第52話 十五日目(昼) よし、最強の脅し文句を手に入れた!
「待たせてしまって済まないね……って、どうしたんだい?」
「いえ……お気にならず……」
「え、あー、うむ……そうか?(なぜシェリルノート嬢に抱きついているのか、凄く気になるのだが……)」
数十分くらい経っただろうか? 時間なんて確認している余裕なんてなかったから……。
それでも、シェリルに甘えてくっ付いていたお陰で大分癒されたので、気持ちを切り替えてテーブルや椅子なんかを石人形の残骸を片付けた時の要領で処理していった。ドーナツと紅茶は公爵家の方々が来る前にみんなの胃の中に……特にドーナツは女性陣の食が進みに進み、あっという間になくなった。おかしいな、おかわりも出したのに……。
女性陣の食欲に驚きつつも無事に片付けは終わり、俺達は公爵家の皆様の前へと移動した。
前に立つ公爵家の3人の後ろに付き従う様に同じく3名の人物の姿があり、その内の1人は談話室で給仕をしてくれていたネルさんで残りの2名は知らない人達ではあるが……服装的にネルさんと同じくガルロッツォ様とオリエラ様の従者と侍女である事は分かる。
「えっと、そちらの3人が同行者という事で間違いないですかね?」
「ああ。ネルの事は知っていると思うが、改めて他の二人と一緒に紹介させて欲しい。ちゃんとダイキくんや来訪者達の事も説明してあるし、当然ながら秘密を守る事も約束させてある……ネル、マリー、ルーク」
「「「はっ」」」
ガルロッツォ様に名前を呼ばれた3人が前へと出てくる。
そして俺に対して一度深々と頭を下げた後、それぞれ自己紹介を始めた。
「ルークと申します。旦那様……ガルロッツォ様の側仕えとして本日はご同行させていただく事になりました。オオエダ様の寛容な御心に感謝いたします」
「マリーと申します。ルークと同じく私は奥様……オリエラ様の側仕えとして本日はご同行させていただきます。事前に館へと知らせる様にと進言していただいたのみにならず、秘密の共有に加え私たちの同行の許可までしていただいて……本当に助かりました」
「え、えっと……ご丁寧にありがとうございます?」
初対面であるルークさんマリーさんはどうやら公爵家ご夫妻の身の回りのお世話を担当している人達らしい。
そして何故か、俺はこの二人から物凄く感謝されている様だ……なんで?
「私は先ほど談話室でお会いしましたね? ご存知かと思いますがネルと申します。主にフレイシア様の身の回りのお世話と、ルークさんやマリーさんの補佐をさせていただいています。オオエダ様はご存知ではないのかもしれませんが……ディオルフォーレ家の皆様はその、行動力の塊の様な性格をしていらっしゃるので…………頻繁に連絡もなしに何処かへ行かれてしまい、お仕えしている我々は日々奔走する毎日でして……」
「…………あー」
「ちょっと、私の顔を見て納得するのはやめてくれないかしら?」
俺が不思議そうにしているのに気づいたのか、ネルさんが困った様に笑いながらそう説明してくれた。話を聞いた俺は、思わずフレイの方を見てしまい……察してしまった。そんな俺の反応にフレイは頬をぷくっと膨らませてご不満な様子だが、こればっかりは自業自得だろう。俺達を領主館へ連れて来たのだって独断専行だったんだ。不満に思うのであれば"人のふり見て我がふり直せ"だ。
そしてガルロッツォ様とオリエラ様も心当たりがあるのか、後ろを向いて知らんぷりをしている。ルークさんとマリーさんはそんなお二方の様子を1度だけ確認し……疲れを滲ませる溜め息をついてしまっていた。
本当に苦労してるんだろうなぁ。お疲れ様です。
その後も文句を言いながら詰め寄ってくるフレイを宥めつつ疲れが見え隠れしている様子の3人を見ていると、ガルロッツォ様とオリエラ様が俺と俺に抱き着きながら文句を言い続けるフレイに近づいて……いや、ルークさん達の視線に耐えられなくなったのか逃げて来た。
「あー、ダイキくん。これを受け取ってくれ」
「えっと、これは?」
「ダイキくんの事と私達が出掛ける事を信頼出来る者たちにのみ説明したのだが、それを家令のゼファーと言う奴に押し付けられた」
……何故?
