第68話 十五日目(夜) 一方その頃、女子会では……




 side 桜崎まこ



 この世界に来てから半月が経過した今日。


 私は大樹くんのスキルで作られた空間……"リゾート"の中のホテルの2階に来ていた。


 今日は朝から公爵領にあるオルフェの街に大樹くんが行く事になり、私もそれに同行していた。

 本来であれば街の様子を見て回り、その後は冒険者ギルドに行く予定だったんだけど……オルフェを治める領主様――ディオルフォーレ公爵家の長女であるフレイシア様の指示によって、街に入る為に検問の列に並んでいた所を騎士の人達に呼び止められてそのまま馬車で領主館へと向かう事になってしまった。


 今回は大樹くんが直接関わっている訳ではなく、オークの騒動が収まってから直ぐに姿を消したレオニスさん達をフレイシア様が不審に思ったからなんだけど……間接的にレオニスさん達が姿を消す理由を作ってしまっているので、馬車に乗った大樹くんは遠い目をして乾いた笑みを浮かべていた。ちょっと不憫……。


 領主館では待っていたフレイシア様とお話をして、その後に公爵家夫妻とも会話をする事となり、何故か大樹くんが魔法を披露することになったかと思えば、披露する場所にオーエン大司教様が居たり、中々に濃い時間だったなぁって思う。大樹くんって、もしかしなくてもトラブル体質なのかな?


 精神的に色々と疲れる経験をしちゃったけど、それでも……大樹くんの傍に居れて嬉しかった。

 それに、ちょっとだけだけどアピールも出来たし。

 赤くなってる大樹くんを見て、嫌われなかったことにホッとして、私にもドキドキしてくれてるのかなって期待して――ちゃんとこの気持ちを伝えようって覚悟を決める事が出来たと思う。


 ……まさかシェリルノートさんが今日告白するとは、その時には思いもしなかったけど。


 それはオルフェの街から"リゾート"へと帰ってきて、少し遅めのお昼ご飯を食べ終わってからの事。

 "リゾート"に戻ってからもオーエン大司教様の想い人であるリリィさんが登場したり、2人の過去を知って泣いてしまったりと……感情が追いつかない程に色々な事があった。


 お昼ご飯の時に大樹くん作って貰ったご飯はとても美味しかったです。

 でも、私よりも明らかに料理上手な所を見るとちょっと焦ってしまう。私、お母さんのお手伝いしかしないからなぁ。当の本人は『調理』スキルのお陰だよと言ってたけど、そう言う大樹くんを見て「何言ってるの?」みたいな目を向けていたリディさん達を見るに、元々料理の才能があったんじゃないかなと思う。

 ま、負けないように頑張ろう…………私には愛衣ちゃんという強い味方がいるから!


 愛衣ちゃんは家庭科部のエースさんだから、きっと、絶対、ど、土下座をすれば私をスーパーコックさんにしてくれる筈だ!!


「ね、ねぇ? なんでまこちゃんは私をキラキラした目で見てくるの〜?」

「…………何でもないよ、先生」

「いつから私はまこちゃんの先生になったの〜!?」


 これは食後の自由時間で何処に行こうかと愛衣ちゃんと美夜子ちゃんと相談していた時の会話。そんな私達のやり取りを、美夜子ちゃんは呆れた様子で眺めていた。


 そうして私達は洋服を見に行こうと決めて4階へと移動した時に、通路の先でキョロキョロと周囲を見ているシェリルノートさんを見つけた。

 1人で居る様子だったので美夜子ちゃんが声を掛けて話して見ると、どうやらシェリルノートさんもお洒落に興味がある様子。

 そしてそれを見せたい相手は間違いなく……大樹くんだ。


 案の定、シェリルノートさんは微かに顔を赤らめながらも大樹くんにお洒落をした自分を見せたいと教えてくれた。

 正直、複雑な気持ちではあるけど、私はシェリルノートさんの事を応援することにした。


 私が知り合いを蹴落とす様な度胸が無いというのもあるけど、ここが異世界だからという理由が大きい。

 この世界では一夫多妻が当たり前のように受け入れられている。私は大樹くんと一緒に居たいとは思っているけど、別に独り占めしたい訳ではないので、仲の良い人達と一緒に大樹くんを支えて行けたらなぁと思っていた。


 だから、私はシェリルノートさんが近うちに大樹くんと結ばれたら恋人の先輩として色々と教えてもらおうと思う。うん、特に大樹くんがどういう仕草に弱いかとか、好きなタイプとか性格とか………………よるのその……あれとか……ね?

 

 そんな期待も込めて、私はお洒落が大好きな美夜子ちゃんの指示のもとシェリルノートさんをどんどん可愛くメイクアップしていくのだった。



 でもね、シェリルノートさん?

