第53話 十五日目(昼) リゾートへご招待、そしてオーエンさんへのお話。
異世界にやって来てから十五日目……の昼。
結局……オルフェの街を見学する暇もなく"リゾート"に帰って来ちゃったなぁ。
まあ、やらなきゃ行けない事も片付けた訳だし、明日はダンジョンを見学しに行こうと思ってるから観光はその時にでもしようかな。
それよりも――まずはこの状況をどうにかしないと。
「えーっと……確かに私は神様だけど、そんなに畏まる必要はないんじゃないかなぁって思うんだ〜? ほ、ほら! レオニスくんやアリシアちゃんだって普通に立ってる訳だし! だ、だからその……うぅ〜大樹く〜ん!!」
いや、俺にどうしろと?
怖い目に遭っているかのように震えながら俺に抱き着いてくるミムル。
そしてそんなミムルと俺の前では……お客様である筈の公爵家及びその関係者の6名と、教会の大司教であるオーエンさんが地面に頭を平伏していた。
あ、あの……気まずいのでやめて貰えませんかね!?
ミムルが転移して直ぐに俺の傍に来ちゃったもんだから、立ち位置的に俺が平伏させている様にも見えて落ち着かないんだけど!!
「ま、まさか出迎えておられるとは思いもせず……お待たせしてしまい、誠に……誠に申し訳ありません!! 私はエムルヘイム王国にて公爵位を授かっておりますガルロッツォ・ルイン・ディオルフォーレと申します。この度はダイキくんに招待して頂きましてこの地へ訪れる機会を賜りました。つまらないものではありますが、希少価値の高いダンジョンフルーツを使ったワインをご用意させていただいております。改めて、本日はお待たせしてしまう形となり、誠に申し訳ございませんでした」
「あの、ガルロッツォ様? えーっと、創造神さ「だ・い・き・く・ん・?」……ミムルはですね? あまり堅苦しいやりとりが好きじゃないみたいなんですよ。なので、変に馴れ馴れしく接したりしなければ問題ないですので、まずは地面に膝をつくのはやめましょう? ミムルも良いよな?」
「うんっ! 大樹くんと仲良くしてくれる人達なら、そんなに畏まらなくても良いよ? 嫌に感じる事があればその都度ちゃんと伝えるから。お土産持って来てくれてありがとうねぇ〜………私は飲んでも良いのかな!?」
物凄く期待した眼差しで俺を見てくるミムル。
ふむ……本音を言えば酒を飲ませるのは心配ではある。お土産はルークさんが手に持っているワインボトル一本と、隅に置かれた樽が一つ。流石にあの量は飲ませるつもりはないが……本当に大丈夫かなぁ。
でも、せっかくのお土産を飲まないっていうのも失礼だし……仕方がない。今回ばかりは許そう。
そう判断した俺がミムルに頷いてみせると、ミムルはその顔をパァっと綻ばせてクルクルとその場で喜びの舞を披露し始めた。いつ練習したんだよその踊り……あ、楽街さんと一緒に考えたのね? 楽街さんって踊りに詳しいのかな……?
震える手でルークさんが献上したワインのボトルを手に持ち更に踊るミムルを眺めながらそんな事を考えていると、ガシッと背後から誰かに右肩を掴まれた。
何事かと思って振り返って見ると……そこには頬を膨らませたリディの姿が?
「あ、あの、リディさん?」
「……ミムルルートは飲んでいいんですね?」
「え、あ、うん……そうだね?」
「ミムルルート
あー、言いたい事は分かった。
まあ、二人とも平等にお酒は禁止にしてたからなぁ……不平等になるのは良くないか。
相変わらず膨れっ面で俺を見てくるリディに苦笑しつつも、俺はリディの頭をくしゃくしゃと撫でてから「リディも飲んでいいぞ」と伝える。するとリディは直ぐさま隅に置かれた酒樽へと近づいて行き……いつの間にか側に寄って来ていたマルティシアと共に酒樽を回収してBBQ広場の自分達の席へと持ち去って行ってしまった。こ、行動が早すぎる……まだ飲むなよ!?
