第26話 十三日目 さよならじゃなくて、またね。




「も、もう大丈夫かな?」

「はぃ……ご、ごめんね……?」


 何となく、二歩ほど前へ進んでから振り返り桜崎さんに声を掛けると、桜崎さんは顔を赤らめながらもコクコクと小さく頷いて謝ってくれた。

 いや、良いんですけどね……甲冑が痛かっただけだから。この適度に離れた距離は保険です。それを理解しているのか、桜崎さんは小さな声で「うぅ……」と呻いている。俺の事を一切助けようとしなかった不良娘は呆れ顔だ。果たしてそれは俺と桜崎さんのどちらに対して向けられたものなのか……桜崎さんかな?


「なんて言うか……二人とも折角の感動的な再会シーンだったのに、何でこんな残念な展開になるかなぁ?」


 ……両方に向けられたものだった。解せぬ。


 それにしても、まさか不良娘が居るとは思わなかった。一年の頃も一緒だったのかな? 全然気づかなかったけど……まあ、元気そうで何よりだ。


「ん? 私の顔になんか付いてる?」

「いや、何でもない」


 おっと、つい不良娘の顔を見過ぎてしまった。とりあえず、当たり障りない感じで返事をしておく。


「ふーん……あ、そう言えば大枝ってさ」

「っ!? な、なんだ!? 俺はお前と会った事も話した事もないぞ!?」

「いや、ただ私の名前を知ってるかどうか聞こうしただけなんだけど……なに? 一年の頃に一緒のクラスなの覚えててくれたとか?」

「あ、やっぱり同じクラスだったんだ」

「……はぁ」


 一年の頃は殆ど他人との接点を絶ってたからなあ。桜崎さんだって、たまたま覚えていたくらいだし。残念ながら不良娘の印象は中三の頃の記憶しかない。

 そんな俺の返事を聞いて、不良娘はジト目を向けて俺を見つめてくる。な、何だよ。


「……今ので大枝が私と一年の頃に同じクラスだった事を覚えてないのはわかったよ」

「わ、悪いとは思ってる」

「はぁ。ま、良いんだけどさ。あれ、それじゃあ何であんなに慌ててたわけ? もしかして、高校以外で会ったことあった?」

「そんな訳ないじゃないですか……」


 そこをぶり返すのやめてくれませんかね!? あの時、不良娘の声を無視して全力疾走した負い目があるからなるべく悟られない様にしてるんだからさぁ!

 友達なんて出来たことないから、こういう明るい女子との接し方が分からない……いつの間にか俺の目の前に来てるし。顔近っ!? リディ達と暮らしてるからある程度慣れてるけど、それでも整っている綺麗な顔立ちが目の前に迫ってくると緊張してしまう。


「本当に? 高校よりも以前からも会ったことない?」

「ナイデスナイデス……。あと、近いから離れてくれませんかね?」

「…………ふ〜〜ん?」


 いや、なに? なんでこんなに疑われてんの!? そして気づいているのかいないのか分からないけど近いから!! もう鼻と鼻が当たるくらいの距離だから離れようよ!


 このままだと落ち着かないので一歩下がると、何故か不良娘は俺が下がった分詰め寄って来て、再度「前に会ったことある?」とか「中学生の頃は?」とか「朝は?」「昼は?」「夜は?」とか事細かく質問をしてきてちょっと怖い……なんで俺こんなに質問攻めにされてるの!? これが陽キャ女子のコミュニケーションなの!? やっぱり陽キャって怖いんだな!?


「ちょ、ちょっと美夜子ちゃん! 大樹くんが困ってるよ?」


 俺が不良娘の質問攻めにしどろもどろとしていると、先程まで赤面して顔を伏せていた桜崎さんが漸く俺達の状態に気がついて不良娘を俺から引き剥がしてくれた。


 た、助かった……。いやぁ、綺麗な子に近づかれても怖い事ってあるんだな。怖いよ美夜子ちゃん……。


「……まあ、今日はこのくらいにしといてあげる」


 いや、怖すぎるぞ美夜子!?

