かに『やみつきyummy!』が存在していた。


 ――やみつきyummy!

 それは全国にその名を轟かせる有名なファミリーレストランだ。


『子供から大人まで、その名の通りやみつきになれる"yummy!"な料理をあなたに』がキャッチフレーズなそのファミレスは、豊富な品揃えと期待をチェーン店とは思えないクオリティの高さに年々店舗数を増やし続けている。


 俺は何回か行ったことがあるけど、その時は目的が時間潰しだったのでドリンクバーしか頼まなかったんだよなぁ。


「ここでいいかな?」

「良いと思う!」


 めちゃくちゃ嬉しそうな冴木の返答に思わず苦笑を浮かべてしまう。

 ファミレスでここまで喜ぶ高校生も今どき珍しいのではないだろうか?


 一応、後ろから付いてきていたレオニス達にも『やみつきyummy!』がどういうお店なのかを説明してからここでいいか確認を取り、特に問題はないとの事だったので俺達は『やみつきyummy!』に入る事にした。


「……当たり前だけど、店内ガラッガラだな」

「都内じゃテーマパーク並みに待たないと入れない『やみつきyummy!』に並ばずに……しかも貸切状態で入れるなんて凄いことだよ!」

「……楽しそうで何よりです」


 俺の隣でキラキラと瞳を輝かせる冴木に思わず敬語でそう返していた。

 こいつにはファミレスが本気でテーマパークに見えているのではと疑ってしまうくらいの喜び様だ。異世界の文化を全く知らないレオニス達ですら静かに辺りを見渡すだけに留めているのに、行ったことはないにしても知識はあるであろう冴木がはしゃいでいるのは如何なものか……面倒な案内役を頼もうかと思ってたんだけど、俺がした方が良さそうだな。


 という事で、1度大きく手を叩いて全員の意識をこちらへと向かせる。……冴木はレジの傍に置いてあるおもちゃコーナーに夢中の様だ。よし、あいつは無視でいいな。来た事はなくても仕組みはわかるだろうし。


「とりあえず、女性陣が通った時に分かりやすいように窓際の席に座りましょう」


 そう言って俺が先導する形で、とりあえず窓際の奥にある1番席の多いテーブルに向かった。

 …………一応文句を言われる前に冴木は首根っこ掴んで引き摺る形で連れて来ている。


「ちょっ!? ごめんって!! ちゃんと歩く! 歩きますからぁ!!」

「たくっ、おもちゃコーナーなんて帰る時で良いだろうが」

「あはは……本当に来た事ないから何だか面白くってつい……」


 まあ、悪気がある訳では無いようなので既に首根っこを掴んでいた手は離している。

 集中し過ぎると周りの声が聞こえなくなるのは、父親とそっくりだとよく母親から言われていた様だ。


「じゃあちゃんと直そうな?」


 俺がにっこりと口だけで笑ってみせると、ガックリと肩を落としながらもちゃんと頷く冴木であった。うん、根は真面目な奴っぽいしこの分なら大丈夫かな?

 別に冴木に嫌がらせをしたくて直せと言ってる訳じゃない。これから冒険者として外へ出る事になった時にその癖は致命的だと思ったから注意しているだけだ。


 せっかく仲良くなった奴がそんな理由で悲惨な結末を迎えるなんて嫌だからな。これからはちょくちょく様子を伺う事にしようと思う。


 そうして冴木と話しながら奥へと進み、全員が座れそうな席を見つけた。


 短い辺が窓と向かい合う様に置かれた長テーブルの席。

 1番奥にあるその場所は壁際の方の席がソファータイプになっている席だった。


 席順は適当に。

 ソファー席の窓際にルークさん、真ん中にガルロッツォ様、そして通路側にオーエンさんだ。ソファー席の向かいになる椅子席には窓際にレオニス、真ん中にジール、通路側に冴木となっている。


 俺? 俺は通路側の誕生日席に余っている椅子を持ってきて座ってるよ? 冴木のいる席に座ろうと思ったらニコニコ顔の冴木にとられてしまったからだ。


 おのれっ!!

 採掘玩具に夢中になっていた小僧の癖に…………やる時は俺も呼べよっ!!


 『ごく稀にあの伝説の聖剣が……!?』って小さな箱に太文字で書かれていてちょっと砂をホリホリしたいなと思った。出るまで1個ずつ……いや、いっその事リディにお願いして大人買いしようかな……?


 割と本気で考えている。

 目的があっても、やる事があっても、それをこなす合間合間に休息は大切だ。

 休みなくボロボロになりながら動き回っていた過去の自分を思い出しながら、俺は自分にそう言い聞かせ続けている。

 大切なものは絶対に守る。だけど、それ以外の時はのんびりでいいんじゃないかなぁと。





 ♢♢♢





「うわぁ……っ!! 『ヤミィ・ステーキ』に『ヤミィ・チキン』、それに『ヤミィ・ヤミィ・ポテト』だぁ!!」

「……名前だけ聞くと不気味だなぁ」


 しかしながら、注文して運ばれてきた料理は涎が出そうになるくらいに美味しそうな見た目と匂いをしているので、そこに名前から連想する不気味さは一切見られない。寧ろ名物っぽくて良いなとも思えてきたくらいだ。






 とりあえず席には着いたがファミレスに来て何も食べないのは如何なものかと思い、軽食を摂る事となった。

 と言っても席を囲む人達は冒険者だったり現役バリバリの領主様とその従者さんだったり若返った超絶イケメンさんだったりと……冴木以外はどのくらいまでが軽食とみなされるのか分からん人ばかりだ。


