第27話 十三日目 全員参加、そしてマルティシア。
side 桜崎まこ
大樹くんと再会の約束をして別れた後、私と美夜子ちゃんは救援に駆けつけてくれたシェリルノートさんを先頭にして歩き始める。
ちなみに、オーク・キングの死体と魔石はシェリルノートさんがマジックバックの中に収納済みである。これは予め大樹くんにも許可を得ていて、表向きはシェリルノートさんが討伐した事にする為の証拠品として持って帰るのだそうだ。
ただ、信頼のおける人物……転移者組のみんなと"炎天の剣"の皆さんには真実を話すつもりだ。騎士団の人達は……申し訳ないけど教える訳にはいかない。大樹くんが嫌がってたし、正直……私も突き飛ばされた事がまだ記憶に残っていて無理そうだ。
とにかく、今はみんなのもとへ帰るためにひたすら歩き続ける。そうしてしばらく歩き続けていると……ようやく森の外へと出れて、遠くの方に馬車を囲んでいる集団が見えた。
「うわあああああん!! がえっでぎだぁ……ふたりどもがえっでぎだぁぁぁ!!」
「ごめんねぇ愛衣ー! めっちゃ心配かけたー!」
「本当にごめん……心配してくれありがとう」
森での出来事に疲労困憊な私達を待ち受けていたのは、愛衣ちゃんからの熱烈な歓迎だった。
……あのおっとりとした性格の愛衣ちゃんが涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら泣き叫び迎えてくれた。
嬉しい。凄く嬉しいけど、愛衣ちゃんの聞いた事のない様な叫び声にびっくりして、感動が引っ込んじゃった……とりあえず私と美夜子ちゃんで宥めながら顔を綺麗にしていく。本当にごめんね?
私と美夜子ちゃんの周りには転移者組のみんなも居て、特に笹川先生は愛衣ちゃんの泣き方が凄くて目立っては居ないけどポロポロと涙を流してくれている。他のみんなも心から心配してくれていたのが分かって、美夜子ちゃんと一緒に顔を赤くして照れてしまう。
そうしていると、私と美夜子ちゃんの前に護衛してくれていた騎士の人達が並び始めて……。
『此度の件、誠に申し訳御座いませんでした!!』
全員で頭を下げて謝罪してきた。
その中心には頬を腫らした男性騎士の姿があり、その顔には見覚えがある。私を突き飛ばした人だ。
とりあえず、私は自分の思っていることを話すことにした。
「……謝罪は不要です。幾ら謝って頂いた所で、事実は変わりませんから。騎士団の皆様の連帯責任とは思いません。ですが……私を突き飛ばした彼を許す事は、今の私には出来ないです。ごめんなさい」
そう言い終えて、私は騎士団の人達に頭を下げる。助かったんだから、大樹くんと会えたんだから、許してあげよう。そんな事も少しだけ過ったけど……それよりも、勝るものがあったから。
それは――あと少しで私は自身の命を……大切な友人の命を巻き込んで失うところだったという現実。
大樹くんが来てくれたから助かっただけ。もしも大樹くんが来なければ……私達はどうなっていたのか。考えただけでも震えてしまう。あの場では自身を奮い立たせる為に負けないと意気込んでいたけど、本当は怖くて、苦しくて、泣きそうだった。
だから、私は許すなんて言えない。友達を無駄死にさせるところだったという現実から目を背けない為にも、元凶となった人を許すことは出来なかった。
「……私は自分から首を突っ込んだだけだから。私に謝る必要はないよ。でも、私はその人に守って欲しいとはもう思えない。私の友達にも、出来れば近づかないで欲しい」
いつの間にか、美夜子ちゃんは私の右手を握ってくれていた。
私達の言葉を聞き終えた騎士団の皆さんは、もう一度深く頭を下げると茫然自失の状態の元凶である騎士を引きずりながら私達の前を後にした。
後ろを振り向けば、みんなが私を突き飛ばした騎士を睨んでいて……ちょっとだけ嬉しく思った。仲間って認められている気がしたから。成り行きで一緒になったみんなだけど、ちゃんと仲間なんだって思えたから。嬉しいなって思う。
でも、もう引きずられて行ったんだから睨むのはやめようね? みんな結構怖い顔してるから。
騎士団の人達が去った後、今度はレオニスさん率いる"炎天の剣"の皆さんが来てくれた。
私や美夜子ちゃんに"炎天の剣"の一人一人が声を掛けてくれて、特に一緒にいる事が多かったアリシアさん達はその瞳に涙を溢れさせながら「無事でよかった」と言ってくれて、私まで泣いてしまった。
