第64話 十五日目(昼) 自由時間に訪れた、小さな可愛いお人形さん?
食事会を開いてから数時間が経ち……俺はBBQ広場のそばにあるジャグジープール広場へ移動して、プールサイドに置いてある白いサンベッドに寝転んで燃え尽きていた。
や、やったったぜ……。
あの後、心の中の宣言通りに俺は公爵家一同6名、転移者組10名、"炎天の剣"組8名、リディ・ミムル・マルティシア・オーエンさん・リリィさんの総勢29人分の料理を作り上げたのだ。
串焼きはもうルークさん達が作ってくれたので、飽きが来ないようにと肉料理、野菜料理、魚料理と『調理』スキルをフルで使って高速で作り提供し続けた。
みんなの美味しそうに食べる顔を見てモチベーションが下がることなく作り続けられたのは良かったんだけど……流石に肉体的に疲れたので、デザートに関してはリディにお願いして各々好きな物をチョイスしてもらう様に頼んだ。
料理を振る舞うようになってから毎回思うけど、料理人って本当に大変だよなぁ。飲食店を営む皆さんには頭が上がらないよ。今度はゆっくりとBBQをしたい……それこそ、のんびり寝転びながら憧れのブリスケットなんか作ったりして。まあ、出来上がった直後に何人か突撃してきそうだけど。
そんな感じて昼食会は大盛況のまま終わりを迎え、現在は自由時間の真っ只中である。
既に渡してあるオーエンさんとリリィさん以外の今日初めて来た人達には、食後に『リゾートメンバーカード(桜崎さん達と同様2,000,000Pt付与済み)』を渡しておいた。
カードと一緒にグランドホテルの施設案内パンフレットも渡してあるので、今は各々が行きたい場所を探索している事だろう。……テーマパークかな? あながち間違っては居ないだろうけど。
パンフレットにはその階層にどの様な系統の施設があるのかしか書かれていないので、多分実際に足を踏み入れたら驚くだろうなぁ……2階のエリアなんて、前見た時は空間拡張で広がってる上に所狭しと店舗が設置されてて迷宮みたいになってたから。
集合時間である日暮れまで十分に満足できるだろう。
「グランドホテルにはリディやミムル、マルティシアもサポート役としてついてってくれたし……疲れを癒す為にもゆっくりさせてもらおう」
……今更だけど、サンベッドに冒険者の格好って似合わないよな。
でもだからと言って泳ぐ気分でもないし、今は誰もプールで遊んでいないからいいか。
「それにしても、ガルロッツォ様はこれから大変そうだったなぁ」
一応、俺は招いた側でもあるので料理をある程度作り終えてからは感想を聞くついでに各席へ話し掛けに行っていた。
そして公爵夫妻とフレイが座る場所へ向かい話をしていたのだが……そこでガルロッツォ様はオーエンさんの事をどう報告するべきなのか頭を抱えていたのだ。
愛する想い人であるリリィさんと共に生き続ける為に、"不老永寿の神薬"を飲んだオーエンさん。
その結果として肉体は20代前半くらいの若さまで巻き戻り、現在はレオニスやアルムニアと言った同じ村出身の4人からの勧めもあり「儂」や「〜じゃ」と言うような口調も見た目の年齢相応に直している最中である。
確かに今の爽やかイケメンフェイスで「儂はオーエンじゃ」と言われると、事情を知らない人達からは不思議がられるだろうなと思った。
これだけでもガルロッツォ様を悩ませる要因にはなり得るのだが……問題はまだあったりする。
『たくっ、見た目が若くなったんだから口調も変えるべきだって普通思うだろ? 爺さ……師匠は教会所属の大司教様なんだからよ、此処では訝しむ奴は居ないだろうが外でもその口調だと絶対怪しまれるぞ? つか、教会にはどう説明するつもりなんだ?』
それはレオニスがオーエンさんの口調に対して注意をした後に告げられた衝撃的な一言から始まった。
『なぁに、心配はいらない。わ……たしは、大司教の地位を返還してオオエダ様の支えになると創造神様に誓ったからな』
『はぁっ!?』
『ごふっ!』
爽やかな笑顔で話すオーエンさんに対して、レオニスは口をあんぐりと開けて驚きガルロッツォ様は丁度ワインを飲み込むタイミングだった様で……可哀想なことに咳き込んでいた。
もちろん驚いていたのは2人だけではなかったが、そんな周囲の反応を気にした様子もなくオーエンさんはその本心を話し続ける。
教会に所属してから数十年……どうやらオーエンさん、教会――の総本山とも言える教国に対して色々と思うところがあるらしい。