 耳元で俺にだけ聴こえるように囁いたのが尚のことタチが悪い。一体俺が何をしたと言うんだ……。


 桜崎さんのおかげで何とか不良娘から解放されて一息吐く事が出来た。

 そのまま俺は二人と向かい合う形になり、改めて自己紹介をする。


「改めて久しぶり、大枝大樹です。えっと、何処まで知ってるか分からないけど、一応巻き込まれって形でこっちの世界に来た。職業は……魔法職です」

「桜崎まこです。職業は聖騎士で、大樹くんの事は教会の大司教様から聞いたんだ……本当にこうしてまた会う事が出来て良かった……」

「私は如月美夜子。職業はこの見た目通りのくノ一。正直、今こうして会うまでは興味なかったんだけど……これからよろしくね――大樹?」

「は、ははは……よ、よろしく?」


 陽キャの距離の詰め方スゲー……いきなり名前呼びになったよ。うん、苗字を教えて貰ったし俺は桜崎さんと同じように苗字呼びでいいかな。


 そうして自己紹介も済んだところで、俺は気になっていた事を桜崎さんに聞いてみる事にした。


「ねぇ、美夜子ちゃん。なんか、急に大樹くんと仲良くなってない?」

「えーそうかな? でもさ、今後は何かと接する事も多くなるんだし、仲良くしておくに越したことはないんじゃない?」

「それはそうかもだけど……」

「おやおやぁ〜? もしかしてまこ、ヤキモチやいてんの〜?」

「っ!? そ、そんな事ないもんっ!」

「え〜ほんとかなぁ〜?」

「きゃっ、もう美夜子ちゃん! 急に抱きついて来ないでよ〜」


 …………は、話しかけづらいんですけどぉ!?

 俺はそこまで詳しくないんだけど、これがあれですか? 俗に言う百合百合しいって奴ですか!?

 申し訳ないけど、俺的には「如月さん、甲冑装備の桜崎さんに抱きつくとか凄いなぁ」って感想しか出てこない。これ、いつまで続くのかな?


「――あ、そう言えばまこ。まこってどうやって大樹の正体を見破れたの?」


 お、ナイスアシストだ不良娘!

 俺はこのチャンスを逃すまいと、如月さんと同じ様に桜崎さんへと問いかける。


「それは俺も気になってた。一応、この外套には認識阻害が掛けられてる筈なんだけど……どうして俺だって分かったんだ?」

「えっと、それはね……大樹くんが戦闘中に呟いた言葉で分かったんだよ?」

「俺の言葉?」

「うん。『そういえば、ゲームの中でも良くこまちちゃんに怒られてたっけ?』……この言葉で大樹くんだって分かったんだ」


 あー、ゲームなんて単語を出してたらそりゃ転移者だってバレるよな……。あれ、でもそれじゃあ転移者だとは分かっても、それが大枝大樹だとは分からないよな?

 そんな疑問を抱き俺が首を傾げていると、桜崎さんはくすりと小さく笑みを零す。


「――待ち合わせ場所はいつも『幻想郷にある生命の泉』」

「……ん?」

「――二人で育てたテイムモンスターはフェンリルで、名前は『シロガネ』」

「……んんっ!?」

「まだ分からない? 私だよ――『小枝さん』」


 泣き笑いの様な表情で、桜崎さんは俺の名前――ゲームのプレイヤー名を口にした。

 それだけじゃない。待ち合わせ場所、テイムモンスターの名前……その全てが繋がり導き出される答えは――


「嘘だろ……もしかして、『こまちちゃん』!?」

「……うんっ! そうだよ? 『こまち』だよ?」

「ま、マジかー……」

「本当は一年生の頃にね? 大樹くんのスマホの画面が見えちゃって、表示されてたゲーム画面を見て『小枝さんだ』って分かってたんだ」


 涙を流しながらも、嬉しそうに語る桜崎さん。俺が『小枝』だと分かってから何度か話し掛けようとしていたみたいだけど、まだ当時は男性と話すのが苦手で結局話しかけられないまま二年生になってしまったらしい。