「むぅ〜、私だって心配したのに〜」
……いや、違うんだよ愛衣ちゃん。愛衣ちゃんが泣いてくれたのも嬉しかったし感動したけど……驚きの方が勝っちゃって涙が出なかっただけだから。
そんな冗談を交えつつ、話はオーク・キングについてへと移る。
大樹くんからは信頼のおける人達には話してもいいと言われていたので、私は美夜子ちゃんとシェリルノートさんにアイコンタクトを送り、シェリルノートさんに盗聴防止の結界を張ってもらった上で真実を話す事にした。
取り巻きのオーク達の奥からオーク・キングが現れて、ピンチに陥ってしまったこと。
そんな私たちの前に大樹くんが現れて、魔法で取り巻きやオーク・キングを倒してくれたこと。
大樹くんは自身の存在をなるべく隠しておきたくて、普段は誰にも気づかれない場所で暮らしていること(オリジナルスキルの事は話していいのか分からなかったから、誤魔化す事にした)。
私と美夜子ちゃんは明日の昼頃にここで大樹くんと再び会い、大樹くんの隠れ家に招待してもらう約束をしていること。
そこにオーク・キングを仕留めた張本人として身代わりとなる事を条件に、シェリルノートさんも加わったこと(この話をした時は"炎天の剣"の全員が頭を抱えていた)。
大樹くんからは私達が信頼出来る人達なら明日の約束に誘ってもいいと言われていること。
私達が森で体験した全てを、みんなに説明した。
転移者組のみんなは、初めは大樹くんが生きている事に安堵して次に隠れ家というのが気になっている様子だ。冴木くんは「オリジナルスキルかな? だとしたら異次元空間に自分のテリトリーを作れるとか……でも、そんなチートなスキルが存在するのか……」と一人でブツブツ呟いている。
他にも楽街さんと沖田さんの二人は大樹くんと会うつもりらしく、ブツブツと呟いていた冴木くんも行くつもりらしい。
私と美夜子ちゃんが行くので、愛衣ちゃんもついて行くと張り切っていた。……まだ行かないからね? 待ち合わせは明日だよ?
笹川先生も巻き込まれた大樹くんの事が心配だったらしく、明日の約束に参加する様子。転移者組の過半数が参加する事となり、他のメンバーである真壁さん、三山さん、佐野さんも参加を表明。こうして、転移者組は全員参加が決定した。
"炎天の剣"の皆さんはと言うと、何故かシェリルノートさんとニナさん以外の全員が神妙な面持ちで参加を表明している。
一体どうしたのかとシェリルノートさんに聞いてみると、とんでもない事実が発覚した。
「……みんなに教えてあげただけ。あの人は女神の寵愛を受けた人だから、この秘密は必ず守らないといけないって」
シェリルノートさんのこの言葉に、転移者組のみんなが驚いたのは言うまでもない。
詳しく聞いてみると、私達と大樹くんが会話をしているのを発見したシェリルノートさんは驚いてその場からしばらく動けなくなっていたらしい。
エルフ以外の人種に滅多に寄り付く事のない精霊たちが、大樹くんの周囲に傅く様に集まっていたらしい。それは滅多に起こる事のない現象。女神の眷属である聖獣の前でのみ起こるその現象が、大樹くんの前で起きていた。
「……ただの人間が、あんなに精霊から敬われることは無い。間違いなく女神の寵愛を受けている」
「てな訳だ。俺達"炎天の剣"は、爺さんの影響で創造神様への信仰を少なからず持っている。シェリルノートからの忠告もある事だし、とりあえずオーク・キングの件に関してはシェリルノートが討伐したという事で話を進めて行く事にした」
……女神様の寵愛って、大樹くんは一体異世界で何をしてたんだろう?
謎が出来てしまったが、とりあえずこれで大樹くんの事を話した全員が参加する事となった。
シェリルノートさんが結界を解除すると、レオニスさんは明日の昼過ぎまでにやる事を終わらせる為に早速行動に移す。
騎士団に声をかけ馬車での高速移動を開始し、夕方までにはオルフェの町に到着するつもりらしい。
私は高速で走る馬車の中で美夜子ちゃんと体を預け合い、疲れた体を癒すように目を閉じる。
普段であれば眠れない移動中の馬車内だが、今日はぐっすり眠れそうだ。
大樹くん。また嬉しかったよ。
今度はずっと傍に居させてね……。
♢♢♢
……………………ん?