ミムルの世界についてまだ詳しくない俺ではよく分からない内容だったけど、ガルロッツォ様の何とも言えない表情を見る限り……オーエンさんの言っていることは間違ってはいないんだろうなと思う。異世界組の誰も否定したりしなかったし。
それでもオーエンさんが教会に所属し続けたのは創造神様を崇める宗教である事と、年に一度だけ行えるとある行事があったから。
その行事というのが……現世に1体だけ、教国の中央に厳重に保管されたミムルの神像を謁見でき目の前で祈りを捧げられるという行事だった。
この行事に参加できるのは司教よりも上の立場の人達に限定され、たった一日の中の数分だけ祈りを捧げられるらしい。
この神像……どうやらミムルが自ら作った像らしく、自身が崇める女神様が自ら作った神像を拝見し祈りを捧げられるのは信者にとって大変有難い事なのだとか。
だからこそ、ミムルの熱狂的な信者であるオーエンさんは教会に思うところがあったとしても我慢して所属し続けていたのだ。
『偶に理不尽な内容の仕事が来ますが、そう言った黒い内容は返事を書かずにそのまま教皇様へお送りしていました。あの御方はまだお若いですが、大変聡明で純粋な信仰をお持ちですので。まあ、次期教皇候補の連中からは嫌われておりますが、あ奴らロクな連中ではありませんから。私が大司教の地位から退いて文句を言ってくる者は居ないでしょう』
オーエンさんがこうもあっさり教国との縁を切る決断をした理由は色々あるらしいのだが、教会を辞めようと思った一番の理由はミムルがオーエンさんの前でした発言が発端らしい。
『――――ぶっちゃけ私は教国の偉い立場に就いてる子達は嫌いなんだもんっ。あ、オーエンくんみたいに純粋に私の事を信仰してくれている子達は好きだよ? でも、教国で枢機卿とか名乗ってるあの子達は私の名前を使って悪さばっかりするから嫌い! …………もう神像取り上げちゃおうかな?』
この発言を聞いて、オーエンさんは即教会との縁を切る決断をしたのだとか。
自身が敬愛する女神様が『嫌い!』とハッキリ口にしている組織に所属する理由はもうオーエンさんには思いつかなかったらしい。
しかも、"リゾート"にある教会にはミムルが『自信作!』と豪語する神像が祀られており、俺が滞在を許可する限りにはなるが"リゾート"に来れば毎日だって拝む事が出来る。
ミムルが"教国嫌い宣言"をした際に世間話くらいの感覚で『こちらの教会でお世話になりたい』とオーエンさんが言ったところ、ミムルとマルティシアは『大樹くん(様)なら二つ返事で許可してくれる』と笑いながら言ったそうだ。
…………いや、本人が居ないところでそういう話はしないで欲しいな!?
まあ、オーエンさんの人柄は知っているつもりだから許可はすると思うけど。
そして最後にリリィさんとの再会が後押しとなり、"リゾート"の教会でリリィさんと共に働けるのであれば迷う事はないと……オーエンさんは決断したそうだ。
『まあ、一応手紙にて教皇様には職を辞する旨をお伝えするつもりですので、その際にはオオエダ様に手紙の内容について確認をして頂ければ……』
既に辞める事を前提に動いているオーエンさんに周囲はもう何も言う事が出来ずただただ呆れ……一部の人間は頭を抱える事しか出来なかった。
あ、ちなみに俺は苦笑を浮かべつつもリディと一緒に確認させて貰うよと返しておいた。
俺一人でも良いんだけど、それだと見落としとかありそうだからな。リディと一緒に確認をした方が確実だと判断した。
「それにしても……やっぱり悪さをする人間は何処にでも居るんだなぁ」
「…………なんの話?」
「ん? シェリルか? いやな、実は――――っ!?」
ふと横になっている俺の後方から聞き慣れた声が聞こえて来たので振り返ると、そこにはシェリルの姿があった。
しかし、俺は振り返って直ぐに言葉を失う事になる。
そこに居たのは確かにシェリルなんだけど……目深にかぶっていたフード付きのローブを外したシェリルは、転移者組の誰かにセットして貰ったのかフリルが多くあしらわれた白いワンピースドレスを着ていて、お人形さんの様に可愛らしいその姿に……俺の心臓は激しく高鳴るのだった。
や、やばい……お洒落をしたシェリルが滅茶苦茶可愛いんだがっ!?
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