 流石にその日に告白して恋人になるとか思いもしなかったよ!?


 日暮れ時になったので存分に自由時間を満喫出来た私達は4階へと転移してみんなが集まるのを待っていた。

 今日"リゾート"に来たばかりの公爵家の皆さんは疲れた様子ではあるが、ちゃんと買い物は出来ていたようでガルロッツォ様はレオニスさんと、オリエラ様とフレイシア様はアリシアさんと購入したものについて話し合っている。


 若返ったオーエンさんはリリィさんの方を見て微笑みを浮かべている。本当に嬉しそうだ。

 その分、凄いイケメンに変貌したオーエンさんに微笑まれているリリィさんは恥ずかしそうに顔を赤らめてるけど……うん、眩しいくらいだもんね。オーエンさん。


 そうこうしているうちに人はどんどん集まり出して、残るはシェリルノートさんと大樹くんのみとなっていた。

 この時点ではまだ私はのほほんとしていて、大樹くんにお洒落した姿を見せられたかな〜と思っていたんだけど、正面からこちらへやって来る2人の様子を見て思わず目を疑った。


 恋人繋ぎ、シェリルノートさんへ向けられた大樹くんの優しい微笑み、そして顔を赤くしたシェリルノートさん…………うん、待って。流石に早くないかな!?


 恋人になってるよね? 絶対そうだよね!?

 私達と別れてから、一体何があったんだろうか……。


 そんな事を考えていたのは私だけではなくて、両隣にいる愛衣ちゃんと美夜子ちゃんも驚いた顔をしていた。


「「「シェリルノートさーん!」」」


 そして私達はこちらへ来るのを待つ事が出来ずにそのまま大樹くんとシェリルノートさんが居る所まで駆け出す。

 小さくてを振ってくれたシェリルノートさんの前までやって来てから、改めて前に立つ大樹くんとシェリルノートさんの様子を見比べて……どうしても答えを知りたくなった私達は視線をシェリルノートさんへと向けた。


 私達の視線を受け止めたシェリルノートさんは私達に上手くいったと言い微笑む。

 大樹くんと恋人繋ぎをしていた時点で分かってはいたけど、シェリルノートさんの口から直接聞けたことが嬉しくて、3人で沢山のお祝いの言葉を投げ掛けた。


 そうして私はほっこりとした気持ちでシェリルノートさんと話していたのだが……唐突に愛衣ちゃんがこんな事を言い出した。


「あ、あの……今更だとは思うんだけどぉ……お、お洋服を着替えてるって事はつまり〜…………そ、そういうことなのかなっ!?」


 …………っ!?


 その声を聞いて、私はバッと大樹くんに顔を向けてから直ぐにシェリルノートさんの服へと向け直す。

 そ、そうだ……思わぬ進展の速さに驚いて夢見気分だったからうっかりしてたけど、お洒落をしていた筈のシェリルノートさんは何故か普段の服装に戻ってしまっていた。それに良く見れば大樹くんもお昼頃とは違う服装をしているし……え、そ、それって……。


 恋人になった男女が着替えなくてはいけない理由って…………そういうことなんでしょうか!?


 愛衣ちゃんからの質問に真っ赤になったシェリルノートさんはチラッと大樹くんを見た後に「……ちょっとだけ」と言い頷いた。


 こ、これは一大事だよ!!

 色々と気になる事がありすぎる!!


 私達3人は「きゃぁぁぁぁ!!」と声を上げながら即座にシェリルノートさんの手を引いて大樹くんから離れた場所へと移動する。ちゃんと「ちょっとシェリルノートさんをお借りします!」と伝えたし、苦笑を浮かべていたけど問題ない筈だ。そういう事にしておこう!


 そんな私達の騒ぎを聞きつけた他の人達も集まって来てしまったので、とりあえず男性陣には「男子禁制です!」と告げて大樹くんのもとへと移動してもらい、女性陣のみになった所で、シェリルノートさんに許可を貰ってから先程の一部始終を話した。


 すると皆は私達のように悲鳴を上げつつも、大樹くんと恋人になったシェリルノートさんにお祝いの声を送る。

 シェリルノートさんはそんな私達の様子に嬉しそうに微笑みを浮かべ「……ん、ありがと」と返してくれた。


 そんなシェリルノートさんの様子を微笑ましく思いつつも、何処となくみんながソワソワとした様子でシェリルノートさんを見ている事に気がついた。うん、多分私も同じ感じでソワソワしているんだと思う……だって、気になるもん!!


 だからシェリルノートさん、本当に言いたくないことは言わなくてもいいんだけど…………何処までの事をしたのか教えてください!!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る