えーっと……あ、そうか。寝ちゃったのか。
あの後、"リゾート"に戻ってからは大変だった。
『うぅ……だいぎぐーーん!!』
『ぐはぁっ……!?』
帰ってきたばかりの俺を待ち受けていたのは、涙声で俺の名前を叫びながら突進してくるミムルだった。ちょ……鳩尾はダメだって……うっ……意識を飛ばすところだった……。
ミムルは自分にちゃんと感謝をしてくれている子も居ると知って号泣し、俺に抱き着いて離れようとしない。
「ありがとう……大好きっ」……そう何度も呟きながらチュッチュっと甘える様に頬にキスを連投してくる。ちょっと恥ずかしくて対応に困ったが、そのおかげでリディからのお説教が有耶無耶になったので感謝している……ありがとう!!
そんなミムルを抱っこしながら、俺はリディと明日の事について打ち合わせを開始した。マルティシアの姿が見えないけど……多分、まだ気絶してるのかな? だとしたらちょっと申し訳なくなる。原因を作ったのは間違いなく俺だからなあ……。
打ち合わせとは言ったものの、そこまで決める事は無い。そもそも何人来るのか決まってないし、俺自身が案内を出来るほどに北エリアに詳しい訳じゃないからだ。
【地形としましては十字の大通りの中央に噴水広場が設置してあり、左上が貴族向けの店舗が、右上は冒険者向けの店舗が、左下は平民向けの店舗が、右下には宿泊者向けの店舗がそれぞれエリア分けされています。北の大通りを真っ直ぐに進み、貴族エリアと冒険者エリアを抜けると領主館をイメージした建物もございますので、とある領主の治める街へやって来たと思えばわかりやすいかと。】
地図を見せられながらリディの説明を聞いているが、正直これが普通なのかどうかわからない。この世界の街には行ったことがないから、判断ができないんだよなぁ。
それでも、リディの提案を聞きつつ話を進めて行って…………俺の記憶はここで途切れてしまっていた。
「あー……今何時だ?」
「――今は夜の8時だそうですよ?」
「あ、そうなんだ。ありがとう……ん?」
てっきり目覚めたメインベッドルームには一人しかいないと思っていた。だから、不意に返ってきた答えに思わずお礼を言っちゃったけど……今の声は、マルティシア?
夜ということで、灯りのついていない部屋は暗くなっている。意識を集中させればベッドの左側に誰かが居るというのは分かるが、その姿を視認することは出来ず声だけで判断するしかった。
……とりあえず、灯りをつけるか。
ベッドから降りて立ち上がった俺は、ドアの近くにある灯りのボタンに手を伸ばす。
「あっ……だ、ダメです!」
「え?」
俺が照明のボタンを押す直前。
慌てた様子のマルティシアから制止の声が掛かるが、その声に従うよりも先に指はボタンへと触れていて……部屋の灯りがついてしまう。
「っ……」
ボタンを押しつつマルティシアの声に反応して振り向いていた俺はその光景を目の当たりにしておもわず息を呑んでしまった。
「うぅ……は、恥ずかしいです……」
ベッドの上で自身の体を抱きしめるようにして隠すマルティシア。彼女の服装は寝巻き……と言うには扇情的過ぎる様に思える。
というか、普段は俺が買って渡したパジャマを着てたよね? 今日はなんというかその……うん、えっちだと思います!
マルティシアは"リゾート"へ来てからというもの、殆どの時間を『人化』スキルで羽を消して過ごしていた。
しかし、今のマルティシアは『人化』スキルを解いている。
フリルがあしらわれた純白のネグリジェ。ホルターネックになっているそれは背中が開放的に……え、ちょっと開放的過ぎないか!? パンツが見え……んんっ!!