 いや、ゲーム上で色々と相談に乗っていた俺からすれば、桜崎さんが外に出てちゃんと高校に通っているだけでも十分に凄いと思う。

 俺がその事を伝えると、桜崎さんは「ありがとう」と感謝の言葉を口にした。


「……桜崎さんは普通に高校生として生活出来るようになったんだね。まさかゲーム上の友達と実際に会えるとは思ってなかったから、こうして元気な姿を見れた事が、何よりも嬉しいよ」


 それが俺の本心。

 桜崎さんが『こまちちゃん』だと知ってびっくりしたし、未だに混乱してる俺がいるのも確かだけど……引きこもっている自分を責めて、罪悪感に押し潰されそうになっていたあの『こまちちゃん』が高校に通っていて、友達を作って、俺とも話せるくらいに元気になった。

 それが凄く嬉しくて、安心して、頑張ったねって言いたくなる。


「多分、俺の知らない所で沢山の努力をしてきたと思う。本当に凄いよ。俺は何もしてあげられなかったけど、こうして元気な桜崎さんを見れて嬉しい「そんな事ない!」――っ!?」

「私は何度も助けられたよ? 不安な時も、苦しい時も、悲しい時も……いつも『小枝さん』が――大樹くんが私に元気をくれたっ! 私ね? 大樹くんに会う為に頑張ったんだよ? いつか、偶然大樹くんと会ったその時に……私がどれだけ貴方に救われたかを伝える為に」


 そう言うと、桜崎さんは俺の方へ一歩近づいて来る。深く深く深呼吸をした桜崎さんは真っ直ぐに俺の方へ顔を向けると、その胸の内をさらけ出す様に話し始めた。


「私は、貴方に救われました。家の中で塞ぎ込み、両親に迷惑をかけ続ける自分自身に嫌気がさし、消えたいと思ってた私を救ってくれたのは……大樹くんだった。私を勇気づけてくれてありがとう。私を励ましてくれてありがとう。私と友達になってくれてありがとう。そして異世界でも――私と美夜子ちゃんを助けてくれてありがとう」