 そこで俺はレオニスに頼んでテーブルの窓際に立掛けてあるメニュー表と注文パネルを取って貰い、真ん中にメニューを開き注文の仕方を説明して自分で選んで貰う事にした。これならば自分達の許容量を超えることは無いだろうと思ったからである。


 しかしながら事はそう上手くは運ばなかった。


「あー、ダイキ? 悪いんだが……全く味の想像が出来ない」

「お肉の絵が載ってるなぁ……これは飲み物だなぁ……と言うのは分かるけど、知らないものばかりでどうしたものか……」

「この名前に"ヤミィ"と付いている物は何か同じ食材を使っているのでしょうか? それとも、調理法が同じなのでしょうか?」

「申し訳ないが、ダイキくんが選んでくれないか?」

「私達は不慣れな身ですので、ここは是非オオエダ様に決めて頂きたく……」


 困り顔の異世界組5人にそう言われてしまい、俺も困ってしまった。

 だって俺……ここでご飯食べた事が無いから。それにみんながどれくらい食べるか分からないから注文の仕方を説明したんだ。

 さてさて、どうしたものか……。


「あ、あの、大枝くん。それなら僕が頼んでもいいかな!?」

「ん?」


 腕を組み唸っていた俺にそう声を掛けてきたのは冴木で、チラリと見た冴木の表情は凄いワクワクしていた。


「俺は助かるけど……冴木もこの店初めてじゃなかったっけ?」

「うん。でも、いつか行きたいなぁって思ってたからネットでメニューみながらいつか来た時の為に何を頼もうか考えてたんだ!」

「……そのイメトレってする必要性あるのか? まあ、頼みたいメニューがあるのなら助かるな。なるべくみんなでつつきながら食べれる奴だと助かる」


 正直、冴木の謎行動に頭はハテナでいっぱいだが、代わりに頼んでくれると言うのなら渡りに船。

 俺はメニュー表と注文パネルを冴木の前へと移動させて、冴木が注文をする様子を眺めていた。





 そうしてやって来たのが、先程から冴木が大興奮している"ヤミィ"と付いた名前ばかりの料理たち。


 『ヤミィ・ステーキ』は熱せられたプレートに塩コショウ、ニンニク、チーズで味付けされたパスタが敷かれており、その上に1口大にカットされた味付き牛肉が、右端に置かれたコーン以外の空間に所狭しと並べられている。グラム数はある程度選べる様で、今回はとりあえず1キロにしたらしい……いや、多くない?


 『ヤミィ・チキン』は衣がジューシーなタイプの唐揚げ。カリッではなくてジュワッが『ヤミィ・チキン』の特徴だと、冴木が嬉しそうに語っていた。


 どうやらチキンもステーキも特製秘伝の『ヤミィ・ソース』と言うのを味付けで使っているらしい。それが病みつきになる美味さの秘訣なのではないかと……一度も来た事はないが、ネットでの情報収集を欠かさなかった冴木が申しております。熱意が凄い。

 ちなみに『ヤミィ・チキン』についてはメガサイズにしたと冴木が笑顔で言っていた。いやだから……多いよ!


 『ヤミィ・ヤミィ・ポテト』は、形がそもそもフライドポテトとは異なっていた。恐らくではあるが、一度細かく潰すか砕くかしたじゃがいもを成形していると思う。それくらい綺麗なハッピー〇〇ン……ごほんごほんっ。角が丸くなった長方形だ。

 そしてこの『ヤミィ・ヤミィ・ポテト』はなんと、この『やみつきyummy!』の人気ベスト1位に5年連続で輝き、そのあまりの人気ぶりに今では殿堂入りをしてしまっているのでランキングに入る事が出来なくなった食べ物なのだとか。

 その爆発的な人気を生み出した秘訣は、成形されたポテトに振りかけられた『ヤミィ・パウダー』。この粉には強い中毒性があり、1度食べればその手を止めるのは非常に困難な味わいらしい。……危なくないよね?

 そして話を聞けば聞くほどなハッピー〇〇ンなんですが……本当に違うの? 訴えられない?


 『ヤミィ・ヤミィ・ポテト』に関しては一人一皿らしい。奪い合い対策だそうだ……物騒だなぁ。


 後は各々で何を飲みたいかの聞き取りを行い、大人である異世界組はルークさん以外はお酒がいいとの事だったので大ジョッキで生ビールを4つ注文した。ルークさんはお水でいいらしい。多分、ガルロッツォ様のお世話があるから控えてるんだろうなと思う。

 無理強いは出来ないし「飲みたかったら注文してくださいね?」と伝えるだけに留めておく事にした。

 あ、俺と冴木はドリンクバーです。割と久しぶりなので俺もちょっと嬉しい。


 生ビールがテーブルの上に現れたのを確認してから、俺と冴木は飲み物を取りに席を立った。


 そうして冴木はジンジャエール、俺は烏龍茶を手に席へと戻ると……空っぽの大ジョッキが4つと新たに届いた生ビールを手にした4人の姿がそこにあった。

 うん、良い飲みっぷりだと思うけど……それ大ジョッキだよ? 大丈夫かなと少しだけ心配になるが……そう言えば昨日の夜も思いっきし飲み食いしてたなと心配するのをやめた。

 まあ、後で女性陣も来るだろうし程々にね?


 そうして賑やかな大人達の姿を眺めつつ、俺と冴木は『乾杯』と軽くグラスをぶつけ合ってから並んでいる食事へと手を伸ばすのだった。


 ……これはもしや、女子会ならぬ男子会なのでは?









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昨日は急におやすみになってしまい申し訳ございませんでしたm(_ _)m

そして、近況ノートにコメントを下さった読者の方に感謝を……m(_ _)m

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