まあ、それくらい空いているので羽を生やしていても窮屈な思いをしないで済むらしい。
パタパタと小さく羽を動かし、微かに顔を赤らめているマルティシア。
……本物の天使様がこんなに破壊力があるとは思わなかった。
「あ、あの、ですね……。ミムルルート様とリディ様が、今日は大樹様と二人きりにしてくれると……そ、それで、今日は特別な日になるだろうからって、この服を渡されて……変、ですかね?」
沈黙が耐えられなかったのかマルティシアは緊張した面持ちでそう早口で話だし、最後は不安そうにこちらを見上げながらそう聞いてきた。
うっ……所々透けてるから目のやり場に困るけど……ここで視線を逸らしたりしたら、変な勘違いされそうだよな。
そう思った俺はゆっくりとマルティシアへと近づいていく。そしてベッドの上へと乗り、真っ直ぐにマルティシアを見つめて答えた。
「……変じゃない。凄く可愛いし、凄く綺麗だ」
「〜〜っ。あ、ありがとうございましゅ……」
うん、照れて顔を抑えるのは良いんだけど、目の前でそれをやられるとですね……胸がむにゅんって!! そっちに目が行っちゃうから! お願いだから自分の恰好について気づいてくれぇ……!!
「ふぇっ? だ、大樹様……それって……」
「…………あっ」
俺は咄嗟にベッドに置かれている枕の一つを取ってそれを膝を上へと乗せた。
や、やばい……見られた。引かれただろうか?
そんな思いを胸に恐る恐る顔を上げると……そこには顔を赤らめてはいるものの、何処か嬉しそうにしているマルティシアの姿があった。
え、なんで嬉しそうなの?
「ふふっ、大樹様が私でそういう気分になって下さったのが嬉しいです。だって、好きな方にそういう……え、えっちな目で見られるという事は、少なからず私にもチャンスがあるって事ですから」
可愛らしい笑顔でそう話すマルティシアを見て、俺は左手で自身の顔を塞ぐ。
……あれ? チャンスはあるどころか俺達ってお互いに好き合ってる筈だよな……?
「……ええっと、マルティシア?」
「はいっ。なんですか?」
「今日、俺を見送ってくれた時に気を失ってたと思うんだけど……その時の事って覚えてる?」
そう聞いてみると、先程までは花のような笑みを浮かべていたマルティシアの表情がみるみるうちに曇り出すのだった。
「実は、私が大樹様をお慕いしていると告げた所までは覚えているのですが、それ以降の記憶が……も、もしかしてその時に私が何かしてしまったのでしょうか!? 私の想いに応えられないとお断りをした大樹様に詰め寄ったりしてしまいましたか!? だとしたら私……本当に「待て待て待て!! 落ち着いてくれ、マルティシア!」――きゃっ」
話を聞いていくうちに、どんどんその表情が暗くなっていき……瞳からもハイライトが消えていくのを感じた俺は、落ち着かせる為にマルティシアの両肩を掴んで軽く揺さぶる。……下は見ない。マルティシアの顔に集中するんだ!!
「えっとな? マルティシアは覚えてないかもしれないけど、俺はちゃんとマルティシアの気持ちに対して返事をしたんだぞ?」
「えっ、な、なんて返事をされたんですか……?」
恐る恐るといった様子で聞いてくるマルティシアに優しく微笑みかけて、俺はその時に言った言葉をそのままマルティシアに伝えた。
「――マルティシアが俺の事を想ってくれていたように、俺もマルティシアの事を想ってる。好きだよ、マルティシア」
「〜〜っ!? う、嬉しいでしゅ!」
マルティシアの青い瞳を真っ直ぐに見つめて好意を伝えると、マルティシアは瞳を潤ませながらもにへらと笑みを浮かべた。
「……あ、あの!」
「どうしたの?」
「その、ですね……き、今日は、ミムルルート様とリディ様に大樹様を独占しても良いと言われてるんです」
そういった後、マルティシアは自身の肩に置かれている俺の手の上に重ねる様に手を乗せて、その首をこてんと傾げる。
「ですので、今日は大樹様を…………独り占めしても良いですか?」
マルティシアの言葉に顔が熱くなっていくのが分かった。それと同時に俺自身がマルティシアを独占したいと思っている事にも気づく。
「もちろん。そして……俺にもマルティシアを独占させてくれ」
マルティシアの肩の上で重ねられた手を一旦解き、ベッドの上におとす。そうしてベッドの上に落とされたマルティシアの手の指に俺の手の指を絡ませて、ぎゅっと軽く握りしめた。
「……好きです、大樹様」
「ありがとう。俺もマルティシアの事が好きだよ」
そうしてどちらともなく動き出した俺達は、顔を近づけ合い口付けを交わす。
その甘美な感触に酔いしれながら……俺達は満足するまで互いを求めあった。
……「この羽、邪魔ですよね」と言って『人化』スキルを使われてしまったのは残念だったけど、仕方がない。
今度、『人化』スキルを使わない状態で出来ないか聞いてみよう!
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