 言い終えた桜崎さんは一度頭を下げて、再び顔を上げる。再び上げたその顔には満面の笑みが浮かんでいて、顔を上げた時に微かに見えたその表情は……とても綺麗だと思った。

 それと同時に、胸の奥に何か込み上げてくるものがあるのが分かった。


 これはきっと……達成感。

 こんな俺でも、誰かを助けることが出来た。誰かの為に動く事が出来た。感謝を告げられる様な人間でいられた。

 そんな気持ちが胸の奥からどんどん湧き上がってくる。


 あぁ、そうか……俺の人生は無意味なものじゃなかったんだ。

 少なくとも、目の前の女の子に手を差し伸べられる事は出来てたんだな……。


 もしも、過去の自分に会えるのなら伝えてやりたい。


 お前の人生は確かに辛いものだと思うけど……案外、悪いことばかりじゃないみたいだ。って。

 この桜崎さんの笑みを見せながら、血だらけの手で泣いているであろう自分に……お前は誰かを救える様な凄いやつなんだぞって、話してやりたいな。








 ♢♢♢








 桜崎さんからの感謝の言葉に少し照れつつも、俺が役に立ったなら良かったよと素直な感想を返しておく。

 そんな俺達の様子を見て、今まで見守っていてくれた如月さんが一区切りついたタイミングで声を掛けて来た。


「さてっと、一段落したところで……大樹はこの後どうすんの? てか、大樹っていまどんな生活をしてる訳?」

「あー……まあ、そういう話になるよなぁ」

「もしかして、公爵領にある街で暮らしてるの? 女神様の神託で公爵領に行けば会えるって聞いてたから」


 ミムルさんや……そういう話は事前にですね……。

 伺う様な桜崎さんの様子を見れば、俺も一緒に来て欲しいのであろう事は分かる。でもなぁ……。


「……申し訳ないけど、俺はまだ街に行く訳にはいかないんだ。帰らないといけない場所があるから」

「帰らないといけない場所って、公爵領のことじゃないの?」

「ああ。だから、俺は二人について行って街に行く訳には行かないんだ」

「そんな……折角再会できたのに……」


 うっ……なんか、悲しげな桜崎さんを見てると凄い罪悪感が……。そして如月さんが凄い睨んでくるけど……今はどうしようもない。


「別に俺が帰る場所に連れて行っても良いんだけど……」

「本当っ!?」

「う、うん……でも、今日はやめておいた方がいいかなって」

「なんで? 別に私らは今すぐでも……って、そっか。確かに直ぐにって訳には行かないよね」

「ど、どうして? 私に何か問題があるの?」


 お、意外と言っては失礼かもしれないけど、如月さんは冷静に今の自分達の状況を理解出来ている様だ。

 逆に桜崎さんはちょっと情緒が不安定になっているな。短い間に色々な事があったから混乱しているのかもしれない。

 俺はなるべく優しい声で桜崎さんに語りかける。


「これは内密にして欲しいんだけど、俺のオリジナルスキルってこの世界とは別の空間に移動できるってスキルなんだ。そこは俺が認めた人しか入れないようになっていて、俺はこのスキルを使って今まで生活してたんだよ」

「うわっ……それってかなり良いスキルじゃん!」

「俺もそう思うよ。でだ、仮に今からそこへ二人を招待したとして……今二人を探しているであろう人達はどうするの?」

「…………あっ」


 そう。現在桜崎さんと如月さんは森の中でオークから逃げている状況であり、他の転移者や護衛としてそばに居る冒険者と騎士は二人の生存を信じて待っている。

 落ち着きを取り戻しその事を思い出した桜崎さんは、小さく声を上げるのだった。


「俺は桜崎さんや如月さんなら別に連れて行っても良いんだけど、他の人たち……特に護衛としてついてるであろう騎士には俺の存在を知られたくはないかな。だから、もし連れて行くとしても日を改めて……ちゃんと二人が信頼出来る人だけを連れてこれるなら明日とかでも良いけど、とりあえず今日は待っている人達を安心させる為にも一度帰った方がいいと思う」

「……そう、ですよね。愛衣ちゃんや笹川先生も心配してるだろうし」


 うんうん。ちゃんと理解さえ出来れば桜崎さんは分かってくれる。友達思いの優しい人だから、とりあえずこれで無事に今日は帰ってくれるだろう――。


「――あれ、私ら大樹に一緒に来てる人達のこと話したっけ?」

「ああ、それはミムル……ルート様っ! そう、ミムルルート様に教えて貰ったんだよ。ほ、ほら、俺って巻き込まれてこの世界に来た訳だから、ミムルルート様は色々と俺を気遣ってくれててさ……あははは……」

「…………ふーん?」


 あ、危ねぇ……!! ついいつもの感じでミムルって呼ぶところだった。なんか如月さんから怪しむ様な視線を送られてるけど……バレてないよな?


 あーでも、連れて行くとなるとミムルやマルティシアの存在もバレるんだよなぁ……うん、面倒事は早めに片付けるとしよう。多分、ミムルも今の俺達の状況を見守ってるだろうし。


「と、所でさ……二人はミムルルート様の事をどう思ってるんだ?」

「女神様の事?」

「そうそう、なんかこっちに来る際に色々と文句を言ってる奴も居たって聞いたから。二人はどうなのかなぁって」


 首を傾げた如月さんに対してそう説明すると、「あー、アイツらの事ね」と納得顔で頷き始める。


「確かに文句を言ってる奴も居たよ? 大河原とか『損害賠償』がどうとか言って騒いでたし。でも、私らと一緒に来てる子達の中にはそういう奴は居ないよ」

「え、そうなの?」

「……公爵領に来る道中でね、転移者組だけで話したことがあるんだ。王都に残っている人達は酷いことばかり言ってたけど、こうして元々死ぬ運命にあった私達が生きていられて元の世界へ戻れる可能性まであるのは女神様のおかげだよねって。私なんて、女神様のお陰でこうして大樹くんとも再会出来たんだもん」


 きっぱりと言い切る如月さんと、笑顔でそう語る桜崎さんを見てなんだか嬉しくなってしまう。

 ミムル、見てるか?

