第27.5話 SS とある日 天使様の抱き枕


 ※これは、まだ大樹がマルティシアと恋人になる前の小話です。








 今日のノルマを終わらせて、シャワーを浴びてからマスタースイートへと転移する。


「……ふぅ。今日はちょっとやり過ぎたかもな。訓練の武器の種類が多くてつい夢中に……ふぁ〜あ」


 朝から通しで訓練をしていた所為で疲れから眠気が襲ってくる。

 俺はリビングに置かれているL字型ソファーへと近づき倒れる様に寝転んだ。……十分寝れるけど、ちょっとだけ窮屈? いや、普段使ってるあのキングサイズを超えたウルトラデラックスサイズのベッドに慣れたせいで狭く感じるのかもな。


「えっと、確か背もたれのクッションを外して……一度折り曲げたら……おぉ、倒れた」


 このソファーは背もたれ部分が倒れ簡易ベッドになる仕組みをしている。

 なので、外したクッションを枕代わりにすればご覧とおり……!! 我がお昼寝場の完成である!!


「……て、一人で何やってんだろ。やっぱり少しだけ昼寝させてもらおうかな」


 ふかふかの感触。

 干してる所なんて見た事ないのに香るお日様の匂い……いや、ほんとなんで香ってくるの?

 そんな不思議で心地良いソファーの上で、俺は静かに意識を手放した。



「――てる?」

「――すね。――で――」

「――因果律――幸運も――」


 ……なんか騒がしくなってきた様な気がするが、今はちょっとだけ寝させてくれ。おやすみ。






 ♢♢♢





「あ、あの……」


 ……ん〜? なんだ?

 誰かに呼ばれたような……でも、まだ眠くて……あ、なんか柔らかくて暖かいクッションが……。


「お、大枝様……?」


 あー……暖かいな、このクッション。近くでマルティシアの声がするし、マルティシアが置いてくれたのかな? ふよふよと頬に当たるクッションの柔らかさが心地よくて、まだ起きたくないと意思表示する様にクッションへと顔をうずくめる。


「きゃっ……お、大枝様!?」

「……んぁ?」


 今までで一番大きな声が聞こえて来て、寝ぼけていた意識がようやく覚醒する。

 瞼を開き徐々に見えてきた視界の先に映るのは……見覚えのある白い布だった。


 二つの丸みを帯びたシルエット。柔らかくはあるものの形を保つその膨らみは微かに上下に動いており、視線を下にやれば抜群のプロポーションの下半身が見える。

 え、ちょっと待って。俺の顔の位置からして今まで顔をうずくめてた場所って……む、胸!?


「えーっと……おはよう?」

「お、おはようございましゅぅ……」


 恐る恐る顔を上げてみれば……そこには赤面したマルティシアの顔があり、どうやら俺はマルティシアに抱きしめられている様だった。


 ど、どうしてこうなった? 全く記憶が無い……?


「……これ、もしかして俺がマルティシアを引き寄せちゃったりした感じか?」

「い、いえ。大枝様がお眠りになられているのに気づいた私とリディ様とミムルルート様でジャンケンをしまして……。勝った私が大枝様と添い寝できる権利を得られたので、こうしてお傍に居るという訳です」

「よくあの二人に勝てたな?」

「ふふっ、因果律への干渉や幸運系統のスキル・魔法は禁止という公平なルールでしたから」


 あー、そう言えば寝る直前になんか声が聞こえてきた様な……あれってジャンケンのルールを決めている声だったのか。


 そして、ジャンケンで見事勝ち抜いたマルティシアは勝者の権利である俺との添い寝を…………いいのかな?


「えっと、俺としては嬉しく思うけど……マルティシアはいいの? マルティシアって結構恥ずかしがり屋さんなイメージがあったからさ」

「うぅ……た、確かに少し……いえ、かなり恥ずかしいです。けど……」

「んぷっ」


 けど……その先の言葉を聞くよりも前に、俺の後頭部に置かれていたマルティシアの手が俺を押してマルティシアのその大きく柔らかい膨らみの中へと俺の頭を誘う。

 再び柔らかい感触に包まれる顔。しかし、真正面から埋もれていると呼吸が難しく、俺は何とか顔の向きを上へと向けて呼吸ができるようにした。


「ぷはぁ……マルティシア?」

「……こうしていると、大枝様が私に甘えたくださっているようで何だか嬉しく思うのです。普段の私は、貴方様に何もしてあげられていませんでしたから」

「マルティシア……」


 そう語るマルティシアは少し寂しそうな顔をしていて、俺を抱き寄せる手の力も少しだけ強くなった様に感じた。

 ……そんな風にマルティシアが自分の事を評価してるなんて知らなかった。よく見てるつもりではいたけど、やっぱりこうして話してみないとわからない事もある。今のこの状況は、マルティシアの気持ちを知れる良い機会だったのかもしれないな。


「俺はいつも献身的に支えてくれてると思ってたけど、確かにこんな風に甘える事はなかったかもしれないね」

「ふふふっ。普段はミムルルート様やリディ様が間に入っていますので、私は傍に控えている事が殆どでしたから」

「それじゃあ……これからはマルティシアの気が向いた時にでも、こうして甘えさせてもらおうかな?」


 そう言ったあと、俺はマルティシアの背中へと自分の腕を回してぎゅっと抱きつく。一瞬だけ体を強ばらせたマルティシアだったが、直ぐに体の力を抜いて俺の頭を優しく撫で始めた。


「構いませんよ。貴方様が甘えてくださるのなら、私はそれだけで嬉しく……幸せに思いますので」

「うん……ありがとぅ……」


 あ、ダメだ……。

 優しく囁かれるマルティシアの声と、一定のリズムで撫でられる頭。そしてマルティシアの体から伝わる温もりとミルクの様な甘い匂いが眠気を誘って…………。


「……すぅ……すぅ」

「あら、眠ってしまいましたね。ふふっ……よしよし」


 子供をあやす様に包み込んでくれるマルティシア。その優しさに甘えて、俺は再び眠りについてしまう。





「――愛しい人よ。私の胸の中で、貴方だけに贈る愛に包まれ眠りなさい」




 優しい優しい――天使様の抱擁の中で。




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