とりあえず、ミムルからの許可も得たので今もなお平伏したままの公爵家一同を立たせて、今度はミムルだけじゃなくてこの場にいる転移者のみんなも含めて話をする様にと促した。これからお昼だし、そこで親睦を深めていけば良いと思う。
…………公爵家よりも重症な人も居るしな。
「おぉ……おぉ……おおぉぉぉ!! な、なんということでしょう……長年創造神様を信仰して来ましたが、まさかこんな奇跡が私の様な老いぼれに訪れる事になろうとは……教国で1度だけ拝む事の出来た神像など目が霞む程の存在感……儂はいま、創造神様の信者として最高の褒美を頂戴しております!!」
「…………おい、レオニス」
「いや、無理だからっ! いくら師弟関係だからって何でも出来る訳じゃないって……あんな爺さん初めて見たぞ……号泣じゃねぇか」
どうやら師弟関係として親交が深いレオニスでも無理らしい。
ミムルの事を信仰しているのは知ってるつもりだったけど、この反応は予想外だったなぁ……どうしよう?
というのも、実は”リゾート”に戻る前にリディ経由でミムルがオーエンさんを招待したがっていた理由について聞いていたのだ。
あまり細かい事までは聞かなかったけど、オーエンさんにとっては重要な内容だと思うし早く正気に戻ってもらわないと。
「あ、あの、オーエンさん?」
「おおっ! オオエダ様ぁ!!」
恐る恐るオーエンさんに近づいて声を掛けた瞬間、ぐわっと顔を上げてオーエンさんが俺に詰め寄ってきた。
あ……年をとってもイケメン……ってそうじゃない!!
このまま勢いに押されていては、オーエンさんからの感謝の言葉で延々と時間を消費する事になりそうだ……。と、とりあえずみんなには先にBBQを始めてもらって、俺はオーエンさんと一緒にミムルの話を聞きに行くことにしよう。その為には――よしっ。
「オオエダ様ぁ……儂は……儂はこんなに幸せになっても良いのでしょうか!? 齢50になる老いぼれにこんな幸運が舞い降りるなんて……」
「えっと……喜んでいるところ悪いんだけど、オーエンさんにミムルから話があるらしいんだけ「それは誠ですか!?」……あ、うん」
お、おお……”ミムルの名前を出す作戦”。めっちゃ食いついてきた……最初からこうすればよかったな。
その後、オーエンさんに”リゾート”へ招待した理由について詳しく説明したところ「こうしてはいられません!!」と言い出して、俺の腕を掴みながらミムルの所へと早足で向かって行った。
ミムルの前まで到着した所で再び跪こうとするオーエンさんを必死に押さえて……ちょっ、そんな絶望的な顔をするのやめてくれませんかね!? 別にミムルは跪かなくていいって言ってるのに……まあ、純粋に敬愛している気持ちは側から見ていても伝わってくるから嫌な気持ちにはならないけどさ。それでも跪かれてる本人が困った顔をしているのだから、控えましょうね?
そうして、なんとかミムルにオーエンさんに話があるんじゃないのかと説明する事ができた。いや、本当に疲れた……お肉食べたい。
「あー! そうだったそうだった!! オーエンくんに大切な話があるんだよ! ちょっとだけ時間をもらえないかな?」
「はっ!! 創造神様からのお願いを断る事はありません! 例え永劫の時間だとしても儂はお供致しますぞ!!」
「あはは……あ、ありがとう……それじゃあ、ちょっと場所を移動しようか。マルティシア〜!!」
「はっ……手筈は整っています」
あ、マルティシアも話に参加するんだ。
話の内容が内容だし、場所を変えるのも納得ではある。
多分――弟子であるレオニス達には特に見られたくないだろうしな。
「うんうん。あ、大樹くんはどうする?」
マルティシアからの返事を聞いて満足そうに頷いていたミムルが、徐に俺の方を見てそう聞いてくる。
うーん、正直に言えば気にはなるんだけど……。
「……やめておくよ。こういうのはあまり部外者が立ち入っていい話ではないだろうしな。あ、そうだ。リディから既に受け取っているとは思うけど、ちゃんと向こうでオーエンさんに渡しておいてくれよ?」
「はーい! それじゃあ行こうか、オーエンくん!」
「は、はぁ……わかりました?」
俺とミムルの会話を何処か不安げに聞いていたオーエンさんだったが、ミムルのいう事に逆らうつもりはないのか言われるがままにミムルとマルティシアに連れられる形で何処かへと転移していった。
はてさて、オーエンさんはどんな反応をしてくれるだろうか?
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