 ミムルが思っているよりも、みんな女神様に感謝しているみたいだぞ。


「ま、化粧品とか全部なくなった時はなんでーって思ったけどね。だからって恨んだりすることはないよ。寧ろ、感謝の言葉を直接言えなくて後悔してるし」

「そうだよね。私も一言も話せなくて感謝する事も出来なかったから……もう一度会えたら、チャンスを下さりありがとうございます。って伝えたいな」

「……なんか嬉しいよ。二人がちゃんと女神様に感謝してくれてて、ありがとな」


 それに、多分伝える機会はあるんじゃないかな? まあ、ミムルがみんなと会うつもりがあるならだけど。


「……なんで大樹くんがお礼を言うの?」

「まさか、女神様と親しい間柄だったりして……」

「さーて! そろそろ俺は帰ろうかなぁー!!」


 JKの勘が鋭くて怖い!!

 いや、ちょっと嬉しくなって墓穴掘ったのは俺だけど、なんでそう簡単に答えに辿り着いちゃうかなあ!?


「ちょ、逃げんなー! てか、この惨状どう説明すれば言いの!? 私達じゃこんな真似出来ないんだけど!」

「うっ……そう言えばそこら辺の事は特に考えてなかったなぁ……」

「ふふっ、そういうところは小枝さんのまんまだね」


 詰問される前に逃げてしまおうと思ったが、どうやらまだやり残した事があったみたいだ。くっ、桜崎さんがクスクスと笑っている……ゲームの中と同じで向こう見ずなのがバレてしまった!

 オークに性的な意味で襲われになって周囲の事とか考えずにやっちゃったからなぁ……どうしよう?




「――――なら、私が倒した事にすればいい」

「……へっ?」




 幼さの残る可愛らしい声。

 その声が聞こえたのは……俺の背後からだった。


「「シェリルノートさん!?」」

「……ん、助けに来た」


 どうやら、この声の主は桜崎さん達の仲間らしい。護衛の冒険者かな?


 ……あと、なんで俺の背後に立ってるの?

 そして、どうして背後から抱き締めてくるの!?


「えっと……あなたが俺の身代わりになってくれると?」

「ん、その代わりお願いがある」

「……な、なんでしょう?」


 後ろへ視線を向けると麻色な外套を纏いフードを被った……女の子?が抱きつきながら身代わりになる条件を提示してくる。飴か? チョコレートか?


「……さっきまでの話は聞かせてもらっていた。私も貴方の暮らしている所に連れて行って欲しい」


 あ、話を聞いてたのね……うーん目的は"リゾート"かぁ……。判断しようにもこの子の人柄を理解していない俺では決め兼ねる。なので、知り合いであろう桜崎さん達の方へと視線を向けると、二人は俺の意図を察してくれたのか今も尚抱きついたままの女の子について教えてくれた。


「シェリルノートさんは"炎天の剣"っていう冒険者パーティーの1人で、私らがこの世界に来て間もない頃から生きる為の指導とかしてくれたのが"炎天の剣"なんだ」

「うん。大樹くんが言っていた騎士の人達とは違って付き合いも長いから、信頼出来る人だよ?」

「……騎士が邪魔? なら消す?」

「「…………うん、良い人だよ!!」」


 いや、滅茶苦茶物騒な事口走ってますけど!? 桜崎さん達もこの子の言葉聞いてちょっと目を逸らしたよね!?

 まあ、二人が信頼してるなら良いんだけどさあ……大丈夫なのだろうか?


「えっと……シェリルノートさん?」

「……敬称も敬語も要らない。呼び方も"シェリル"でいい」

「あー、じゃあお言葉に甘えるとして……シェリル?」

「……ん、なに?」

「身代わりになってくれるのは有難いんだけど、どうして俺の帰る場所に行きたいと思ったんだ?」


 あと、そろそろ離れてくれないかなぁとか思ったり……いや、なんで更に腕に力を入れるの!? 俺が連れて行くって言うまで離れない気か!?