そんな疑問を抱きつつ、フレイに離れて貰ってからガルロッツォ様に渡された封筒を開けてみる。
中には手紙が数枚入っていて、折り畳まれた手紙を開いて内容を読んでみると……そこには、ディオルフォーレ家の家令であるゼファーさんからの心からの感謝と謝罪、そして……公爵家の3人に関する取り扱い方が書かれていた。
『この様なお手紙で御挨拶することになってしまい、誠に申し訳御座いません。
私はディオルフォーレ家の家令を努めさせていただいておりますゼファーと申します。
本日は、旦那様と奥様……そしてお嬢様が御迷惑をお掛けしたようで、大変申し訳ございません。
昔からお二人は周りを見ずに我が道を行く様な性格でしたが……その性格はお嬢様にも遺伝されてしまったようです。
結果的には人の為、街の為、そして国の為になっているので致し方がない部分もあるとは思いますが、書き置きもなく出て行かれるので正直困っているのが実情でございます。
今回の外出に関してはどうやらオオエダ様から家への連絡をする様にと進言して頂いた様で……本当に助かりました。
オオエダ様に関する秘密につきましては、必ずや秘密を守らせますのでご安心くださいませ。
私は館の管理がありますのでご同行する事は叶いませんが、私の代わりとして優秀な側仕えの3名を付けますので公爵家の皆様のお世話はその者達にお任せ頂ければ問題ありません。
ご迷惑になるとは思いますが、何卒公爵家の皆様をよろしくお願い致します。
もしも旦那様や奥様の扱いにお困りになられた場合は、その都度私の名前を出し「後日、ゼファーに知らせる事になっている」と仰って頂ければ大丈夫です。
これでも幼い頃から旦那様のお世話をしており、奥様とも長い付き合いですので……お仕置は慣れています。
最後になりますが、お嬢様の事をよろしくお願い致します。
お嬢様は旦那様と奥様の子供として常にお二方の背中を追って来ました。ですので、日頃から頼られる事が多く、誰かに甘えると言う事に慣れていないのです。
どうか、お嬢様の心に寄り添って頂ければと思います。
オオエダ様とお嬢様のお子様を見れる日が今から楽しみで御座います。』
お、おぉ……会ったことは無いけど、凄く有能そうな雰囲気が手紙から滲み出ている。最後のフレイに関しては絶対勘違いさてると思うので、ガルロッツォ様が俺とフレイの関係をどの様に説明したのか問い詰めたくなったけど。まだ付き合ってすらいませんからね? まあ、何れはと思ってるけどさ。
そして、何やらディオルフォーレご夫妻に対する切り札のような物も手に入れた。
どうやら予想通り公爵家の3人は常日頃から使用人の皆さんを困らせている様子で、そんな3人に対して雷を落とせる存在がゼファーさんらしい。
ガルロッツォ様の事を幼い頃からお世話していたって書いてあったし……それって要は元王宮の――――うん、考えるのはやめよう。ガルロッツォ様が王族の血を引いているのは今更だしな。
試しにガルロッツォ様に対して「ゼファーさんが何か困ったら後日私に言って下さいって言ってくれています」と伝えてみたら、ガルロッツォ様だけではなくオリエラ様やフレイまで顔を青くして挙動不審になってしまった。
そんな3人とは打って変わって側仕えの3人は俺の言葉を聞いて安堵した表情をしている。
そ、そんなに怖いんだ……本当に困ったら有難く使わせてもらおう。
こうして気落ちした様子のガルロッツォ様、オリエラ様、フレイの3人と、その逆で安堵した様子のルークさん、マリーさん、ルネさんの3人と合流する事が出来た。
さて、人も揃ったし準備も……大丈夫そうだな。
だとすれば、これ以上の雑談は不要だろう。
そう判断した俺は、この場に居る全員に確認を取ってからさっさと"リゾート"へ転移する事にした。
【まだですか? もう屋上で全員待機済みですよ? お肉も野菜もお酒も用意しています。さあ、BBQです! 美味しいオードブルも1階のレストランから取り寄せていますし、後は焼くだけですね。――――ますたーが。】
……うん、さっきからリディが催促してくるんだよね。
どうやらまたBBQらしい。
一応貴族も居るという事でレストランからも料理を取り寄せているらしいけど……また俺が焼くんですか!?
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