 だとしても、まずは連れて行く前にその真意を知りたい。いくら桜崎さん達が信頼している人だとしても、向こうで暴れられたりしたら嫌だからな。


「……私、エルフ」

「あ、そうなんだ……それで?」

「……エルフはいつも退屈と戦っている。私も一緒。終わらない退屈を何とかしたくて里を出た。退屈を壊してくれる何かを探して」

「……えっと、それが俺とどう繋がるんだ?」

「……貴方の魔法に興味がある。オーク・キングの死体がある周囲を見て、貴方の魔法には何か秘密があると思った。私は未知への探求と魔法の研究が趣味だから」


 あー……もしかして、シェリルは魔法に精通するエルフなのだろうか? やっぱり、ちゃんとした魔法職の人が見ると俺の魔法が普通じゃないってバレるのか。


 ……まあ、話を聞いた限り本当に興味が有るだけみたいだし、桜崎さん達もお世話になったみたいだから良いか。見た目が幼いせいか断りづらくもあるけど……しがみついてくる感じがね?


「……わかった。どうやら二人がお世話になったみたいだし、桜崎さん達と同じタイミングで良ければ招待するよ」

「……感謝」


 そう言って一度ギュッと強く抱きついてからシェリルは離れていった。


「それじゃあ、お迎えも来たことだし……今日はここでお別れかな」


 シェリルが桜崎さん達の方へと歩いて行くのを確認しつつそう呟くと、桜崎さんは分かりやすく残念そうな顔をして落ち込んでしまう。


「……直ぐに会えるよね?」

「うーん、そっちの準備が出来たら迎えに行くつもりだけど……いつ頃がいいかな?」

「……準備はそんなに掛からない。明日の昼頃までには終わらせる」


 俺の質問に答えてくれたのはシェリルだった。明日の昼って……俺は大丈夫だけど、そっちは大丈夫なのかねぇ?


「私も……会えるなら早い方がいいな?」

「まあ、折角再会できたわけだし。またしばらくお別れってのもね?」

「わかった。じゃあ明日の昼頃に、今シェリルの仲間が待っている所ら辺で待ってるよ」

「……ん、『範囲探査』? 範囲が広い」

「残念ながら『範囲索敵』だな。オークの残党らしき反応が森を抜けた先で消えたから、大体の位置がわかるだけだよ」


 ちょっとだけこちらへと歩み寄ってきたシェリルにそう答えつつ、再会の日取りを決めて行く。

 そうして約束の日は明日の昼過ぎと決まり、一時的にではあるがお別れの瞬間がやって来た。


「それじゃあそろそろ行くよ」

「転移者組にはちゃんと伝えておくから、心配しないでね!」

「……ん、"炎天の剣"にもちゃんと説明しておく」

「うん、よろしく…………桜崎さん」


 笑顔で声をかけてくれた如月さんや、淡々と話すシェリルに返事をした後、俺は黙って俯いてしまっている桜崎さんへと近づいていく。

 そうして桜崎さんの目の前までやって来ると、俺の右手を桜崎さんが両手でギュッと握りしめてきた。


「明日になれば、また会えるよね?」

「……大丈夫。ちゃんと待ってるから」

「約束だよ? 絶対に会いに行くからっ」


 涙声で話す桜崎さんの頭を左手で優しく撫でる。握られた両手にはポタポタと桜崎さんの瞳から零れ落ちた涙が落ちてきていた。


「約束する。だから、また明日ね?」

「うん……うんっ。また明日ねっ!」


 ようやく顔を上げてくれた桜崎さん。その頬には未だ涙が流れているけど、口元には笑みを作り握り締めていた俺の右手をそっと離してくれた。

 俺は最後にそっと……桜崎さんの右頬に手を添えてその涙を拭い去る。



 ……………………『リゾート』。



 こうして、俺は三人とお別れを済まし"リゾート"へと転移した。




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